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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第8章 新世界へ<Hajimari no Babelu>
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新世界へ ACT 6 ロストメモリー その後の物語

フェアリアの伝説に由れば、

王女リインは後々まで平和に国を治めた女王となったとある。


では、双璧の魔女の神官巫女ミコトは?

リインと別れ、日ノ本へと還ったのは記されてあるのだが?


今語られる、その後の物語・・・

新たなる世界で始まった絆の物語。


日ノ本から来た神官巫女と、フェアリアの王女。

二人は伝説の魔女として名を遺す。

類い稀なる稀代の魔法使いと称えられ。

<双璧の魔女>と呼ばれて・・・



だが、物語はそれで終わらなかった。


片や救国の王女としてフェアリアに伝説を残し。

遥か東方にある島国へと帰還した神官巫女の物語は残されてはいない。


一体どうしてなのか?

何故、ミコトを名乗る魔法使いのその後は残されなかったのか。


フェアリアの悪夢を潰えさせた偉業は残されているのに?


彼女が帰った日の本で、何かが起きていたのだろうか?

否、帰還を果したミコトの身に何が起きたのであろうか?



皇家守護を務める北面の剣薙だったミコト。

一時的にフェアリアから帰郷を果した折、情勢の報告に参内したのだったが。


「宮様が?

 私如きを、側室に召されると仰られたのですか?」


畏まって宮内方へと質すミコトへ。


「帝は予てから、その方を甚くお気に召されておられる。

 朕の側女そばめとしてではなく、後の皇家に異能の血を残す為。

 そう仰せになられたのだ、心して承れよ」


近衛を司る上長から知らされたのは、御上のお情けに拠る処遇だということ。

年嵩の帝の側女ではなく、御息子君の宮様の側室として迎えると宣旨されたのだ。


元は身分の卑しい武士の身だった者としては、この上もない立身噺でもあったのだが。


「そのお話は・・・もう幾許かの猶予を頂きとう願います」


即答を控えるミコトに、近衛の上長が訝しむ。


「なに故だ?

 斯様な詔を無碍にする気なのでは無かろうな?」


「は。勿論お断りはしかねますが。

 件の国には、間も無く闇が迫り来るものと心得ましてございますれば。

 我が師に託されし、約定を果さねばなりませぬので」


平伏して口上を奉じるミコトに、上長たる近衛の守は。


「むぅ。その方の師は、確か?」


ミコトの師が誰であるのかを質してくる。


「理を司られる春神にて候」


「そ、そうであったか。あの邪の龍を瞬殺されたという・・・」


ミコトから師匠の存在を知らされた近衛の守が納得し。


「善かろう。御上にはその議、奏上しておく。

 任が終わり次第に宮様のお傍に仕えるよう、心しておけ」


「ははッ!」


猶予を認めた。

でも、それはフェアリアでの別れをも意味していたのだ。


「リイン・・・とうとう本当のお別れだよ」


お師匠様からも内々には知らされていた。

ずっとリインの伴をしておられないのだと。

いずれ、別れの時が来てしまう事を。


浮かない表情で下内げだいしたミコトに駆け寄って来たのは。


「どうされたのです、姉上様?」


同じ神官巫女を務めているミサトだった。


「何か粗相でも?」


口は悪いが、ミコトの事を心底案じて心配しているようだ。


「何も。宮様の夜伽を仰せつかった・・・だけ」


「げッ?!姉上様が宮様とねんごろに?」


飛び退いて驚く真似をしたミサトだったが。


「本当は?側女としてお情けを受けられるのでは?

 それとも宮内の側室に迎えられるとか?」


皇家に迎えられるのは、公達きんだちでも名誉極まりの無い立身。

でも、ミコトの本意を窺い知る妹分ミサトには。


「想いを寄せておられる殿方になら、目出度き事なのでしょうけど。

 姉上様がお選び出来る筈もない・・・ですね」


ミコトが想いを抱いている殿方の存在を知っているようで。


「光の宮様は・・・どう思われましょうか」


見知った親王の名を出してしまった。


真盛まもるの君様は・・・お嘆きになられましょうか?」


表情の影ったミコトを想い計り、親王光の宮(しんのうひかりのみや)真盛(まもる)の胸中も図って呟いた。

妹分のミサトの一言に、ゆるゆると顔を向けたミコトが返す。


「いいや、真盛様は。

 親王殿下にはもっと良き伴侶が相応しいから・・・」


帝に召される身成れば、想いなど垣間見ることなど出来よう筈がない。

どの親王の側室として迎えられても、断れる筈も無かったから。


「ですが姉上様。

 真盛様のことを、あれ程までに慕われていらっしゃったのに」


残念がるミサトに、側室として召し出される運命のミコトは。


「是非も無しだよ、ミサト。

 もう決まってしまったのだから・・・」


想いをきっぱりと断ち切ってしまったかのように振舞うのだった。




それから程無くして。

再度、フェアリアへの旅路が待っていた。

闇を祓う為。王女リインを救う為。


そして・・・想いを抱いた王女へと、永の別れを告げに。




フェアリアから目的を達成して、無事に帰還したミコトへ待っていたのは。


「朕の親王に仕えよ、蒼いの姫ミコトよ」


帝に召し出され、宮内に身を置く日が来た。


「宮の住まう離宮で待っておるが良い」


十二単を纏うミコトが、恭しく詔を受けて下がる。

女官達に付き従われて、宮中の廊下を進み往く。


「ああ、せめて最期に。

 真盛様へと言上したかった・・・」


まだ武士の身分だった折、親王光の宮殿下は優しく接してくだされた。

露とも知れない卑しき自分を、旧来の家臣のように取り立ててくだされた。


自分が鬼の探索を命じられ、あの珠を手に出来たのも殿下の命あればこそ。

御上の前に参内出来る身に成れたのも、神官巫女に抜擢されたのも。

何もかもが真盛の君が手を差し出してくれたからこそ。


「もしも願いが叶うのなら。

 最期に一目だけでも良いから、真盛の君にお逢いしたい。

 お逢いして・・・感謝を申し上げたい」


同じ親王に嫁ぐのに、一度側室として召し抱えられたのなら他の殿方とお逢いできなくなる。

それが分っているから、どうしても最期に一言だけでもお礼を申し上げたかった。


一縷の望みを奇跡に託していたミコトであったが、無情にも叶えられる筈もなく。

とうとう、親王の住まいに入ってしまった。


昼間に親王の住まいへ来たのだが、どうした事か相手は現れず。

唯、夕日が落ちるのを眺めて過ごした。

皇居である宮内から離れた宮で、ミコトはどの親王の側室にされるかも知らされずにいた。

傍に居る女官にそれとなく伺うのだが、親王からの命だと断られてしまうだけ。


「ああ・・・私を嫌われておられるのだろうか?

 それとも・・・帝の命を受けて。

 子を孕ませるだけの女だと、思われておられるのだろうか」


夜の帳が墜ち、月明かりが落ちて来ても親王は来てくれない。

灯りが燈されても・・・尚。


夜が更けるに連れ、ミコトの心細さが否応にも増したころ。

それまで傍に居た女官達が、ミコト一人を残して下がって行った。


「・・・やっと。

 私に会いに来てくだされたのか?」


現れる殿方は、どの宮様なのか。

如何様に我が身を処せられるのか・・・と、身を固くしていると。



 ピィ~ピルロ♪


横笛の音色が庭先から聞こえて来た。


「宮様?その笛の音は?!」


耳に飛び込んで来た笛の音に、ミコトの身体が勝手に動いた。

襖を曳き、笛を吹く人を探す・・・と。


「宮様?!光の宮殿下ではござりませんか?!」


まさか・・・とは思った。

神様が最期の願いを聴き遂げてくだされた・・・奇跡を感謝した。


「お逢いしとうございました。

 今迄の御恩に何も報えない身を、どうかお許しくださいませ」


声が震え、涙が湧いて来るのも厭わず。


「真盛の君様、どうか。

 どうか蒼いの姫を。ミコトをお許しくださいませ」


廊下に飛び出して平伏する。

心が通う、唯一人の殿方へと。


ゆるゆると笛の音をたてていた宮が、ミコトへと振り返る。

涼し気な瞳に優しさを湛えて。


「ミコト。

 今宵の月は格別だね、本当に美しい。

 今の君のように、穢れ無き姿だと思わないかい?」


「は・・・はい。

 満月ですから、殊更に明るいと・・・え?」


光の宮は庭先から歩を進めてミコトの傍まで来る。


「あ、あの?殿下は斯様な処へなぜ?」


側室として迎えられた自分の処へ現れたのかと質す。


「いけないかい?ここは私の離宮だよ?」


「ですからなぜ・・・ほぇ?!」


宮の言う意味を悟ったミコトの声が裏返る。


「真盛様の宮?!

 ここは光の真盛様のみやぁ?!」


驚くミコトへ真盛宮が手を指し伸ばし、


「そうだよミコト。

 御上に頼んだのは私なんだよ。

 正室としてだったけど、そこは無理だと断られちゃったんだけどね」


「あ?いやあの?!

 私なんかをどうして?」


戸惑うミコトの手を掴んだ宮様の顔がクスッと笑うと。


「覚えていないのかい?

 私は真剣に求婚したんだけどなぁ。

 ミコトは答えてはくれなかっただろ。

 いつも身分が違うからと、哀し気に言っていたじゃないか。

 どうしても嫌だというのなら・・・」


十二単のミコトの腰を引き寄せて。


「私の妻になるのが嫌なら。

 この手を振り解いて見せると良い」


真意を正して来る。


「ちょッ?!真盛様?」


月明かりだけが二人を照らす。

月の光だけが二人の仲を見守る。


もう、目と鼻の先に想い人の顔がある。

叶わぬ恋だと身を引き続けて来たミコトの前に。


「お戯れが過ぎます!

 魔法を喰らいたいおつもりですか?」


それでも、なんとか自制しようとツンとした態度を執るつもりだった。


挿絵(By みてみん)


「嫌だったら、当の前に振り解いて・・・」


怒ったふりをして誤魔化そうとしたのだが。


「じゃぁ・・・良いんだね。

 今宵からミコトは私のモノだから・・・」


「モノとか、そんな風に言わないで・・・ん?!」


更に抱き寄せられ、ミコトの顔に宮が重なる。


「う・・・んふぅ?!」


今迄頑なに拒んで来た想いが、その一瞬で溶けて無くなる。

知らずに瞼を伏せ、いだき続けられるのを拒めなくなる。



 つぅ~~~~~・・・と。


月明かりに光るのは、嬉し涙か。

それとも、願いが訊き遂げられた感謝への表れか。


「蒼いの姫ミコトよ。

 私の妃となっておくれ。

 いついつまでも、私と共に居ると約束しておくれ」


「断れる筈も無いではありませんか。

 こんなにもお慕い申し上げているのをお分かりなら。

 どうか私の方こそお願い致しとうございます」


微笑む真盛の宮に、決心を伝えて。


「どうか、真盛様のお近くに。

 ミコトを傍に置いてくださいまし」


求婚を快諾した。


蒼いの姫と光の宮が正式に婚儀を終えたのは、その夜から程ない頃。

一生を通じて、正室を迎えなかった光の宮。

その陰で支え続けたミコトを、当時の書はこう記している。


<<蒼いの姫は二人の子を授かった。

  子の一人は皇子となり、もう一人は野に下る。

  野に下った子は光家の始祖となり、後々まで家名を残す。

  異能の祓い者として、神職に身を置いたと聞く>>


神官巫女ミコトの物語はそこで途絶えている。

フェアリアにて双璧の魔女とまで呼ばれた魔法使いの乙女は、その一生を幸せに終えただろうことが記されている。


そう・・・伝記の中では。




新しい世界で始まった絆の始り。


審判の女神が欲している幸せへの幕開けにも思えた。



だが、気がかりなのは。


未来に繋げられるのか?

宿命を授けられた神子達にも?


それと・・・


ミコトの師匠がどうなったのか?

魔法使いのミコトに宿っていたのではなかったのか?




その答えは、古書の中に在る。



「この書をしたためるのが、私に残された務めなのです」


命を全うする前、蒼いの姫が側近に言い伝えた。


「我がお師匠様から言い遣っていた通り。

 後の光家に残さねばならないのです」


老いたミコトがしたため続けるのは。


「我が異能の限りを記した書。

 魔法の使い道と、後の世に現れる怪異との争い。

 日の本の国以外でも、戦が繰り広げられ。

 やがては終末の闘いへと発展する。

 それを防ぐには・・・神の許しが必要なのだと」


表紙には<故事古今記>と記された魔法を伝えた書。

その編纂に残りの一生を費やして来たミコトだった。


「私の替わりは他に居るから。

 理の女神は眠りに就いた、遠く未来まで。

 その眠りを覚ますのは、戦と言う惨禍に人々が晒される時。

 私の子孫達に、危難が近付く時・・・そして」


蒼く光る石の在処は?


「蒼き石には女神は宿れない。

 本来ならば石へと宿るつもりだったらしいけど。

 もっと大事なことに気付いたと言われた。

 理の女神は違うモノへと宿ると言ったのよ。

 石には私が宿れと・・・稀代の魔法使いならばって」


したため終えた書を観て、ミコトは微笑むと。


「女神は、この中へと。

 私の記した書に宿るからと。

 書を観る者が邪な者ならば、忽ちにして鉄槌を下すからと」


魔法の使い道を誤らせないように?

世界の行く末を案じるから?


「蒼き石は皇家へと受け継がれる。

 私の名を受け継ぐ宮に拠って、持つべき者へと返されるまで」


ミコトの師匠であった理の女神が、命じたのだろう。

未来を案じて一計を謀ったのかもしれない。


悪意の人間が現れ、悪魔を復活させようと目論んでいると警告しているのだ。

その時、蒼き石の魔力が解き放たれるのだと。


ミコトのように、絶大なる魔法力を持つ者が現れるのなら。


「その時こそが、女神が蘇る時。

 陰の存在ではなく、世に現れ人を導く。

 我が子孫に、その役目を担わせねばならないの」


光の家に受け継がれる魔力と、皇家の中で眠る魔法書が見いだされる時。

その時は必ず来てしまうのだと。


死を迎える前、ミコトは最期の魔法を自らに放った。

永眠すら出来ない、永劫の呪いを。


受け継ぐ者の中に眠り、その時が来れば・・・


「私を目覚めさせるのは・・・運命の御子」


死は断絶ではないと悟り、永き眠りへと堕ちて行く。


受け継がれる異能。

受け継がれた宿命。


・・・彼女の想いも。






権力闘争が日ノ本でも戦乱を巻き起こした。

国家の統一は、その後にまで続けられた。


しかし、島国である日ノ本が他国から攻め込まれる事は無かった。

何度かの制圧軍が押し寄せたが、その度に神風が吹き荒れて護り抜けた。


それこそが八百万の神に護られし御国の謂れ。

扶桑の国のまほろば。


だが、近代になるとそうとは言い切れなくなる。

他国から攻め込まれなかった日ノ本だったが、経済を形成するに及んで攻められる側から攻める側へと身を置くようになる。


帝国主義が罷り通る最中、日の本も帝国とならんとして勢力を拡大させていった。


西へと。

大陸へ進出し、南方の資源を欲して。


帝国主義は他国との衝突を生む。

それは、未だに対外戦争というモノを知らない国が執るべき道では無かった。

文明開化の嵐に飲み込まれた、発展途上の国にも由る。


歴史は再び暗黒の時代へと転げだしているのを、世界中が知る筈も無かった。


唯一人を於いて。


たった独りの女性宮の他には・・・

受け継がれる魔法の異能ちから

神話と化した双璧の魔女が残した魔法書が後の世まで残ったのか?


<故事古今記>と蒼き珠の行方は?

いにしえから脈々と受け継がれる異能が、彼女達の絆を造る。


そして。

時代は次の審判を迎えようとする近代へ。

開国後、東の島国は近代化を急いだ。

民へ臥薪嘗胆を命じ、強国の仲間入りを目指して。

その結果が・・・対外戦争に発展するのは必定なのに・・・


次回 新世界へ ACT 7 宿命を受け継ぐ者

次代の御子達が邂逅を迎える時。宿命の歯車も回り出す・・・


いよいよ魔鋼騎戦記フェアリアの時代へと物語が動き始めます

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