ACT 5 銀色毛玉
我は銀色猫毛玉であ~~~る!
って、言ったかどうかは、別問題として。
現れ出たのはニャンコダマな天使クリス。
一体何を観図ろうとしているのか?
作者注)イキナリの挿絵に驚かないでくださいW
4人の前に浮かぶ銀色の猫毛玉。
「こう見えてもや。女神はんの右腕らしぃ~んやて」
驚く二人に言い聞かせるミミ。
「そうなんですよぉ~。初めて観たら信じられないでしょうけど。
私を取り立ててくれたんだから、間違いないですよぉ!」」
魔法少女にして貰えたハナが、天使なのだと胸を張って教えた。
「うむ!この姿では信じられないかもしれないが・・・」
宙をふわふわ漂う猫毛玉が断言して。
「私の目的は・・・だな。
我が主ティスの命により、当地の女神を現界させねばならぬのだ」
いきなり現れた天使に、訳の分からない意味不明な話を聞かされて。
「そやで~。
魔法少女になったんも、島田先輩にちょっかい出してたんも。
みぃ~んな、女神ティスはんの手伝いをさせられてるんやからなんやで!」
魔拳少女に成ったのは、ティスとかいう女神の所業だというミミ。
美晴に勝負を挑んでいたのも、当地に居るとされる女神を目覚めさせる為だという。
「女神ティスはんが言うとったんや。
ミハルとか言う女神が、誰かに宿っているからやて」
猫毛玉の後ろから、美晴を指してミミが知らせる。
「それって、あたしのことを言ってるんだよね?」
指を突きつけられた美晴が応じる。
「名前からして同じ読み方やし。
魔法少女みたいやし・・・憧れの人でもあったから」
指していた手を引っ込めて、
「あたぃを助けてくれた魔法少女やったから・・・」
引っ込めた右の拳を握り締める。
「島田先輩は覚えてへんみたいやけど。
月夜の晩に魔物から助けて貰ぅたんは忘れられへんのや」
「月夜の晩?そんなことがあったかしら」
二人が邂逅した夜の噺。
強烈な印象を受けたミミと、魔物退治の一幕としか捉えていない美晴の違いか。
「夏の夜、境内で怪異に立ち向かった魔法剣士。それが美晴はんやったんや」
「夏の・・・そういえば、神社の境内で退治したような」
ミミに教えられるまで、すっかり忘れていた。
「その時、襲われていたんがあたぃなんや」
「そ、そうだったんだ?」
言われた通りだった気がしてきた美晴が、押され気味に肯定したが。
「あの時観たんや。島田先輩が別人みたいになるんを。
片方の瞳が、紅く染まってたんを・・・観てしもうたんや」
「あたしの左目が闇色に変わるのを・・・観た?」
課せられた呪縛を知る人以外に、知られてはならない秘密。
それをミミは事も無げに言って退けたのだ。
咄嗟に美晴はシキの顔色を窺っていた。
魔法少女隊員でもない者が、自分の秘密を知っているのだから。
「待て・・・」
ポツリとシキが声にする。
それはミミへ向けてではなく、伺いをたてた美晴への一言。
シキの態度を見せられた美晴は、僅かに頷いて出方を図る事にした。
「あたぃは魔法使いに成りとぉなった。
あんなにも凛々しく、怖ろしい魔物にも臆さず。
気高く戦える人に憧れたんや。
つまり・・・島田先輩のようになりたくなった」
握り締めていた拳を開いて、決心を披露した後。
「そこに丁度、女神はんがやって来たんや。
あたぃを魔法少女にと、勧めるティスはんが!」
そして、猫毛玉へと話を振った。
「うむ。
ミミっ子からの情報を聞いた我が主ティスの計らいにより。
魔拳の異能を授けられたのだ。
勿論、魔法によって女神を目覚めさせる為に・・・だ」
ニャンコ玉クリスは、ふわふわと宙に浮かび上がりながら教え始める。
「この地に眠り続ける女神を覚醒させる。
ミミっ子の情報が確かならば、お前に宿っている筈だ」
キラリと光る猫毛玉の緑の瞳。
「確かめさせて貰おうではないか、ミハルという存在を」
鋭い眼光。まるで美晴の全てを見透かそうとするかのようだ。
ぎろり・・・じぃ~~~
もしも、クリスという天使が本来の姿であれば、辺りに威圧感を与えていたかもしれない。
だが、しかし。今は猫毛玉だったから。
「ちょっと!こちらの同意も無く透視するなんて」
身体を縮こまらせて、美晴が訴えると。
「おい!失礼にも程があるだろ」
シキが身を挺して庇ってくれる。
「天使だか胴無し猫だか分からない奴に、美晴へ危害を加えさせる訳にはいかないぞ」
猫毛玉から美晴を庇い、ことあらば只では済まさないと対峙して。
「美晴の何を盗み観ようとしているんだ!
俺だって観たことも無いのにお前に観れる筈が無いだろ」
クリスという天使の能力を否定し、
「宿っている奴を観るって?馬鹿にするにも程があるぞ!」
直ちに止めなければ、許さないと怒りを露わにする。
対して猫毛玉は。
「ふ・・・なるほど」
一言溢して、口元を曲げた。
「そう言う事か。
おい、ミミっ子」
くるっと体を返した猫毛玉が、
「この娘っ子には用はない。我等の見当違いだったようだぞ」
美晴とシキにも聞こえるように断じた。
「えッ?!そうなんか、クリスにゃん?」
確信があったミミには青天の霹靂だったようで。
「ティスはんも島田先輩が怪しい筈だと言われたんやけど?」
確証はなかったが、女神からも疑わしいと告げられていたらしい。
怪訝な顔つきで猫毛玉に聴き質したが。
「私の眼に狂いなど在ろう筈がないのは、お前が一番知ってるだろう」
「そやけど・・・ホンマなんかいな?」
あっさりと言い返されてしまった。
「あららぁ~?ミミちゃんの取り越し苦労だったんだね」
傍で聞いていたハナにも茶化され、カクンと肩を落とすミミ。
「損なぁ~?!」
しょげるミミをハナが、
「まぁ、また初めっからの捜索になるんでしょ?」
「振り出しに戻ってしもうたんか~」
慰めるのだったが。
「ミミっ子、ハナっ子。
単なる中身の決まっていない器には用はないってことだ。
この娘の容には、魂が混在してはおらぬようだからな」
しょげるミミと慰めるハナに、猫毛玉が言い切る。
「しかも、島田美晴という容は虚ろ。
光も無ければ闇も無い。つまりは・・・元来の人でもないと言う事だ」
口元を歪めた猫毛玉。
「一度、生を喪って蘇った者。
黄泉から戻りし死者・・・死人還り」
ビクンッ!
零れた一言に美晴の身体が反応する。
「所詮、抜け殻に収まり切らぬのは。
元来が生まれの謂れからでもあろう。
産まれし真実を知らぬ、なぜ生み出されたかも分からぬのでは・・・な」
「あたしは・・・抜け殻?
生み出された真実を・・・知っていない?」
ズキンッ!
心の中にあるトラウマが頭を擡げて来る。
「知らぬのならば、知っていよう筈の者に質してみればよい。
己が始りを造った者に、聞き質せばよかろう?」
一度死んでしまったこと。
黄泉の国から戻った事。
そして、なぜ美晴として産まれたのか。
何もかもが虚ろに思えてしまう。
どれもこれもが真実に思えなくなってくる。
「何を言いやがるんだ!美晴は生きているし、人なんだぞ」
怒気を孕んだシキの声に、やっと我に返る美晴。
「止めようよシキ君。
あたしは気にしない事に決めたんだから」
ほっておけばシキは猫毛玉に突っかかっていくだろう。
魔物でもない者へと、戦いを挑んでしまうだろうと危ぶんだ美晴が止めに入る。
「大丈夫、あたし・・・大丈夫だから」
本当は気に病んでいるというのに、反対の言葉を吐いて。
「だって、あたしにはシキ君が居てくれるんだもの」
敢えて頼っているんだよと教えて、諫めようとした。
「美晴・・・分ったよ」
知らない内に手を掴まれていたシキが、
「相手にしない・・・」
美晴の手が、微かに震えているのに気付かない振りをする。
「生きている・・・か。
いつまでそう言っていられるか・・・人ならば」
溜息のような一言を残し、猫毛玉は二人の魔法少女へ。
「用は済んだ。帰るぞ」
実体化して猫毛玉となったのを解除する。
ぼわわん!
またしても謎な煙と化し、ミミのイヤリングへと納まった。
「いけ好かない猫毛玉野郎め!」
消えた猫毛玉に悪態を吐くシキ。
「あたし・・・あたしは生きてるんだから」
棘が刺さった心を振り絞る美晴。
二人は繋いだ手を放そうともせず・・・
「あはは。どうもお邪魔しました~」
バツの悪そうな顔でミミが後退る。
「お二人様。どうぞごゆっくり~」
屋上から退散するミミに後れを取ったハナが、これまた苦笑いを浮かべてドアを閉じた。
一波乱あったのが嘘のように、屋上は静かになった。
二人だけのお弁当タイムが、意図しない険悪なムードになってしまって。
「ごめん・・・シキ君まで嫌な思いしちゃったね」
空の弁当箱を小袋に片付ける美晴が、巻き込んでしまったのを謝る。
「いいんだ。俺より美晴の方が心配だよ」
元気のない美晴を気遣って、心配気な顔を向けてくる。
「そう?
言われたことは辛辣だったけど。一つだけはホッとしたんだ」
「一つだけ?」
片付けの手を停めた美晴がシキに言った。
「あたしには宿っていないって。
墜ち女神は宿ってなんかいないって!」
「あ?!そのことか!」
表情を和らげた美晴に、シキは眉を開く。
「だったらもう心配する事はないよね。
身体を乗っ取られたり、魂を奪われる心配はないんだよね?」
憂いていたのが晴れて行くかのように。
誕生日を迎えても、堕ち女神に魂を奪われて変わることは無いのだと。
「そうだな。そうであれば美晴は怯える必要が無いんだよな」
シキも。
傍に居ると約束した美晴から脅威が無くなればと思っていた。
相手が異次元に潜んである相手だから、手出しの使用が無いのも分っている。
だから、猫毛玉が言っていた<空の容>という意味に期待を持ったのだ。
「美晴が誰にも束縛されないのなら。
呪縛が晴れたと言うのなら、こんなに良い話はないな」
「でしょ?」
ニコッと笑う美晴。
その笑顔には翳りが残っていたのだが。
「さすがは蒼ニャンの親戚って事だよ」
嘗ての守り神を喩えに出して、微笑みを浮かべる・・・無理でも。
「まぁ・・・親戚ではないだろうけど」
釣られるシキも・・・笑ってみせた。
二人共が、互いを想って。
下校時間が来た・・・
「ミハルっちは非番だったノラな?」
「そうだよ、ノーラ姉」
姉弟はクラブにも顔を出さずに帰って行く美晴を目で追い。
「シキは・・・隊長職で夜勤だったノラな?」
「そ~・・・だけど?」
職員室から顔を覗かせるシキも眼で捉えて。
「だとすると・・・今夜はラブラブタイムは無しなノラな」
「毎晩じゃないって・・・って?
それじゃぁ美晴さんは?クラブにも顔を出さずにどこへ?」
意味深なノーラの言葉を理解したローラが、逆に問いかけると。
「ミハルっちは・・・二股をー」
「しないしない!」
美晴が不倫していないかと述べるノーラに、瞬間否定するローラ。
「まぁ。深くは勘繰らない事にしておくノラ」
「・・・勘ぐってるじゃないか」
校門を出て行く美晴を余所に、姉弟がつまらぬギャグを交わしていた。
早々に帰宅の途に就いた美晴。
そう・・・誰もが思ったのだが。
「あたしの始まりを知る人・・・」
脚は自然と彼女の許へと向かっていた。
「産まれの謂れ。あたしの」
小高い丘の上に建っている剣舞の道場へと。
「きっと・・・秘密が隠されているんだ」
意を決して聴き質そうと思った。
「美雪お祖母ちゃんなら・・・知っていてもおかしくない」
秘められた・・・事実を。
天使クリスの眼力故か?
美晴には失われた女神は宿っていないと言う。
ならば、美晴の言ったように懼れる必要はないのか。
闇に怯える必要はなくなったのだろうか?
だが、一つの疑問を投げかけられてしまった。
美晴はどうして生まれた?
なぜ、古から引き継いだ魔砲の魔力を与えられたのか?
銀ニャンの言葉が、端を発した。
光と闇を纏った少女が産まれた訳を知らなければならない。
結果、答えを求める心が謎を知る者の許へと奔らせるのだった・・・
次回 ACT 6 隠されてきた秘密
今より20数年も前のことだった。
神を名乗る軍と人類の戦いが終ったのは。
終末戦争の幕引きの時、人柱の女神が戦場を飛んできた。
愛しき人へ最期の別れを告げに・・・
次回は魔砲の女神と美雪。あの名場面が蘇ります。
そして、美晴の生まれを知る美雪が語るのは?




