ACT 3 二人はペア!
この世界に魔法少女が居るように。
輝きを纏える少女が居るように。
相反する力を持つものも居たのだ。
光と闇。
今、新たなる脅威が姿を現そうとしていた・・・
月の光が街へと降り注ぐ。
灯りは人の心に幾許かの安らぎとゆとり、それと油断を与える。
月光は闇夜には無い、心の隙間を人に与える・・・
帰宅を急ぐあまり普段使わない道を歩んでいたのも、月の明かりが夜道を照らし出していたからだろうか。
自身の中に眠る魔法力に気が付いていなかったのも、相手に付けこまれた理由かもしれなかった。
いつからだろうか。
魔物が徘徊するような世の中になったのは。
まるで異世界になったかのような不自然。
不可思議な魔の現出する世界へと変わってしまったのは・・・
「ねぇ?やっぱりやっちゃうの?」
「やらへんと・・・犠牲が出るんやで」
どこかから、二人の話し声が漏れ出る。
林に沿った陰で。
細い夜道が見渡せる辺りから。
「あの人は。気付いてへんのやから」
女性が歩いて来るのを見据えて。
「魔物が待ち構えているんを・・・な」
そして、視線の先に居る筈の<観えない者>を指して。
「天使が知らせた邪気を。放置は出来へんのやから」
緑色のイヤリングが光る。
魔法の威力を秘めた、変身珠<トランス・デバイス>へ指先を伸ばす。
「そうよね、魔拳少女ミミちゃん。
だったら、この魔読少女のハナも。やるっきゃないよね!」
紅い魔術文字が刻まれたカードを、外した眼鏡に代えて目元に宛がう。
「そうや!あたぃ等が魔を討つんや」
振りかざしたイヤリング。
目元に添えられたカード。
二人は声を揃えて。
「変身!」
魔物に対峙できる姿へと変わる。
与えられた天使級の異能を纏って。
ガサガサガサ・・・
風も無いのに、前方の木立が揺れ動いた。
「なに?なんなの?」
月明かりの中、家路を急ぐ女性が立ち止ってしまった。
「変質者じゃないでしょうね」
木立の揺らめきに潜んでいるのが人であると睨んだのか、女性が警戒するように身構える。
「痴漢だったら容赦しないんだから」
どうやら、この女性は体術に自信があるようだ。
痴漢如きに気後れなんてしないとばかりに拳を握り締めた。
だが。
ガサガサガサ!
月光を浴びて、木立の中から姿を見せたのは。
「ひっ?!」
真っ黒な・・・大きな身体を持つ・・・バケモノ。
身長は優に女性の身の丈を凌駕し、真黒な翳のような全身に。
「ば、バケモノ?!」
女性を見下ろしている赤黒い双眸。
相手が痴漢ならこうまでは怯えなかったかもしれない女性が、恐怖に声を呑む。
「「寄こせ。お前の魔力を・・・」」
翳の存在からしなびたシャガり声が漏れる。
「「魔力を。お前の異能を貰い受けよう・・・魂諸共に」」
「ひッ?!」
悍ましい声が尚更に女性を恐怖のどん底へと叩き込む。
「い、嫌ッ!近寄らないで」
真黒な魔物が、翳のようにすぅっと近寄って来る。
「「怯えるが良い。そうすれば尚更に魂の味が良くなる」」
差し出されて来る鍵爪。
女性を捉えようと、魂を奪い去ろうと目論んで。
「ひ・・・だ、誰か・・・たすけ・・・」
怖気づいた女性が、助けを呼ぼうとしたが。
「「無駄だ。誰も助けなど来ん」」
魔物は得物を見下ろして嘲笑う。
「来たけど?」
全くの不意打ち。
「無駄なのは、お前の方やと思うけど?」
少女達の声が魔物の背後から叩きつけられる。
「「な?!誰だ」」
魔物は気配を感じられなかったのか、聞き取った方へと振り向く。
「「ど、どこだ?!」」
だが、声の主たちの姿を見つけられなかったようだ。
「ミミちゃん。こいつの弱点は頭の中みたいだね?」
「ハナちゃん。それを言っちゃぁ・・・魔物はみんなそうやで!」
見つけられない魔物へ、少女達の嘲りが落ちて来る。
「「ほ、ほざくな!小童共がぁッ」」
怒る魔物。だが、喚いても相手の姿を捉えられない。
「先手必勝だよ!眼の間を突いて」
「了ぉ~解ぃ~!」
少女達の声が、背後の木立から聞こえて来ているのに漸く気が付いた魔物。
木立の中・・・いいや、
「「な?!なにッ?」」
降って来た相手に気付いた時、魔物は既に己が運命を悟るべきだった。
「喰らえやぁーッ!」
魔法を籠めた鉄拳を繰り出して来る魔法少女を目の当たりにしては。
「「ば・・・馬鹿なッ?」」
飛び下りて来る白い魔法衣姿の少女と。
「一発で決めちゃってよね。ミミちゃん!」
枝の上で魔法書を片手に持っている紅い魔法衣姿の少女を仰ぎ見て。
「「いつの間に・・・」」
得物を待ち伏せていた魔物の存在を見抜いていたのかと。
しかも、絶対の有利な態勢で先制攻撃をかけられるとは。
「「馬鹿な?!我等の居場所を特定できるとでも言うのか?!」」
突っ込んで来た魔法少女の利き手の先に現れる魔法陣を観て悟った。
「「それは?!天使級の異能・・・」」
描き出された魔法陣を見せつけられた魔物は、相手が自分よりも強力な破壊力を秘めているのを驚愕する。
「滅びろ!悪鬼斬滅」
魔法力を拳に集約した魔法少女の一撃が、対応も出来ずにいる魔物へと繰り出された。
めきょッ!
魔物の眉間とも思える部位に、必殺の拳が突き立つ。
「「うがぁッ!」」
天使級の魔法力を弱点に喰らっては、下級魔物に助かる余地はなかった。
ばしゅんッ!
たったの一撃。
その一発で魔物は闇の底へと送り返される。
「勝利ッ!」
鉄拳で制裁した魔法少女が、勝ち誇って着地する。
「はいは~い!お見事ぉ~」
魔物が消えた後、枝の上から飛び降りて来たもう一人の魔法少女が。
「さっすが~、ミミちゃん!」
魔拳少女のミミへと手を伸ばす。
「いやいや。ハナちゃんの的確な弱点読みのおかげやし」
降り立ったハナへ、ミミも手を伸ばして応じる。
ぱん!
ハイタッチを決めた二人が、呆然と成り行きを眺めていた女性へと振り返って。
「悪は滅びたで」
「正義の魔法少女ペアによって・・・ですよ」
勝利宣言を放つ。
「あ・・・はぁ?」
どう答えれば良いのかさえも分からなくなった女性が、キョトンとした顏で二人を眺めて。
「はぁぅッ?!」
一声あげて卒倒してしまった。
「ありゃま。そりゃないわ~」
ひっくり返った女性を観て、ミミが頭に手を置く。
「しょうがないよミミちゃん。普通の人の、普通の反応なんだから」
倒れた女性を見下ろしながら、魔読少女になったハナが苦笑いを浮かべて。
「私だって、この間まで同じだったんだもん」
始めてみせられたら、気絶してもおかしくは無いと断じて。
指先を表通りへと向けるハナ。
「ミミちゃんみたいに気の強い子ばかりじゃないんだからね」
「うむむ。それは褒められたんか貶されたんか?」
女性を担がせて、人通りのある場所まで運ぶように促すハナへ訊き返すミミ。
「褒めてるのに決まってるよ」
「うにゅ~。なんか納得いかんなぁ」
苦笑いを溢すミミへ、ハナが笑いかけて。
「でも良かったぁ。私もちゃんと役に立てれるって分かったから」
授けられた異能に、不安があったようで。
「攻撃力の無い魔法だって、こうしてサポート出来るんだもん」
敵の弱点を探る魔法・・・仲間に知らせて突かせる能力。
「この魔法書で相手を探って読む・・・魔読の異能。
授けられた時は、もっと派手な能力が欲しかったんだけど」
攻撃一辺倒のミミとのコラボを図って授けられた魔読の力。
お互いの異能をカバーし合ってこそのペアだということか。
「いや、ハナちゃんの魔法は棄て難い能力やと感じたわ。
あたぃだけやったら、あれ程巧く倒せたのか分からへんもん」
唯の一撃で倒せた。
いくら格下の魔物とは言え、弱点を突けなければ戦闘が長引く事だって有り得るのだから。
「助かるでハナちゃん。
やっぱり、二人で闘う方がええんやと感じたんやで」
「そう?良かったぁ~」
魔法少女に成れたばかりのハナは、ミミからの賛辞に喜んだ。
「そやけど。
魔法少女に成ったんは、内緒にしとかんとあかんのやで」
「そうだよね。誰かにバレちゃうといけないよね」
魔法少女ですと名乗りでもすれば、普段の生活に使用を来す。
況してや、敵である魔物に狙われる恐れもあるのだから。
「そや。
あたぃ等には遠大なる目的があるんやから」
「喪失した女神の復活でしょ?
この調子なら、案外早く片が付けれるかもね~?」
お調子者のミミに併せるかのように、ハナが言って退ける。
「だって、私達は。
最強の魔法少女なんだから」
「最凶の間違いやあらへんのんか~?」
突っ込むミミ。笑い返すハナ。
この時、二人はまだ。
未来に何が待ち構えているのか知りようも無かった。
滅び去った魔物。
存在が暴露した魔物の末路。
下級魔物の一体が滅び去った・・・だけのこと。
だが、滅ぼしたのは意図しない魔法少女達だった。
ひゅぅ・・・
一陣の風が髪を靡かせた。
漆黒の髪を・・・月明かりも反射せずに。
「「ふふ・・・そう言う事なのね」」
大人びた少女の声が漏れる。
戦いの終わった地上を眺め降ろして。
「「特異点は彼女だけではないって?
造られたのは・・・あの子だけではないって訳?」」
二人の少女が歩いて行くのを眺め降ろしているのは?
「「面白いじゃないの。
どちらの身体を貰うかは・・・私の気の向くままで良いのね?」」
月夜の晩。
魔法少女達を眺め降ろす、漆黒の髪を靡かせる少女の姿。
ミミとハナを見下ろす少女の姿は・・・見つける事は出来ない。
なぜなら。
「「私という絶対者の身体になるのは・・・どちらが相応しいかしら」」
紅く光る瞳。
漆黒の髪から零れ観える紅き輝。
「「ねぇ?あなたならどちらの容が相応しいと思う?」」
邪まなる気配は誰にも感じ取る事さえ不可能。
「「なぁ?お前が美晴を選ぶのなら、私はあの子を貰って構わないでしょう?」」
嘲るように地上を睥睨する双眸。
「「いずれにしろ、いつかは闘う宿命なのだから・・・女神と」」
理の女神と対峙する・・・宿命だと言い放つ。
「「そうだろ?審判の女神よ。
それが約束だったろ・・・創造する者よ?」」
審判の女神?
嘗て終末戦争の折に現れた女神?
今は、フェアリアの王女に宿る?
だが、声は創造する者とも呼んだのだが?
「「間も無く、定義されていた日がやって来る。
その日になった暁には・・・私が世界を造り直してやる。
この現実世界に身体を持ち、絶対者として復活すれば・・・・」」
声の少女は言い切る。
絶対者であると、復活を遂げると。
「「今度は手出しさせないからな。
千年期を延長させたお前には・・・な」」
紅く光る双眸を光らせ、少女の影が嗤った。
「「失望する様が脳裏を過るよ、創造主。
今度も私の思うがままに・・・世界が滅ぶのだから」」
まるで悪魔の如き。
否、その声の意味しているのは、再び始まる惨劇の狼煙なのか。
月光に溶け込む様な翳りが、沖天から消える。
悪意の塊のような少女の形が・・・精神世界へと消えて行った・・・
闇に潜む少女の翳。
闇夜に現れた翳が告げた。
<女神と闘うのだ>・・・と。
女神ミハルに憎悪を燃やし、この世界を潰えさせるとも言った。
果たして、翳の正体とは?
翳が現れるとき、美晴と魔法少女達の運命は?
次回 ACT 4 お昼は屋上で
学園生活を謳歌する美晴。唯の女生徒として、愛を謳う少女として。
一方のミミ達は、二人の前に立ち塞がろうとしていた?!お邪魔虫として?




