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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第3章 夢幻 時の静寂に棲む者
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ACT14 夢幻 語られる過去 後編

今こそ明かされる美晴の生い立ち。


ルマが語るのは希望の証?

産まれの謂れに纏わる者が誰であったのか?


真実が観えて来る・・・

美晴は、傍に座るルマの話に聞き入っていた。


天井を見上げて、遠い昔を思い出しているルマの横顔を見詰めながら。



「天使長ミハエルさんに逢えたのは、その時が最初だった・・・」


「最初?じゃぁまた会えたの?」


咄嗟に訊いた美晴に、それまで上を向いていたルマが振り返ると。


「ええ、そう。

 二度目に逢ったのは、マモルと結婚した後のことだったわ」


ルマの願いは成就された。

その後、再び天使長ミハエルが現れたのだと教える。


「そして、その日を最期に。

 彼等は粛罪の旅路へと旅立って往った・・・」


「罪を祓う旅・・・粛罪の旅?」


美晴が訊き直しても、ルマからは答えが戻って来なかった。


「全ては、あの日に教えられたことがきっかけになった。

 義理母みゆき様から告げられ、義理父まこと様が願われた。

 私に子を産んで欲しいと・・・」


再び天井を見上げる仕草を執るルマの言葉に、美晴はついに真相が語られる段になったのを悟る。





事の起こりは、美晴の祖母、美雪の軽はずみな言動から始まってしまった。


それは島田一家がフェアリアに駐在していた頃の話。

フェアリア王室から招聘された美雪が、失くした筈の娘の存在を知った事がきっかけだった。



「あなた!やはり辞めておきましょう。このような神に背く行いなどは」


美雪が夫であるまことの手を取り止めたのだが。


「分かっているが・・・私には他に方法が見つけられないのだよ」


妻から止められても、夫は計画を諦めようとはしなかった。


「ルナリーン姫に宿った女神から知らされたのだろう?

 あの子は失われた訳ではないのだと。

 女神として存在し続けていると言っていたじゃぁないか」


内密にしておかなければいけなかった秘密を、美雪は嬉しさのあまりに誠へ漏らしてしまった。


喪った筈の娘が、どこかに存在している。

もしかすれば、手の届くところに居るのかもしれない。


不幸を嘆いていた誠にとってそれは、微かだが希望の光となった。


<昔、成そうとしていた秘術で取り戻す事が出来るかも知れない・・・>


終末戦争が始まる前。

誠と美雪はフェアリアという小国で実験を執り行った。

魂を奪われた少女を甦らせようと、転生の秘術を開発しようとしていたのだ。


実験は苦難を伴い、悲劇を生んだ。

とある危篤に陥っていた少女の魂を機械へと宿す事には成功したのだが。

魂を奪われていた少女を蘇らせるのには失敗してしまった。

その結果、美雪自身が闇に囚われる結末と成り果てたのだった・・・が。


「マジカ君の時は、傍に器に成るべきモノが無かった。

 だが、今度は予めかたちと成るべき者を造っておけば。

 美春みはると同じ体を用意できさえすれば・・・」


経験した経緯から、備えておくべきモノが分っていると言う。


「後は、闇の魔力さえ整えられれば・・・」


魂を操れるのは、悪魔の異能。

闇の異能とも言われる、負の力が必要だったのだが。


「以前は知る術も無かった。

 だが今は。闇の異能が必要なのだと分っているから・・・」


闇の異能を行使出来る方法が確立されたのだろうか?


「魂の転移に必要な分の魔力は、魔物から奪えば良いのだ。

 闇の魔物を倒せる戦力を形成し、倒した魔物から負の魔力を抽出すれば成せる」


持論を繰り広げる誠に、危機感を募らせる美雪が。


「一体どれだけの魔物を倒したら成せると言うの?

 嘗て光と闇を抱く者だった美春ミハルには、

 魔王ルシファーから委ねられた魔力があったから私を取り戻せたのよ?」


魔王級の異能でしか、魂の転移は行使できないと言い。


「それよりも。

 一番恐ろしいのは、容として産まれた子の魂は?

 美春を取り戻す為にだけ生み出された子の魂は、虚しく消えれば良いとでも?」


生み出された子の魂はどうするのかと質したのだ。


「もしも無になってしまうと言うのであれば。

 美春は転移を拒否してしまうでしょう。

 禁忌に触れるだけに留まらず、

 人を人とも思わない術で蘇るのを良しと言う筈が無いわ」


「初めから無となる定めとして生み出されるのであれば。

 それは人では無く、人の形を採った器だと思う事だ。

 分っている筈だ、全ては美春を人として取り戻す為に他ならないのが」


美雪は拒んだが、誠は計画を実行に移そうと頑なになっていた。

それもこれも、愛しい我が娘を復活させる為なのだと言い切られて。


美雪も、心の中では美春が蘇るのを願っていた。

亡くした我が子が還って来れるのであれば、どんなことでもしてやりたいと思うのが親というモノだろうから。


誠が転移に固執しているのも、美雪自身に課せられていた宿命さだめを知っていたから。


誰の子でもない・・・孤児だったのを美雪自身から聞かされていた。

始まりの神子として産まれて来た謂れも。

そして二人が出逢い、幾多の苦難の末に二人が結ばれ。

産まれて来たミハルに、神子としての運命を継承させてしまったのを後悔していたから。


愛する妻の嘆きを癒す為、不幸を一身に担ってしまった娘を取り戻す為。

誠は狂気にも似た行いに手を染めようとしていた。



・・・女神再生計画・・・


その実は、我が子を甦らせようとする禁忌の業。



やがて、拒んでいた美雪も誠の熱意に折れてしまった。

復活する女神を宿す容を造ることに・・・だ。


人工授精卵を形成し、誰かに代理出産を託さねばならない。

それが誰に出来るのか・・・誰に託すべきなのか。


白羽の矢が起った・・・女神の弟夫婦へ。

誠と美雪の産んだ、二人目の子・・・真盛マモルと新妻ルマに。




「あの日、私とマモルの許にお二人が来られた・・・」


遠い目で天井を見上げるルマが、


「苦渋に満ちた顔つきの義理の親から、頼まれたのよ」


横で瞬きもせずに聞き入っている美晴へ話し始めた。


「私達に子を産んで貰いたいと。

 マモルの子ではない、入れ物となるだけの子供をってね」


そう言われた途端、美晴の表情が暗く沈んで行く。

やはり、自分は女神を宿す為だけに生み出されたのかと思って。


「お二人の表情を観た瞬間に想ったわ。

 ああ、やはり天使長の言われた通りだったんだって」


「天使ミハエルさんが?」


ルマの言葉に反応した美晴が訊き返す。


「容になるだけの子を産めとでも?」


そうして自分が産まれる事になったのかという意味を込めて。


だが、聞き質されたルマは首を振って。


「勘繰り過ぎよ美晴。

 天使長ミハエルさんと再び逢ったのは、お二人が訪れる少し前。

 しかも、逢ったのはマモルと一緒に居た時・・・なのよ」


「え?!マモル君も居たの?」


ルマからの言葉に、何か複雑な事情が秘められていると感じて。


「天使長ミハエルさんは、どうして二人の前に?」


夫婦となった二人の前に現れたことに、意味があるのかと。


「ミハエルさんも・・・子を宿して欲しいと言って来ていたのよ」


「あたしという器を?」


女神を宿す為だけの存在を・・・という意味で美晴が訊いたが。


「いいえ、ミハエルさんの子を・・・ってね」


「ええッ?!天使の子を?」


俄かには信じ難い答えに、美晴が訊き質す。


「そう。私とマモルに、預けたいって願ったの」


聞き質した美晴に、ルマが顔を向けて。


「美晴の中に、神子みこを委ねたいって言ったのよ」


「え?あたしの中に・・・神様の子を?」


天使長が二人に願ったのは、神の子となるべき存在を託すということ。

以前に告げていた神託を、実行して貰いたいと頼んで来たのだという。


「それって・・・断らなかったの?」


神の子を宿すと言う事は、女神転生の器ではない。

天使長の子を委ねられたのなら、虚ろな存在ではなくなる筈だ。

それにも増して、自分がルマの子である証でもあった。


「美晴だったら断れたかしら。

 喩え義理の親からの申し出だったとしても、

 自分の産んだ子が虚ろになると分っていて産めるの?」


「・・・分からない」


問われ直した美晴は、ルマが何を言わんとしているのかも理解出来てはいなかった。


「もし、ミハエルさんから託されていなければ。

 私達は神に背く行いに手を染めていたのかもしれない。

 もしも神子を宿すのを請け負わなければ。

 美晴は義理母みゆき様の子として産まれて来ていたのよ」


「それって・・・つまり?」


閉ざされていた心の中へ、一筋の明かりが。


「今言ったよね?!

 あたしがルマお母さんの子だって!

 美雪お祖母ちゃんの子ではないって!」


自分のルーツが、ルマに贈られたモノだと言われたのだから。


「あたしは!美晴は!

 ルマお母さんの子供だって言ってくれたんだよね!」


「勿論。美晴は正真正銘、私とマモルとの間に産まれた女の子。

 施術が執り行われる前に、美晴は既に私のお腹に宿っていたのよ」


明かされたのは、美晴の謂れ。


女神を転生させる為だけに生み出されたのではないという事実。


「信じて良いんだよね?

 あたしが二人の子であるのを」


「今更嘘を言う必要があるとでも?」


涙目の美晴が訊き質すのを、ルマはいとも容易く言い切った。

真実は間違いなく美晴がルマの子でしかないのだと。


「疑うのなら、もう一度ミハエルさんから贈られた手紙を読む事ね。

 以前に観たことがあったでしょ。魔法で造られた手紙を。

 あれは聖なる者にしか読む事が出来ない魔法の手紙。

 今の美晴なら、輝を手に出来たあなたになら読める筈よ」


「あれって、蒼ニャンにさえ読めなかった・・・手紙?」


美晴は思い出していた。

2年以上も前、その手紙を観たことがあったから。


「確か、出産の記念に頂いたとか言っていたっけ?」


「そう・・・神子を宿したあなたを祝って」


全てが繋がっていく。

頑なに秘め続けられて来た過去への縺れが解け。

なぜ自分が産まれて来たのかも紐解かれて。


「忘れていたのは、全て女神の為せる業。

 もう一人の美晴を取り戻す為に、女神が仕組んでいたのよ」


「もう一人?それって闇に居る?」


聞き質した美晴に、今度は首を盾には振らないルマが。


「違うわよ。

 もう一人は・・・コハルと呼んでいた娘だから」


「コハル?

 それって、神の子を指すの?」


記憶を封じ込められていた美晴には、朧気にしか思い出せない。


「ええ。

 あの子はもう一人の美晴として育てて来たわ。

 幼い折には、あなたと同じ様に接して来たの。

 時には神子としての姿を魅せて、時にはあどけない子供のように笑っていたわ」


「コハル・・・どんな子だった?」


忘れている容姿を訊ねる美晴。


「そうね。

 あなたとは違い、髪の色は白桃色。

 あなたと同じく蒼き瞳の・・・可憐な少女よ」


「うわぁ・・・美少女一直線だぁ」


挿絵(By みてみん)


思い描くのは神々しい少女の容姿。

自分には無い美しさに抱くのは・・・


「あたしとコハルって、対照的過ぎるよね」


蒼と紅。


聖なる輝きを抱く者。


薄紅の髪を靡かせ、蒼き瞳を瞬かせ。


それは小春のように麗らかな光を纏う・・・女神の姿にも美晴は想えた。



一枚の手紙。

嘗て美晴も一度だけ垣間見た、ルゥと呼ばれた人から贈られた手紙を。

宿っていた堕神デサイアでも読むことが出来なかった魔法の手紙。


真実を確かめるために、今一度手にしようと思った。

今度こそ、自分の目で読んで見なければならないとも考えた。

その手紙に記されてある筈の<希望>を自分のものとするために・・・


次回 ACT15 希望と宿命

今の美晴は過去の光と闇を抱く者ではない。

闇と対峙し聖なる異能を誇る・・・魔砲少女なのだから。

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