新世界へ ACT 15 刻まれる願い
古の魔導書。
宿っていたものが蒼き珠に宿っていたミコトの呼びかける。
千年もの永き時を越え、蘇るのは・・・
魔導書と蒼き御珠が共鳴した。
永き時を越え、再会した二つの魂。
絆の元、時が来れば今一度会うと予言されていた・・・神と使徒が。
「「お師匠様?」」
蒼き珠に宿った古の大魔法使いミコトが訊いた。
「「その声は・・・理を司られた女神・・・様?」」
「「訊ねなくても、あなたなら分かるでしょ」」
否定は返って来ない。
呼んだのは間違いなく<女神>なのだろう。
「「おひさしぶりよねぇ、双璧の魔法使い<蒼い乃姫>」」
蒼き珠へ宿ったミコトの魂へ、懐かし気に話して来る声の主。
「「お懐かしい・・・と、言えば宜しいのでしょうか?
何だか、その・・・いきなり目覚めさせられた気が?」」
「「ちっちっち!それは言わない方が良いってものよ」」
砕けた口調で返して来る女神様。
「「それでは?なぜ呼ばれたのでしょうか?」」
「「そんなの決まってるじゃないの。私が憑代から出る為よ!」」
ミコトから師匠と呼ばれた声の主が・・・きっぱりと言い切った?
「「はいぃッ?<故事古今記>から?」」
「「いぇ~~~~~すぅ!」」
言い切られたミコトが、自分が記した書へと宿った師匠を思い出して。
「「あの、お師匠様?危機でも迫っているのでしょうか?
私にはまだ、妖しい気配は感じられませんが?」」
「「怪しいなんて言っちゃいないでしょ。
必要になったから出張る気になったのよねぇ」」
女神様が?
憑代から出られるには訳がありますよね?
ミコトの魂が、何故なのかと問いかける前に。
「「なにせ、千年もの間ずっとあなたの子孫を見守って来たんだから」」
「「はぁ?・・・お疲れ様です」」
蒼き珠のミコトが、どう答えて良いのか困ってしまうと。
「「由緒正しき<光家>の血統が、此処に来てるの。
これを見過ごしては居られないのよ、分かるぅ~?」」
「「はぁ?仰られる意味が計りかねますけど?」」
女神様は、蒼い乃姫の血筋を受け継ぐ者を指しているようだが。
「「私を手に入れた娘は、子孫とは違いますが?」」
蒼乃宮から蒼き珠を賜った美雪を指されたと思い込んで。
「「魔法使いではありますが、私と真盛様との子孫ではありません」」
蒼き珠に宿り、眠り続けていたミコトの魂でも美雪の出生は分からなかった。
それでも、自分の子孫では無いことぐらいは分かっていた。
魔法の異能を感じれば、魔力の相違が感じられたから。
「「ふ・・・私を誰だと思っているのよミコト?」」
「「え?!理を司られる女神・・・あ!」」
一言を告げられて、全てが納得できた。
「「お師匠様は、この娘を待っておられたのですね?!」」
「「千年前から決まっていたのよ、いつの日にか逢えるって」」
魔導書に宿ると強引に決めた師匠を思い出し、
「「この日の為に・・・待ち続けて来たのよ」」
「「はぁ・・・弩偉い・・・悠長な話ですねぇ」」
わざわざ、千年もの永きに亘り待って来たのかと。
「「しゃぁ~らぁ~ぷぅッ!デコピンしてあげようか、ミコト?」」
「「ひぃッ?!お許しくださいませ~ッ」」
女神の一撃は、魂となった今でも恐怖を感じるみたいで。
「「それじゃぁ、一体どのような要件で待っておられたのですか?」」
言い繕いながら、真意を確かめる。
「「フッ!理の女神があなたの子孫に求めるのは。
この私を世に出させる為に決まっているわ!」」
「「・・・もう。しっかり出られてるじゃありませんか?」」
ピシリ
っと。光が蒼き珠へと飛ぶ。
「「いッ?!いぃだぁだぁだぁ~ッ!」」
ミコトの悲鳴が蒼き珠をも揺さぶって。
「「御無体にも程がぁ・・・痛たたたたッ」」
「「フン!吹っ飛ばなかっただけ感謝するのね。
実体化してたら、宇宙の果てまで飛ばされてたわよ」」
・・・ミコトが恐怖したのも頷けますけど、あまりに理不尽に過ぎませんか?
「「話の腰を折らないでミコト。
私の言ってるのは、二人の絆を取り持たねばならないって話なの」」
「「二人・・・ですか?」」
急に元の話へ戻す女神に、
「「二人とは?この娘ともう一人でしょうか?」」
魔導書の前に居るのは、美雪だけ。
「「仰られたもう一人とは?」」
「「今言ったでしょ。あなたの子孫だって」」
理の女神様がミコトへ知らせる。
「「この日を・・・ずっと待ち望んで来たのよ。
私が理を司れるのなら・・・愛も繋げられる筈だから」」
人の理を司る者が、何を待ち望んで来たのかを。
「「あなたを手に出来た娘は、此処へ来る宿命だった。
魔導書を触れることが出来る娘に、啓示を与えてあげなくてはならないのよ」」
「「お師匠自ら?この娘に何を知らしめるのです?
それに、子孫と云うのは何処に居るのでしょうか?」」
ミコトの魂は、師匠の告げた相手を慮る。
書棚に囲まれた辺りには、誰の気配も感じられない。
「「あら?大分と魔力が落ちてるわねぇミコト。
分からないの、あなたと同じ魔法力を備えた人が居るのに?」」
「「え?!どこに?」」
気配を探って・・・
「「あ?!これは・・・あの方と同じ」」
懐かしくも、愛おしくも感じられる。
「「真盛・・・様?」」
愛した男にも似通った異能、魔法力。
「「そこは・・・残念だけどね、ミコト。
彼はあなたの光の宮様では無くて、子孫だってば」」
「「そ、そうですよね・・・しょぼん」」
お師匠に釘を刺されてしょげるミコト・・・だったが。
「「ま、待ってくださいお師匠様。
今仰られたのは、私の子孫とこの娘を?」」
「「くっつけるの・・・文句ある訳?」」
ポカンとなるミコトの魂。
幾ら理を司る女神とは言えど。
「「くっつけるって?!いきなり愛しあえと仰られるのですか?」」
「「フフ~ン!千年前から決まっていたのよ!」」
断言されたミコトは増々呆然となって。
「「理不尽に過ぎませんか、お師匠ぉッ?」」
「「しゃぁ~らぁ~ぷぅっ!これは女神の啓示よ。
いいえ、前世から繋がってる絆の行く末なのよ!」」
・・・あんぐり。
声を呑んで呆れかえるミコト。
「「この日の為に、何もかも諮って来たのよ。
美雪お母さんが誠お父さんと出逢うきっかけを作る為に」」
「「え?!今・・・なんと?」」
不意に聞いた二人の名前。
その二人を両親と呼んだ女神に訊き直すと。
「「思い出したのよ、昔に聴いていた思い出話を。
二人がどうして出逢ったのかを。どこでどうして逢えたのかを。
それを思い出して宿る気になったのよ魔導書へと」」
「「なんですって?それじゃぁ、お師匠様はこの為だけに本へと?!
全く以って・・・強烈無限な悠長さ・・・」」
呆れ果てたように、ミコトがため息交じりで応えると。
メキッ!
また、光速な一撃が。
「「逢を以って、愛と成す。
絆の結び付きをも司る女神なんだから私ってば。
思い出したからには、育んで貰おうと思ってね。
・・・って?聴いてるの、ミコト?」
「「・・・・・・」」
聞く前に、魂が気絶してますが?
「「しょうがないわねぇ、何年経っても<私>を理解出来てないようじゃぁ」」
溜息とも取れない哀れみを含んだ声がミコトへ投げられて。
「「まぁ、ミコトが気絶してようが抵抗しようが関係ないけど。
巫女の美雪に、お母さんへとなって貰わなきゃ・・・いずれは」」
自らを解放した蒼き珠の持ち主へと・・・
「「女神が惹き併せてあげる。
蒼い乃姫と光の宮のように・・・
運命の出逢いってのを与えてあげるんだから」」
光を伴って、姿を現す為に模り始めた。
光が。
蒼い光が身体を包み込んでいた。
「なにがどうなってるの?」
一瞬だけ、意識を奪われていたが。
「このッ!体の自由を返してよ」
金縛りは解けてはいない。それどころか声だって出されていない。
「え?!じゃぁ・・・この声は?」
全身が動かない今、声が聴こえている様に感じるのは?
「これって・・・異能波長?!」
頭の中だけで会話が出来る。
一体誰が・・・どうやってなのかは分かり得ないけど。
キィン・・・
何かが身体へと干渉して来る。
誰かが・・・侵入して来た。
美雪の意図しない誰かが頭の中へと。
「「私を手に取って・・・」」
不意に。
「「私が宿った魔導書を・・・」」
誰かの声が、直接訴えて来た。
「えっ?」
蒼い光が溢れる空間から、少女の声が聴こえてくる。
否、頭の中へ響いて来るのだ。
「誰?!あたしをどうしようと言うの?」
体の自由を奪い去られ、抵抗する事すら出来なくされている。
瞬き一つ思いのままにならないのに、魔導書を手に取れる訳も無い。
・・・と。
フワッ
奇門遁甲の術が消え、隠されていた書棚の中から一冊の古びた本が。
「「開くの・・・私を」」
声と共に、本を綴じていた巻き紐が緩みだす。
「「触れて・・・感じて・・・私のことを」」
禁書を綴じていた戒めが解かれ、開きながら美雪の元まで降りて来る。
さながら、慕う母の元へ娘が駆け込むかのように。
「え?え??えっと?」
それまで身動き一つ出来ずにいた美雪が、開きながら降りて来た書へ手を伸ばす。
パラ・・・パラパラ・・・パサリ
勝手に開いていく書。
何故なのかは分からないが、魔導書は美雪の手に載る寸前で空中に浮かんだまま。
「「紐解くの・・・あなたの未来を。
運命の名の元に・・・あなた達の未来を」」
手の先で魔導書に記されていた魔法の文字が浮き上がり。
「「私はこの日を待ち望んで来たの。
あなたと逢えると信じていたのよ・・・美雪・・・お母さん」」
金色の絵文字が模られ、次第に読めるようになっていく。
<私の名は>
「この書に宿るのは?」
<人の理を司る者・・・>
「理を?司れる者?」
<女神を冠された人であった者>
「女神となった人?」
<美春・・・ミ ハ ル>
「ミハル?理の女神・・・ミハル?」
美雪が女神の名を呼んだ時。
蒼き光の中から人らしき姿が現れた。
「そう・・・あなたとは強い絆で結ばれた・・・女神」
蒼い光の影響なのか、女神の髪も蒼く染められている。
いいや、蒼い髪色が意味するのは。
「蒼い髪は、強力な魔法力を放てる証。
あたしと同じ・・・魔力の備わっている証明・・・」
咄嗟に美雪が悟った。
目の前に現れた女神ミハルは、自分と同じ異能を持っているのだと。
コクンと頷いた女神の左髪には、紅いリボンが結わえられている。
そのリボンも、聖なる者へと贈られる破邪の念が籠められたモノだと分かった。
「察しが良いのは・・・この頃からだったのね、美雪・・・さん」
名を呼ぶ時、一瞬だけ躊躇ったように区切った女神。
「それなら・・・私があなたを待っていた理由も分かるかな?」
女神が胸元を飾る、黄金色の太陽神を表すブローチに手を添えて。
「ここであなたが来るのを待っていた理由。
この日が来るのを、あなたから聴いていたから待っていたんだよ」
口元を綻ばせて笑いかけて来た。
親し気に・・・懐かし気に。
でも、美雪には分かる筈もない。
「あの・・・以前にお逢いしていたのでしょうか?
記憶には無いのですけど・・・見守っていてくだされたのでしょうか?」
女神だと言うからには、人を護る存在だとの認識しかない。
誰かに向けてではなく、記憶にない程の独り言でも呟いていたのだろうかと思ったのだが。
「いいえ・・・そうね、まだずっと先の話だったわ。
この世界の流れの中で、あなたから聞かされる日は」
「この世界?他にも世界があるとでも仰られるのですか?」
意味深な言葉の意味を探る美雪。
「それに、あたしが女神様へ何を聞かせるというのですか?」
こうして現れた訳というモノを。
なぜ、自分に対して好意を持っているのかと。
フッ・・・
女神の表情は長い前髪に隠れて読み取れなかったが、溜息が漏れて。
「あ~あ。正体を隠すのって慣れてないから。
千年経っても、この躰に流れる系譜には逆らえないからねぇ」
独りで愚痴て、独りで納得して。
「これがタイムパラドックスって奴なのかな?
娘時代のお母さんとやっとの想いで逢えたというのに。
私ってば、何やってるんだろ~」
モジモジ胸のブローチを弄り、女神が勝手に落ち込んでいる。
「あ、あのぉ?先程からあたしをお母さんって呼ばれてるんですけど。
人間であるあたしが、女神様を生むとでも仰るのですか?」
助け船のつもりで話しかける美雪へ。
「さっすがぁ~!察しの良い。
そうなのよ、そうなるのよ、いつの日にかは!」
パッと花開くかのように女神が応える。
「はぁ?!お戯れが過ぎますよ女神様は。
人が神を生める訳がないじゃありませんか」
「むぅ?こうして生んでいただいたんですけど?」
・・・
・・・・
・・・・・
しばしの沈黙。
「意味不明ぃ~ッ!」
素っ頓狂な叫びをあげる美雪へ。
「いや・・・その。真面目な話ですけど」
真顔の女神が手を振りながら、
「だってほら。この通り女神やってるもん」
自分と美雪を交互に指して言い切った。
「あの、あの?女神様の出生って?
あたしが産んだと仰られるのですか?」
「さっきから言ってるよ?」
・・・
・・・・
・・・・・・・
またもや、沈黙が二人を支配する。
「だ、だ、誰と誰の子が、女神になると?」
トチ狂った美雪が、目を廻しながら訊き質す。
「あなたと・・・あそこに居る男の人との間に産まれた私が女神になってるの!」
「ほえぇ?!」
ひらひらと手を振っていた女神が、美雪の背後を指して。
「ほら・・・あの人。
あれが美雪・・・お母さんの良い人」
「ほえぇえええぇッ?」
振り返ると、閲覧席が臨める。
その一席に座っている長髪の男子が見えた。
「あの男。
島田の誠・・・
あなたを養って来た<光>に纏わる縁者。
光の宮の血を受け継ぐ、格別なる魔法力を持つ青年よ」
「ほえぇえええええぇッ?」
善い人と教えられた上に、光家の流れを汲む人だと言われて。
まじまじと見詰め・・・そして。
ポッ
頬に赤味が差してしまう。
「あら・・・初心なんだねぇ~」
「いやいや、そうじゃなくてですね。
あのお方が光家に纏わる方だと仰るので・・・」
誤魔化すつもりではなかったが、見詰めた瞬間に心がときめいてしまった。
「誤魔化さなくても良いんだよ。
若い頃のお父さんって、あんなに凛々しく見えるなんて。
マモルの顔に瓜二つ・・・いんやぁ、マモルがお父さんに似てるのかな」
女神と一緒になって書棚の陰から誠を眺め続ける美雪へ、何やら訳の分からない事を溢す女神。
「凛々しい・・・なんて。
言葉には表せない位・・・素敵な方」
でも、女神の呟きが聞こえていないのか、美雪は誠を眺めたまま。
「あたしなんかには勿体ない位の美男子・・・でしゅよね」
言葉の呂律がおかしくなるぐらい、美雪の心に刻まれたようで。
「あんなに一心不乱に勉学なされているなんて。
教養のないあたしなんかでは、釣り合わないでしょう?」
ほんのり顔を赤くして、女神が勧めた縁組に躊躇った。
「ふはははは!
理の女神の眼鏡に狂いはないわ!
あなたはあの人と結ばれる宿命なの。
そして強い絆の元、女の子を生む事にもなるのよ!」
そこを、女神が諫めて。
「数々の難儀を越え、運命に翻弄されても。
あなた達は結ばれ、やがて愛の結晶を生む事になるの。
誠お父さんと美雪お母さんの馴れ初めを紡げた今なら、はっきりと言えるわ!」
決まった事のように啓示を与えてきた。
「あたしが・・・あの方の子を産む・・・産む?
産むってことは、つまり・・・」
混乱した頭の中で、見詰める彼と結ばれる自分が想像されて。
ぼわんッ!
頭から水蒸気が立ち上る程、身体中が赤熱してしまった。
「うにゃぁ~~~~~?!」
ぐるぐる眼を廻し、しどろもどろに成り果てて。
「そんな・・・いけませんッ!
まだ成人にもなっていないのに・・・あんなことやこんなことするなんて?!」
両手で顔を覆い、モジモジと身を悶える。
「・・・飛躍し過ぎでしょ?
子を授かるのは、結婚してからでも良いんじゃないの?」
で、女神からの一言が追い打ちとなった。
「けッ?!結婚んんんん~~~~ッ?!」
飛び上がるように叫んだ美雪が・・・
「うひゃぁ~?!きゅぅ~」
頭から特大の湯気を上げて・・・失神してしまった。
「ありゃま。
こんなに耐性が無かったんだねぇ・・・男の人に」
女神が立ったまま気絶してしまった美雪を眺めて。
「こりゃぁ~、結ばれるまでに時間がかかりそうねぇ」
顎へ指を添えて笑ってから。
「でも、まんざらでもなさそうだったから。
二人はこの後、必ず惹かれ合う。
絆を取り持った女神に因って、出会いは愛へと昇華する。
だって・・・お母さんとお父さんの愛が実を結ばなきゃ。
理の女神になった私が、此処に居られる訳がないのだから・・・」
ついっと、理の魔法を放っていたブローチを押さえて。
「バレなきゃ分からないでしょ。
二人にある隙間をくっつけたなんて」
ちょこっと舌を出して、悪戯っぽく微笑んだ。
「さてっと。
これにて第1の目的は成就出来た。
次に現界するのは・・・あそこでよね?」
気絶してしまった美雪を解放し、もう一度魔導書の中へと戻る時。
「どうしてるのかなぁ・・・御主人様は。
もう直ぐ、産声を上げる筈だけど?」
懐かしそうに彼方を観てから感慨に耽り。
「お逢いできるのは、まだ先の話だよね。
その前に、護らなきゃいけないんだよね。
闇に囚われそうなる、あの国へと連れ出して貰わないと」
美雪を顧みて、幾分か哀し気に瞼を閉じる。
「そうなるように・・・宮にも釘を刺しておかなきゃ。
魔導書をお母さんへ預ける様に仕向けないとね」
薄っすらと瞼を開け、蒼い瞳で美雪を見詰めて。
「お母さんには耐えて貰わなきゃいけない。
どんなに絶望が押し寄せたって、苦難が待っていようとも。
神託の御子として、諦めないで欲しいんだよ」
魔導書の中へと籠る前に、そっと手を指し伸ばして。
「お母さんは絶対に、この理の女神になったミハルが護ってみせるから。
あの国まで連れて行って。この本を持って行ってね。
ミコトが残した魔導書と共に、私も闇の中までも付いて行くから」
必ず護り抜くと誓う。
伸ばした手の平から、蒼い聖なる光が珠へと届き。
「蒼い乃姫・・・ミコトに頼みたいの。
あなたの愛した姫も、彼の国で目覚める。
その時、美雪の産んだ子等を守護して欲しい。
陰の力となって、同胞の子を護って貰いたいの。
そして・・・任が解かれる時に。
あなた達は本当の天国へと召されるでしょう」
女神の願いが珠へと刻まれて。
「きっとその日は近い。
私がお母さんを護っている間、あなたが代わりに導いて欲しいの。
人である証を、人の願いを、そして人の温もりを。
人だった私へ、諦めない強さを・・・与えてあげて」
魔導書へと消える瞬間に託された。
女神の使徒でもあったミコトへ、神の啓示として。
護れと、同じ血の通った同胞の子達を。
ドクン
蒼き炎が揺らめく。
蒼き宝珠の中で、息衝くかのように。
始まりを迎えた回天を告げる様に。
全てはこれより後に。
全てが此処より始まる。
美雪が産まれたのは、神が求めたからなのか。
運命の御子達が生み出されたのは、創造主の求めに因るのか。
時代は今、各国が勢力圏を伸ばそうと目論む暗黒へと向かい始めていた。
力によって・・・武力に拠り。
人の命をも蝕む・・・戦争という悪魔達を目覚めさせんとしていた・・・
理を司る者。
人の愛を奉じる女神。
美雪が蒼き珠を手に入れ、此処に来るのが分かっていたと言った。
美雪と青年が恋に落ちるのが分かっていると言う。
女神は未来をも知っているのか?
ならば、世界の行く末も?
次回 第1部 零の慟哭 本編最終話!
新世界へ ACT 16 新たな世界と新しい未来
君達の未来は、光に満ち溢れている・・・だろうか?
魔砲少女が歩む世界は、平和を享受できるのだろうか?




