Act10 レストラン<ラミルの館>にて
二人は<フェアリア>郷土料理店ラミルの館へと入っていった。
でぇと定番のディナーと洒落込む。
内装は王宮風の華麗さを誇り、訪れた者を魅了する。
料理は美晴を、幼き日の思い出に更けさせた。
・・・そして。
三ツ星レストラン<ラミルの館>にて・・・
星空が望める席で、思いもしなかった晩餐に興じている。
初めは身分不相応だと思って身を固くしていた美晴だったが、テーブルに出された料理の品々を観て。
「あ・・・これも。
みんなフェアリアでしか食べれないモノばかり」
異国料理に目を輝かせて。
「懐かしいなぁ。小さな時の記憶が蘇るみたい」
フェアリア国で過ごした、幼き日に想いを巡らせていた。
「美晴はフェアリア生まれだって聴いてたから。
ここの料理が合ってるって、考えたんだよ」
懐かしさに微笑む美晴を観て、気を効かせたシキが教える。
「うん、ありがとうシキ君。
とっても素敵。とっても嬉しいよ」
オードブルにフォークを伸ばすシキに感謝を告げて。
「あた・・・私。
今日みたいな誕生日プレゼント。
産まれて初めて・・・」
嬉しくて、感動して。
「生きていて良かったって・・・思えたから」
生きている証だとも思えた。
「二年前、シキ君は魂を半ば迄消耗させてまで蘇らせてくれた。
もし、禁忌の魔法で黄泉返らせて貰えなければ・・・私は」
今、この場には居られなかった・・・そう言いたかったのだが。
「君は死なない。
いいや、死なせたりはしないさ、この俺が」
フォークを置いたシキが応える。
「俺は美晴に逢う為に産まれて来たと考えてるんだ。
もしも美晴が居なくなるのなら、この世界も無くなってしまえば良いとも思えるんだ」
大袈裟な喩えではないことは、シキの真摯な声で分かる。
「あの時俺は、とある人から頼まれて美晴を追いかけていたんだ。
悪い奴等に狙われているのを救って貰いたいと乞われて。
だけど・・・間に合わなかったんだ」
「そう・・・前にも言ってたよね」
二年前。
交通事故を装った殺傷事件が美晴を襲った。
マリアとの最後の別れを告げに向かった美晴。
そこへ魔に属した者の手が忍び寄ったのだ。
「運転手は既に発作で亡くなっていたらしい。
アクセルを踏み込んだ状態のままで・・・そして」
「私を・・・撥ねた」
コクリと頷くシキが。
「悪魔の手先によって・・・魔法少女は殺されかけた」
紅い瞳を曇らせて、記憶の中の惨劇を語る。
フロントガラスの破片が飛び散った路面で、一人の少女が横たわった姿。
目にした惨劇が信じ切れず泣き叫ぶ、連れの少女二人を押し退けて。
「あの時、どうして俺が闇の属性を持っていたのかが分かった気がしたんだ。
大切な美晴を真の闇に奪われずに済ませるには、俺の異能が必要だったから」
「大切な・・・私・・・」
何気なく告げられた一言が、美晴の心に刻まれる。
「俺の前に現れた人が何故、預言できたのかは知らない。
だけど、あの場に居られたのは不幸中の幸いだったのかもしれない」
「とある人って言ったけど。それって誰なの?」
美晴が事故に遭う事を知っていた?
不幸が舞い降りて来るのを予知していた?
「俺も善くは知り得ないんだけど。
彼女は女神の端くれだって・・・自嘲気味に言ってたよ」
「女神?!まさか・・・本物なの?」
女神と聴いて、美晴が思い描いたのは。
「まさかとは思うけど。
その人って、あたしと同じ名前を名乗らなかった?」
叔母に当たる人を。
失われたままの女神が現れたのかと。
だが、シキは首を振って応える。
「俺も。そうかと思って質したんだけど。
残念ながら、彼女は薄く笑って首を振ったんだよ」
肩を竦めたシキが、美晴へ違うと教える。
「違ったんだ・・・
だったら、その人って?」
どんな姿だった?
どんな顔形?髪の色は?瞳の色は?
美晴は訊きたい事があり過ぎて言葉に詰まる。
・・・と、その時。
「お客様。
歓談中の処、誠に申し訳ございません」
いつの間に脇に来ていたのか、支配人が慇懃に話しかけて。
「当店の庭先にて、不穏な輩達が暴れているようなのです。
御見苦しき光景を目にされましたのなら、何卒ご容赦くださいませ」
頭を下げ乍ら、不測の事態を知らせて来た。
「え?!」
不穏な輩と聴いて、美晴が窓辺に目を向けるが。
「何も無いじゃないですか?」
木々に囲まれた庭には何も見当たらなかった。
「はい。この店の中からは見ることはないでしょう。
なにせ、当店は結界に守られております故」
「はいぃいい?」
支配人は事も無げに言うが、結界に守られたレストランなんて聞いた事も無かったから。
「結界だなんて・・・冗談でしょ?」
「いえ。我が<ラミルの館>は魔力防護に長けてもおりますので」
支配人から教えられた美晴は、口をあんぐりと開けて見返すのがやっとで。
「み、三ツ星レストランってば、畏るべし」
変な処に感心してしまう。
・・・いや、そこに三ツ星は関係ないと思う。
「で、支配人さん。
不穏な輩というのは?」
一方、シキは魔法少女隊の隊長として訊ね直す。
「はい、魔物と魔法少女・・・ですが」
「えッ?!」
「ま、魔法少女?!」
思わず二人の腰が浮く。
だが、教えた支配人は動揺すら見せずに。
「ご安心くださいませ。
如何程暴れようとも、当店には係わりございませんので。
周り中に被害が及ぼうとも、店内に居る限りは安全を保障いたしますから」
「あ・・・あはは。ここって要塞だったんだ?」
支配人の落ち着き方から、嘘では無いとも思えるのだが。
「でも、実体化しているのなら物的損害が・・・」
シキの心配するように、物理攻撃には結界も効き目が無い筈。
「はい。相手が余程の者ならば・・・ですが。
この館を設計されたラミル・オーナーが太鼓判を押されたのでご安心を」
言われた美晴が、窓辺から観える壁の厚さに気付く。
その分厚さときたら、まるで城壁の如き。
「三ツ星レストラン・・・畏るべし」
ピョンとアホ毛を跳ね、美晴が繰り返した。
・・・だから、そこに三ツ星は関係ないって(突っ込ませて貰う)w
「でも。魔法少女って誰なんだろうね?」
「そうだな、隊の方からは出撃してないよな?」
支配人が離れた後、二人は小声で交し合う。
魔物が出没したと言うのが本当なら、魔法少女隊に出撃命令が下されてもおかしくない。
「困ったな、折角のディナーなのに」
「そうだねぇ、シキ隊長」
本気で困り顔のシキに対して、美晴は悪戯顔で応える。
先程まで交わし合っていた重い身の上話を中断出来て、少しほっとしてもいたから。
「どうして司令達は呼び出さないんだろう?」
ポケットを弄るシキが、焦っていると。
「ルマお母さんは気を効かせてくれてるんじゃないかな」
羊の肉を口に運んで、
「こんなに美味しいお料理なんだもん。
堪能させてくれなきゃ・・・だよ?」
魔物は、その魔法少女に任せておけばって意味を含めて。
「相手が手強いのなら、呼び出しがかかる筈だもん」
戦っている魔法少女には申し訳ないけど、今夜だけは。
「だ・か・ら!
三ツ星レストランの夜宴を楽しまなきゃ・・・だよ♪」
フォークを口に運んでウィンクする美晴。
店の外で闘っているであろう魔法少女に詫びるでもなく。
「美味し~ぃ」
故郷の味に舌鼓を打つ。
「はぁ・・・美晴って奴は。
よし、それなら俺も・・・堪能してやるか!」
楽しそうに食べ続ける美晴に毒気を抜かれたシキも、ナイフとフォークを持って。
「それにしてもフェアリアって国は、摩訶不思議だよなぁ」
「そ~!だって、魔砲少女発祥の地なんだから」
にこやかに笑う、美晴に癒されていた。
・・・んで?
「あわわわわ~ッ?!」
突如現れた怪異に。
「に、逃げようよミミちゃん!」
腰を抜かしたハナが叫ぶ。
だが、ハナを後ろに隠したミミは。
「やっぱりやな。これがあんの人等が追いかけていた相手ってか?」
化け物を前にして・・・細く笑んでいた。
「何言ってるのよぉ~!逃げようよぉ」
平然と化け物に対峙しているミミに、脅えたハナが叫ぶが。
「大丈夫や、ハナちゃん。
こいつはあたぃがぶっ飛ばしてやるさかいにな!」
ハナに背を向けたまま、ミミが吠える。
「ミハルを追いかければ、魔物にぶち当たるとは思うたけど。
こうもあっさり的中するやなんて・・・やっぱりチャンスやったんやな!」
左耳に着けていた緑のイヤリングへ手を伸ばして。
「あたぃの本当の姿を・・・魅せちゃるで!」
魔物を向こうに回して、態勢を整えてから。
「ハナちゃんは少しだけ隠れていてや?」
腰砕けの友達を顧みて。
「隠れるって?何をする気なのよミミちゃん?!」
振り向かれたハナが訊き咎めるのを、
「何をって?
知れたこと。こいつを魔法でぶっ飛ばすだけや!」
イヤリングを振りかざしたミミが。
「変身!」
魔法玉に発動を命じる!
ピカッ!!
翠の光がイヤリングから放たれて。
「きゃぁッ?」
眩き光で、ハナの視界が奪われる。
それは数秒も経たない、ほんの一瞬。
奪われた視力が元に戻った時、
「・・・え?」
ミミの居た場所に、<彼女>が仁王立ちになっていた。
緑の髪・・・見知らぬ衣装を纏う・・・
「魔拳少女、只今推参!」
ハナの知らない、魔法少女が現れた。
「だ、誰?え・・・っとミミちゃんは?」
逃げ出すのも忘れて訊いていた。
「ミミ・・・ちゃんなの?」
黒のジャージ姿だったミミは居ない。
白い魔法衣姿の少女が佇んでいる・・・だけ。
両手に填めたグローブを握り締める魔拳少女が、僅かにハナへと顔を向けると。
「そや。見られてしもうたなハナちゃんに」
翠の瞳で頷く。
「嘘・・・嘘。
だって、ミミちゃんなら・・・」
「あたぃなら・・・何?」
怯える様な顔で質されたミミが訊き直すと。
「ミミちゃんなら・・・その。
そんなにおっぱい大きくないもん!」
「がくッ!」
ハナの一言につんのめる魔拳少女のミミ。
「あなた!ミミちゃんを騙るのは辞めなさいよね」
「あ~~~~ホンマ。ハナちゃんってば、天然~ん」
真剣に認めようとしないハナに、ミミは笑うしかない。
「そやけど、そんなハナちゃんも大好きやで」
笑うミミは、背後に迫る魔物へと向き直り。
「その大事な友達を怯えさせたお前を。
あたぃは許さへんさかいに・・・な!」
びしりと右手の人差し指でポーズを決めて。
「あたぃの怒りを・・・受けろや、おらぁ!」
いきなり奥義を発動させた。
音声が途切れてから一時間が経過しようとしている。
「司令?
一体何が起きたノラか?」
市内監視モニターを見守るノーラが質すが。
「・・・・」
ルマ司令は眼を閉じたまま答えはしなかった。
「魔物発現状況からして、ミハルっち達に接触したのではないノラか?」
ポチポチとコンソールをタッチして、状況の把握に努めようとするノーラだが。
「魔物は野良の魔法少女に駆逐されたようだノラが?」
魔物の反応がロストされた状況を鑑み、対処する必要は無いと判断したようだ。
「それなら、ミハルっち達は?
何時になれば仕込まれた盗聴器が作動するノラ?」
イライラとタッチパネルを操作するローラの後ろで、黙したまま手を組むルマ司令。
「「・・・チッ、これほどの結界を仕込んであるとは。
流石ラミルさんの造った店だけのことはあるわね」」
口には出さないが、ルマ司令も内心臍を噛んでいるみたい。
と、よく見れば目を閉じているのではなくて?
「「イヤリング状の盗聴器だけではなくて。
鞄に仕込んだモニターも使えなくされたか」」
画面上が砂嵐になっているモニターへ、薄く開いた眼を向けているようだ。
「ルマ司令。デートをライブする作戦は失敗したノラ」
「・・・まだ。終わった訳ではない」
ノーラに失敗と断じられた時、ルマが口を開いた。
「最期の盛り上がりだけは・・・断じて見守らねばならない」
「・・・諦めの悪い母だノラ」
魔法少女隊司令部で。
肩を竦めたノーラが、大きなため息を吐いていた。
でも。
確かに<まだ>だった。
ルマの言った通り。
まだ、美晴は貰っていなかったから。
誕生日のプレゼントってモノを・・・
店の外では、魔拳少女のミミが戦い。
店の中では、魔砲の少女がディナーを楽しんでいた。
でぇとの目的は、美晴の誕生日プレゼントを手に入れるのが主眼だった筈。
ディナーを終えたら、もう一度買い物に出かけるのか?
それとも、もう十分だからと諦めてしまうのか?
シキはしきりにポケットを弄っているようだが?
・・・さて。どうなるのだろう?
次回 Act 11 想いの証
2人の絆。幼馴染の一線を越えられるのは<プレゼント>に懸かっている?!




