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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード 7 新たなる運命 新しき希望 第1章魔砲少女
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Act14 魔獣鬼ゲルベスク

夢魔に毒される美晴。

絶望に苛まれ、死をも望んでしまうまでに・・・


一体誰が彼女を救える?

誰かが、彼女を繋ぎとめねばならない。


だが、彼女を狙う夢魔は・・・

ロッカールームで佇む美晴。

苦しみ藻掻き、焦燥に駆られた顔を顕わにして。


誰かが救えるのか?

誰が救えるというのか?



シャツ姿の少女が視線を落として佇んでいる。

開け放たれたロッカーには、愛刃が置かれたままだ。


まるで立ったまま眠ってしまったかのように身動ぎもしない。

唯、曇った瞳を右手へと向けて立ち尽くしている。


その右手の平には・・・



 スッ  っと。



誰かの手が美晴に差し出された。


「えっ?!」


不意に差し出された手が視界に入って、やっと美晴が気付く。


「シキ・・・君?!」


差し出して来た相手に気付き、美晴が名を呼んだ。

振り返った先に居る、幼馴染の青年の名を。


「辛いんだね、美晴?」


心配気な表情。

心から案じての声。


「え?・・・ううん」


でも、誤魔化そうと首を振ってみせる。


「嘘つけ。だったら頬の涙をどう説明するんだよ?」


真っ直ぐな瞳で質される。

誤魔化しようも無い事実を突きつけられる。

知らない間に、泣いてしまっていたのを分からせられてしまった。


「これは・・・ごめんなさい」


どうにも出来なくなり、認めてしまう。

普段なら、強がりの一つでも返す処なのに。


「少し、感傷に耽ってたの」


涙を拭おうと、右手を挙げかけて。

咄嗟にひっこめてしまう。

何故なら。


「隠したって駄目だ。俺だって分かっているさ」


右手の紋章が穢れたままなのを知られたくなかった・・・けど。


「それに、今の美晴からは聖なる魔力を殆ど感じられないから」


紅く輝くシキの瞳。

闇の属性を放つ、紅い瞳で見詰められて。


「バレちゃってるんだね、何もかも」


隠していた右手を左手で押さえる。


「まぁそんなとこ。

 言っただろ、俺が美晴を護るからって」


隠している右手を差し出せと促す様に、シキの手が伸びて。


「直ぐに闇の魔法で。

 美晴の紋章が取り込んだ奴を抜き取るから」


おずおずと差し出して来る美晴の右手に重ね合わせようとした。



 ドクンッ!



「あッ?!あぅッ?」


シキの手の平が重なろうとした瞬間。


「やッ?!だ!」


美晴に異変が襲う。


「シ、シキ・・・君・・・」


声が失われていく感覚に襲われ、差し出した手がシキの手を取れずに。


「美晴?美晴ッ?!」



 ドサッ!


意識を喪失してしまった美晴が、倒れ込むのをシキが抱き留めて。


「しっかりするんだ美晴!」


穢れた紋章に目を向ける。


「まさか・・・これは?!」


眉を顰め、観てしまった紋章に表されているのは。


「しまった!美晴ッ?!美晴ッ!」


赤黒い靄を放ち続けている穢れた魔物が、宿ってしまっているのが分ってしまった。





自分をシキが呼んでいる声が、どこか遠くからに思えた。

今しがた目の前に居たというのに。


「う・・・あたし・・・どうし・・・」


周り中が赤黒い。

眼に飛びこんでくる光景を観て、


「あ・・・嘘?!」


強制的に取り込まれてしまった。

眠ってもいなかったのに、引きずり込まれてしまった。


「そんな・・・どうして?」


訳も分からず、周りから襲って来る悪意を感じ取る。

蠢く邪気。渦巻く悪意。そして・・・


 ズンッ!ズシンッ!


暗闇の中から何か重い音が近寄って来るのが分かる。


「ぐるるる・・・」


ケダモノの唸りと共に。


「俺を滅ぼしたと思ったか、小娘風情が」


黒い塊が姿を現す。


「闇の中ならば、実体化できるのを知らんのか?」


人の背丈を遥かに超越した巨躯。


「機械の中へ俺を閉じ込めた奴は、お前を余程憎んでいるのだろう」


黒い剛毛に覆われた身体。

大きく突き出された3つの頭。

長く伸びる3本の尻尾。


「この魔獣鬼ダークホラーゲルベスクを送り込んだのだからな」


美晴の前に現れたのは、地の底に住まう魔獣。

3つの頭を持ち、巨体を揺るがす魔物の姿。


よく言われるケルベロスとも違い、悍ましさは別格の魔物だった。


 ズシンッ!


前足が結界の地を踏み込むと、そこから穢れた触手が生えて来る。


 ズシャッ!


もう片方の足が地を掻くと、そこから小鬼コボルドが頭を覗かせる。


「小娘よ、覚悟するが良い。

 俺の責めは生半可では済まぬ。

 死を遥かに超越した辛苦を与えてやろう」


真ん中の馬頭が覚悟を仄めかす。


「聖なる魔力を喰らい尽した後は。俺の贄と成るのだ」


右の狗頭が生贄へと貶めると宣言する。


「俺の責めを受け続け、苗床と化すが良い」


左の豚頭がどんな酷い目に遭わせるのかを知らせて来る。


「魔物を産み続ける苗床に。

 俺達の子を孕み続けるだけの苗床に・・・な」


下衆な嗤いを浮かべるゲルベスク。

キメラのような3つの頭から、美晴に何が行われようとしているのかを知らされてしまった。

もしも、誰からの救援も受けられないのなら。

もしも聖なる魔力を奪い去られてしまえば。


「そんなの・・・死んだ方がましよ」


ポツリと声に出して抗おうとした。

でも、ここでは誰の助けも受けられない場所なのを知らない筈も無かった。

しかも、聖なる魔力は殆ど回復出来ていないのも、分かっていたから。


「いっそのこと、一思いに・・・」


挿絵(By みてみん)


死んでしまおうと。

いっそのこと殺して・・・と。


「化け物の子を産まされるくらいなら。

 死んだ方が良い・・・死んだ方が・・・」


魔物の子を孕まされる・・・その事に、恐怖を超えた悍ましさを感じ。


「本当に犯されてしまうくらいなら・・・舌を噛み切ってでも死んでやる」


魔獣を前にして、覚悟を決めた。


「あたしの初めてを捧げるのはお前なんかじゃない!

 魔物なんかに屈してしまうくらいなら、今直ぐに死んでやるんだから!」


叫んだ美晴が、口を開いて舌を噛み切ろうとした・・・



ー 諦めてはいけない・・・諦めるのはまだ早過ぎる ー


自分の想いなのか。それとも誰かの声が止めたのか。


開けた口が閉じることは無かった。



 じゅるるッ!



「愚か者め!自死など赦す訳が無かろうが」


下衆な嗤いを浮かべる馬頭。


「活きの良い娘だ、苦しめ甲斐があろうというものよ」


歪に口を歪める狗頭。


「そ~れそれ!邪気を孕んだ触手を噛み締めるが良い」


汚らわしい言葉を吐く豚頭。


閉じることの無かった美晴の口に、触手が潜り込んでいた。

舌を噛み切る事も出来なくなった無垢の少女は、口惜しさと恥辱に涙を浮かべる。

身体を触手に絡め捕られ、闇の底から這いだして来た無数の小鬼コボルドに群がられて。


「うんぐぅ~~~ッ?!」


小鬼達の薄汚い目に冒され、ゲルベスクの眼にも犯されて。


「そろそろ頂くとするか」

「聖なる魔力を喰らってやろう」

「いや、直ぐに弄ってやろう」


同時に吐かれた言葉にさえも。


ー 悔しい。情けないよ。どうしてなの? ー


苛まされ続けた2年間を想い。


ー なぜ?あたしだけがこんな酷い目に遭わなきゃならないの? ー


耐え忍んで来た辛さや苦しさを想い。


― なぜ・・・あたしは産まれて来ちゃったの? ー


魔砲少女としての宿命までも・・・呪って。



「ぐるるおおおおぉッ!」


魔獣鬼ダークホラーの雄叫びが魂までも貶める。


 ずる・・・ずるずるずる・・・ずじゅる


伸し掛かって来る巨躯。

突き出される侵蝕器官。


 ずるる・・・ぐにゅるる・・・ぐりゅ


今迄観たことも無いグロテスクで野太い器官。

しかも、一本ではない。


 ずにゅるる・・・ずりゅりゅぅ・・・


伸びて来た美晴の腕ほども有る太さの器官は、なんと5本もあったのだ。


「ひッ?!うむぅーーーーーーッ!」


口を塞がれた状態でも叫んでしまう。

こんなに太い侵蝕器官に冒されたら、一本であろうとも直ぐに奪い尽されそうなのに5本も迫って来たからだ。


ー やめて!そんなの、無理ぃッ! ー


死ぬ事よりも怖いと思えるほどの悍ましさ。

死ぬ方がましだと、心の底から思えるほどの汚らわしさ。


ー 助けて!誰か!誰かぁーッ! ー


魔砲少女は、生まれて初めて真の恐怖を知った。

魔力を奪われるのも、身体を弄ばれてしまうのにも。

そして、それが永遠に続いてしまう・・・永劫の責め苦に恐怖したのだ。



闇の底には輝は届かない・・・


夢魔の結界には、聖なる光は差し込めないのだから・・・




 ずにゅるるるるるぅ・・・




伸びて来た野太い管が・・・停まる。



「「諦めるんじゃない・・・そう言ったのは、あなたでしょ」」



魔獣鬼の侵食器官が触れる前。


「「闇の中なら。闇の力を頼っても良いんじゃなくて?」」


恐怖に圧し潰されそうになっていた美晴の耳に、誰かが呼びかける。


ー 誰?あたしを呼んでいる? ー


「「彼が教えてくれなきゃ、危ない処だったわよ・・・姪っ子」」


ー あたしを姪っ子って・・・呼んだ? ー


「「二年間も。良くぞ耐えたわ、それでこその<私>が見込んだよね」」


ー 見込んだ・・・娘?って。

  まさか?まさか?!   ー



夢魔の結界に紅紫の輝が差し込む。

穢れた空間に、一陣の風が吹く。


「「そこを退きなさい!下衆共よ!」」


 ドシュンッ!


風が鎌首を擡げるように薙ぎ払った。


 ヅシャ!グシャッ!!


小鬼と触手が粉々になって吹飛ぶ。


薙いだ風が魔獣鬼の侵食器官をも断ち切った。


「ぐぅおおおおおぉ?!」


驚愕の咆哮が3つ頭から流れ出して。


「何奴だ?!俺がゲルベスクだと知っての狼藉か?!」


馬頭が吠えた・・・時。


「「なぁ~んだ。ケルベロスかと思えば、キメラモドキだったようね」」


赤紫の光を纏った人の姿が現れる。


「「私の姪っ子に、ちょっかいを出すなんて・・・万死に値するわよ」」


赤紫色の光を纏い、万を数える軍勢を率いた人の姿が。


「なっ?!キサマは・・・」


ゲルベスクは漸く悟った。

否、既に遅きに失していたのだが。


紫に染められた魔王の衣装に身を包み、聖なる瞳で邪悪を睨む。

邪なる心を打ち捨て、聖なる光をも手に出来た女神と等しい異能を誇る者。


揺蕩う紫の髪。

凛とした顏に浮かぶ、優し気な目。


「愚か者はお前の方でしょ。私の怒りが分からないのなら消し去ってやるわ」


美晴を観る瞳は温情に溢れ。

片や魔物を睨む目は阿修羅の如き。


挿絵(By みてみん)


「赤紫の大魔王である私が。

 デサイアが始末してやると言ったのよ!」


凛とした声。


その姿は、嘗て美晴に宿っていた堕ち女神デサイアに他ならなかった。


ー 蒼ニャン?! ー


美晴の脳裏に、懐かしい思い出が蘇った。

そしてそれと共に、恐怖に打ちのめされていた心にも光が差し込んだのだ。

夢魔の空間に赤き光が燈る。

穢れた魔獣鬼の前に、風前の灯だった美晴に。


彼女の声が届く。


そう!

あの・・・蒼ニャンが!


挿絵(By みてみん)


・・・なつかしいW

物語の中では2年前のこと。

前作である<魔鋼少女<マギメタガール>ミハル・Shining!>で。

堕ち神だったデサイアは美晴に宿っていたのです。

時に厳しく、時に優しく。

本当の魔法少女へと成れる様に導いてもくれたのでしたが。

全てが美晴を貶めるための策略だったのでした。

そして・・・

最終決戦の後、デサイアは大魔王へと成るのを認め、罪を償うと美晴に告げました。

人間界とは離別した魔界で。

罪を償い、穢れを祓った後、もう一度美晴の前に現れるつもりだったのです。

神として、守り神になって。


蒼ニャンは約束を果たす為に、人間界には不干渉を貫いていました。

その為に、美晴の危急も知らずにいたのでしたが・・・・


デサイアはなぜ、今になって現れたのか?

その理由は?


次回 Act15 蒼ニャン!その名はデサイア

大魔王に率いられた魔王軍。穢れたゲルベスクを葬れ!

嘗ての守り神に戻ったかのような蒼ニャンは美晴に微笑む。

そして、魔砲少女は・・・人のあいに気付くのです!


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