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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第3章 夢幻 時の静寂に棲む者
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ACT13 忘れていたモノ

縫いぐるみに歩み寄る美晴。


嘗ての自分を訊ねる為に・・・

机の上に置かれたままの縫いぐるみへと手を伸ばす。


仮初めの容に宿る者へと、問いかける為に。


挿絵(By みてみん)


「ねぇ、グラン君。

 あなたなら知ってるんでしょ?」


美晴の細い指先が、ライオンを模った縫いぐるみへと添えられて。


「<私>から聞いたんだ。

 君なら知ってるって・・・だから教えて。

 あたしの本当の親は・・・誰なの?」


声と同時に、紫色の光が燈る。

光と闇の異能を使える美晴が、闇の魔力を通して聴き質した。

縫いぐるみに宿っている筈の、大魔王の臣下へ向けて。


「「今・・・答えねばならぬのか、人の子よ?」」


魔獣グランの声が返って来る。

幾分、戸惑いを感じさせる声で。


「うん。聴きたいの」


指先を添えたまま促す美晴の真剣さを感じているのか。


「「今、<私>から聞いたと言ったが。誰を指す?」」


グランにも存在が知られていないのが、聴き返された事で分かる。


「もう一人の・・・美晴みはるから・・・だよ」


「「もう一人?お前には別人格でも存在したのか?」」


怪訝な声で質された。

闇の中に棲む存在なのに、闇の住人でも分かっていないようだ。


「もう一人は時の静寂に居るの。

 光の当たらない場所で、2年もの間待ち続けているの。

 魂の転移を果す役目を担って、苦しんでいるんだよ」


「「なに?!禁忌を犯そうとしているのか?」」


魂の転移は、闇に棲む者であっても禁忌に属している。

魂を操るのは、魔王級デーモンロードが為せる業なのも知っていた。


「「お前が言う<私>は、魔王にでもなる気なのか?」」


「違うんだよグラン君。

 彼女は女神から託されたんだ、誰かの魂を蘇らせるのを」


訝しむグランに、知らされた事実を知らせて。


「新たなる戦いが始まる前に、女神の大切な人を甦らせる必要があるって言ってたの」


「「新たなる戦いだと?女神から直接聞いた訳ではあるまい?」」


大魔王の臣下で、魔獣でもあるグランにも初耳だったようで。


「「その出鱈目な言い分を信じろと言うのか?

  一体、そのような戯言たわごとをほざくのは、どう言った女神なのだ?」」


相手にするのも馬鹿らしいと、女神の名を質して来た。


「言ってたんだ<私>が。

 理を司る者だって・・・」


「「なッ?!ま、まさか?」」


即座にグランが応じる。


「「あの・・・ミハルが?」」


驚愕に打ち震えた様な声で。


「そう・・・美春伯母ちゃんだって言ったよ」


「「馬鹿な?!女神が闇の中に潜んでいる筈が・・・」」


驚きのあまり、グランが吠えた。

そして、口籠る。


何故か?


「「我が現王デサイアと同じだと言うのか?!」」


堕神デサイアが、大魔王として闇に君臨しているのを思い起こしたのだ。


「「あのミハルが・・・堕ちたとでも言うのか?!」」


吠えたてるグランに、美晴が首を振って応える。


「そうじゃないよグラン君。

 <私>が言ってたのは、黄泉の国へ入る前に出逢ったと言ってたんだ」


「「なに?!冥界だと?」」


当の美晴にも記憶がないが、もう一人の美晴から告げられた。


「あたしが蘇る前、門の前で女神から頼まれたって。

 人の世界を護る為に必要な魂を転移させて欲しいと。

 真の敵に悟られない為に、あたし達は二つに別けられたって言ったんだ」


「「あたし達だと?!ならば<私>と言った相手とは・・・」」


漸くにしてグランにも、話が飲み込めて来たらしい。


「そう。もう一人居るの美晴あたしが」


「「馬鹿なッ?!そんな話は聞いてはおらんぞ」」


驚く様からも、闇に存在する者であっても知らなかったのが伺える。


「「あのミハルが?なぜ姪に頼んだのだ。

  何故、魂を分割するような禁忌を犯したのだ?!

  そもそもだ。女神とあろう者が、人の子に頼む様な真似を・・・」」


捲し立てていたグランが、ある事に気付いた。


「「待て。

  今はデサイア女王の御代なのだぞ。

  いくら堕ちているとはいえ、神に属した大魔王に転移を行う事は出来ない」」


今現在で、魔王と名の付く者は唯の一柱のみ。

現王であるデサイアは、女神ミハルの分身でもある女神が墜ちた姿。

粛罪の為、大魔王に収まってはいるが女神の為れの果て。

拠って、大魔王とは言えども転移の術を放つ事は叶わない。


「そうなんだ。だから<私>がやり遂げなきゃならないんだね」


理の女神だろうと、大魔王を担う堕神であろうと成せないから。

白羽の矢が、もう一人の美晴へと突き立てられたと言う訳なのか。


「「知らされていなかった・・・知らずに2年もの間。

  何という事なのだ、我等の失態もここに極まったか」」


「しょうがないよグラン君。

 人の世界に干渉しないように命じていた蒼ニャンにも罪が無いから」


事の次第を知ったグランが悔やむのを、美晴は取り成してから。


「あたしが黄泉還ったのも知らないようだったからね」


事故から2年間、逢わずにいたのを思い起こして。


「きっとそれも。美春伯母ちゃんのはかりごとだったと思うんだ」


もう一人の美晴が存在しているのを、真の敵に悟らせない為。

味方の眼までも誤魔化し通し、真実を明かさずにいたのだろうと。


「「それ程迄・・・ミハルが隠し通さねばならない程の敵なのか?」」


真実を明かされたグランが、一頻り感慨に耽った後。


「「良く分かった。

  この件は、内々に取り図ろう。

  ミハルの思惑通りに事が成されるまでは」」


堅く口外を慎むと約束した。


「うん。お願いするねグラン君」


魔獣からの約束に、美晴が少しだけ微笑むと。


「「宜しい。

  ならば、お前の産まれの謂れを紐解いてやるとしよう」」


縫いぐるみのグランが話を元へと戻した。


「「この俺が見聞きして来た・・・全てを教えよう」」


「うん!」



再編された後の世界で魔獣として蘇ったグラン。

大魔王として復活を遂げた堕神ルシファーの臣下であり、髄一の剣士でもあった彼が観て来たモノとは?


「「そうだな。

  お前が産まれる少し前からの物語を教えよう」」


「生まれる前って?戦争が終わった頃?」


縫いぐるみのグランに聴き直すと、


「「いや、そうではない。

  我が主君であられたルシファー様が、妃ミカエル様と復活された後の話だ」」


「えっと?太陽神ルシファーさんと大天使ミカエルさんとのお話?」


自分とは直接関係がないような神々の話と聞かされて、首を傾げる美晴へ。


「「そうだ。何を不思議がっておるのだ?

  産まれの謂れを訊いたのは、お前ではないか」」


「え?でも・・・あたしは人の子だから」


今度はグランが訝しんで来た。


「「むぅ?まさか、お前。

  女神に分割された折に、過去を消されでもしたか?」」


「ほぇ?消された・・・過去を?」


問われた美晴が、とある言葉を思い出す。

それは、もう一人の美晴が言っていたこと。


何か大切な・・・とても大切なことを忘れてしまっているのではないか。


「美春伯母ちゃんが隠してしまった?

 忘れるように仕向けた?

 それって、真の敵から隠さなきゃならない秘密?」


魂の転移を託す為に必要?

それとも、美晴を守る為に?


考えが纏まらない。

思い出そうとすればするほどに、頭の中が靄が滲んだように霞んでしまう。


「駄目・・・思い出せない」


苦渋の色を顔に出した美晴へ、縫いぐるみグランが喋ったのは。


「幼い時、お前は何と呼ばれていたのだ?」


「えっ?幼い頃の徒名?」


記憶の片隅に残されていた幼少期の呼び名。


「「そうだ。まだ光と闇を抱く者へとなる前。

  聖なる光だけを浴びていた頃に呼ばれていた名は?」」


グランの声が、頭の中で繰り返される。


聖なる光・・・太陽の光・・・ひかりの魔力。


蘇るのは、幼き日に観た筈の光景。


「あたしは・・・美雪お祖母ちゃんの腕の中で・・・」


何と呼ばれていた?

美晴みはる・・・ミハル?


「マモル君からは?やっぱりミハル・・・」


父である真盛まもるは、確かにそう呼んだ。

でも、伯母である美春ミハルを思い描かせるようなイントネーションでもあった。

ならば・・・


「ルマ・・・お母さんは・・・・ルマお母さんからは・・・」


本来なら、母だと断言するべき処だが、今は虚ろに感じてしまう。

その母であるべき人が呼んでいたのは。


「・・・あたしが小さいから。

 まだ、何も知らない幼女だったから。

 あたしのことを・・・・」


頭の中で霞む呼び名。

思い出そうとしても、何故だか声に出来なかった。


・・・と、その時。


「「コハル・・・お前は小春こはると呼ばれていたのではなかったのか」」


グランの声が、霞んだ頭の中へ飛び込んで来た。


「あ・・・あ・・・あ?!」


その瞬間だった。

正に霞が晴れあがるかのように、記憶が蘇ってきたのだ。


「コハル・・・コハル。

 あたしは・・・コハル?!」


霞が晴れた後、ピンク色に染まった光が溢れ。


「早春の神・・・コハル神。

 もう一人のあたし・・・もう一人の美晴」


閉ざされていた記憶の壁が開かれていくのを感じていた。



ドアの向こうに。

美晴のことを誰よりも判っている人が・・・


そして、真実が告げられる時が来る!


次回 ACT14 夢幻 語られる過去  は、3話構成でお贈りします。

産まれの謂れを求める美晴。真実は夢幻ではないのだ!

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