Act1 美晴<ミハル>
邪神と人類の終末戦争の末。
人々は戦争からの復興を遂げていた。
一時は失われた魔法だったが、再び人類の許に預けられていた。
それはあたかも、新たなる運命を啓示しているかのようだった。
そして、この子も・・・
サード・ブレイク。
三度目の終焉が人類を襲った。
破滅の閃光が空を覆った・・・世界の終焉が訪れた・・・かと思えた。
だが、世界は終わらなかった。
人類は破滅を回避出来た・・・
一柱の女神を代償にして。
蒼き髪、蒼き瞳の女神を喪う代わりに、人類は生き残れたのだ。
閃光に拠り、人類から魔法が消えた。
宙に放たれた閃光で、電磁階層が消滅した。
だが・・・人は変えられなかった。
失う筈の記憶は、誰からも奪われなかったのだ。
そう・・・誰からも。
この星に産まれた者・・・全てが変えられなかった。
犠牲となった女神が願ったように。
人の理を司った女神の祈りが聴き遂げられたかのように・・・
禍々しき神との闘いが終わってから、既に20数年が過ぎ去った。
生き残れた人類は、それぞれの国で再興を果そうと懸命の努力を勤しんでいた。
全世界を飲み込んだ<終末戦争>という悲劇を乗り越えた人類は、
各国が結束した有志の連合軍を元に世界連盟が発足し、世界平和を旨とする決議が成された。
各国各々が自制し、紛争を回避するように執り図る。
一方の国が攻めるのならば、連盟各国が仲裁に当たり、それでも軍事行動に打って出るのであれば、有志軍が防衛に当たるとされた。
加盟国の調印で、世界法として成立した平和憲章。
法の執行に拠って、世界から戦争が無くなる筈であったのだが。
各国は自衛の為と称して、軍備を手放そうとはしなかった。
仮想の敵を自ら作り出し、防衛力の強化を図ったのだ。
それは・・・終末戦争終結から、僅か20数年での出来事だった・・・
テレビのニュースキャスターが中近東の不穏な事件を報道していた。
「「謎多き、砂漠の怪。そう呼ばれる事件が多発しております」」
画面上に記されるオスマン国付近の地図上に描かれた数個のバッテンマーク。
湾岸諸国にも、同じく紅いバツマークが記されて。
「「付近の村落で、青少年が多数行方不明になっているようです」」
「「まるで神隠しの如しですねぇ」」
男女のキャスターが説明していた。
「神隠し・・・とは、違う」
モニターを黙って観ていたが。
「オスマンだけの話でもないし~、ノラ」
「この間から世界中で起きてるよねぇ、姉さん」
白い特殊ユニフォームを纏った男子と、黄色と緑色のユニフォームを着た女子二人が話す。
「ええ、そうね。あなた達の言う通りよ」
正面に座る紅い軍服を着た、年嵩の女性士官が頷く。
「この日ノ本だけでも、数件の未遂事件が発生しているのだから」
行方不明を未然に防げた・・・そう返したのだ。
「まるで、あの戦争を思い出させるような出来事。
私が若かった頃に従軍した・・・フェアリアでの戦争のように」
軍服の女性が、思い出したかのように呟いた。
「悪魔に魅入られた人間の仕業なのか。
それとも、本当に悪魔の所業なのかは判断できないけどね」
女性士官がモニターのスイッチを切り、室内灯の明るさを増した。
正面に大型のモニターが設えられた皇都魔鋼戦闘団<IMS>指令室。
「我がIMSの探索範囲なら未然に現界を察知も出来るでしょうけど」
栗毛の女性士官が難しい表情で話すのは。
「邪操機兵の出没がいつどこでなんて、明確には分からない話よ」
相手が突然に現れ出ることへの懸念。
探索範囲以外ならば、後れを取る事態も想定できると。
もしかすると、こちらが気が付かない事件が起きている可能性もある。
「ですけど・・・ルマ司令。俺達には」
「せやせや!シキ隊長の言わはる通り。
こっちにはとびっきりのアンテナガールが居るノラ!」
「そうそう!ノーラ姉さん。
日の本、いいえIMSきっての魔砲少女が居るからね」
緑のユニフォームを着たローラが締めくくると。
「どうかしらねぇ・・・充てになるとは思うけど。
案外抜けてる処があるから・・・この子には」
栗毛の女性士官、ルマ司令が向かい合って座っているピンク色のユニフォーム姿へと目を向けた。
「いやいや、ルマ司令。自分の子に抜けてるなんて言ったら・・・」
「間抜けなんて言ったら・・・言ってへんか。ノラ~」
なぜか女の子姿のローラと関西訛りのノーラ姉弟が揶揄する脇から。
「どうかな?感知出来るんだろ・・・」
隊長を任された白いユニフォーム姿のシキ青年が。
「光と闇を抱く魔砲少女の・・・美晴なら」
黒髪を紅いリボンで左サイドを結わえた少女へ訊く。
「うん・・・」
眼を閉じたまま、ミハルと呼ばれた魔砲少女が頷く。
「・・・感じる・・・感じるよ、シキ君」
ゆっくりと顔を挙げ、ゆるゆると瞼を開けるミハル。
「邪気ってものを。
奴等がやって来るのを・・・ね」
長い前髪に半ば隠れた瞳。
少女の顏に観れるのは、双方の色が違う瞳。
「あたしの仇が・・・来るのをね」
光と陰。
陰と陽。
前髪で半ば隠れた左目は碧味を帯びて聖なる輝きを放っていた。
・・・が。
「この手が・・・欲しがってるんだよ。悪意に染まる奴等を」
スッと伸ばした右手の平に浮き上がる痣。
太陽が堕ちる・・・崩れた太陽神を表す痣。
「ミハルが・・・求めるから」
伸ばされた手の隙間から覗ける右の目は・・・
澱んだ紅き瞳だった・・・
ここからは。
魔鋼少女<マギメタガール>ミハル・Shining!
https://ncode.syosetu.com/n2116fn/
完結された物語のラストから2年後。
美晴が蘇った後の続きから始まります。
エピソード番号は<7>
いよいよここから始まるのが、魔砲少女ミハル最終譚。
本当のラストへ向かって、物語が進んでいくのです。
美晴は仲間達と共にストライカーズに在籍しています。
一時は死を与えられた少女、それは伯母である美春と同じ運命を指しても居たのですが・・・
何かを与えられてしまったのか?
まるで悪魔に魅入られてしまったかのような瞳の色。
これが意味するのは?
運命を背負いし少女は、新たな出逢いを求めていた。
次回 Act2 息吹
少女は何も知らない・・・彼女の存在を。




