第1部<零の慟哭> Act1 戦闘人形<バトルドール>
魔砲少女ミハル エピソード0<ゼロ>
物語の発端で<何>が起きたのか。
如何にして世界は・・・滅んだ?!
第1部 零の慟哭
あなたは誰と絆を結びますか?
彼等の眼は、闇を観ていた。
腕に填められた軍用時計は14時を指しているのに。
雨雲に覆われていたとしても昼間だというのに暗すぎる。
いくらビル街だからといっても不自然だった。
尤も、ここがビル街だと分ればの話だが。
そこら中に建物の残骸が転げている。
大きく崩れた高層ビルや、ハイウェイ・・・ここはビル街というよりは廃墟と言うに等しい。
それではなぜ陽が届かない?
ビルの陰では無いとすれば何故暗闇が覆う?
彼等の前には厳然と闇があった。
が・・・闇の中には、微かに紅く蠢くモノが垣間見れる。
蠢くモノ?
赤外線暗視装置では生き物の反応さえも在りはしないというのに?
ここで彼等は何を見ている?
彼等はなぜ暗闇を見詰めている?
街の一区画に光弾が降り注いだ。
彼等が見詰める闇の中へ。
ピカッ!
ドドドド!
爆発が大音響と共に巻き起こる。
闇は崩れ落ちる建物へと変わった。
蠢く紅きモノも巻き起きた爆焔に飲み込まれ、塵灰が辺りを覆う。
数発の光弾が破壊を齎した後、
「支援砲火によりC地点を破壊。これより侵入を試みる」
彼等の中で無線機を持つ男が手を振った。
爆発が治まった場所へと向けて、仲間達へ前進を促したようだ。
どこに隠れていたのか、数人の武装した者が歩を進め始める。
と・・・その時。
爆発により炎と煙が立ち込める中、何かが動いた。
ビシュッ!
蠢く何かから紅い光が迸る。
燻ぶり続ける煙の中から、彼等に向けて放たれたのだ。
「?!」
歩を進める武装員へと向けて。
狙い澄ましたかのような光によって、一人が声も無く打ち倒される。
「バトルロイドだ!散開しろッ」
無線機を握る男が警告した。
「砲撃を回避しやがったのか!」
あれ程の爆発に巻き込まれずにいたのかと驚愕したのだったが。
ビシャッ!
再び紅い光が武装員を薙ぎ払ったのを目の当たりにして。
「こいつは・・・銃弾なんかじゃないぞ。
これは・・・この光の矢は?!」
襲い来る敵の正体に気が付き始めた。
二人の武装員が為す術もなく撃ち倒された時。
ゆらり
燻ぶる煙の中から現れ出て来る影があった。
妖しく輝く紅い光を纏い。
黒く霞む姿は・・・人の形を成している。
しかも・・・長い髪を靡かせているようだ。
「ま・・・まさか。あれは?!」
武装員達は己が前に進み出て来る人影に恐怖する。
漸く煙が薄れた中を、歩み出て来る者。
武装員が息を呑み見詰める相手とは?
黒い衣装を身に纏った<敵>が姿を見せた。
妖しく輝く刀を手に携えて・・・
「戦闘人形だ!」
悲鳴に近い叫びが武装員達から巻き起こる。
「こんな場所にどうしてバトルドールが?!」
怯え慄く武装員が呼ぶのは剣を携えた者への徒名なのか。
どうみても人間の少女にしか見えないというのに、人形とは?
武装員の姿を見詰める少女がニマリと嗤う。
と、首元に着けられた黒い宝石に紅い数字が浮かび上がった。
「「主人に逆らう者は・・・」」
やや低い声が少女から零れる。
「「排除すべし」」
右手に握られた大ぶりの剣を一閃させて。
その瞬間、剣が赤く光を帯びる。
握っている手首に填められた黒い輪っかにも、紅い数字が浮かび上がった。
紅き数字は・・・<< 1(ファースト)>>
「ナンバー付きだぞ!」
一人の武装員が吠えた。
「良く見ろ!あれは・・・死神だ」
傍らの武装員は望遠鏡の倍率をあげて叫ぶ。
「俺達の部隊だけでは勝ち目なんてある訳がない!」
逃げ腰の武装員は、たった一人の少女に恐怖した。
そして唯独り無線機を持つ男へと叫ぶのだ。
「て、撤退しようぜ!今直ぐに」
だが、無線機を握った男は答えなかった。
いや、答えられなかったのだ。
すぅ・・・・
戦闘人形と呼んだ少女の陰から湧きだして来た者を観てしまったから。
少女の後ろから、数体の人影が湧き出たのを見てしまったのだ。
「し、支援砲撃の要請ッ!C地点に全力射撃を求める」
仲間への返答より、味方砲撃部隊に無線で依頼したのだ。
「出やがったんだ、悪魔が!死神人形が俺達の前にだ!」
数体の影を引連れた少女の手が指し伸ばされる。
無線で支援を求める男の眼にも、死神が命を差し出せと言っている様に見えた。
黒い衣装を纏う戦闘人形が、仲間へ殲滅を命じた瞬間だと分かった。
つまり・・・死を振り撒こうとしているのだ。
無駄と知りつつ銃撃で応戦する仲間を横目にする事も出来ずに。
無線機に吠え続ける男は、それを観てしまった。
幽鬼の如く湧きだして来る戦闘人形達・・・そして。
長い髪を靡かせた少女がこちらへ剣先を向けて来るのが、無線機を握る男の眼に映し出された最期の光景だった。
殺戮は終えられた・・・
きな臭い匂いが辺りに立ち込める。
だが、意にも解さないのかファーストと呼ばれた少女が嗤い続ける。
「くくく・・・人間など滅ぶのが宿命。
新たな世界に不必要なものなどいらないのだから」
嘲笑うファーストが周りに集う戦闘人形を引き揚げさせる。
「戦闘人形に勝てるのは戦闘人形だけ。
しかも魂を宿した私と同じ・・・限られたドールだけ」
ファーストはフッと嗤いを止めて。
「お前が此処へ来るのが楽しみよ・・・ゼロ」
吊り上がる眼を彼方へと向けて。
「今度こそ・・・今度という今度こそ!
お前に引導を渡してやるッ!この剣で切り刻んでやるわ!」
憎悪に歪んだ眼を虚空へと向けるのだった。
黒く煤汚れ、暗く陽の当らない場所で・・・
傾いた陽が荒野を紅く染めていた。
丘の頂上へと向けて影が長く伸びる・・・人影を映し。
ザッ
足首に填められた黒い円環に砂ぼこりが被さる。
円環には緑の灯りが燈っていた。
砂ぼこりを被り、汚れた円環に映し出されるのは緑の数字。
「もうすぐ・・・だから」
歩みを停めず漏らすのは、少女の声・・・か。
「約束だから・・・私達の」
黒い円環は両手首にも着けられている。
「待っていて・・・必ず果たすから」
そして胸元の紅いリボンにつけられた黒い宝珠にも。
「リィンちゃん・・・私はあなたの元へ辿り着くよ」
黒い衣装に身を包む少女。
瞳は向き合わせた夕日を浴びて、紅に染まる。
砂ぼこりに靡く髪は・・・蒼銀髪。
殺戮を繰り広げたファーストの姿に瓜二つだが・・・どこかが違った。
「必ず・・・私達の約束だからね」
決意を溢す口元?・・・違う。
眦を決した顔色?・・・違う。
夕日に染まる瞳・・・微かに見える色は・・・蒼。
そして宝珠・・・黒き珠に映し出されるのは翠の文字だった。
「零が・・・助けに行くから」
文字は・・・零を浮かばせている。
だとすれば・・・この少女も?
「戦闘人形レィが・・・助けてみせるから」
レィと名乗る少女人形が立ち止った。
丘の頂から目の前に聳える光景を眺めて。
立ち止ったレィが見詰めるのは、滅びゆく世界。
人類崩壊が目前へと迫った・・・死の世界。
戦闘人形<バトルドール>・・・
人類が造りし異形の闘う機械。
数多の人間を死に追いやる存在・・・死神。
そう・・・少女の姿を模った殲滅機械だった。
紅き瞳を滾らせる悪魔達。
人は抗う術もなく滅んでしまうのか?
否、我々には<希望>がいる。
希望の光を纏う子が居る筈だ。
そう・・・聖なる輝きを放つ少女が。
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あなたは微かな希望に縋る旅人・・・