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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第8章 新世界へ<Hajimari no Babelu>
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新世界へ ACT 14 未知との邂逅

帝に剣を向け飛び掛る美雪。

復讐を遂げると叫び刃を・・・


煌く刃。

突き立つ懐刀。


蒼乃宮の絶叫が寝所に響き渡る!

「嫌アアアッ?!」


蒼乃宮の叫びが寝所に木魂する。


「あ?!あああ?・・・あ?」


帝へ覆い被さるようにして懐刀を突き立てた美雪の姿だったが。


「ふぅ・・・これでやっとお終い・・・だよ?」


寝所に伏せている帝の枕に剣を突き立てていた。


「あ?え?」


何が何やら分からなくなった蒼乃宮が。


「美雪・・・何を?」


身体を起して剣を引き抜いた美雪へと訊ねた。


「何をって・・・呪いの元を断ったんだけど?」


「・・・はい?」


眠ったままの帝の頭の脇を観れば、美雪の突き入れた枕が見える。

破れた枕掛けから覗くのは・・・


「ほらね。これが呪いの元締めなんだよ」


美雪が示すのは、式神の護符。

一見すればそう見えるのだが、その実は。


「八卦遁甲の真逆。

 式神返しでは無くて、悪鬼を招聘する鬼神召喚の札なんだ」


破れた札の呪いを教え、これが全ての禍を生んだのだと暴く。


「い、いやだって。

 美雪が鬼気迫る勢いで刃を突き立てたから・・・つい」


蒼乃宮が冷や汗を拭おうともしないで言い募れば。


「あれ?言わなかったっけ?

 御婆様の仇を討つって。日の本を貶めようと目論んだ奴を打ち破るって」


キョトンとした顏の美雪が応える。


「あああ?!あれって、そういう意味で言ったの?」


血相を変えた蒼乃宮が吠えまくる。


「いやあの・・・ごめんなさいぃ~」


で。勢いに負けた美雪が謝る羽目に。


「まったく。

 心配して損をしたわよ!」


「ひぃ~ん。御許しくださいぃ~」


心底心配した損な宮と、何も考え無しに言葉を紡いだアホな娘が。


「あはは」


「にゃはは」


顏を向え併せて笑い合った。


その笑顔が表しているのは、全てが丸く収まった証。

何もかもが終えられた・・・本物の笑顔でもあったのだろう。



「ありがとう美雪」


一頻り笑った後、蒼乃宮が謝意を述べる。


「いいえ、宮様こそ。

 津奈御婆様に成り代わってお礼を言上します」


無為に死なずに済んだと、津奈御婆の気持ちを汲んで美雪がお礼を言う。


「御上に奉じる様に言い残された御婆様への手向けになりますから」


願い通り、自刃して果てた刃で成し遂げれたのも。


「これでやっと・・・菩提を弔い得られますから」


これより帰郷し、墓前へと報告しようと。


「召喚されていた事案は、解決したのですもの」


蒼乃宮がこのまま帰郷を認めてくれるものと思って答えたのだが。


にっこり微笑んでいた蒼乃宮から微笑みが消えると・・・


「駄目よ。まだ許されないわ」


「ほぇ?えええええぇッ?!」


いとも容易く言い返されてしまった。


「な?なぜなのですぅ?あたしを放免してくれないのですか?」


帝への呪いを解いたのだから、もう退魔の仕事は必要ない筈なのにと言い募ったが。


「あら?美雪は帝へ刃を向けたわよねぇ?」


「ひぃ?!そ、それは・・・今見せた通り・・・」


誤解だと教えておいた筈なのに。


「いいえ、私を心底心配させた罪は拭えないわよ!」


「そ、そ、そんなッ?御無体な?!」


無茶ぶりを言って来る蒼乃宮に右往左往する美雪。


挿絵(By みてみん)


「いいこと美雪。

 あなたは今より、皇室警護の北面の巫女として勤めるの。

 また不埒者が現れ出るかも知れないし・・・私の側に置く事とするからね!」


「ぎょえぇッ?!あたしが?

 あたしなんかが皇室警護の大役をッ?」


いきなりの宣旨に、飛び上がって叫ぶ美雪。


「嘘・・・嘘でしょ?ねぇ蒼乃宮様ぁ?」


お戯れが過ぎますと、涙目の美雪が訴えたが。


「嘘や冗談ではありませんッ!」


「・・・とほほ」


見事に言い負かされた損な娘。



召喚状に始まった二人の再会。

退魔の祓い師美雪と、平和を求める宮との馴初め。


二人はこうして絆を持ち、二人は漸く同じ道を歩み始めた。


その運命がどれほど険しい物だとしても。

宿命に翻弄されようとも。





帝の容態が改善されたのは、事件が終わって半月も経った頃のことだ・・・







出雲に在る光神社。


此処には神主を務めた先祖の菩提を弔う墓があった。



晩秋を迎えた頃の昼下がり。

真新しい墓の前で手を併せている娘の姿があった。


「やっと・・・花を供えてあげれたね」


人目を忍ぶように建つ墓の前で。


「津奈様、どうか御許し下さいませ」


手を併せていた蒼乃宮が瞼を伏せて頼んでいた。


「あなたの慈しんだ美雪を、日の本の為に差し出してくださいませ」


願うのは御国の安寧。

求めるのは退魔の巫女。


「もぅ!蒼乃様ったら。

 津奈御婆様は当の前に了承されているってば」


お忍びで下野している蒼乃宮の傍らで、美雪が頬を膨らます。


「津奈御婆様はね、ずっと見守ってくれているんだよ」


右手を胸元に宛がい・・・


「それに・・・ご先祖様だって」


腰に下げた赤鞘の剣の柄を左手に持って。


「そうよね、美雪には加護があるもの」


併せていた手を解き、蒼乃が立ち上がる。


「人の理を司るべき神の加護が・・・ね」


フッと笑みを漏らした蒼乃宮が、陽の光を受ける美雪を眩し気に見詰めて。


「だって美雪も、魔砲に魅入られただから」


魔法と魔砲を兼ね合わせる。


「うんそう・・・って?どういう意味?」


「そういう意味よ」


言葉の意味を図れない美雪が質すが、とうの蒼乃宮は笑うだけ。

胸元に納められた蒼き御珠を押さえている美雪へと、笑いかけているだけだった。


「変なの。蒼乃様ってば」




二人の後ろに建つ光の神社の瓦に、今迄なかった印が新たに付いていた。

金色に輝く菊花紋章。

皇室に所縁ゆかりのある社に下される特別な印。

それが意味していたのは。


「津奈御婆様、これでやっとご先祖様も浮かばれますね。

 今にしてやっと、光家が皇室に所縁のある間柄だと認めて貰えたのですから」


皇室からの援助に拠り、神社が維持されるのを表していたのだ。


「津奈御婆様、ご先祖の皆さま。

 あたしは立派に務めを果たしてまいります。

 光野ひかりの 美雪みゆきの姓名を頂いたからには、身を賭して御奉公してきますから」


津奈婆が眠る墓地に向けて別れを告げる美雪。


そして乙女は前を向き、歩み始める・・・新たなる未来あすへと。



蒼乃宮から頂いた称は、北の剣薙<光の巫女>

そして姓を改めて贈られ、名乗るは<光野ひかりの 美雪みゆき





田舎育ちの娘は、皇室警護の大役を担い。

蒼乃宮に寵愛される剣薙となった。


それ故に、美雪の蒼乃宮への想いは誰よりも大きく。なん人をも凌ぐほどだった。


北面の武官として、蒼乃宮を守護する巫女として。

影日向なく、傍に控えていた。

時に不埒者を懲らしめ、時に幸せを供する娘となって。



出雲の国から上京した美雪は、宮仕えを熟していた。

帝の身体も快復に向かい、都に巣食う闇も退治されて平穏になっていた。


あっという間に日が経ち、あっと思う間に冬を越した。

宮中に仕えるようになって半年も過ぎた、温かくなった日の事だ。


「美雪警護官、美雪様ぁ?」


美雪を敬う後輩警護官が呼んでいた。


「ん~?」


桜の大木を見上げて過ごしていた美雪が振り向くと、後輩巫女が走り寄り。


「殿下が。蒼乃宮様がご所望だそうですよ」


「またぁ?」


蒼乃が美雪を呼びつけていると告げる。

それに対して美雪は<また>と返した処をみると。


「北面の巫女は小間使いじゃないんだからね!

 読みたい本が在るのなら、図書館へは別の人に頼めば良いのに!」


蒼乃宮に呼び出されては、御用利きのような依頼を受けさせられているみたいなのだが。


「そう言いながら、美雪様もまんざらでもないのでは?」


後輩から知らされた美雪が文句を言いながらも即座に腰を挙げるの揶揄する。


「まぁね。こんな時しか街へは出れないから」


堅苦しい宮勤めの憩いを与えてくれる蒼乃宮に感謝してもいるようで。


「皇都図書館までだけど、外の空気を吸えるのだから」


皇室の務めに忙しい蒼乃の元へと駆けて行くのだった。


「やぁ~ぱり。蒼乃宮様の仰られた通り、喜んでおられるのですね美雪様は」


駆けて行く後ろ姿を、後輩巫女が微笑んで見送った。



「お呼びでしょうか、殿下」


執務中の蒼乃に対しては敬語を用いる。


「うん、また・・・だけど、善いよね美雪?」


対して蒼乃宮は、いつも美雪に対してだけ砕けた口調を使う。


「勿論です、宮様の言い付けなら」


本当は自分から願いたいくらいなのに、それを察したかのように蒼乃から頼んできてくれる。

宮からの頼みとあれば、公の仕事として市中へと行けるのだから。


「ありがとうね美雪。

 それじゃぁ今日は・・・これと、この資料を借り出して」


公務として図書館へ向かい、宮の求めに応える。

それだけの仕事だが、宮勤めの堅苦しさから一時でも逃れられるから。


「はい!これより直ぐに向いますから」


手渡された書類を確認し、直ちに図書館へと向かうと答える美雪へ。


「あ、そうそう。

 図書館に行ったら、例の場所にも寄ってみて。

 変わらず秘匿されたままなのを確かめる様にね」


執務室から退出しようとしていた美雪へ注文を付ける。


「分かりました殿下」


了承を答えた美雪の姿が執務室から消えると。


「いつになれば・・・お目覚めになられるのですか、女神様。

 もう、時は満ちた筈ではないのですか?」


普段は見せない、沈痛な表情を美雪の出て行ったドアへと向けていた。


「間も無く、南の地に於いて干戈が交えられるのですよ。

 あなた様が嫌う人同士の争いが、始まってしまうのですよ」


机に在る書面上には、エギレス王国との交渉が決裂を迎えようとしているのが記されていた。


「天は人間に何を求めようとしているのですか?

 神は人類を試されているのでしょうか?

 最期の審判を計る為に・・・」


追い求めていた平和とは裏腹に、世界は帝国主義の下、欲望を剥き出しにしていた。

このままでは、最も畏れている<最終戦争ハルマゲドン>へと突き進んでしまうのではないか。


憂う蒼乃が願うのは唯一つ。


「世界を戦争の惨禍から救えるのは、あなたしか居られないのですよ<を司る女神>」


世界のどこかに眠ると謂われる、人のあいを司る女神の目覚めだった。




「ホント、蒼乃ったら。

 いつも小難しい本ばかりを読んでるんだよねぇ」


借り出す本のリストを読み上げながら美雪が図書館へと歩いていた。


「オカルト信者ではないんだから。

 こんな魑魅魍魎の類ばかりの出典を調べなくったって良いのに」


借り出す本の中には、古来からの妖怪が何を為したのかが載っているものが必ず含まれていた。


「魔物の歴史に興味があるのは、古書好きの蒼乃ならって処だけど。

 一体何の研究をやっているんだろ?

 もしかして、魔界へ転生でもする気なのかな?」


ポワンと頭の中で蒼乃が魔界の姫へと転生した姿が過る。


「ないない!そんなの在る訳がないよ」


あまりにかけ離れた姿を想像した美雪が、慌てて否定する。


「だったら・・・何の為に?

 歴史に刻まれた妖怪を調べるんだろう?」


考えても思いつかない美雪の前に、帝国を代表する図書館が聳えていた。



 ゾクッ!


図書館を前にした時に感じる悪寒にも似た感覚。

初めて来た時からずっと感じる誰かの視線。


「これさえなかったら、もっと楽しみに思えるのになぁ」


違和感を覚えるのには慣れたが、どうしても身構えてしまう。


「悪意に満ちてる訳ではないけど、誰かに監視されてるみたいで嫌だな」


資料を探している間も、司書に頼まれた書物を出して貰う間も、誰かに覗かれている感覚が苛む。


「一体誰なんだろう?

 あたしに用があるのなら話しかけて来たら良いのに」


風呂敷に資料と書物を収め、図書館の奥へと向かう。

そこには、初めて来た時に観た場所が。


「まだ・・・誰の手にも染められてはいない・・・か」


奇門遁甲の秘術が張り巡らされた空間。

結界の貼られた場所に納められてあるのは。


「未だに手付かずのまま。

 一体誰が何の為に張り巡らせたんだろう?」


禁呪を破るのは誰?

禁忌の書物だとしたら、誰の手で収められたのか?


「津奈御婆様から聞いた事のある光家の御本だったら。

 あたしが、光野美雪が手に出来るかも知れないな」


手に触れてはいけないと思い、知らずに懐に忍ばせていた蒼き御珠へと手が伸びていた。



 << ドクンッ >>



蒼き御珠へ手が伸びた時。


「?!」


声を出そうとした美雪の意識が遠のいていく。



 <<ドクンッ ドクンッ>>



心臓の音が頭へと響き、眩暈にも似た感覚に襲われる。


ー 何?!あたしに何が起きたの?


混乱する感覚。混濁する意識。


「「やっと・・・会いに来てくれたんだね」」


誰かの声が頭に直接響いた。


「「待っていたよ・・・御子」」


その声は年若い娘の声。

自分にも似た、少女とも採れる女子の声。


ー 誰?!誰なの?


身構えようにも身体が動かない。

金縛りにあったように身動き一つ出来ない。

強力な魔法力を持つ美雪を、声の相手が縛り付けているみたいに思えた。


「「逢えて良かった。

  少なくとも、闇に囚われる前に」」


ー 誰が?!闇になんか囚われるものですか!


言い返そうにも、口も利けない。

唯、頭の中で相手と対峙するだけだった。


「「私の声を忘れたの?蒼い乃姫」」


ー 蒼い・・・の?姫??


声の相手がその名を呼んだ時。

蒼き珠の中で眠る、古の魂が・・・


 << ドクンッ >>


呼ばれた名に共鳴した。


「「お久しぶりね・・・ミコト」」


その瞬間だった。


奇門遁甲の秘術が破れたのは・・・

呪われた帝を救った美雪。

闇を駆逐したのは宿ったミコトでしたが。


破邪を果たした美雪に贈られたのは、蒼き珠と赤鞘の剣。

御所を護る北面の巫女として召抱えられた美雪。

宮勤めを始める美雪に蒼乃宮が頼みます。

図書館の魔導書を確認して欲しいと。


秘術で守られた魔導書。

美雪の手にした蒼き珠に反応した時、聴こえてきたのは?!


次回 新世界へ ACT 15 刻まれる願い

蒼き珠へとかけられた声。眠るミコトを呼び覚ますのは?

千年もの長き時を越え、目覚めるのは・・・千年女神!


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