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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第3章 夢幻 時の静寂に棲む者
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ACT12 もう一人の美晴 前編

目覚めると、そこは・・・自室のベットの上だった。


美晴は何が起きたのかを思い出す。

闇に囚われた。

夢魔に冒された。

そして・・・出会った、出会ってしまった。

翳りを孕んだ姿の・・・

カーテンの隙間から陽の光が零れこんでいる。


瞼を通して、眩い光を感じられる。



「う・・・ううん?」



何も考えられない。

此処が何処で、自分がどうなっているのかも。


「明るいな・・・まるで朝日を浴びてるみたい・・・」


薄く開けた瞼。

瞳に映り込んで来たのは、まるで自分の部屋の景色のようだ。


「あれ?あたし・・・確か・・・」


目覚めの後、暫く呆然となる時が過ぎて。


「確か・・・公園で・・・」


思い出されて来る光景。

記憶が呼び覚まされて。


「4匹もの魔物達と闘って・・・闘った・・・」


思い出すのは、魔砲戦の跡。

突き出した手の先で、消し炭になった魔の終焉。


「倒した・・・4匹纒て・・・」


魔物達を駆逐し、勝利を収められた後。

次第に意識が遠退いていった。


「あ?!あ?あああああッ?!」


蘇って来る悍ましい気配。

自分が誰かに乗っ取られて・・・逃れようもない闇へ堕ちて行く。


「シキ君・・・シキ君に助けを・・・呼ばなきゃ」


記憶の混乱で、美晴は右手のリングを口元へと宛がい。


「助けてシキ君!あたし・・・まだ死にたくないッ!」


瞼を抉じ開け、必死に叫んで。


「あ・・・あ?」


陽の光で気付いた。


「あたし・・・まだ生きていられてる。

 夢魔に穢し尽されてなんかいない・・・」


口元にある指に填められたままの翠の指輪。

陽の光を反射して輝くリングを目にして。


「あれ?ここって・・・あたしの部屋?」


光を浴びていられていると、現実を認識した。


「戻って来られた?あんなに酷い目に遭わされたのに・・・」


夢魔の空間で嬲られ、穢されてしまいそうだったのを思い出す。


「倒した筈の魔物達に苛まされ、魔法衣までもボロボロに切り裂かれ。

 それでも何とか耐えていたあたしに、奴等は仲間を呼び寄せた。

 1匹・・・2匹・・・3匹・・・ぞろぞろと、際限なく。

 周り中が、次々に現れた魔物で埋め尽くされて。

 凶悪な侵蝕器官を反り起たせて、あたしを取り囲んだ」


現れ出る魔物の数に、絶望を覚えて。


「もう駄目・・・こんなに沢山のバケモノを相手に出来る訳がない。

 穢される・・・嬲り尽くされる・・・最期には堕とされる・・・闇へと」


恐怖と絶望感に包まれ、抗う気力までも奪われそうになった。


「どうして?なぜ?って。

 いつも・・・夢魔の空間に囚われた時繰り返した。

 運命を呪い、魔法少女になったのを後悔させられたの」


最悪の展開に、望まむ未来を思い描かされ。


「産まれの謂れに苛まされていたからなの?

 ううん、いつも・・・この2年間ずっと。

 落ち込んでいる時に限って夢魔に囚われていた」


2年前に蘇った後、魔物を退治すれば決まって夢魔の虜にされて来た。

闇の異能を持つ者としての宿命さだめなのかと、諦めかけていた。


「傍にシキ君が居てくれなかったのなら、とうの昔に。

 あたしは<私>に摂って変わられていたのかもしれない」


闇の邪念を取り除く異能を持つ者シキ。

彼の存在が無ければ、今の自分は居ないだろうと言う。


いや待て。

今、美晴が口にした<私>とは?


「やっと・・・あたしは夢魔から解放された?

 違う、これであたしの役目が終わったと言うの?」


翠のリングを見詰めていた美晴が、カーテンの隙間から零れる陽の光に顔を向けて。


「輝と闇・・・か。

 あなたはどうして今になって姿を現したのよ。

 なぜ、今迄打ち明けてくれなかったの?

 たった独りで苦しんで・・・悲しんでいたのよ。

 ねぇ・・・もう一人の美晴あたし?」


出会ってしまったのか?夢魔に。

知らされたのか、真実を?





追憶の中に佇む、翳りを孕んだ姿を観ていた・・・




魔物達に取り囲まれた絶望の中で、彼女が現れる。


「お前達の異能を貰うわ」


何処からともなく、自分の声が聴こえた。


「闇の異能は、光には不必要。

 闇は闇に帰せば良いだけ・・・」


既にボロボロ状態に堕ちていた<あたし>には、天使が救いに来てくれたかに思える程の声。

起き上がれる気力も無く、頭上から墜ちて来た自分そっくりの声に目を向けるのがやっとだった。


「暫く・・・このままで。時を停める」


夢魔の空間に居る魔物達の動きが止められた。


「最期だから・・・せめて最期だけは」


黒い翳りから漏れ出たのは、何かを秘めた様な苦渋の言葉。


 ザァッ!


影が舞い降り、美晴の前に来た。

その姿は・・・


黒髪を靡かせ。

真っ赤に染まる瞳で魔物を睨む。

薄汚れた魔法衣を纏った・・・


「あたし?!」


まるで鏡で観ているかのよう。

瓜二つな自分の姿に、戸惑いを隠せない。


「でも・・・違う。あたしでは無い?!」


真っ赤に染まった瞳。真黒な髪・・・そして違ったのは。


「白の魔法衣が・・・煤けたように黒ずんでいる?!」


穢れたような色の魔法衣を着ていたから。

着る物の属性を表すと言われた魔法衣が、あんなに汚れているから。


「あなたは?一体誰なの?!」


取り巻く魔物達の上空で揺蕩う魔法少女へ訊き質した。


「分からない?<私>だと言う事が」


答えは曖昧。


「輝とは相反する者・・・」


返って来たのは、闇の者との意。

つまりそれは・・・


「あなた達が夢魔と呼ぶ者。

 陰の存在・・・現実世界に居ない方が良い者・・・」


「夢魔?!あなたがあたしを穢そうとしてきた敵?」


今迄、穢れた者だとばかリ思い込んでいた。

もしかすると闇堕ちした女神かと思って来た。

だが、今目の前に居るのは・・・


「あたしに化けてる気なの?!

 正体を見せたらどうなのよ!」


これまで苦しめられ続けて来た怒りが、込み上げてくる。

自分そっくりな姿を見せつけて来る夢魔に、新たな怒りが捲き起きて。


「そんなにあたしを墜としたいの?!

 闇堕ちした姿を見せつけるなんて!」


思わず叫んでしまった。

これ以上苛まれるのが悔しくて。


「違うわ、光の子。

 私はあの日、女神に出逢った・・・美晴なの」


憎まれ口を利いてしまった<あたし>へ、夢魔が応えて来た。


挿絵(By みてみん)


「瀕死の重傷を受け、黄泉の門まで来てしまった。

 もう少しで戻れない処だった私を呼び留めてくれたの、理の女神が」


「え?!」


知らない・・・知らない。

あたしはシキ君に黄泉還らせて貰っただけ。


「嘘だ!あたしは・・・シキ君の魔法で」


記憶にない話に抗って、夢魔の言葉を拒否する。


だが。


「知らないのは当然。

 だって、あなたは光の子に成るべく運命つけられてるのだから」


「光の子?

 光と闇を抱く者の筈じゃない、あたしの魔法力は!」


聖なる異能と闇の異能。

二つの相反する魔力を受け継いだ。


そう・・・その筈だったから。


「今迄は・・・ね。

 でも、あなたに宿るべきは神。

 光の化身である神を宿すべきは・・・光の子なのよ」


「神を宿す?

 宿るべきは神?」


知らなかった。

忘れ去っていた。

でも、記憶に残されていた。


無邪気な幼子だった頃には、女神が宿ったこともあったのを。

光と闇の魔法力を抱ける前は、確かに女神の存在を垣間見れたのを。

成長し、少女に成った頃には堕神デサイアに取って代わられていたのも。

それもこれも、光と闇の魔力を持つようになった今は。


「あなたは忘れてしまった。

 いいえ、諦めようとしている。

 本当に宿るべき女神が居るというのに。

 帰って来てはくれないと、忘却の彼方へ追いやろうとしている」


「帰って来る?誰が?あたしに宿ろうとしてるのよ!」


夢魔の言葉に抗って。


「美春伯母ちゃんだとでも言うの?!

 理を司った女神を宿せと?

 美雪お祖母ちゃんの言っていた転生計画の通りに?!」


聴いてしまった生まれの謂れにも抗って。


「あたしは美晴のままで居たいの!

 女神に身体を明け渡すのは嫌なのッ!

 消え去られるなんて、認められないんだからぁッ!」


戦う前までは死んでしまいたいくらいに落ち込んでいた。

でも闘い終わり、魔物から嬲られている内に考えが変わってきた。


ー 死にたくない。まだ死にたくはない。消えてしまうなんて嫌だ・・・ 


生への固執。

否、存在への固執と言うべきか。


女神に存在を奪われ、生きて来た証までもが虚ろにされる。

それがどれほど虚しく、哀しい物なのかが分かりかけて来ていた。


ー <無>なんて嫌だ。<虚無>ほど哀しいものはない。

  あたしはあたしのままで生き続けたい。

  喩え魂が同居する事になったとしたって・・・


認められるのは、宿られるだけに留める事。

明け渡して虚ろな存在に貶められるのは拒絶する。


だから。


「あなたなんかに奪われて堪るものか!

 どんなに嬲られても、穢し尽されたって。

 絶対に諦めたりはしないんだからッ!」


絶望を齎したと思う夢魔に対して言い返す。


「闇になんて負けない!

 あたしには輝がある!大切な人達との絆がある!

 絶対に!絶対・・・諦めたりはしない!」


声の限りに叫んでいた。

思いの丈を夢魔へ吠えていた。

現れたもう一人の美晴。

薄汚れた魔法衣を纏う闇の中に居た美晴に。


彼女が明かそうとしているのは?

真実なのか、それとも欺瞞なのか?


次回 ACT12 もう一人の美晴 後編

真実は・・・唯一つ!光と闇は同居できないと言うのか!

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