Act 4 母からの一言
初めてのデート。
美晴の心は?
少女の気概は?
いやその前に・・・
ー美晴の非番日まで・・・アト2日ー
体育館の一角で、剣舞部の練習が行われていた。
「せぃッ!やぁッ!」
女子部員達に手本を披露しているのは。
「やっぱり~、美晴先輩の剣舞って美しいなぁ」
「そうそう!それに力強いしぃ~」
後輩部員がキャイキャイお喋りしているのを、舞いながらも注意する。
「そこ!おしゃべりしていないでちゃんと見るッ!」
剣舞部のエースでもあり、全国大会で常に上位を占める程の腕前を誇るのは。
「島田さんの言う通りよ!
大会も近いんだから、選抜メンバーになりたかったら練習に励みなさい」
部長の太井教諭が、美晴を囲む下級生を窘める。
「は~~い」
顧問からの叱咤を受けて、部員達も手本の舞を披露するエースを食い入るように見詰める。
そこで舞っているのは<光の剣舞>師範代でもある少女剣士、島田 美晴。
祖母が道場主でもあり<光の剣舞>宗匠、島田美雪の孫娘。
幼き日から厳しい練習を繰り返し、技を磨いて会得した剣の道。
祖母でもあり、師匠でもある美雪から授けられた颯とした直伝の舞は、他流派からも一目される存在だった。
「太井先生はそう言うけど。
私達は美晴先輩が目当てで入部したんだからねぇ」
「そうそう!先輩の可憐さが・・・堪んないのよねぇ」
一時はお喋りを辞めていた下級生達だったが、黒髪を靡かせて舞い続ける美晴を見詰める目がデレて。
「私が男子だったら・・・ほっとけないよね」
「いやいや。女子だって・・・手を出しそうだよぉ~」
危ない会話を始めてしまう。
ぴくく・・・
舞いに集中しているのだが、自分に向けられた怪しい会話は知らずに耳へと飛びこんでしまう。
「・・・まったくもぅ。真剣に舞うのが馬鹿らしくなるよ」
部員達のお喋りが一向に停まらないのを、美晴が愚痴る。
「コッチだって、太井先生に頼まれなかったら舞わないのに」
耳に飛びこむお喋りや、視界の隅に入って来る部員達の口元。
そのどれもが自分に対しての好意や邪まな情念なのを感じて。
「あ~ぁ、なまじ魔法少女になんて成らなきゃ良かったのになぁ」
魔法力が傑出した美晴には、自分に対しての声が否応も無しに聞こえてしまう。
邪なる者との闘いで培ってしまった異能が、自意識下で作用しているのだ。
「普通に学校に来て、普通にクラブ活動に出て。
普通に生活できるのなら、どんなに楽しいんだろう」
自分に魔法力が備わっていて、いつの間にか悪者と闘う宿命を与えられてしまった。
普通の高校生ならば、学業やクラブで青春を謳歌出来る筈なのに。
「普通の人だったら友達と遊んで、普通に恋花を咲かせたりできるんだろうな」
自分が魔法少女に成って、やっと普通というモノがどれ程有難い物なのかが分かるようになった。
「今のアタシには無いから・・・平穏な生活ってモノは」
お喋りを続ける下級生を観て、羨ましく想う。
・・・でも。
「あたしだって。
本物の恋バナを咲かせれるんだからね。
他人が羨む程の、恋に堕ちてるんだからね」
魔法少女になって、これだけは自慢できると思った。
奇跡の巡り合わせで芽生えた恋というモノを。
「今日は木曜日だから・・・あと二日後かぁ」
誕生日の前倒し。
シキからの申し出を受けた美晴だったが。
「きっと・・・素敵な日になるんだろうな・・・なると良いのになぁ」
頭の中で、ポワンとした想いが過る。
「それってば・・・所謂・・・で、デ、デ・・・」
言葉にするのも恥ずかしい。
だけど、世間様ではそう呼ばれているだろうことぐらいは知っている。
「デ、デ、デ・・・・」
舞いながら、顔を赤くして想いを言葉に表そうとした・・・美晴の耳に。
「そう言えば、カリキュラムのアップ<<デート>>をやらないと・・・」
なんの気も無しに太井教諭が口走ったのが飛びこんだ。
プッンッ!
「はにゃぁッ?!デェトォッ?」
スペルに過剰反応した美晴の意識がぶっ飛ぶ!
ドンガラガッシャーーーーーーーーーんッ!
「え?」
「え??」
太井教諭も部員達も。
吹っ飛んで転げた美晴を、信じられない者のように眺めるだけだった。
・・・・・
・・・・
・・・
(=^・^=)
「・・・それで?このたん瘤をこさえたの?」
ルマが呆れたように娘へ訊く。
「とほほ・・・面目ない」
頭に造ったたん瘤を、氷嚢で冷やす美晴。
「まったく。
多寡がデート位で舞い上がってるんじゃ、先が思いやられるわね」
「だ、だ、だって!あたしには史上最大級の重大事なんだよ!」
冷やかす母に喰いつく美晴。
「今迄男の子と二人っきりで待ち合わせたことなんて無いし。
どんな会話をしたらいいのかさえも皆目分からないんだからね」
「はぁ・・・手間暇のかかる子ねぇ」
半分涙目で実情を訴えて来る娘に対し、母は肩を竦めるだけ。
「いいこと美晴?
デートなんて、その場の雰囲気で流されれば良いだけなのよ。
お互いが好きな者同士なんだから、気を張るなんて必要ないんだから」
「そ、そ、そんなこと言っても。
初めてなんだから、どう振舞えば良いのかなんて分かんないよ」
緊張する必要は無いと言葉に含めたルマに対し、娘は更に錯乱して。
「マモル君との時は?
お父さんになる前のマモル君と、ルマお母さんとはどうだったの?」
母に対して教えを乞おうとした。
「私の時?マモルとの初デート?」
「そう!マモル君がどんなデートをやったのかを教えてよ」
真剣に教わろうとする娘に対し、母は当惑したように小首を傾げて。
「う~~~ん、あれがデートかは分からないけど。
確か、あれは終末戦争が終わった後だったわ・・・」
「ふむふむ!」
思い出話を繰り広げだす母に、娘は身を乗り出して聞き耳をたてる。
「マモルがね、私に用があるからって。
フェアリアの公園・・・美晴もよく遊びに行った広場よ。
そこに呼び出されちゃったのよね」
「うん、覚えてるよ。芝生が綺麗な広っぱだったよね、そこで?」
相槌を返す美晴に頷いた母が。
「マモルったら、私が遅れたのをずっと待っていたのよ。
1時間くらいも遅れたかな、でも、ずっと待ってくれていたわ」
「へぇ~、あの広っぱで・・・何もないのに良く待てたね・・・って」
話の端を折りかけた美晴が、母の視線に気が付いて口を閉ざす。
「マモルと私は幼馴染。
島田家がフェアリアに越して来た時からの付き合い。
いつも傍に居る関係だったから、デートだなんて思いもしなかった」
「そういう関係って、改めて恋愛に発展するものなの?」
幼馴染と聞かされた美晴が、自分とシキとの間柄に重ね合わせる。
「ほほぅ?じゃぁ此処に居る美晴は、どうやって生まれたのかしら?」
「あ・・・あはは。なるほど」
幼馴染だとしても、愛は育まれるのだと思い直して。
「それじゃぁ初デートってのは?」
本題に切り返すのを怠らなかった。
「デートって言うか・・・プロポーズだったのよ」
「ブッ!ぷ、プ、プ?!プロポーズぅッ?」
ぶっ飛んだ美晴が泡を喰って訊き返すと。
「そう・・・今にして思えば。
遅れたのを謝る私に、マモルったら。
指にリングを填めたのよ・・・薬指へ」
「にゃ?!ニャンと、直接的なッ!」
動揺する美晴に、母は薬指をたててみせる。
「そしてね、こうも言ったわ。
ボクと一緒に居てくれないか・・・ってね。
これからずっと、傍に居てくれないかって・・・」
「ほえぇええぇ~?」
美晴の頭の中に、シキとの約束が過った。
「もしかして、その言葉が・・・プロポーズだったの?」
「・・・他になにがあるって言うのよ、美晴は?」
ルマがさも当然の如く言い切るのを、美晴は冷や汗を垂らして聞き入っていた。
ー そうだったのかぁ・・・傍に居続けるってことは、結婚の誓いに等しいのかぁ・・・
呆然と約束を思い出して反芻する。
シキと交わした約束は、プロポ―ズにも等しかったのかと。
ぼんッ!
頭から湯気が噴きあがるように感じた。
ー ってことは。あたしってば、シキ君に結婚を申し込んだのかも?
よくよく考えれば違うのだが、錯綜した頭では違いが見つけられず。
「あわわ・・・どうしよう」
シキのことは大切だが、まだ17に過ぎない自分が結婚するなんて考えてもいなかった。
「ルマお母さんッ!あたし・・・大変な約束を交わしちゃったかも」
「はぁん?なにをやらかしたのよ美晴は?」
怪訝な表情で娘を見る母に。
「もしかしたら・・・初デートでマモル君と同じ事をされちゃうかも?!」
「もしも~し。美晴はまだ16でしょ。
私がプロポーズされたのは19の時なのよ」
婚約を迫られると早と珍した美晴へ釘を刺すルマ。
「それに、彼だって身を固めるには早い二十歳なんだし。
婚約するにしても婚礼までは日を伸ばす方が賢明だわよ」
「こ、こ、婚礼ぃーッ?}
で。面白半分揶揄うのは母の特権か?
「冗談よ美晴。
彼だってそれくらいの常識は・・・って?
あれ?どうしたの美晴?美晴??」
で。冗談が通じなかった美晴は・・・気絶してしまったようですが?
「ありゃまぁ・・・少々冗談が過ぎちゃったかな。
でもまぁ、私とマモルはそうして結ばれたのは間違いない事実だから」
リビングの長椅子へ、眼を廻した美晴を横にして。
「あの頃は・・・お互いに初心だったよね、マモル」
傍らに置かれたままの家族写真へと目を向けて。
「まだ・・・帰れないの?
もう直ぐ美晴も17になっちゃうんだよ?
理の女神と同じ歳になるんだからね・・・」
寂し気な横顔を写真の中に居る人へと投げかける。
「お義父様も・・・お義母様がどれだけお待ちになられているか。
早く・・・一日も早い帰還を・・・待っていますのよ」
少しだけ色褪せた写真の家族は5人。
まだ家族がバラバラになる前。
家族全員が揃って、13になった美晴の誕生日に撮られた写真。
「早く・・・幸せを取り戻したい。
嘗てミリアさんが求めていたのと同じように」
寂し気に。
辛そうに。
「美晴に事実が知られる前に・・・ねぇ、あなた」
美晴の肩を抱く写真の中に居る夫の姿に、想いを馳せるルマ。
「この子がどうやって生まれたのかを知られる前に。
お義母様が本当の訳を教えてしまわれない内に・・・帰って来てよ」
ソファーで眠る娘の髪を撫で、母であるフェアリアから帰化したルマは、翳りのある顔で写真へ呟くのだった・・・
面白半分に揶揄される損な娘。
初めてのデートが近付いてくるのですが?
どんどん粗が出始める魔砲少女美晴。
この調子ではお先真っ暗では?
いいえ!損な娘には味方が必要ですね?
次回 Act 5 始まる作戦?!
母は必要に迫られた。娘の失敗を防ぐために・・・って。何を??




