第2章 Act 1 魔法は誰のために
第2章は・・・
帝都学園に集う少女達の日常を描きます。
それに、美晴にとって忘れがたい日々をも描いてまいります。
と、言うのも?
月夜の晩・・・
現れ出た怪異の前で・・・
「ぐおおおぉっ?!」
少女の鉄拳が唸りを上げる。
「おら!おら!おら!」
魔法少女の拳が、闇から現れ出た魔物を打ち据えた。
「あたぃだって!いつまでも素人じゃないんやで!」
翠の髪を靡かせ、怪異と対峙するのは。
「魔拳少女のナックルミミが、魔を討ち祓ってやるんや!」
白い魔法衣姿の少女が、魔物に挑んでいる。
「おのれぇ!小娘如きがぁッ!」
素早く立ち回るミミに翻弄される魔物。
痛手を被ってはいないが、小馬鹿にしたようにパンチを受け続けている。
「捕まえて捻り潰してやるぞ!」
魔法少女の魔力を奪いに来た魔物。
だが、反対に叩かれ続けて怒り狂う。
「ぐるおおおおぉッ!」
掴みかかろうと腕を突き出し、吠えまくっているが。
「そんなんで捕まる訳も無いやろ~が!」
ひらりと体を避けるミミ。
「もう、此処までやで!
あたぃの必殺技で葬り去ってやるさかいにな!」
避けた足で、危害半径から飛び退いて。
「いくで!これがあたぃの必殺技・・・」
ぐるぐる右腕を振り回し始める。
「烈風牙!」
全力魔法を回転させた拳から放つ・・・魔砲の技。
「くたばりやがれぇ~ッ!」
金色の魔法陣が拳の前に展開され、その中心から魔法の旋風が噴き出す。
ドギュルルルルルーーーーッ
それは水平に撃ち出される<竜巻>にも似ているが。
「馬鹿なぁッ?!」
錐状の先端に捉えられれば、魔物は身体に穴を穿かれてしまう。
ドドドドドド!
しかも魔法の竜巻は、地上をも削り取る威力をみせる。
「ぎゃああぁッ!」
命中した必殺技で、さしもの怪異も堪らず滅びを与えられてしまう。
ビュルルルル・・・・
旋風が消えた後、怪異の姿は地上には残っていなかった。
ナックルミミの勝利!
「へん!あたぃが普通の女の子やと勘違いしたお前が悪いんやで!」
ヴィサインを掲げて勝利を宣言する魔法少女ナックルミミ。
「悪の栄えた例はないんや!」
高らかに勝利を謳う魔拳少女。
でも・・・いつの間に?
こんなに強くなった?
「これで10匹目やな。
あたぃの前に魔物が現れたんは」
10匹も?襲って来たのか?
「なぁ、銀ニャン?」
左の耳に着けている緑色のイヤリングに話しかけるミミ。
「「それは・・・お前が見境無しに魔物討伐をするからだろうが」」
銀ニャンと呼ばれる魔法猫が、呆れたように答える。
「そっかなぁ~?
あたぃの周りに、魔法少女がわんさか居るだけなんとちゃぅん?」
「「それは・・・学園が魔法少女の集う所だからだろうが」」
魔法科学を教育する学部があった。
当然のこと、そこへ通っているのは魔法を宿した少年少女達でもあるのだが。
「あたぃはミハルはんを超える魔法少女に成りたいだけなんやけど」
そこに編入して来たのは、月神 御美の希望。
そして・・・
「まぁ、あたぃの目標とティス様の目的が重なっただけ。
あたぃは最強の魔法少女に成る為。
ティス様からの依頼は、ミハルと呼ばれる女神を救援する事。
その為に、あたぃへ女神級の異能を授けてくれはったんやし」
「「そうだ。ティスの求めが最優先なんだぞ、ミミ」」
ミミに魔力を与えたのがティス。
魔法少女に成り、喪われた筈のミハルという女神を救援せよと命じられたのか。
「へぃへぃ~、分かっておりますよ銀ニャン」
頷いたミミが、魔法衣を解く。
「リバース」
白の魔法衣が光の塵となって消える。
瞬く間もない一瞬で、元の制服姿へと戻って。
「今日の処は部屋へ帰ろ」
魔法力を使った後だから、少々疲れたのか。
「部屋に戻ったら、甘い物を食べんと・・・やな」
甘い物?それはどう言った意味で?
「「そうそう。
お前が甘い物を食べるのは魔力の快復に効果があるからな」」
銀ニャンも促して。
「「私にも分けるんだぞ」」
「・・・そんなこと言って。ホントは銀ニャンが食べたいだけなんとちゃぅん?」
ミミがジト目になって呟く。
「「おっほん!気の所為だ」」
・・・怪しいな~
月の明かりに照らされた魔法少女が、学園付属の寄宿舎へと歩んで行く。
まるで何も無かったかのように・・・・
夜の静寂。
魔物が徘徊する世界だとは、一般の人には伏せられていた。
その存在を知っていたのは、一部の人間だけ。
魔法に拠って魔物と対峙している者だけ。
そう・・・闘う者だけが知っていた。
部屋でカーテン越しに月を見上げている・・・美晴。
「あれから・・・現れなくなったなぁ」
闇を倒せば宿った者が吸収し、夢魔の空間で襲われてしまった。
それも、あの日からはなりを潜めている。
夢魔の空間で、魔獣鬼ゲルベスクに襲われた日。
凶悪な魔獣鬼に冒される寸前のことだ。
窮地を救ってくれたのは、嘗て宿っていた堕ち神。
現、大魔王のデサイア。
魔王軍が美晴を救ってくれた、蒼ニャンの指示を受けて。
夢魔の空間で穢されそうになっていた美晴を救いに現れた・・・闇の者達が。
その王たる者は、優しげな瞳で見詰めてくれた。
「蒼ニャン・・・変わっていなかったなぁ」
二年前を最後に、逢っていなかった。
「大魔王だなんて言っても、前と変わらず優しいままだった」
闇に堕ち、対峙した時もあった。
だが、美晴によって聖なる心を取り戻し、大魔王に収まった後でも。
「約束を守ろうとしてくれている。
魔王になっても人の世界に干渉しないで・・・
あたしを姪っ子だって、未だに呼んでくれるんだね」
魔族を統率し、人に危害を加えようとはしていないのも。
人の中に美晴の存在があるからかもしれなかった。
「気にかけてくれていたし、心配もしてくれている。
あたしが呪われたままなのを悔やんでいるようだったから」
人間界と魔界。
嘗ての憑代である美晴を案じる大魔王デサイアが、最後に言い残した。
「あたしが17になったのなら。
夢魔が牙を剥いて襲って来る・・・」
右手に残された堕ち神の紋章。
呪いは消えず、虎視眈々と目的を果たそうとしているのだと教えられて。
「夢魔の空間では襲って来ないかもしれない。
なぜなら、闇の中では大魔王軍の救援が受けられるから」
もしも、夢魔の空間で対峙するような事になれば。
「そうだよね・・・黒騎士さん?」
机の上に載っている黒毛の縫いぐるみに語り掛ける。
「もしもの時には。
直ぐに蒼ニャンへ、知らせに飛ぶんだよね?」
漆黒の瞳を光らせる縫いぐるみ。
まるで魂が宿ったかのように頷く。
「そう・・・ありがとう。コハルちゃんのお友達」
美晴は黒騎士の事を覚えていた。
二年前の最終決戦を経て、神々の国へと帰って行った小春神の臣下だった者を。
「蒼ニャンがあたしへと贈ってくれた守護者。
あの日からずっと見張ってくれているから・・・夢魔も手を出して来ないのかな」
強力な闇の軍団を支配する大魔王デサイアが、美晴を護る為に寄越したのが黒騎士。
人間界では、縫いぐるみの姿形を採っているのだ。
「もう直ぐ・・・あたしの誕生日が来る。
その時、何が起きると言うのかな?
一体何が起きて、どうなると言うのかな?」
呪いを受け続けるのが終わるのか。
それとも、自分自身が終わりを迎えてしまうのか。
何も分かってはいなかったのだ・・・が。
「その日が来る迄は・・・精一杯生き続けようと思うの」
黒騎士縫いぐるみの傍に建ててある二年前に撮られた写真額を、微笑みを浮かべて見詰める。
「そうだよね・・・マリアちゃん?」
赤毛の少女が微笑んでいた・・・写真の中で。
「一緒だよね・・・シキ君」
銀髪の青年が笑いかけているように感じて。
「あたし・・・二人に誇れるように頑張るから」
愛する二人へ誓うのだった。
魔法少女は生きている。
今を・・・世界の中で・・・精一杯。
最強を目指すミミ。
ひたすらに生きる続けることを願うミハル。
二人の未来は?
二人の魔法少女。
各々の想い。
そして掛買いも無い日々。
美晴も御美も・・・この時代を生きているのですから・・・
次回 Act 2 学園での生活
美晴は心に秘めた想いを。ミミは相変わらず・・・・損な子でした!




