Act 9 扉を開けると、そこは・・・
でぇと を あ?! らいぶ!
美晴のデートを覗いて観ましょうか?
シキと連れ添えた美晴。
先ずはプレゼント探しが始まるようなのですが・・・
手を繋がれるのは初めてじゃない・・・
手を取り合って歩くのも初めてじゃない・・・けど。
「あ、あの!」
顏を赤く染めてしまうのは、今がデートだと想うから。
「シキ君ってば?!」
繋げた手を曳かれて歩きながら訊いてみる。
「ん~?」
前を向いたまま答えるシキへ。
「恥ずかしく・・・ないの?」
手を繋ぐのが・・・って意味で訊いてみた。
「ん~っと。美晴は?
俺と手を繋ぐのがって、ことだよな?」
「そ、そうだよ?」
前を向いたまま答えて来たシキに訊き直されて。
「ちょっとだけ・・・照れくさいんだけど、あたしは」
正直に答えてシキの表情を見詰め直そうとしたら。
「あはは・・・俺もなんだけど」
ピタリと歩みを停めて振り返って来た。
「あ?そうだよね」
緊張してるようなシキの顏。
少し表情が硬くて、それでいて嬉しそうにも見える。
「そっか。シキ君も・・・同じなんだね」
ちょっとだけ、緊張がほぐれた気がした。
自分と同じ気持ちなんだって分かったから。
「まぁ、俺が誘ったんだから。
リードしなきゃいけないって思うからさ」
照れたシキが、また明後日の方を向いて髪を掻きむしる。
「いつも通りに接しないとって、思うんだけど。
今日は特別だからって・・・気が先走っちゃってさ」
「あ・・・分かるよぉ。あたしもそうなんだよね」
今がデートの最中だという認識からか、互いに意識し合ってしまっているのだと思い。
「だったら!
いつもみたいに呼んでみよっか?」
「うん?どう呼ぶって言うんだよ?」
美晴は何かを思いついた様で。
「そう!シキ隊長ぉ~ってね」
「わッ?!馬鹿!人前で魔法少女隊の呼び方をするなよ!」
ペロッと舌を出して呼んだ美晴に、慌てたシキが口を塞ごうとする。
「あはは!ね、良く効くでしょぉ~?」
「なんだよ美晴。慌てさせるなよな」
自分の緊張を解す為と、シキからも取り除く為にワザとふざけた美晴。
「まったく。美晴には頭が下がるよ」
ニコニコと笑う美晴の顔を観て、シキも緊張を解せたようで。
「それじゃぁ、改めて」
今度は向き合って、
「俺と手を繋いでくれないか」
手を美晴へと差し出して来る。
「うん!いいよ」
今度は、はっきりと了承した。
まだ、恥ずかしさは残ってはいたが、手を繋げるのを嬉しく感じていたから。
そっと・・・二人の手が繋がる。
「あ・・・」
思わず声が出てしまった。
「シキ君の手って。こんなに大きかったんだ」
今迄何度か手を取り合った事もあったが、こんなに意識して手を感じたのは今が初めてだった。
それはシキにしても同じ。
「しなやかで細い指。それでいて柔らかいんだな美晴の手って」
「なによぉ~?剣術少女だからって硬いと思ってた?」
ぷぅっと、頬を膨らませた美晴が。
「初めてだね、こんなにも意識し合うのって」
小首を傾げて、頭一つ分背の高いシキを見上げる。
「7年前から知っていた筈だったんだけど。
出逢えた頃からずっと観て来た筈だったのにな」
「そうだよね・・・幼馴染なのにね」
知らないこと。
観ていても分からないこと。
肌を通してしか知り得ないものを、二人は改めて感じた。
「男の子なんだ・・・シキ君も」
「美晴だって。十分過ぎる位魅力的な女の子だよ」
ジッと見詰めて来るシキの紅い瞳。
「そ、そうだよぉ~。あたしは女の子なんだからね」
改めて見詰められてしまうと、変な意識が芽生えてしまう。
初めて化粧らしいモノに手をかけた顏を変だと思われでもしたのかと。
「あ、いや。変な意味じゃなくって」
言い返されたシキの方も、厭らしい意味合いに採られたのかと勘違いして。
「なんだか、いつもより大人びてる気がしてさ」
「あ?分かったんだ」
化粧された肌。薄いピンクのルージュを塗った唇が印象を変えた。
「えへへ~。女子力アップしたでしょぉ~?」
努力した甲斐があったと、美晴は胸を撫で下ろす。
「いつもの美晴は可愛いけど。
今はなんだか・・・」
真っ直ぐな目で見詰めて来るシキ。
途切れた次の言葉が気になって。
「なんだか?・・・なに?」
「エキゾチック・・・とでも言おうか、ヤバいな」
マジマジと見詰められた後に言われたのは。
「本気で・・・ヤバいと思うよ」
「ん~?どう答えて良いか困るんですけど」
ヤバいという意味が、顔色から観ても悪い印象では無いと感じれる。
でも、一体何がどうヤバいというのかが分からない美晴。
で。
「良く似合ってるって・・・言っておくよ、服に」
「・・・それって。馬子にも衣裳ってこと?」
ふ・・・と。二人は見つめ合い。
「あはは」
笑うシキに、笑い返す美晴。
「じゃぁ、行こうか」
「うん、行こう!」
手を繋いだ二人が歩み出す。
「で・・・先ずは美晴の欲しい物を」
「あ・・・うん。それなんだけどね・・・」
ショッピングモールの中へと・・・
二人の姿が、店舗の中へと消えて行くのを観ていたのは。
「ふ・・・怪しいカップルだわ」
眼鏡の縁を持ち上げて追っていた。
「用務員補助と女学生。
姿を誤魔化してまでデートをするのには、どんな訳があるのか」
キラリと光る眼鏡。
「いけない恋に嵌った二人が執る行動とは?」
ニヤリと哂う口元。
「この後、二人はどこへしけ込む気なのか?」
二人の後を追いかける目が・・・4つ。
・・・4つ?
「最期まで見届けないと・・・」
傍らで自己の感慨を述べ捲るハナを余所にして。
黒緑髪を靡かせた少女が細く笑む。
「変装までして。
ここに何かがあるって事やんな?」
魔拳少女であるミミが言う。
「魔法少女と、その部隊の隊長が一緒に居るんなら。
きっと此処には、なんかの敵がいるっちゅぅーことやんな?」
二人のデートを勘ぐったミミ。
「そやったら・・・これは」
二人が消えた店から顔を背けると、こう言うのだ。
「ちゃぁ~~~んす」
ああ。
どうやら、二人のデートは波乱に満ちてしまうみたいです。
美晴にとって天敵である魔拳少女の魔手が伸びてしまうのか?
それとも、美晴自らの手で破滅に導くのか?
それと、気になるのはルマ達の作戦。
果して・・・美晴の初デートは?
・・・・って。
周りの状況が分っていない損な子は。
「ねぇシキ君・・・」
「これも違うのかい?」
何軒目かの店舗で、首を振っていました。
可憐な衣装が売りの衣装店舗を皮切りに、縫いぐるみが好きな美晴を連れて行ったけど。
「誕生日に欲しい物って言ったから」
着る物や小物関係では無いとだけ分かった。
「欲しいことは欲しいんだけど・・・ちょっとね」
可愛い熊の縫いぐるみを手に取って笑った。
綺麗な衣装を観ては、燥いでいた。
でも、美晴は買ってとは言わなかった。
「欲しいのなら、何個だって構わないんだよ?
そんなに高額な物じゃぁないんだから」
美晴が遠慮していると思い、促してみるが。
「ううん。欲しいのは一つだけって決めてるから」
敢えて自分から何が欲しいとは言わずに。
「それを見つけてくれたらなぁって・・・えへ」
少し困ったように笑うだけ。
「意地悪だなぁ。教えてくれたら良いのに」
苦笑いを浮かべるシキが、ちらりと腕時計に目を向ける。
「もぅ19時になっちゃったな・・・」
ショッピングを始めて3時間近く過ぎた。
唯一つの贈り物を選ぶのに、これだけの時間が過ぎてしまっていた。
「そうだ、美晴。
一旦ここらで買い物を中断しようか?」
「え?!どうして?」
店を出た時、シキが提案して来る。
「だってさ。お腹・・・空いただろ?」
「あ・・・」
買い物に夢中になって時間の過ぎるのを忘れていた美晴へ。
「あれこれ迷ってばかりじゃ、良い物なんて見つけられないし。
お腹が減ると頭も回らなくなるからさ・・・な?」
「あはは、それもそうだよね」
食事へと誘ってみると、快く頷かれる。
「よし、じゃぁ晩餐に行こう」
「晩餐だなんて、軽く食べれれば良いんだよ?」
大袈裟に言うシキに、美晴が小首を傾げ乍ら微笑む。
「まぁ、任せておけって」
太鼓判を押すシキに、美晴は微笑むだけ。
「モールからは少し離れてるけど、いいお店なんだよ」
「後の買い物には都合が悪くないの?」
ちょっと気になったから訊いてみる。
「ああ、大丈夫だよ・・・多分」
「多分って・・・」
気に掛けるまでも無いと言われた気がして、それ以上は口に出さずにおく。
「美晴の欲しい物なら、多分手に出来たと思うから」
「え?!いつの間に?」
レジへ向かってはいない筈なのに?
いつ買ったというのだろう?
「それは・・・内緒」
「?」
不思議そうな目でシキの顔を見詰める。
「まさか・・・魔法で?」
魔法を使ったのかと質してみれば。
「まぁ・・・そんな処かな」
不確かな答えが返されるだけ。
「??」
意味が飲み込めず、シキの表情から汲み取ろうとしたのだが。
「それより、今は。腹ごしらえだよ」
「うにゃ~。買い物より食い気なの?」
はぐらかされて笑うよりなかった。
戸惑う気持ちもあったが、シキの表情から観て悪いようにはならないと思う。
だから、シキのリードに任せようと。
「うん!それなら・・・覚悟してよね」
食欲魔神の本領を見せてあげるとばかりに宣言した。
「美晴こそ・・・覚悟は完了?」
「は!言ったわねぇ~」
食欲では、右に出る者は居ないとばかりに。
「魔砲少女ミハルの怖ろしさを堪能しなさい!」
魔法力を補充するには、各々位の属性が含まれている。
美晴の属性は大喰らい・・・人の数倍もの食べ物を摂れる・・・魔食少女。
悪食を超える魔食が、美晴の魔法力を補填させ得るものだった。
だけど。
「・・・(たらり)」
連れて来て貰った店先で固まってしまった。
「どうしたんだよ、入ろうぜ?」
モダンな店構えは、高級店らしいモノ。
「あ、あ、あ、あ・・・あのッ?!シキ君?」
「ちゃんと予約も入れてあるから、大丈夫だよ」
眼を廻してシキの顔を見上げる美晴へ。
「だから、普段着ないスーツを着て来たんだよ」
ネクタイを締めていたのは、この店に来る為だった?!
「だってさ。ノータイじゃぁ入れて貰えないから」
「あわわッ?!ここって3つ星以上の高級店だよぉ?」
店構えも、中に居る客層だって特別に思えて。
「お支払いの時にびっくりしちゃうよぉ~?」
・・・いや、美晴さん。そこですか?
入店を拒んでいた美晴に、シキの手が伸びて。
「ノープロブレム!」
その手が腕へと組ませる。
「ひゃっ?え?!」
腕を取らせたシキを見上げ、
「もぅ・・・ヤサいシキ君だなぁ」
拗ねた様な顔になっても、頬を赤く染めてしまう。
「俺は元から優男なんだよ」
紅く綺麗な瞳で教えられる。
「ホント・・・いつの間にかね」
自分に対してだけ向けられる好意を感じて。
リン・・・リリン・・・
門扉を潜るとチャイムが鳴る。
シキのエスコートで扉の前に来る。
カシャ・・・キィィ~
重厚な扉が内側へと開き、続いて・・・
「ようこそ。お出でになられました」
恭しく迎えるのは、恰幅の良い支配人。
「我がフェアリアンへ。
東洋髄一の北欧レストラントへ・・・ようこそ」
外観のモダンさは嘘では無かった。飾りでは無かった。
そこは、別世界。
店の中は北欧の宮殿かと見間違える程、華麗だった・・・
「すてき・・・」
美晴の眼に写り込むシャンデリア。
その景色を一度だけ眼にしたような気がしていた。
「まるで・・・フェアリア王宮みたい」
幼き日に。
まだ日ノ本へ来る前に、一度だけ眼にした事のある場所を想起させて。
「ルナリーン姫様と出会った場所みたいに思える」
荘厳で華麗な建築様式。
北欧の王国だったフェアリアの宮殿にも思えて。
エスコート役のシキが美晴を促す。
「さぁ、姫。参りましょうか」
「うん・・・いいえ。はい!」
支配人が二人を誘う。
カップルを誘うというよりは、王子と姫を導く修道士の如く。
「今宵は心行くまでお寛ぎくださいませ」
一番見晴らしの良い席へと。
二人だけの世界へと。
星空を望める・・・貴賓席へと。
そして・・・二人だけの晩餐が始る・・・
三ツ星レストラン<ラミルの館>とは?
北欧の小国である<フェアリア>の郷土料理が堪能できる店。
美晴が生まれたのは、そのフェアリアなのです。
懐かしい味。懐かしい産まれ故郷を思い出して。
店名の<ラミル>には、店のオーナーの名を冠してあるのです。
<魔鋼騎戦記フェアリア>をご存知ならば、その名にお気づきかと思います。
初代ミハルの戦友でもあった人の名を。
終末戦争の後、会社を立ち上げた女性企業家<ラミル>のことを。
デートの定番、ディナーに誘われた美晴。
美味しい料理に心行くまで寛げるのか?
そうそう巧くはいかないのも、折込済みだった?!
さて・・・どうなる?
次回 Act10 レストラン<ラミルの館>にて
身の上話に発展し、重い雰囲気になりそうになったが・・・やはり?!




