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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第3章 夢幻 時の静寂に棲む者
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ACT 5 銀色毛玉

我は銀色猫毛玉であ~~~る!

って、言ったかどうかは、別問題として。


現れ出たのはニャンコダマな天使クリス。

一体何を観図ろうとしているのか?


作者注)イキナリの挿絵に驚かないでくださいW

4人の前に浮かぶ銀色の猫毛玉クリス


「こう見えてもや。女神はんの右腕らしぃ~んやて」


驚く二人に言い聞かせるミミ。


「そうなんですよぉ~。初めて観たら信じられないでしょうけど。

 私を取り立ててくれたんだから、間違いないですよぉ!」」


魔法少女にして貰えたハナが、天使なのだと胸を張って教えた。


「うむ!この姿では信じられないかもしれないが・・・」


挿絵(By みてみん)


宙をふわふわ漂う猫毛玉クリスが断言して。


「私の目的は・・・だな。

 我が主ティスの命により、当地の女神を現界させねばならぬのだ」


いきなり現れた天使に、訳の分からない意味不明な話を聞かされて。


「そやで~。

 魔法少女になったんも、島田先輩にちょっかい出してたんも。

 みぃ~んな、女神ティスはんの手伝いをさせられてるんやからなんやで!」


魔拳少女に成ったのは、ティスとかいう女神の所業だというミミ。

美晴に勝負を挑んでいたのも、当地に居るとされる女神を目覚めさせる為だという。


「女神ティスはんが言うとったんや。

 ミハルとか言う女神が、誰かに宿っているからやて」


猫毛玉の後ろから、美晴を指してミミが知らせる。


「それって、あたしのことを言ってるんだよね?」


指を突きつけられた美晴が応じる。


「名前からして同じ読み方やし。

 魔法少女みたいやし・・・憧れの人でもあったから」


指していた手を引っ込めて、


「あたぃを助けてくれた魔法少女やったから・・・」


引っ込めた右の拳を握り締める。


「島田先輩は覚えてへんみたいやけど。

 月夜の晩に魔物から助けてもろぅたんは忘れられへんのや」


「月夜の晩?そんなことがあったかしら」


二人が邂逅した夜の噺。

強烈な印象を受けたミミと、魔物退治の一幕としか捉えていない美晴の違いか。


「夏の夜、境内で怪異に立ち向かった魔法剣士。それが美晴はんやったんや」


「夏の・・・そういえば、神社の境内で退治したような」


ミミに教えられるまで、すっかり忘れていた。


「その時、襲われていたんがあたぃなんや」


「そ、そうだったんだ?」


言われた通りだった気がしてきた美晴が、押され気味に肯定したが。


「あの時観たんや。島田先輩が別人みたいになるんを。

 片方の瞳が、紅く染まってたんを・・・観てしもうたんや」


「あたしの左目が闇色に変わるのを・・・観た?」


課せられた呪縛を知る人以外に、知られてはならない秘密。

それをミミは事も無げに言って退けたのだ。


咄嗟に美晴はシキの顔色を窺っていた。

魔法少女隊員でもない者が、自分の秘密を知っているのだから。


「待て・・・」


ポツリとシキが声にする。

それはミミへ向けてではなく、伺いをたてた美晴への一言。

シキの態度を見せられた美晴は、僅かに頷いて出方を図る事にした。


「あたぃは魔法使いに成りとぉなった。

 あんなにも凛々しく、怖ろしい魔物にも臆さず。

 気高く戦える人に憧れたんや。

 つまり・・・島田先輩のようになりたくなった」


握り締めていた拳を開いて、決心を披露した後。


「そこに丁度、女神はんがやって来たんや。

 あたぃを魔法少女にと、勧めるティスはんが!」


そして、猫毛玉クリスへと話を振った。


「うむ。

 ミミっ子からの情報を聞いた我が主ティスの計らいにより。

 魔拳の異能を授けられたのだ。

 勿論、魔法によって女神を目覚めさせる為に・・・だ」


ニャンコ玉クリスは、ふわふわと宙に浮かび上がりながら教え始める。


「この地に眠り続ける女神を覚醒させる。

 ミミっ子の情報が確かならば、お前に宿っている筈だ」


キラリと光る猫毛ニャンコ玉の緑の瞳。


「確かめさせて貰おうではないか、ミハルという存在を」


鋭い眼光。まるで美晴の全てを見透かそうとするかのようだ。


 ぎろり・・・じぃ~~~


もしも、クリスという天使が本来の姿であれば、辺りに威圧感を与えていたかもしれない。

だが、しかし。今は猫毛玉だったから。


「ちょっと!こちらの同意も無く透視するなんて」


身体を縮こまらせて、美晴が訴えると。


「おい!失礼にも程があるだろ」


シキが身を挺して庇ってくれる。


「天使だか胴無し猫だか分からない奴に、美晴へ危害を加えさせる訳にはいかないぞ」


猫毛玉から美晴を庇い、ことあらば只では済まさないと対峙して。


「美晴の何を盗み観ようとしているんだ!

 俺だって観たことも無いのにお前に観れる筈が無いだろ」


クリスという天使の能力を否定し、


「宿っている奴を観るって?馬鹿にするにも程があるぞ!」


直ちに止めなければ、許さないと怒りを露わにする。

対して猫毛玉クリスは。


「ふ・・・なるほど」


一言溢して、口元を曲げた。


「そう言う事か。

 おい、ミミっ子」


くるっと体を返した猫毛玉が、


「この娘っ子には用はない。我等の見当違いだったようだぞ」


美晴とシキにも聞こえるように断じた。


「えッ?!そうなんか、クリスにゃん?」


確信があったミミには青天の霹靂だったようで。


「ティスはんも島田先輩が怪しい筈だと言われたんやけど?」


確証はなかったが、女神からも疑わしいと告げられていたらしい。

怪訝な顔つきで猫毛玉に聴き質したが。


「私の眼に狂いなど在ろう筈がないのは、お前が一番知ってるだろう」


「そやけど・・・ホンマなんかいな?」


あっさりと言い返されてしまった。


「あららぁ~?ミミちゃんの取り越し苦労だったんだね」


傍で聞いていたハナにも茶化され、カクンと肩を落とすミミ。


「損なぁ~?!」


しょげるミミをハナが、


「まぁ、また初めっからの捜索になるんでしょ?」


「振り出しに戻ってしもうたんか~」


慰めるのだったが。


「ミミっ子、ハナっ子。

 単なる中身の決まっていない器には用はないってことだ。

 この娘のかたちには、魂が混在してはおらぬようだからな」


しょげるミミと慰めるハナに、猫毛玉が言い切る。


「しかも、島田美晴という容は虚ろ。

 光も無ければ闇も無い。つまりは・・・元来の人でもないと言う事だ」


口元を歪めた猫毛玉クリス


「一度、生を喪って蘇った者。

 黄泉から戻りし死者・・・死人還り」


 ビクンッ!


零れた一言に美晴の身体が反応する。


「所詮、抜け殻に収まり切らぬのは。

 元来が生まれの謂れからでもあろう。

 産まれし真実を知らぬ、なぜ生み出されたかも分からぬのでは・・・な」


「あたしは・・・抜け殻?

 生み出された真実を・・・知っていない?」


 ズキンッ!


心の中にあるトラウマが頭を擡げて来る。


「知らぬのならば、知っていよう筈の者に質してみればよい。

 己が始りを造った者に、聞き質せばよかろう?」


一度死んでしまったこと。

黄泉の国から戻った事。

そして、なぜ美晴として産まれたのか。


何もかもが虚ろに思えてしまう。

どれもこれもが真実に思えなくなってくる。


「何を言いやがるんだ!美晴は生きているし、人なんだぞ」


怒気を孕んだシキの声に、やっと我に返る美晴。


「止めようよシキ君。

 あたしは気にしない事に決めたんだから」


ほっておけばシキは猫毛玉に突っかかっていくだろう。

魔物でもない者へと、戦いを挑んでしまうだろうと危ぶんだ美晴が止めに入る。


「大丈夫、あたし・・・大丈夫だから」


本当は気に病んでいるというのに、反対の言葉を吐いて。


「だって、あたしにはシキ君が居てくれるんだもの」


敢えて頼っているんだよと教えて、諫めようとした。


「美晴・・・分ったよ」


知らない内に手を掴まれていたシキが、


「相手にしない・・・」


美晴の手が、微かに震えているのに気付かない振りをする。


「生きている・・・か。

 いつまでそう言っていられるか・・・人ならば」


溜息のような一言を残し、猫毛玉クリスは二人の魔法少女へ。


「用は済んだ。帰るぞ」


実体化して猫毛玉となったのを解除する。


 ぼわわん!


またしても謎な煙と化し、ミミのイヤリングへと納まった。


「いけ好かない猫毛玉野郎め!」


消えた猫毛玉に悪態を吐くシキ。


「あたし・・・あたしは生きてるんだから」


棘が刺さった心を振り絞る美晴。

二人は繋いだ手を放そうともせず・・・


「あはは。どうもお邪魔しました~」


バツの悪そうな顔でミミが後退る。


「お二人様。どうぞごゆっくり~」


屋上から退散するミミに後れを取ったハナが、これまた苦笑いを浮かべてドアを閉じた。


一波乱あったのが嘘のように、屋上は静かになった。

二人だけのお弁当タイムが、意図しない険悪なムードになってしまって。


「ごめん・・・シキ君まで嫌な思いしちゃったね」


空の弁当箱を小袋に片付ける美晴が、巻き込んでしまったのを謝る。


「いいんだ。俺より美晴の方が心配だよ」


元気のない美晴を気遣って、心配気な顔を向けてくる。


「そう?

 言われたことは辛辣だったけど。一つだけはホッとしたんだ」


「一つだけ?」


片付けの手を停めた美晴がシキに言った。


「あたしには宿っていないって。

 墜ち女神は宿ってなんかいないって!」


「あ?!そのことか!」


表情を和らげた美晴に、シキは眉を開く。


「だったらもう心配する事はないよね。

 身体を乗っ取られたり、魂を奪われる心配はないんだよね?」


憂いていたのが晴れて行くかのように。

誕生日を迎えても、堕ち女神に魂を奪われて変わることは無いのだと。

 

「そうだな。そうであれば美晴は怯える必要が無いんだよな」


シキも。

傍に居ると約束した美晴から脅威が無くなればと思っていた。

相手が異次元に潜んである相手だから、手出しの使用が無いのも分っている。

だから、猫毛玉が言っていた<空の容>という意味に期待を持ったのだ。


「美晴が誰にも束縛されないのなら。

 呪縛が晴れたと言うのなら、こんなに良い話はないな」


「でしょ?」


ニコッと笑う美晴。

その笑顔には翳りが残っていたのだが。


「さすがは蒼ニャンの親戚って事だよ」


嘗ての守り神を喩えに出して、微笑みを浮かべる・・・無理でも。


「まぁ・・・親戚ではないだろうけど」


釣られるシキも・・・笑ってみせた。


二人共が、互いを想って。






 下校時間が来た・・・




「ミハルっちは非番だったノラな?」


「そうだよ、ノーラ姉」


姉弟はクラブにも顔を出さずに帰って行く美晴を目で追い。


「シキは・・・隊長職で夜勤だったノラな?」


「そ~・・・だけど?」


職員室から顔を覗かせるシキも眼で捉えて。


「だとすると・・・今夜はラブラブタイムは無しなノラな」


「毎晩じゃないって・・・って?

 それじゃぁ美晴さんは?クラブにも顔を出さずにどこへ?」


意味深なノーラの言葉を理解したローラが、逆に問いかけると。


「ミハルっちは・・・二股をー」


「しないしない!」


美晴が不倫していないかと述べるノーラに、瞬間否定するローラ。


「まぁ。深くは勘繰らない事にしておくノラ」


「・・・勘ぐってるじゃないか」


校門を出て行く美晴を余所に、姉弟がつまらぬギャグを交わしていた。



早々に帰宅の途に就いた美晴。

そう・・・誰もが思ったのだが。


「あたしの始まりを知る人・・・」


脚は自然と彼女の許へと向かっていた。


「産まれの謂れ。あたしの」


小高い丘の上に建っている剣舞の道場へと。


「きっと・・・秘密が隠されているんだ」


意を決して聴き質そうと思った。


「美雪お祖母ちゃんなら・・・知っていてもおかしくない」


秘められた・・・事実を。

天使クリスの眼力故か?

美晴には失われた女神は宿っていないと言う。


ならば、美晴の言ったように懼れる必要はないのか。

闇に怯える必要はなくなったのだろうか?


だが、一つの疑問を投げかけられてしまった。

美晴はどうして生まれた?

なぜ、古から引き継いだ魔砲の魔力を与えられたのか?


銀ニャンの言葉が、端を発した。

光と闇を纏った少女が産まれた訳を知らなければならない。

結果、答えを求める心が謎を知る者の許へと奔らせるのだった・・・


次回 ACT 6 隠されてきた秘密

今より20数年も前のことだった。

神を名乗る軍と人類の戦いが終ったのは。

終末戦争の幕引きの時、人柱の女神が戦場を飛んできた。

愛しき人へ最期の別れを告げに・・・

次回は魔砲の女神と美雪。あの名場面が蘇ります。

そして、美晴の生まれを知る美雪が語るのは?

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