Act 5 傍迷惑娘
魔法が存在し、魔物が闇から現れる。
普通の人なら信じ難いだろう。
何も知らなければ、御伽噺ではないかと言うかもしれない。
だが、魔法少女が実在し、闇の魔物も存在した。
それは、まだ謎多き世界の一部に過ぎないのだが・・・
時は・・・世界歴21年。
終末戦争を生き延びた人類が新たに造った暦に、早くも20年以上が刻まれていた。
邪神との戦争における被害も、この頃になると散見出来なくなる程にも復興が進んだ。
日ノ本国の都である<京>も高層ビルが建ち並び、インフラ整備も急ピッチで進められていた。
人々は発展を遂げる都市の中で、明るい未来が続くものだと信じ切って暮らしていた。
若人は未来に希望を描き、将来を見据えた勉学に励んでいたのだ。
最早、二度と悲惨な戦争などが起きる筈が無いと・・・
自分達が戦場へと駆り出されるなんて、在る訳が無いと信じ込んで。
都の市中、中心部から北へ5キロに位置する帝都学園。
夏季休暇を終え、夏の盛りが終わった初秋。
二学期の中間試験を終えた高等部2学年生の教室で・・・
「うにゃ~~」
げっそりした顏で机に突っ伏しているのは。
「なんだよノーラ姉、また居残り勉強会かよ?」
「うるひゃぃッ、ローラ。<また>は余計だノラ!」
突っ伏すノーラに、ローラが揶揄う。
緑黒毛の髪を右テールに結っているノーラと、黒緑髪で癖っ毛でショートカットのローラ。
日ノ本人とは思えない名前だが?
「にゃんで同じ姉弟なのに、男女のローラだけ優等生にゃノラ!」
「姉弟は関係ないだろノーラ姉。
それに・・・ボクが女の子になったのは姉さんにも原因があるだろ~が」
・・・あ、いや。日の本人なのかが伺いたかったのですけど?
そう言えば、二人共が女生徒の制服を着ていますね?
「ボクが女の子になってしまったのは、ノーラ姉が邪悪に加担してたからじゃないか。
母さんとノーラ姉を救い出す為に、ボクは・・・この姿のままを選択したんだぞ!」
ふむ・・・過去に何かがあって?
「ひゃっははっ!誰が頼んだって言うノラか?
ローラが勝手に変移の魔法でこうなったのが正直なところだノラ!」
魔法・・・使っちゃったんですか?
「あー?!そういうこと言う訳?
だったらもぅ、宿題なんて手伝ってあげないからな!」
「なッ?!そ、そ、そんな汚い手を使う気なノラか?!」
姉弟喧嘩は・・・仲の良い証拠なのか・・・どうでしょう?
ぎゃ~すか、ぷんすか。二人は暫く言い争ってましたが。
「時に、ローラ君。
アヤツはどこへフけたノラ?」
周りを見回したノーラが、誰かを指して訊く。
「ああ、さっき。廊下に出て行ったよ」
ローラ君が指しているノーラの指先を廊下へと向け直して答えます。
「きっと、クラブへ顔を出しに行ったんでしょ」
「ほほぅ?!このノーラ様が居残りになったのに・・・ノラか?」
額に手を添えたローラ君がポツリと溢します。
「関係ないでしょ、居残るのはノーラ姉の自爆なんだし」
でも、ノーラさんは聞き流して言うのです。
「剣舞着に着替えるのなら、このローラ様が見分しなければニャらんノラぞ!」
「・・・(*´Д`)」
呆れ顔になるローラ君。
「この夏、どれだけ成長したのかを・・・ポヨンが進化したかを~ノラ!」
「・・・(*´Д`)」
いや・・・あのね?
「中学の時はブラの必要も無かった損な娘が!
高校に入った途端に急成長しよって!
今ではDカップを超える勢いで育っているノラぞぉおおおおぉッ!」
「・・・・・・( ゜Д゜)ハァ?」
・・・そうなのですか。
「ぽよん娘ニャンて赦せんッ!
しっかとこの目で見届けなくてはならんノラっ!」
「昨日も見てただろ・・・しっかり」
ポツリと溢すノーラ君。
「・・・だから、ミハルを追いかけるノラ!」
「逃げ出す口実になってないよノーラ姉」
駄目出しを返されたノーラが固まる。
「ノーラ姉は、しっかりと補習授業を受けてね」
「嫌ニャァ~っ、助けるノラ!」
で。
「はい、そういう事で。キチンと席に座っておいてよノーラ姉」
ノーラの襟首を持ったローラ君が席に置く。
「しくしく・・・ノラ」
哀れ、魔法盗賊ノーラさんは補習授業に捕まったようですW
「はぁ、姉弟とは言え・・・疲れる姉貴だなぁ。
そうだよね、剣舞部のエース・・・ミハルさん」
呆れ果てた様な顔をして、姉を窘めたローラ。
フッと、廊下へと出て行ったクラスメイトへ顔を向けると、
「ねぇ・・・新しいボク達の仲間」
意味深な微笑みを、廊下へと向け続けるのだった。
帝都学園には普通科と魔法科学部とが併設されていた。
全国から選りすぐられた魔法使いの卵達が入学し、
後の世の為、人の為になる魔法についてを学ぶ場所。
一般科目は勿論、特殊な化学をも修め、特別な授業を受ける。
その中でも、高度に秘密を要する技術の開発も、極一部の生徒に課せられていた。
特に強力な魔法力を保持していた者へ、優れた属性を持つ者に与えられていたのは。
「あ、島田先輩!今日も部へ出られますか?」
1年生が走り寄って伺って来る。
「ごめん。今日は先生からの頼まれごとがあって・・・ね」
「そ~なんですかぁ。剣を携えておられるから・・・てっきり」
部には出られないと答えると、後輩が質して来る。
「部に、剣舞部に行かれると思って・・・」
「あはは。
この赤鞘はアタシの分身だからね。いつも持っていないといけないから」
剣を収めた袋を下げて、苦笑いを浮かべて応えると。
「早めに用事が終わったら、部にも顔を出すから」
足早に下級生の前から立ち去る。
黒髪を左髪だけ紅いリボンで結い上げる、凛とした姿を見送った後輩が。
「待ってますから!島田先輩の剣舞を見せてくださいね」
流れるように靡く黒髪を見詰めて、うっとりとした表情で見送る。
右手を軽く上げて応えた後ろ姿を。
それほど身長は高くはない。160センチには届かないだろう。
長い黒髪は、どこか青味を感じさせる。
凛とした逆卵型の顏には、青味を帯びる瞳。整った眉に愛らしくも思える鼻と唇。白い肌にほんのりと差した朱色の頬。
「島田先輩ってば、モノホンの美少女剣士なんだよねぇ~」
後輩が廊下の角を曲がるまで見とれて呟く。
「あれで彼氏が居ないとか・・・無いわぁ~」
噂では、彼氏のような男の存在が広まってもいたが。
「もしかして・・・百合族なのかなぁ?」
聞いた話では、遠くの国に彼女らしい人が居るとかいないとか。
「島田先輩だったら・・・食べられちゃっても良いんだけどなぁ」
部の後輩が良からぬ事を呟いていたが、本当に百合族なのだろうか。
「まぁ、先輩のことだから。相手になんてして貰えないだろうけど」
女生徒に極めて人気が高いみたい。
「だって、島田先輩は・・・勇者の名を継いだ魔鋼少女だもんね」
魔鋼?魔鋼の少女?
それは一体?
「はぁ・・・まただよ。
誰かの憧れになんて成れないって言ってるのに」
剣を携えた黒髪の少女が愚痴ている。
「あたしなんて、伯母ちゃんの足元にさえ及ばないんだから」
少しだけ俯き、ちょっとだけ羨ましく想って。
「理の女神になんて、成れる訳も、成りたくも無いんだから」
叔母の存在が、あまりにも偉大で。あまりにも縁が遠い存在だと思って。
「あたしは生きているのが精一杯なんだから。
今こうして生きられているのが奇跡なんだから」
そっと蒼き珠を装飾したブレスレットを観て。
「だって・・・一度は死んじゃったんだから・・・あの日に」
そして、右手の平を見詰める。
「そうでしょ・・・美春伯母さん」
手の平に浮かび上がる崩壊太陽の紋章。
少女の手に浮かび上がっているのは、憑いた者を指す証。
「いつになれば・・・消えるんだろう」
痣を見詰めて、呟いてしまう。
紋章が意味するのは何なのかを。
なぜ痣は現れ、どうすれば消えるのかを。
「はぁ・・・」
考える度に溜息が出る。
想いを巡らせても答えが返って来る訳でもないから。
剣を携えたまま、廊下の突き当たりにある宿直室へ入ろうとした時だった。
「みぃ~つぅ~けぇ~たぁ~でぇ~!」
大声が背後から追っかけて来た。
「やぁ~っとぉ~逢えたんやぁ~!」
どたどたどた・・・と、廊下を走って来る足音。
「勝負やぁ~!あたぃとぉ~っ、勝負したってぇ~なぁ~!」
そして独特のお国訛りが背後迄迫って。
「このあたぃとッ!
月神 御美とぉ~勝負してぇ~なぁッ!」
黒緑髪をポニーに結った娘が、いきなり勝負しろと吠えたてて来たのだ。
月神 御美が現れた!
どうする美晴?闘うのか?逃げるのか?
あの晩に出逢った二人が、こうも早く再会するとは?!
と、いいますか。
ミミは美晴を追い求めて現れたのか?
では、なぜ勝負を挑んできたのでしょう?
謎ですね!
次回 Act 6 翳
悲しい過去を背負った娘。運命に弄ばれる子には、誰かの助けが必要です。




