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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第8章 新世界へ<Hajimari no Babelu>
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新世界へ ACT 8 月夜の約束

皇女蒼乃の危機に現れた少女巫女!


邪操機兵じゃそうきへいと対峙する<ミユキ>と名乗る少女巫女。

幼き巫女は勝算があるのか?

如何なる手段で立ち向うのだろうか?

満月の元、現れたのは異形。

そして・・・闇を祓うという幼き巫女<ミユキ>



対峙する二つの影が地に堕ちる。


高い木の枝に乗るミユキと名乗った少女。

巫女服を纏う黒髪の少女は、臆する事も無く異形へと言った。


「闇へと還らないのなら、覆滅するだけだからね」


危機に陥っていた帝の妹君である蒼乃を救ったのは、まだ幼い巫女だった。


「「おのれ、言わせておけば身の程もわきまえない小娘め!」」


漆黒の異形は断ち切られた腕をものともせず。


「「その身に分からせてやるまでの事!」」


軋む身体を起こして・・・


 ギギギィ・・・バキバキバキ・・・


無理やり起した身体が、半ばからへし折れてしまう。


「「どうしたのだ・・・我の意に従わないのか?!」」


永い時を経た金属が、錆びてしまった事に分からず。


「「おのれ!外殻が朽ちようとは・・・」」


内部に在る機械を剥き出しにした異形が吠えたてる。


「闇の者よ。

 大人しく還ると言うのなら滅びを与えはしないわ。

 この地で安らかに眠りに就く方が、あなたの為なんだよ」


少女巫女ミユキが、凛々しさの中に優しさを湛えて諭す。


「永き眠りへと還るのなら、祓いなんてしないんだから」


突きつけていた剣先を降ろして微笑む。

少女本来の笑みを、闇の者へと向けて。


対峙する双方を観ていた蒼乃の心に、少女巫女の言葉が染みて行った。

邪悪に染まる輩でさえも、安息を与えるという巫女の声が。


「きっと・・・この少女こそが。

 私の探し求めていた神子なのね」


異形の者にも臆さずに、剣を構え。

悪意を漏らす者にさえも安住を約束する。


「私の求めている平穏な世界へと導いてくれる御子。

 絶大なる異能を身に宿す、月夜に出逢えた魔法の少女」


黒髪の少女巫女を見上げる蒼乃は、邂逅したと感じとった。

探し求めて来た神子に、やっと出逢えたのだと。



「「我は眠らぬ。

  月からのシ者を見つけた今、我が主の元へ差し出さねばならぬ!」」


少女巫女が諭したのに、異形は異を唱える。


「「お前がどれ程のモノかは知らぬが。

  我に与えられた命は絶対なり!我の存在意義は唯一つのみ!」」


朽ちた身体を無理やり動かし続ける異形。

外部がボロボロと崩れ去り、内部を曝け出しても尚。


「「我は全能神ユピテル)下僕しもべ

  絶対の支配者に遣わされし、監視装置の一部なり」」


少女巫女へと残された手を突き出して来たのだ。


「神ならば人を見守るべき存在。

 お前の言う神は、人を苛む悪行に手を染めるのか?」


少女巫女の刃が、再び異形へと突き付けられて。


「それが神だと言うのならば。

 あたしは神をも斬り捨てる巫女になるまで!」


異形へと断じた。

と、同時に剣を閃かせて枝から飛び降りる。


「「グアアッ!失せるのだ小娘」」


迎え撃つ異形の拳。



 シュン!



刃を閃かせた少女巫女が、拳を避けて・・・


挿絵(By みてみん)


「消えるのは・・・あなたの方よ!」


切っ先を異形へと向けると。


「あたしの魔砲は、邪を祓う為に在る。

 闇に住まう邪を殲滅する為に与えられたの!」


剣先が光を放つ。

蒼き清浄な輝きを。


「これが!光の魔砲。闇を打ち砕く巫女の魔法!」


飛び下りて来た少女巫女ミユキが吠える。

異形へと突き付ける剣が一際輝く・・・



 ビシャッ!



蒼い光の弾が、異形の者を打ち据えた。


「「ぐわああぁッ?!」」


外殻部を失っていた異形の体内へと、光の弾が突き立ち。



 ビビビッ・・・ガシュンッ!



身体の自由を即座に奪い去る。



 シュタッ!



体を躱した巫女少女ミユキが、蒼乃の前に降り立つ。


「これが本当の最後だからね。

 本当に滅びを迎える気なの?

 眠りにつけるというのに、滅び去る気なの?」


異形へと振り返らず、ミユキが言った。


「「ググ・・・グギャ・・・グギャ・・・」」


体内に喰らった魔砲の一撃で、声がおかしくなった異形が。


「「ギャギャギャッ!」」


どこまでも巫女の勧めに応じず、歯向かおうとした。


「そう・・・悲しいね」


ふっと。

瞼を閉じた少女巫女だったが。


「ならば・・・滅びなさい」


再び瞼を開けて・・・刃を背後へと向け直した。


その瞬間を蒼乃は驚愕の眼差しで観てしまった。

少女巫女の哀し気な顔と、蒼く染まった瞳を。



再び、蒼い光が切っ先から放たれ。



 ギュシャッ!



今度は異形の者への最期となる一撃を与えることとなった。



「「・・・ビ・・・ビビ・・・」」


崩れ折れた異形の者は、自らが現れ出た穴の中へと倒れ込んで行く。

自らの終焉が目覚めた穴の中だったのは、闇から這い出た者の結末を表しているかのようだった。


「闇は闇の中へと還りなさい。

 それがあたしに出来る手向けなんだよ」


ミユキと名乗った少女巫女。

強力な魔力を誇り、邪を祓う者。


「あ、あなたは?一体・・・」


驚愕の眼差しで見上げる蒼乃。


「魔法使い?それとも神の御使いなの?」


座り込む蒼乃が訊く。


「邪を祓う者とか言われる巫女?

 魔物にも臆さない・・・古の魔女とでも言うの?」


現実離れした出来事の連続に、蒼乃は少々混乱した頭で質す。


「魔女・・・か。

 そう蔑まれるのは慣れていますけど。

 あたしは闇に属した魔法などは持ち合わせておりませんから」


少女巫女の美雪みゆきが苦笑いを見せて。


「唯、あたしは探しているだけです。

 受け継ぐべき書を。

 その書物に記された事実を・・・知りたいだけなのです」


魔女だと言われたのを拒絶するだけで、正体を明かそうとはしなかった。


「探す?受け継ぐべき書を?」


答えられた蒼乃は、意味深な言葉に反応する。


「その書と云うのは?」


そして再び質し直す。


「邪を祓うのに必要なモノなの?」


異形の者へ滅びを与えて役目を終えた刃を、背に背負っていた紅い鞘へと納めたミユキが。


「いいえ。この世界を・・・救うのに必要だと聞き及んでいますので」


座り込んだままの蒼乃へと手を差し出して答えた。


「この世界を・・・救う?」


「はい。そう神主おばば様から告げられましたので」


ミユキが差し出して来た手を、何も考えずに取る蒼乃。

二人の手が繋がった瞬間だった。



 シュンッ!



一陣の風が、二人の前を吹き抜けていった。

否、光のミユキからと言った方が良い。


「あ?!え?嘘でしょ?」


驚いたのは蒼乃。


「あなた・・・やはり?」


蒼乃の手を取ったミユキから捲き起きた風の意味。


「魔法石に・・・間接的に触れたから?」


蒼乃の眼に映るミユキの姿は。


「蒼い髪・・・それに蒼く輝く瞳の色。

 伝承に在る<蒼いの姫>と同じ・・・双璧の魔女と同じ」


蒼乃が胸に下げた蒼き珠の魔力に反応したのか。

ミユキの髪も瞳の色も蒼く染められていた。


「は・・・い?どうかされましたか?」


本人には分かっていない変化が起きている。

在り得べからぬ異能の力が齎しているのだろう。


「この石本来の力なのか。

 ミユキの持つ異能が発揮されているのか?」


手を取り合ったまま、二人は互いに見つめ合うだけ。


「あの?立てないのですか」


暫く見つめ合っていたミユキだったが、


「立ち上がれないのでしたら、おぶって差し上げましょうか?」


蒼乃が放心状態なのを気遣ってきた。


「あ?いいえ。

 もう大丈夫だから・・・」


その声でやっと我に返った蒼乃が首を振りながら立ち上がると。


「そう・・・ですか?

 なら、あたしは戻りますので」


繋いでいた手を解き、蒼乃の前から辞しようとするミユキへ。


「危ない処を救ってくれてありがとう・・・祓い巫女」


「いいえ。偶然この地へ罷り越しただけですから」


感謝を告げる蒼乃へと、ミユキは立ち止まり。


「そう言えば。

 どうしてこのような社へ来られたのです?

 しかもこんな魔に魅入られた満月の夜に?」


振り返って蒼乃を質して来た。


「それは・・・あなたの方こそ。

 何故書物など在る筈が無い社へ?」


二人は互いに姿を眺め合うと。


「探し人に出逢えると教わったから・・・」

「探し物に出逢えると聞いたので・・・」


互いの口から同じ言葉が出るなんて思いもせず。


「えっ?!」


驚きを含んだ声を交わした。


「私は誰かからの情報として」


「あたしは誰かの残した手紙に導かれて」


二人共が誰とも分からない人からの勧めでやって来たのだという。

誰かが導いたのか、それとも罠に填めようとしたのかは謎のままだが。


「こうして私達が出逢えたのも」


「はい。きっと神様のお導きですよね」


幸運が導いてくれたと思う事にした。

二人の邂逅を神が求めていたのだと。


・・・そう。二人が出逢う必要があったのだから。


「私は<蒼乃あおの>と呼ばれています。

 光の美雪みゆきさんの事は忘れませんから」


「あはは。名乗られたら仕方が在りませんね。

 あたしは光の美雪みゆきと呼ばれている闇祓いの巫女。

 さっき見せた通りの・・・魔砲を放てる剣薙です」


背に背負った赤鞘の剣を見せて、少しだけ笑顔を見せるミユキ。


「ええ、確かに見せて貰ったわミユキ。

 あなたの事は忘れたりしないし、もう一度逢う事になるでしょうから」


「むむぅ?あまり闇に近付かない事です蒼乃。

 そう何度も闇祓いに会えるとは限りませんからね」


蒼乃は再会を約し、美雪みゆきは約しかねた。

巫女姿の少女に微笑む蒼乃が、それへと首を振り。


「いいえ、ミユキが願わなくても。

 きっと私の前に現れてくれる筈だから」


再会が確約されるものだと言ってのけた。


「むぅ~~~。

 あたしだってそれなりに忙しいんですからね。

 ほいほいと闇の現れる場所へと駈けつけられる筈が無いじゃないですか」


それでも美雪は少女らしい声で拒否してみせたのだが。


「でも。

 蒼乃が呼ぶ声が聴こえたのなら、真っ先に駆けつけてみせますよ」


ニコリと笑って応じたのだった。


「ありがとう美雪。きっと呼ぶから・・・来てよね」


「うん。分かりましたよ」


答える美雪の声が蒼乃の耳へと入った時。


微笑を浮かべる蒼乃の前から、美雪の姿が消える。

月夜の光へ帰っていくように。


満月の中へ飛んで消えるように・・・


「美雪。

 あなたの異能を借りたいの。

 御兄上様の為に。

 この日ノ本の国の為にも・・・」


満月を見上げる蒼乃が呟く。

見つけられた宝を手にした童子のように微笑みを浮かべて。





二人を引き合わせたのは誰?


二人が出逢うのに干渉した者は何が目的だったのか?


きぼう

それとも邪なる意志?


「おかあさん・・・」


二人を引き合わせた者が、<とある>場所で待っていた。


「月からの使者ミハルよ・・・」



草臥れた書物の中で・・・

幼き日の約束。

蒼乃と美雪が邂逅した月夜の晩。


二人は後に永遠の友となるのですが・・・今はまだ。


そして時は移り、時代の奔流が襲いかかろうとしていました。

帝都に蔓延る闇。

そして帝国主義がまかり通った世界で。

悲劇は彼女達を押し流そうとしていました・・・


次回 新世界へ ACT  9 拒絶の代償

その当時の人々には、逆らう事のできない命令が二人を引き裂こうとしていました。

運命に弄ばれる少女。召喚命令を拒むのなら、待っているのは・・・

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