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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第3章 夢幻 時の静寂に棲む者
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ACT14 夢幻 語られる過去 中編

ルマが語り始めるのは、産まれてきた子の謂れ。


今、ルマの記憶が開陳される。

果たして、真実はどこに?

促されるままに。

連れだって親子はベットに腰を降ろした。


「あれは・・・美晴が産まれる2年ほども前」


「19年前の話?」


聴き直した美晴に頷き、ルマが続ける。


「私とマモルは彼等に出逢ったわ」


「彼等?」


再び聴き質した美晴に、今度は答えず。


義理姉ミハルの同族とも云える方達と。

 光溢れる中で、絶大なる魔力を誇る方々と・・・」


記憶を辿り、忘却の彼方から呼び戻す様に瞼を閉じるのだった・・・



「私はミハエル。

 天使長のミハエルと呼ばれる者です」


薄緑の髪。

碧い瞳。

白いローブを纏う神々しき人の姿が、光溢れる空間に揺蕩っていた。


「え?いやあの。

 私ってば、死んじゃいました?」


当時二十歳を過ぎたばかりだったルマが、突然の出来事に狼狽して応える。


「いいえ、あなたは死んでなどはいませんよ」


微笑むミハエルが頭を振り、


「死を迎えるのはずっと先の話ですので」


天使として迎えに来たのではないと教えた。


「良かったぁ~。まだ夢も叶えていなかったから」


天使長ミハエルの言葉に安堵したルマが胸を撫で下ろすと。


「こうしてあなたの前に姿を見せたのには、訳があったからなのです」


「そうなんですかぁ~・・・って?!なんなんですか、その訳って?」


お惚けっ娘なルマがトチ狂ったように聴き質すのを、軽く受け止めた天使長が言うには。


「あなたにお願いがあって罷り通した次第」


「はぁ?!天使様が人でしかない私に?」


状況がイマイチ理解出来ていないルマの返事に、ミハエルは微笑みながら頷く。


「私めからの願いを聴いていただく前に。

 ルマさんが叶えたい願いを教えて頂けませんか?」


「えっと・・・私の希望ゆめですか?

 教えたのなら叶えて貰えるのでしょうか?」


相手は天使だと名乗ったのだから、願いを聴き届けて貰えるかもしれない。

嘘であろうと、言ってみたくなったルマが。


「私の願いは。

 マモルと結婚して幸せになる事・・・なんですけど?」


まだ幼馴染の域から脱し切れていない現状からの脱却を願う。

その終着駅が結婚だということにも触れて。


「無理ですよね、私なんかが世界を救った姉を持つ男性ひとと結婚できるなんて」


願いを叶えるには、神頼みしかないと苦笑いを浮かべる。


「無理かどうかは別にして。

 夢を観るのは、人の権利だと思うから」


ルマの想い人である真盛マモルは、女神として闘いに果てた人の弟であり英雄だった。

終末戦争ハルマゲドンを人類の勝利で終えさせれたのはマモル達の偉業でもあった。

そんな彼と結婚が出来るなんて、普通の人でしかない自分には望外だとも考えている。


「夢・・・ですか?

 人ならば、夢を追い求める努力を惜しまねばいけませんよ」


ミハエルは微笑む。


「努力って言われても・・・」


願ったルマは口を尖らせるだけ。

そんな態度を見せるルマへ、天使長のミハエルは。


「無限の夢であろうと、果たせない事などはないのです。

 夢幻の彼方にあろうとも、帰還することだって出来るのですよ」


何かを諭すような格言を与えた。

そして・・・


「あなたは願いました。

 愛を成就させたいと、あいを謳う人としての希望を。

 ならば、天使キューピットとしての務めを果たしましょう」


「ほえええぇッ?!本当ですかぁ!」


ミハエルからの言葉に、ルマが狂喜して。


「私がマモルと・・・結婚できるの~ッ?」


簡単明瞭な単純娘と化して嬉しがる。


「ええ、勿論。

 だって、彼も・・・あなたを愛しているのですから」


「ニャっ?にゃんとぉッ?!」


気付けていなかったのはルマの方だった?

お相手であるマモルは、前からルマを気にかけていた・・・だけの話?


「お、おにょれ。マモルの奴めぇ~」


天使長から知らされて怒ったような声を出したものの、心の中では狂喜乱舞しているルマへ。


「ですから、ルマさんも諦めずに愛を伝えることです」


ミハエルは福音を与える・・・と。

次は自分の番だと、一呼吸おいてから。


「それでは。

 私めの願いを聴いて頂けませんでしょうか?」


微笑を絶やさずに伺って来た。


「えっとぉ・・・私なんかで聴き遂げられるとは思えないんですけど?」


その笑みに応えたいとは思うのだが、人でしかない自分に果たせるとは思えなくて。


「どのようなお願いでしょうか?」


おずおずと聴く態度を見せる。


「他でもない、貴女あなただけにしか出来ない事です」


「私にだけ?」


キョトンと眼を瞬かせるルマへ、ミハエルが差し出したのは。


「光を。

 この世界に産まれる光の子を預けたいのです」


両手て捧げ持った光を、ルマへと差し出して。


「私達の子を。

 いいえ、人の世界を救う為に生み出す神子みこを預かって頂きたいのです」


天使長ミハエルが願ったのは。


「遠くない未来で。

 再び闇が人の世を侵すでしょう。

 それと対峙できるのは、聖なる輝きを放てる神子みこ

 その子が自らの運命に向き合う力を持てる迄の間、預かって貰いたいのです」


神としての力に目覚めるまで、神子を託したいと言って来たのだ。


「それが出来るのは、世界中で唯の独り。

 それが赦されるのは女神の弟が愛するひと・・・貴女あなただけなのです」


「女神って、もしかしてミハル姉?もしかしなくてもミハル姉!」


マモルの姉であり、失われた女神を意味する人・・・双璧の魔砲少女ミハル。


「彼女からも知らされています。

 この後、前大戦を凌ぐようないくさが起きてしまうと。

 そうなれば、現状の人類では対処は敵わないと。

 その時の為にも・・・是非ともお願いしたいのです」


ミハエルは微笑を浮かべつつも真摯に語った。

時の静寂に身を隠す女神からの伝言を。

人類に再び災禍が訪れようとしていると。


「そんな大切な神子を、私のような平凡な人間に託すなんて。

 もっと他に居るんじゃないのですか、知恵深く理知に富んだ人が!」


事の重大さが漸くにして理解出来たルマが断りを告げると。


「いいえ、貴女の他にはいません。

 それに、彼女からも強く言い渡されましたので」


「彼女?もしかして・・・ミハル姉?」


訊き質したルマに、天使長が頷き。


「一応あの子も、理を司る女神ですので」


人の愛を、人の理を司る女神からの勧めだと答えて。


「本来ならば、私達が行く末を見守らねばならないのですが。

 私とルシファーは粛罪を務めねばならなくなりましたので。

 十数年の間、人界には干渉出来なくなってしまうのです」


「ル?ルシファーって?まさか、堕天魔のルシファー?」


名前だけは聴き齧っていた。

天界から追放された神が、その名であったのを。


「人の世界に憧れ、人と共に生きることを願って堕ちた?」


聖書に出て来るルシファー像は、悪魔にも准えられた象徴だったが。


「ええ。

 ですが彼は神へと戻ろうとしているのです。

 一時、人として生きる喜びを与えて貰い。

 そして私との約束を果たしてくれました。

 愛を謳い、人としての希望を果せたから・・・」


ミハエルが捧げ持つ光。

その光の正体が分かった気がした。


「その温かなひかり

 ミハエルさんとルシファーさんとの・・・愛の結晶なのですね?」


「そう見えましたか?」


質したルマへ、天使長がはにかんで応える。


「彼女の異能で、二人共が人として転生出来たから。

 願いだった人として生きる喜びを与えて貰えました。

 だから、愛の理に導かれて・・・人としての子を授かったのです」


天使長ミハエルが、人として子を宿せたと答える。


「ですが、人として生きていられたのは子を授かるまで。

 闇の存在が復活を果たした今、私達も戻らなくてはいけなくなってしまったのです」


宿せはしたが、時流は元の身へと戻らせたのだとも。


「人として生きれたのを糧に、今を過ごしているのですが。

 代価として罰を受けねばならなくなったのです。

 天使長が子を宿すのは、神の域を超えた罪なのですから」


それ故、子を誰かに委ねねばならなくなったのか。


「私の夫たるルシファーも然り。

 堕天魔となって大魔王の任を務めなくてはならなくなったのです。

 神子が大魔王の許に居ることもままならず、

 かと言って粛罪を背負う私には養う事も出来ず。

 女神の提言を受け入れざるを得なくなったのです」


理の女神が二人の許に・・・勧めに来たのか?


・・・


・・・・


いや、待って。


美春姉めがみが?失われた筈のミハル姉が?戻っているの?」


マモルと結婚すれば義理の姉にもなる女神ミハル。

終末戦争の最期に、異界へと飛ばされた筈の女神が帰っているのかと問い質す。


「知らないでしょうけど、彼女は元からこの世界に存在していたのよ。

 私達でさえも、知らなかったんですけどね」


「え?えッ?!どういうことなの?」


初耳だったルマが訊き質そうとしたが。


「だって彼女は・・・理を司る者ですもの」


ミハエルは知ってか知らずか、曖昧に答えるのみ。


女神とは言えど、その存在は秘匿されてでもいたのか?

天使にも知られず、敵からも認知できない存在なのかと。


「一つだけ。

 答えられるのは、ミハルと言う女神は千年前から存在していた。

 つまり千年女神・・・古からこの世界に存在し続ける魔砲の女神よ」


「嘘でしょ?!ミハル姉が千年も前から居ただなんて」


教えられたルマの脳裏には、あの懐かしい少女の姿が過った。

黒髪に優しげな瞳の・・・人の姿が。


「だったら・・・何故?!どうして?

 みんなの前に姿を現してくれないの?!」


失われたと思い込んでいる人達の前に。

せめて、両親や弟であるマモルの前にだけでも・・・と。

再臨を願う人達が、挙って喜ぶであろうにと。


「彼女が言っていたわ。

 必ず還るからと。

 でも、まだ時期早々だからとも、溢していたのよ」


「まだ早いって?!どうしてッ?」


女神の姿は常人には目にする事は叶わない。

魔力を秘めた者であろうと、必ず観える訳でもない。


「彼女が願うのは、人としての帰還。

 女神なんかではない、本物の人として帰ろうと願っているのよ」


「人に戻れるの?」


微かな希望が声を掠れさせた。

女神ミハルは人への帰還を果そうと願っていると知らされて。


「分からない。

 魂の転移を成せば、可能かもしれないけど。

 聖なる者である女神には果せようが無いから・・・」


魔王級の負の異能を行使出来れば、仮宿りは可能だと言ってから。


「でも、彼女はそれを良しとはしないでしょうね。

 誰かを犠牲にするような真似は、あの子の本分とたがうから」


「でも、だったら?どうやって戻ると言うのよ?」


ルマは女神ミハルの考えが分かりようがなくて質し返すだけ。

それの答えを教えられないミハエルは首を振ってみせるに留まる。


「彼女は千年もの間待ち望んで来た。

 それなりの工夫も、私達が考え得る以上の知恵も携えられた筈だから。

 きっと帰還を果す裁断が付いているでしょう」


「問題は、その時がいつなのかってだけなんですね」


天使長が信じるのならば、人でしかないルマには否応も無い話にも思えて。


「私はミハル姉を信じます」


面影を糧にして待つと言った。


「ありがとう、人の子よ。

 私めも待ちましょう、人の世に再び現れる日が訪れるのを」


女神の再臨を。

人に戻った姿を夢みて。

夢幻にはならないと信じることにして。



語られた過去。

まるで夢幻のような天使との邂逅。

そして、託された願いと希望。


美晴はルマからの言葉に目を見開くのだった・・・


次回 ACT14 夢幻 語られる過去 後編

記憶に隠された真実。美晴は聖なる者の謂れを知る!

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