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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード 7 新たなる運命 新しき希望 第1章魔砲少女
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Act16 駆けろ美晴

戻ってきた・・・現実世界へと。

夢魔の空間から抜け出せた美晴。


直にでもシキを助けなければと焦るのだが・・・

夢魔の空間から、解放された。

危機一髪の処で救ってくれたのは、確かに闇の世界を支配する大魔王デサイアだったが。


「シキ君・・・ありがとう。

 今度はあたしの番だよ」


囚われた美晴を救ってくれたのは、デサイアの言った通りなら。


「闇に堕とすなんて、絶対にさせないから」


自己を顧みず、決死の想いで大魔王の許へ救援を頼みに行ってくれたシキを。


「あたしが防いで見せるから!」


失わないように。

繋ぎ止める為に。


そしてそれが。


「魔砲少女美晴の。

 ううん、シキ君が大切な美晴の願いだから」


夢魔の結界を抜ける時、魔法少女としてではなく、独りの女の子として願った。

大切な人を繋ぎ止めたいと。

いつまでも傍に寄り添いたい人を助けたいと・・・




意識が戻る。


身体の感覚が戻ってくる。

脚にも、指先にも。

そして・・・瞼にも。


「う・・・あ・・・」


薄く開けた瞼。

最初に視界に飛びこんで来たのは、気を失った時と同じロッカールームの天井だった。


「シ・・・シキ君?」


夢魔に囚われた時には、傍に居た筈だった。

手を取り合おうとしていたから。


「シキ君?どこなの?」


まだ、頭の中は痺れたように回転していない。

どうなってしまっているのかも把握できない。


次第に視力が回復し、ゆっくりとだが頭を動かす事も出来るようになる。


ロッカールームの天井からの明かりが、自分を照らしているのも分かる。

でも、呼んだ声に反応してくれる人影は、辺りには居ない。


「どこ?シキ君はどこへ?」


夢魔の結界に囚われた自分を置いて、どこへ行ったのか。

辺りには彼の影も、彼自身の姿も見えない。


現実へと戻って、直ぐにシキを助けようと思っていた美晴。

しかし、彼の存在は近くには無かった。

てっきり離れずに居るものとばかりと思い込んでいたのだが。


「どこへ?闇の扉を開いた後、どこへ行っちゃったの?」


直ぐに飛び起きようとしたのだが、夢魔の結界から抜け出せた身体は思いのほか重く怠かった。


「う・・・」


それでも、藻掻くように身体を起こして思い出した。


「そっか。

 あたしには聖なる魔力が殆ど残っていなかったんだっけ」


右手の紋章を見詰めて思い出した。

このロッカー室へ来た時には、歩くのもやっとな状態だったのを。


「穢れた翳りは無くなってるけど、紋章自体は消えていない。

 あたしに掛けられた呪いは、まだ残ったままなんだ」


デサイアが救ってはくれたが、呪いからは解放された訳では無かった。

それはデサイアが言っていた事とも繋がる。


大魔王デサイアが言ったのは、美晴が誕生日を迎えたなら夢魔が襲って来るだろうと。

17歳を迎えた暁には、奪いに来るだろうと。


「どうしてなのかは・・・その時になってみないと分からない。

 今はあたしの呪いなんかよりも、シキ君を助けなきゃいけないんだ」


未来への警告よりも、今成さねばならない事を優先したい。

今、やらねばならないのは、シキを闇に堕とさない、貶めない。

それには彼の居場所を知り、今直ぐに駆けつけなければ。


「闇への門がどこにあるのか。

 そこへ行くには、どうしたら良いのか」


痺れる身体を無理に立たせ、力の出ない足取りでロッカー室を後にした。


「はぁ・・・はぁ・・・」


壁に手を添え、ふらつく足取りで指揮所へと向かう。

もしかしたら、そこに彼が居るかも知れないと思って。


リボンを外したシャツ姿のままで、美晴は歩み続ける。

気を抜けば、今にも倒れ込みそうな程消耗し尽くした身体のままで。


後少しで指揮所へのエレベーターに辿り着く・・・その前に。




「ミハルっち?!今迄どこに居たノラ?」


魔法少女隊の制服を着たままのノーラと鉢合わせた。


「あ・・・っと。ノーラさん、シキ隊長を観なかった?」


肩で息を吐く姿を見せる美晴に、ノーラが手を出すのを思い留まり。


「シキなら、ミハルっちの方が知ってる筈じゃないノラか?」


戸惑う様に訊き返して来た。


「ミハルっちの様子が只事ではないって教えたら、すっとんで行ったノラぞ?」


「そっか・・・ノーラさんがシキ君に教えてくれていたんだ」


ノーラが気を効かせてシキに報告していたらしい。

美晴の身体に異変が起きているのを、隊長でもあるシキへと教えた様なのだ。


「それだから・・・ロッカーに来てくれたんだね」


魔物に毒された自分を、闇の異能で助けようと考えたらしい。


「教えたら、すっとんで行ったノラが。

 ミハルっちの所に行ったんじゃなかったノラか?」


「ううん、来てくれたよ・・・あたしの許まで」


美晴は右手をノーラから隠し、


「でも。気が付いた時には居なくなってたんだ」


自分の前から姿を消したのを滲ませて。


「どこへ行ったか知らないかな?

 シキ隊長がどこへ行ったかを観なかったかな?」


彼を探しているのだと訊いた。


「いや、見かけなかったノラ。

 基地内に居るのか、それとも外部へ出かけたのか。

 もしかしたら監視モニターで捉えられてるかも知れないノラが・・・」


美晴の勢いに呑まれたノーラが、考えあぐねて呟く。


「それにしても、シキが美晴を置いてどこかへ雲隠れするなんて。

 普段なら考えられないノラが・・・」


いつも美晴を想って行動するシキなのに、何故なのかと訝しむ。


「あ・・・それは。

 あたしに責任があるから」


ノーラにまで不審に思われたくないと咄嗟に考えた美晴が、


「きっとシキ隊長には、特別な訳があるんだと思うから」


闇に堕ちてしまうかもしれないシキを想って誤魔化したのだ。


「そうなノラか?

 まぁ、シキにも用事があったのかも知れないノラが・・・」


いかにもとってつけた嘘を見抜けぬノーラではない。

美晴の切迫した表情を観て、素直に納得できる訳も無かった。


ノーラは隊員服に取り付けられてある通話装置に手を伸ばすと。


「管理部、こちら魔鋼少女隊のノーラのら。

 今しがたシキ隊長を見かけなかったノラか?

 どちらに居るのか分からないノラか?」


基地内をモニターしている筈の管理部に伺いをたてるのだった。


「「魔鋼少女隊の隊長なら、つい10分ほど前に外部へと向かわれたみたいですけど?」」


管理部の女性担当官から、即座に回答がある。


「「どうやら市街地へ向かわれるみたいでしたが?」」


「市街地?ってことは基地から出て行ったノラか?!」


ノーラが訊き直している傍で、美晴は考えていた。

彼が何処へ向かったのか。なぜ基地から出て行ったのかを。


ー シキ君が向かうとしたら?

  闇のプリンスに戻るとすれば?

  どこで?どうやって?


過去を思い出し、自分ならどうしようとするかを考える。


ー もし、まだシキ君の中に光が残っているのなら。

  まだ完全に闇へと堕ちてはいないとしたら。

  誰にも迷惑をかけたくないと思うのなら・・・


闇へと堕ちて、周りの他人ひとに害を及ぼすのを懼れる?


ー 違う・・・そうじゃない。

  あたしだったら、大切な人に穢れた姿を見られたくないもの。

  闇に堕ちてしまうのを、見られたくは無いから・・・


闇へと堕ちてしまえば、大切な想いも約束だって繋ぎ止めれなくなる。

人に仇名す者へと堕ちてしまうのなら、大切な人にだけは見せたくはないから。


ー だとしたら?

  あたしなら・・・どこへ行く?

  もしもあたしがシキ君なら・・・思い出の場所を選ぶ筈!


シキが向かったとする場所とは?

未だに光を纏えているのだとすれば、最期に向かうのだとすれば何処なのか?


「基地から出て、そう遠くない場所。

 迫り来る闇に抗って、辿り着ける思い出の場所・・・」


考えて。

そして彼との出逢いを思い出して。


ー あたしなら。

  あそこしかない!


「分かった。

 あたし・・・行って来る!」


管理部と話し合っているノーラを余所に、美晴は一言だけ残して走り始める。


「え?!ちょ、ちょっと待つノラ?!」


行き先も告げずに離れて行く美晴へ、慌てたノーラが止めるのだが。


「ノーラさんはこのまま待機してて!

 隊長はあたしが連れ戻してくるからッ!」


振り向きもしないで美晴が頼んでくる。


「待つノラ!どこへ行くと言うノラ?!」


通話を切るのも忘れてノーラが叫ぶ。


「シキ君を!

 あたしのシキ君を助けに行くの!」


背中越しに美晴が応える。

必死の答えに、ノーラが察する。


「助けに?!よし、分かったノラ。往けミハルっち!」


ノーラには何もかも分かったみたい。

なぜかは知らないが、応援してやりたくなったのだろう。


「聞こえたノラか?!只今よりミハルっちを追跡するノラぞ!」


管理部へと応援を頼み、いざとなれば自分達も迎えるように計らうのだった。


「ミハルっちを守って。

 お前ならば、見過ごしてはいられない筈だろう、マリア」


胸に納めてある写真へ手を伸ばし、ノーラは親友へと頼んでいた。


「二人の仲を認めるのなら・・・ノラな」


美晴を想う、親友として。

二人を想う、愛すべき友へ託して。






「はぁッ!はぁッ!」


聖なる魔力は底を尽いてはいた。

だが、掛替えも無い人を想う心は無限の力を顕した。

どこに走り続けれる力が残されているのだろう。

一体何故、彼の許へと走れるのか。


それが愛の力なのだと、美晴でも分かり得なかっただろう。


「シキ君!待っててシキ君!」


挿絵(By みてみん)


基地を飛び出た美晴が向かうのは。


「あの公園で。初めて逢ったあの場所で!」


まだ小学生だったあの日。

闇のプリンスとして現れたシキと出逢った。

聖なる魔法少女として、対峙した美晴。

幼い二人は、聖なる者と闇の者として相対し。

そして絆を繋ぎ、友達になった。


「あたしがシキ君の初めての友達。

 シキ君があたしの初めて出来た男友達。

 二人にとって、あそこは始まりの場所だから」


駆ける美晴は思い出に浸る。

幼き日に出逢えた奇跡を思い出して。


「シキ君が居てくれなければ。

 嘗ての大魔王にだって勝てなかった。

 何度も窮地を救ってくれた、いつもあたしを守ってくれてる。

 だから、今度は・・・今度こそは」


聖なる魔力が無かろうとも、闘えるだけの力が残されていなくても。


「どんなことをしたって。

 あたしの魔法力が失われたって。

 絶対にシキ君を闇になんて堕とさないんだから!」


シキが身を犠牲にして救おうとしたのなら、自分だって同じことをするだけ。

聖なる魔力を全て与えてでも、必ず取り戻そうと決めている。


「吸血で救えるのなら、あたしの血を全てあげる。 

 聖なる魔力が必要なら、残った力を全て捧げるから」


どんなことをしてでも、シキを助けようと誓っていた。


「あたしを欲しいのなら、何もかもあげたって良い。

 心だって、身体でも・・・なんだってあげても良いんだから」


必死。

でも、決死ではない。

なぜなら、二人は約束していたから。


「二人でこの世界を生き抜くって決めたもん。

 あたしだけが残ったって、全然意味がないんだよシキ君!」


目的の公園が見え始める。

そこにはきっと彼が居て、待ってくれていると信じて。


「もう直ぐだよ。

 あたしが行くまでち堪えていて!」


街灯が夜道を照らす中、少女は駆けた。

唯ひたすらに、奇跡を信じて。


今度は自分が起こす番だと。

消え去る光を、もう一度手にする為に。




幼き日を思い出し、駆け続ける美晴。

初めて出逢えた場所で。

二人が邂逅出来た奇跡の場所へ。


そこに彼が居るのだと信じて。

喩え目的地で待っているのが闇に堕ちてしまった彼だとしても。

救ってみせると心に秘めて・・・


次回 Act17 恋は奇跡を起こす

美晴の想いはシキへと届くのか?!

呪いを掛けられた王子の目を覚ませるのは、美女の清き想いだけ。

<美女と野獣>の如く、真実の愛だけが彼を救える・・・


次回!

恋を知った少女が。真実の恋に捧げます?!

美晴とシキ・・・初めて・・・恋を謳うのです!

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