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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第8章 新世界へ<Hajimari no Babelu>
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新世界へ ACT 11 帝都図書館の秘蔵書

上京した美雪。

列車から降り、周りを見回して想った事は?


田舎から都会へ出てきた人が挙って感じること。

それは・・・

汽車に揺られて辿り着いた都。


都の駅に着いた客車から降りた途端・・・


「ひぃえええぇ~?!」


人・・・人、人。

人の波。

あまりの人の多さに目を廻してしまった。


「此処は?!これが?!都ぉ~ッ?」


こっちを向いても、アッチを見ても・・・人、人、人。


ホームからの人混みに、田舎育ちの娘は驚嘆し続けるだけ。

どうすれば改札口まで行けるのか・・・さえも分からない程。


「おい、さっさと進んでくれよ、お嬢さん」


後ろから降りた人に追い立てられ、人の流れに巻き込まれて。


「悲やああぁ?!」


何がどうなるのか、訳も分からず。


「助けてぇ~!」


雑踏に押し流されてしまった・・・





都の中心に位置する宮城では・・・


「遅いッ!いくらなんでも遅すぎるッ」


宮内庁の職員達が苛ついていた。


「出迎えの車は何をしておると言うのだ!

 巫女が乗り込んでいた列車は到着したというのに・・・」


ちょび髭を生やした上役が、怒鳴りつけている。


「ここまで来て、見失ったとは!

 蒼乃宮様へ、なんと申し上げれば良いと言うのだ!」


禿げ頭から湯気を吹き出し、怒り散らす上役へ。


「もはや一刻の猶予もならんと、仰られておりましたものねぇ」


止せば良いのに、下っ端役人が油を注いだ。


「出迎えの全責任は、この稲葉いなばにあるのだぞ!

 もしもの事があった時には・・・」


「詰め腹を切らされ・・・」


途端に上役である稲葉からの逆鱗が堕ちる。


「分かっとる!その時はお前達も同罪だからな」


「そ、損な?!」


宮内庁の一角で、損な役目を仰せつかった職員達の悲鳴が響き渡っていた。



・・・頃。



「ひぃ~はぁ~」


損の元締めである美雪は。


「人混みで・・・酔っぱらっちゃった」


ふらふらと街角を歩んでいた。


紅い羽織袴姿の和装女子の美雪。

手提げ鞄一つを持って宮城へと歩んでいたが。


「ん・・・何かしら?」


急に何かを感じたのか、歩を停める。


「誰かに呼ばれたような・・・何かに見られているような?」


邪気なら、瞬時に見抜ける。

でも、今感じているのは・・・


「なんだろう?熱い視線を感じるんだけど?」


邪な気では無いのは感じ取れた。

でも、姿を現さないからには正体は分からない。


立ち止って感じた視線を追い求める。


「向こうから・・・ずっと観られている?」


感じた先を見つけた。


「大きな建物・・・なになに?

 皇都図書館?・・・それに皇都資料館??」


白い立派な建造物がある。

白亜なレンガ造りのビルが屹ていた。


「出雲の国には、こんな立派な建物なんて大社くらいしか無かったのに。

 それが図書館だなんて・・・やっぱり、都なんだなぁ」


変な処に関心を示してから。


「違うぅ~ッ!そうじゃなくて。

 妖しい視線が、あの中から感じられるって話でしょ」


自分に言い聞かせて。


「どんな物の怪なのか・・・調べてみよう」


通りの向かいに在るビルへと足を向けたのだった。





と、一方。



「申し訳もございません」


宮内庁の一室で、稲葉主任が平謝りに徹していた。


「漸く都へ辿り着いた祓い者を・・・見失ってしまいました」


「・・・そう」


長い黒髪の女性が、一言だけ返した。


「ひぃ?!」


稲葉がその声に反応して怯えかえる。


「やっと・・・都迄来てくれたのね。あの子が」


稲葉に背を向けて窓の外を見ている女性が振り返り。


「あの巫女が。あの時の美雪さんが・・・」


朗らかな表情で稲葉に訊いたのだ。


「はぁ、県庁からの報告通りでは。

 2時間前に着いた夜行列車に、乗っていたとあります」


手元のメモを開いて、確かな情報だからと告げ。


「歩いての参内ならば、とうに到着して良い頃だと思われますが」


行方不明の巫女の動向を気にしているようだ。


「あの娘は・・・必ず来るわ。

 もう暫く待ってあげて・・・稲葉内務次官補」


焦れる稲葉へ微笑んで、


「それよりも。

 巫女が到着次第に、祓いの儀を執り行うように仕切って頂戴」


一刻たりとも無駄にせぬように釘を刺すのだった。


「御妹君の仰られるままに・・・」


大袈裟に敬礼を贈って退く稲葉には目もくれず、黒髪の女性は窓へと向き直る。


「やっと・・・逢えるのよね美雪。

 今度こそ、あなたの異能ちからを貸して貰いたいの。

 国の為にも、この蒼乃の為にも・・・」


窓辺から見上げる空には、一塊の雲が近寄って来ていた。

青空に流れるのは、黒い一塊の暗雲・・・







 コツ・・・コツ・・・コツ・・・


大きな図書館の中は、外界の雑踏とはかけ離れた静寂に包まれていた。

美雪の靴音だけが、薄暗い室内の音だった。


「おかしいなぁ?確かにこの中からだった筈だけど」


書物に隠れているのか。

それとも勘違いだったのか。


「怪しい者の気配も無いし。

 妖しい物がある訳でもなさそう・・・」


そう声に出した時だった。



  ゾクッ?!



背中に刺さる霊気を感じた。


「なッ?誰っ?」


邪気にも似た違和感を感じ取ったのは、美雪が巫女であった賜か。


皇都図書館の奥に位置する場所で出会ってしまった。


「こんな公的な場所で?!」


普通の人ならば気が付けない。

魔力が備わっていない人ならば、感じもしなかっただろう。


「これは・・・奇門遁甲の秘術?!」


四方に聖獣を設え、真ん中に在るものを隠す秘術。


「誰がこんな場所に?何を秘匿しようと?」


聖域たる結界に隠された物とは何なのか?

誰がなんの目的を以って仕掛けたのか?


「これは封印じゃない。

 誰かから何かを護ろうとしているみたい」


結界の強さから、秘められる物の重大さが分かる。


「図書館の中に収納されていてもおかしくない物・・・と、言う事は?」


書は書の中に紛れ込ませるのが一番。

況してや、それが重大な書だとするのなら。


幼い頃に諦めていた望みが蘇る。

古から伝わる、魔導書<故事古今記>への想いが。


「まさか・・・こんな場所に?」


日ノ本髄一と言われる皇都図書館に、失われた魔導の書が収蔵されているなんて。


「それなら、一体誰が・・・」


寄贈したのか。こんな結界を貼ってまで。


「本当なら・・・これが津奈御婆様の導きなのかもしれない」


結界を無理やりにでも破ろうものならば、据えられた魔導書にも影響が及ぶ。

いいや、そんな事をすれば。


「言い伝えに拠れば、魔導書には呪いが掛けられてあるとか。

 欲に溺れて紐解こうとしたら、即座に呪われてしまうんだと・・・」


抉じ開けようとすれば、古の魔導書は天誅を下すと言われる。

古来の大魔法使いの呪いを受け、忽ちにして滅ばされてしまうと聞き及んだ。


「双璧の魔女の記した書は、蒼き御珠みたまでしか開く事は出来ない。

 稀代の魔法使いが残した呪いが、頑なに守っていると教わってるから」


仮に魔導書だとしても、おいそれとは手を出してはならない事も。

掛けられた呪いを解除するには、一つしか手がないことも分っていた。


「光の家に代々受け継がれて来た魔導書が、誰かの手に堕ちてから早数百年。

 永き時を経ても尚、呪いは消えてはいないってことなの?」


何者かによって封じられ、書の真実を知る者に拠り秘められたのか。

その者は悪意を以って?

奇門遁甲の秘術を執り行った者は、呪いを懼れて?


「誰にせよ、魔導書を封じたのは陰陽師か魔術に長けた者。

 聖域を拵えたのだから、邪の者ではないと言い切れるんだけど・・・」


手を伸ばせば、直ぐにでも分かる。

途端に呪われてしまうのなら、本物だと知れる。


「だけど・・・此処には。

 その瞬間を待っている奴等もいる・・・らしい」


先程感じた熱い視線。

それは魔導書からでは無かった。


「私が抉じ開けるのを虎視眈々と待っている・・・奴等が居るみたいね」


挿絵(By みてみん)


禁忌に触れた後、秘術を破って書を手にしようとすれば。


「横取りを狙っているみたい・・・な。

 邪なる人が存在しているようね」


自分に向けられた好奇の眼差し。

それが熱い視線となって向けられていたのだと看破した。


「私を闇祓いの巫女だと知っているのね。

 都へ来るのが分っていた・・・光の家の流れを汲む者が」


辺りの気配が教えていた。

邪気を孕む者ではないが、欲に溺れた者の存在を。


「魔導書を手にして、何を企む気なの?

 絶大なる魔法を手にしたい?稀有な魔導書を密売して富を手にするの?」


人が容易く手にするような書ではないのを、美雪が一番理解していた。


「魔法なんてモノは、人が容易く手を出してはならないのよ。

 どんなに欲しくたって、不相応な力を求めてはならないの」


魔力が備わって産まれた美雪にも、今は手を出しかねる程の書。

古の大魔法使いが記した呪われた書。


それを追い求めたのは、単に祖先の秘術書を取り返したかったから。


「本当に<故事古今記>だとしたら。

 この図書館に収蔵されてある方が良いのかも。

 このまま、誰の眼にも触れない方が良いのかもしれない」


伸ばした手を降ろし、どこかから観ているであろう相手へ警告の為に声に出した。


手を出すな・・・と。

秘術は誰の手にも破れないと。


「・・・でも。

 なんだろう、この感じは?」


魔導書が隠されてあるであろう付近から湧き出すような異能を感じていた。


「まるで・・・私に開けて欲しがっているみたいな?」


不思議な感覚に囚われていた美雪だったが。


「ある訳ないよね、私みたいな末裔に」


自分を光の家を受け継ぐ者だと認識して。


「蒼いの姫は、他の誰かを選択するだろうから」


受け継がれた血縁者の中から、もっと適格者が居るだろうと信じていた。



奇門遁甲の秘術を設えられた場所から、ゆっくりと立ち退く。

辺りの視線も、その頃には遠ざかっているようだった。

諦めたのか、出直す気なのかは分からないが。


「私にはやらなければいけない大事な用があるの。

 津奈御婆様の想いに報いる為にも。

 宮殿に赴き、為さねばならないから・・・」


最期に一度だけ振り返って、魔導書へ別れを告げた。


「それに、今の私には。

 蒼き珠なんて宝物は持ち合わせていないもの。

 秘術を破っても、開く事は叶わないから」


奥間った書の収蔵場所へ、一礼を贈って踵を返す。

待っているであろう、宿命へと向けて歩み出す美雪。


薄い影が魔導書の前から消えて、やがて靴音も聞こえなくなる。



 ドクン


蒼き火のような揺らめきが。


 ドクン


命の灯火のような揺らめきが。


聖なる蒼き輝が・・・


「「待ってるから・・・きっと。きっと・・・ね」」


魔導書は、魂が宿ったかのように揺らめいていた・・・


<<ドクン>>

青い火が揺らめく。

誰かの魂が篭ったかのような秘本。

それは誰?蒼い命の揺らめきは何を意味する?

美雪を待つという声の意味は?


次回 新世界へ ACT 12 禁呪の戒め

漸く宮城へと宿りついた美雪。

待っていたのは稲葉主任と、召喚状の秘密。

意図しない召喚は、こうして送られてきてしまった?!

召喚状を差し出した人は、何も知らなかった・・・

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