Act 7 殲魔の魔女
闇との闘い・・・
魔法が世界に蘇った後、闇から出でる魔物が存在した。
そして翳りの中から現れる怪異と、戦い続ける者も。
魔法を操り、闇を討つ・・・魔法少女。
彼女等の戦いは続いていた。
何も知らない人々を護る為、
魔砲の少女は夜闇の中を駆けて行く!
下校のチャイムが鳴り、放送部からの下校を促すアナウンスが流れる。
「良いわね、魔法が使えるからって校内では行使してはいけないのよ」
「へぇ~~~いぃ」
職員室から大貫教諭の声が追って来ると、生返事で応えるのは。
「見つけたら、即、謹慎処分にしますからね。1学年の月神御美さん!」
「うぇえええ~~~~いぃ」
2学期の中盤に転入して来た月神という1年生。
黒髪が緑にも見える不思議な髪色の少女。
「はぁ~~~~引っ張られたわぁ~」
クドクドとお小言を告げられ、さすがの決闘少女もげんなりとしていたが。
「でも。ミハルはんが居たのは間違いない」
見つけた決闘相手が、目的の人物に相違ないと確信して。
「女神はんが言ってた通りや」
ニヤリと危ない笑みを浮かべてから・・・
「絶対に目的を完遂してやるんや。
その為に、帝都学園に転入出来たんやし。
あたぃも魔法少女だって、証明出来るんやからな」
力一杯、拳を握り締めてポーズを決めていた。
・・・なんだか、面倒な娘みたいですね。
「ミハルっち。また明日ね」
「明日は部に顔を出してくださいね、先輩!」
校門を出る時、部の仲間達が声をかけてくれる。
「うん、じゃぁまたね」
気軽く手を上げて部員達に頷き、鞄と剣を持って別れる。
何気ない日常の一コマ。
それは、学園生活を送る少女がみせる表の顏。
帰宅の道を歩む内、少女の顏は次第に険しくなっていく。
「また・・・夜が来ちゃった・・・また・・・」
歩むスピードが段々と早くなる。
そしていつの間にか駆け出し、そこへ向けて走っていた。
「見つけた・・・また・・・現れようとしてる」
走るスピードが増し、
「いけないッ?!もう・・・着替えるのも間に合わない!」
乱れた前髪を直そうともしないで。
「邪気が迫っている・・・みんなに知らせる暇さえない!」
真一文字に感じられた闇へと向かって駆けて行った。
そこは星明りさえ届かないビルの谷間。
昼でも暗い翳の中。
どうしてそんな場所に行く気になったのか。
なぜ、必要もないのに立ち入ってしまったのか。
引き込まれた訳は・・・声が呼んだから。
「誰・・・なんです?私を呼んだのは?」
おさげ髪の少女が谷間の奥へ向かって訊いた。
「私にどうして欲しいって言うんです?
なぜ助けてって言ったの?」
学園の帰り道、このビルの間から悲痛な声が聴こえた。
だから少女は、誰とも知らない人を案じて踏み込んだようなのだが。
「「助けて・・・くれよぉ・・・腹が減ってるんだよぉ」」
悍ましい声が少女へと向けられて。
「「魔力が・・・欲しいんだよぉ」」
獲物を捉えた悪鬼が・・・
ズワワワワワァッ!
黒い異形の身体を少女の前に現した!
「ひ・・・ぃ?!」
おさげ髪の少女の眼は、黒い塊を映し出す。
赤黒い眼・・・真っ黒な毛で覆われた・・・異形の者を。
「「娘よ、我等に魔力を差し出せ」」
覆い被さって来る魔物に、少女は固まったように動けなくなる。
「わ、我等って?・・・ひぃッ?!」
暗がりの中から現れたのは、一つの異形だけでは無かった。
暗闇の中には、赤黒い光が4つ・・・・
「「我等と同道するか?それともこの場で奪われるか、選ぶが良い」」
奪うと告げたのは、魔力だけに留まらないことぐらい少女にも分る。
抵抗すれば、命の保証などないってことぐらい。
「い、嫌ぁ・・・たす・・・助けて」
人助けの為に暗がりへと迷い込んだ無垢の少女に怪異が迫る。
純な心を持った少女に危機が迫る。
「「さぁ・・・どっちだ?」」
魔物は決断を要求し、獲物へにじり寄ろうとした。
斬ッ!
強烈なる斬波が、魔物を一閃した。
「そこまでよ!闇の異形種」
谷間の入り口で、危機に瀕した少女に救いの手を差し伸べるのは。
「魔砲少女ミハルが闇を斬るッ!」
学園の女生徒が刃を突きつけていた。
「「人間か?魔法を持つ者に相違ない」」
「「ならば・・・その娘も」」
陰に居る魔物がおさげ髪の少女よりも立ち向かった者へ興味を示した。
「人間・・・か。
あたしだって人であり続けたい。
でも、お前達を赦してはおけない理由があるのよ!」
外からの明かりに背後から照らされた少女。
「あたしをこんな身体にした奴等を・・・赦せないのよ!」
左目は聖なる蒼。
「あたしは・・・一度殺された・・・お前等の仲間に!」
前髪の間から漏れる右目は・・・
「黄泉帰り者にされた・・・恨みを晴らしてやるから!」
真っ赤に滾る、復讐者の瞳。
「「闇・・・おまえは闇の者なのか?」」
「「我等の同族・・・なぜ邪魔をする?!」」
魔物は魔砲少女に質した。
同じ闇の異能を持つ者が、なぜ妨害するのかと。
「あたしは・・・あたしには。
お前達と同じ異能を操る事が出来る。
だけど、まだ。
まだ・・・あたしは光と闇を抱けるんだから!」
左の瞳が訴える。
聖なる光は失って居ないと。聖なる異能を使えるからと。
「「光も闇も・・・ならば、半端者には消え去って貰うのみ!」」
「「邪魔者は排除するのみ!」」
翳が増幅し、魔物が魔砲少女へと敵意を剥き出しにした。
「君、後ろに下がりなさい」
襲われていた少女へ向けて、
「そして・・・何もかも忘れなさい」
魔砲少女は右手の蒼く光る珠をかざした。
ポワァアアアァ~
蒼い珠から、霧のような光が溢れておさげ髪の少女に降り注ぐ。
「え・・・あ・・・あぅ」
途端に少女が意識を失って倒れ込むのを。
トサ・・・
走り込んで来た魔法少女が受け止めて。
「忘れて・・・そして眠りなさい」
そっとビルの壁へと凭れかけて。
「あたしが奴等を滅ぼしてやるから」
凛とした左目で少女へ言い聞かせる。
「観なくていいから・・・あたしが闘う処なんて」
右の紅い瞳で仇を見据えて。
ざぅッ!
黒髪が揺蕩う。
「邪なる者よ。
あたしの呪いを知ってるか?
あたしに掛けられた呪いを晴らせるか?」
紅き剣が真っ赤に染まる。
「死ぬ苦しみ・・・生き返る辛さ。
悶える心・・・堪える辛さ・・・それに」
真っ赤な瞳が魔物を捉え続けて。
「堕ち神に宿られ苛まれ。
何時果てるとも分からない陰我に翻弄される。
現界したお前等を消し去っても、闇の中では弄ばれる。
あたしは・・・輝も希望も奪われかけた・・・」
強大な魔力を剣へと与えて。
「あたしを・・・殺した闇を赦せない。
貶めた奴等を・・・殲滅する、魔女と成った。
だから、あたしは!」
ギュゥイイィンッ!
剣の先に赤黒き光が蜷局を巻き・・・
「殲の魔砲使い・・・あたしは、殲魔の魔女!」
ドゴォオオオオオォッ!
猛烈な魔力の奔流が、二体の魔物目掛けて撃ち出された。
「「馬鹿なッ?!」」
「「これは・・・魔王と同じ・・・闇の波動?!」」
真っ赤な殲滅の光が渦となって魔物を飲み込む。
闇の世界へ逃げ帰ることすら出来ず、魔物は一瞬で溶かされて逝く。
「「ぎゃあああああああああああ」」
「「グギャァッ?!」」
断末魔・・・正に。
一撃で魔物達は消し飛ばされた。
唯の一撃で・・・殲滅された。
光の奔流が闇へと消えた後。
「フフフ・・・あはは。
また、闇証にストックされちゃえ・・・」
殲魔の魔女と名乗った少女が右手を突きつける。
手の平を消え去った魔物へ突きつけて。
ビュゥルゥゥ~
滅び去った魔物の残留思念が、翳された右手へ吸い込まれ。
「フフフ・・・今夜もまた。弄ばれちゃえ」
誰かへ向けて嘲笑った。
魔物は消え、邪気も消え。
辺りは何も無かったかのように鎮まった。
「・・・はれぇ?魔物は?あたしは?」
剣を収めた瞬間、魔砲少女が眼を覚ます。
「あれ?襲われてた子は・・・あ。大丈夫そう」
横たわった少女は、何も無かったかのように眠っているだけ。
「ちょっと、起きてよね」
何が起きてこうなったのかは・・・誰に聞かされなくても分っていた。
これからどうすべきなのかも、過去のことから教えられていた。
「早くしないと・・・始っちゃう」
おさげ髪の少女に肩を廻し、ビルの谷間から引っ張り出して。
「ここなら。誰かが見つけてくれるから・・・大丈夫だよね?」
眼を開けないおさげ髪の少女を、ビルの表に凭れさせて。
「あたし・・・帰らなきゃいけないから」
スッと立ち上がって断りを告げて。
「それじゃぁ・・・これからは闇に気を付けてね」
足早に、元来た方角へ走り出した。
悪意の闇を打ち倒した少女は、何かに急かれたように走り去る。
「やっぱり・・・な。
女神はんの言うとった通りみたいやな」
走り去る美晴を見詰めていた。
そこで何が起きたのかも分かっていた。
「あたぃの時とは違うけど。
やっぱりミハルはんは鬼退治を繰り返しとるんやな」
おさげ髪の少女が眠っているビルの向かい側。
電柱の陰から密かに見張っていた御美が姿をみせて。
「せやから・・・魔砲少女ってのに、ならなあかんのや」
にやりと唇を歪めて嗤っていた。
意識を奪われつつも魔物を倒した!
しかし、美晴は何かに怯えるように帰宅を急ぐ。
一体何が美晴を急かすのか?
何に怯えるのだろう?
夜道を駆ける少女に迫るのは?!
次回 Act 8 夢魔 悪虐の獣
寝たら・・・眠ってしまえば・・・奴らが襲ってくる・・・
次回は美晴が夢魔に冒されるシーンがございます。軽いリョナ成分が含まれているのをご理解くださいませ。(なろう版に併せてカットした部分がございます)




