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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第8章 新世界へ<Hajimari no Babelu>
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新世界へ ACT 4 バベルの光(きぼう)

二度目の破滅の後。

新たに生み出された人類だったが・・・


人間の本性は変えられないというのか?

二度目の替えられた世界でも・・・人類は過ちを犯し続けた。


繰り返される人同士のいくさ

未熟な人類においても、戦争の惨禍は同じ事。

名も無き兵や民が斃れ、村や町が灰燼に帰した。


そして・・・国家でさえもが失われていった。



大陸北方の地に、野望を描く領主が現れる。

その者は野心のままに領地の拡大を図った。


野心家は弱小領主を傀儡とするか飲み込んだ。

謀を巡らせ、敵対する者を亡き者として、国家を樹立させる。

武力で支配地を拡大し、小国から強国へと成る。

強国の王となった野心家は、近隣の諸国家を討ち從える。

それにより、更に強大国となって周り中の国を攻め落とすと。

支配する王は慢心し、やがて諸侯を束ねる皇帝と名乗る。


皇帝が支配する強大国家は<帝国>を名乗り、敵対する国家と干戈を交える。

それがどれ程弱小国家だろうと、どんなに抵抗しようと今迄の通りに。



大陸北部を手中に収めた<ロッソア>は、やがて魔手を西へと向けた。

恐怖政治を執り行うロッソアの王は、西に在る小国<フェアリア>へ臣下に下るように命じた。

戦えば一捻りで攻め滅ぼせると踏んでの勧告だったのだが、退けられてしまう。

勧告を無碍にされた皇帝は、戦端を開いてしまった。

小国だと舐め切っていた皇帝だったが、小国に思いのほか手強く応戦し続けられてしまった。


万の軍勢に対し、小国が繰り出せるのは千にも満たない寡兵。

数倍以上の戦力差を跳ね除けられ続けるのには訳があったのだ。




黄金で設えられた剣が一閃する。


帝国将兵へ向けて、白刃が煌めいた。


 ギュゴォッ!


突如巻き起こった旋風が兵達を吹き飛ばす。


剣を振り抜いた者の傍らで、薙刀槍を振り回す者が呪文を解き放つ。


 ゴワァッ!


爆焔が捲きかえり、兵達が炙られて逃げ惑う。

群がる帝国将兵は、その者達に怯え竦みあがる。

そして、二人の敵に畏怖を込めて。


「魔女だ!双璧の魔女が現れたぞ!」


恐怖と怯えの混じる叫びが戦場に流れる。

万の兵は、たった二人の敵に怯え上がる。

恐怖は伝播し、優勢な帝国軍を壊走させた。


黄金の剣を持つ者。

薙刀槍を操る者。


二人をして、<双璧の魔女>と呼ばせたのは・・・


「我等の魔法に臆する者達に告ぐ。

 この地は<フェアリア>の領土。

 如何なる国も侵犯してはならぬ聖なる地」


「心して王に伝えるが良い。

 フェアリアには双璧たる魔女が居るのを」


魔法の存在。魔法使いの存在・・・そして。


「フェアリア王女<リィン>と、剣薙<ミコト>が居る限り。

 ロッソアが勝利する事は出来ないと、王に伝えるが良い」


魔法を使える王女の存在。

そして魔法を操る二人が起ち阻むのだと。


逃げるロッソアの将兵。

怯えて恐慌状態と化した軍勢を立て直す事もままならずに。


たった二人の魔法使いに、強国ロッソアは敗退してしまったのだ。


万の軍勢だろうとも、人知を超えた存在<魔法>には勝てなかった。

それは、人類に与えられた新たなるちから

無限の可能性を秘めた、神の贈り物。


強大国家ロッソアを壊走せしめた二人の魔法使い。

それはやがて、フェアリアの伝説となった。

伝説の王女と、救国の乙女達の言い伝えとして。


人類に魔法が認められるようになるまでの間。





古の昔に起きた逸話は、千年もの永き年月を越え。


<双璧の魔女>は再来する。


女神が齎した約束の地で。

女神を秘めた、神託の国で。


虎視眈々と仇敵を落とそうと試み続けた帝国ロッソアと、未だに小国のフェアリアが。

干戈を交えたのは、伝説から千年も後の話。


帝国主義を謳う世界で、北方の軍事大国となっていたロッソア帝国が攻め寄せた。

故事と同じく、倍する勢力で。

只、違ったのは。

嘗ての侵略とは破壊力が格段になっていたこと。

機械の開発に拠り、悲惨さが数倍にも膨れ上がっていた。


兵達が手にするのは、槍や剣では無くなり。

小銃や機関銃、それに手榴弾。

乗り込んでいたのも軍馬ではなく、機械の足を持つ物。

自動車やバイク・・・そして。



 キュラキュラキュラ・・・・



無限軌道キャタピラを装備する、鋼鉄のいくさくるま

それまで人馬が白刃を煌めかせて闘った戦争を一変させた、陸の破壊車。


大砲を装備し、機銃を掃射する。

敵の陣地を踏み躙り、人をも踏み潰す。


敵する者へ、容赦なく死を贈る。

抗う者を屍へと変える・・・


陸の悪魔。

陸の王者。


その姿を観た敵は、恐怖に慄く。


無限軌道の跡を残して走る、鋼鉄の悪魔。

その名は・・・<戦車パンツァー>。


そして、両国の間で開発された戦車の中で。

一際異名をとる戦車があった。


魔女の乗る戦車いくさくるま

魔法を以って敵を討つ。

魔の砲で、仇を撃つ者が居るのだ。


人は畏怖を込めて魔女の乗る戦車を、


 <<魔鋼騎マギカナイト>>


・・・そう、呼んだのだ。


味方からも、仇敵からも畏怖を込めて。

数多の伝説を生み、数知れぬ悲劇を呼び。


両国の干戈は、魔法を以ってしても終わる事は無く。

魔法を使う者達の命をも奪い続けて。

フェアリアとロッソアは1年もの間闘い続ける。

双方が勝利を手中に収められず、双方が灰燼に帰す事も防げず。


魔法使い達の命を犠牲にしても、数多の将兵の犠牲でも平和は勝ち得なかった。

理不尽な不幸は蔓延し、暗黒の時代の幕開けかと思われた。


だが。


戦争の悲惨さが、彼女を呼び覚ます事になる。

彼の地に眠っていた<彼女>を。


約束の地で千年紀ミレニアムを待ち続けていた彼女を。



「「新たなる世界でも・・・同じだった。

  魔法を与えてあげても、戦争に利用するだけだった・・・」」


自分の分身として生み出した金髪の少女を通して観て来た。


「「千年前からの宿命さだめだったのかな」」


最初に王女として現れた時から。

魔法を戦争に用いてしまった。

それから後、幾つもの悲劇が魔法に拠り起きた。

幾つもの奇跡を生み、数えきれないだけの絆も生まれた。


でも・・・と、彼女は想う。


「「もしかすると。

  審判を下すには早いのかもしれない」」


魔法を以って戦争を起こす人類に、微かではあるけどきぼうが見えた。


「「あの子が。目覚めてくれるかも知れないから」」


彼女の記憶が呼び覚まされる。


「「前の千年紀の折に、異界から墜ちて来た者が居た筈。

  月の民にも思えたんだけど?

  月からの使者だった気がするのだけど・・・」」


空に電磁階層を造ったセカンド・ブレィクの時。

隕石に交じって何かが地上へと降りて来た。


蒼い光を纏う者が、どこかへと舞い降りて来た筈だった。

どんな使命を帯びて来たのか。

如何なる者が、如何なる目的で?


「「もしかしたら。

  月の使者は・・・エイジじゃなかったの?」」


蒼い光を纏う使者に、彼女は出逢って見たかった。

もしかすると、使者に拠りこの世界が変わるかもしれないと考えたから。


「「もし、本当にエイジだとしたら。

  あたしには逢う資格が残されているのかな?」」


二度も世界を変え、二度も人類に終焉を与えてしまったのだから。


「「そう・・・リィンタルトには逢う資格なんて無いの。

  審判の女神は、愛しい人に逢ってはいけないのよ」」


あまりにも重い罪を背負ってしまった鍵の御子リィン。

審判を繰り返し、人の命を弄んでしまった女神リィン。


「「魔女・・・悪魔。

  いいえ、それ以上に罪は深いの。

  こんな断罪の女神には、許しなんて与えられる筈も無いのだから」」


もう、記憶にも失われそうになっている2千年前。

始まりの時を思い起こして、


「「未来から来た女神は、今度も来てくれなかった。

  もう、願いは絶たれてしまったのかしら。

  もう、あたしには未来永劫の闇しかないの?」」


光が欲しかった。

希望を手に掴みたかった。


微かな希望でも良いから、誰かに与えて貰いたかった。


その光は・・・


「「目覚めて。

  お願いだからあたしに光を見せて。

  せめて、パンドラの箱から出て来て・・・」」


未だにどこで眠っているのか分からないまま。


審判の女神と成り果てたリィンの希望は、目覚めてくれるのだろうか?

誰かが見つけて連れて来てくれるのだろうか?


バベルの塔と呼ばれた禁忌の地の奥深くで。

審判を司る少女は待つ。

誰かに拠って来訪者が見つけ出されるのを。

微かな希望の光を、与えられる時を。


「「無駄。無駄だよリィン。

  そいつはエイジではない。そいつは使者でもない。

  私の使命を邪魔する目的で送り込まれて来た。

  月の民が再び地上を支配する為だけに送り込んで来たんだ。

  だから・・・海の魔物に飲み込ませておいたよ」」


漆黒に染まるガーディアンが薄く笑う。


「「奴等の目的は分かり切った事。

  ユピテル・システムに干渉し、宙の結界を解き放つ。

  然る後に、地上を殲滅する気なんだろう」」


嘗て、聖戦闘人形と呼ばれたレィが言い放つ。


「「私は命じられた務めを果たさねばならない。

  鍵の御子、審判を司る女神を守る。

  その為ならば、地上を阿鼻叫喚に晒しても構うものか。

  全人類を駆逐しても、女神を守護するだけだ」」


闇に染まる瞳で、映し出されるモニターを睨む。

闇色に堕ちた髪を振り乱して嗤う。


「「間も無く、三回目の終末を迎える人類などに情けなどは必要ない」」


挿絵(By みてみん)


全人類を監視、管理する全能神機能ユピテル・システムが、次なる終わりを予告していた。

人類を終わりへと導くだけに堕ちてしまったシステムが、レィの命令を待っていた。


「「再び殲滅の時が来た。

  愚かなる人類へ、神の鉄槌を下すのだ!」」


永久冬眠状態のリィンに代わり、守護する者が命令をインプットする。


人類の殲滅を。

地上へと災禍を贈る為に・・・機械の指がコンソールを弾いた。


<<殲滅機械発動を確認。これよりサード・ブレィクを執り行います>>


バベルの塔に再び赤紫色の光が燈り始める。

機械達が目覚め、新たな人類の脅威が動き始めた。


「「女神リィンよ。

  あなたは永遠に目覚められない。

  あなたは永久に私によって守り続けられるのよ」」


漆黒の闇が、嘗ての戦闘人形を推し包んだ。

闇がいつの間にか迷宮の中で蔓延っていた。


まるで、2千年前の魔女が滅び去る前に、呪いをかけておいたかのように。

否。

隠れ忍んでいた魔女イシュタルの方割れが笑っているかのように・・・



全能の神を名乗るユピテル・システムが稼働を始める。

神の軍は、人類に対して殲滅戦を仕掛けて来た。

あらゆる国に対して、一切の情けも無く。

人の子一人として赦しなど無いとばかりに。

情け容赦無く、無慈悲な戦争を引き起こしたのだ。


それは、戦争を辞めない人類へ向けての最終戦争ハルマゲドン

神を以って、人を懲らしめる・・・終焉ケラウノスへの序曲。


繰り返される悲劇は、審判の女神を苛んだ。

悲劇を停める事が出来ない自らの情けなさに涙する。


そして・・・最期の賭けに出た。

審判を下すタイミングを早める・・・それは則ち。


「「今在る世界を。

  次の千年紀にコピーしよう。

  魔法をもう一度与えて、闇に打ち勝てるように。

  せめて蒼き使者を見つけられるように・・・」」


破滅機械ケラウノスの光で、今の世界を終わらせて。

造り出すのは似た世界で、同じ宿命を辿るように。

・・・そして。


「「もし、次の使者が舞い降りて来るのなら。

  その方に未来を託したい。

  再び来訪する者が居るのなら、壊れたユピテルを斃して貰いたい。

  そして願わくば、あたし達の元へと来て欲しい」」


前千年紀の終わりに来訪した者が居るのなら、今度もやって来てくれるかもしれない。

微かな希望への賭けだが、審判の女神は望みを託すことにした。


「「新たな人類には終焉が来た事なんて分からないでしょう。

  変えられたことに気が付けるとすれば、あの人達位なものだから」」


月に意識を移して思った。

地上ではない処から観たのなら、時が悪戯に流れていくと映るだろうと。


「「そう・・・思うでしょ麗美レィちゃん。

  ねぇ、そうだとは思わない、エイジ?」」


月で永き時を待っている二人へと訊ねて。


「「でも・・・バベルのきぼうは。

  あたし達に終わりを齎してくれるんだよ?」」


ユピテル・システムが殲滅する前に起動させた。

自分が思い描いた通りの世界へと。


もう一度だけ、同じ宿命を背負わせて。

唯一つだけ変えておいたのは・・・



「「リィン?!おまえは何を?」」


悪魔に豹変したレィが質した。


「「どうして人の中へ?運命を共にすると言うんだ?!」」


審判の女神としてではなく、運命を担う少女の身体へと宿る事にしたリィンの行為を。


「「あたしは・・・レィを停めたいんだよ。

  闇に囚われたレィを、邪悪に染まるレィを助けたいの」」


身動きできない冬眠状態の身体では出来なくとも、宿る身体ならば可能に思えた。

なんとかして苛ませる悪魔から解放してあげたいと想うからこそ。


だが、闇に染まるレィは答えた。


「「ふん・・・私を解放する?

  良いでしょう、やってごらんなさいリィン。

  でも、宿り主が潰えれば。

  またその体に戻って来るだけの事でしょ?

  あなたのお遊びに付き合ってあげるわ・・・不幸を撒き散らしてね」」


記憶として宿る者なら、宿り主が死に絶えれば帰らざるを得ないと。


「「私の記憶が正しいのなら、あなたもそれくらいの事は覚えている筈よね」」


ルシフォルがそうであったように、フューリーがそうなったように。


「「だから・・・あなたのお遊びに付き合ってあげる。

  最期の瞬間まで・・・不幸を撒き散らすが良いわ」」


闇に染まるレィからは、どう足掻いても殲滅からは逃れられないと言われてしまった。

それと、リィンの運命を掛け合わせて。


「「あたしは・・・女神である前に。

  人であり続ける者よ、レィ。

  人であるのなら、運命に抗うのは当然では無くて?」」


「「リィンが愚かな人などである筈が無いじゃないか。

  永久を手にした神以外の何者でもないだろう?」」


抗うリィンと否定し続けるレィ。

そして二人は・・・


「「良いさリィンのお遊びに付き合うと言ったんだ。

  気が済むまで、何度だって不幸を振り撒いてやるよ。

  死んでしまいたいくらいの・・・不幸の渦中へと・・・ね」」


「「レィが悪魔になるのなら。

  あたしは女神のままで抗い続けるから。

  人を信じて、愛を紡ぐ者として存在してみるから!」」


敵対する者となり、相まみえるのだと。


赤紫に染まる悪しき殲滅の光の前に。

青紫の光がケラウノスから放たれた。


戦争に染まる人類の頭上へと。


審判の女神リィンに拠り、バベルの光が降って来た。


それは古の閃光にして、神が望む希望への幕開け。

人類の最期を食い止めたリィンタルトのきぼうでもあったのだ。




青紫の閃光が地上を覆った時。


「弟の元へ・・・マモルを探しに」


月からの使者が、もう一人。


地上テラへ。

 私が宿るべき人の元へと・・・」


蒼き珠が流星の如く流れていく。


運命の巫女の元へと。

最期のシ者が舞い降りて来た・・・

  

審判の女神リィンは願いを籠めてケラウノスを発動させる。

次の千年紀こそは・・・と。


その願いが生み出したのは。

人与えられた異能。

<<魔法>>と呼ぶ、人を変える筈のちからだった・・・


新しき世界に生まれしは<魔法>

魔法により産まれるのは<絆>


そして・・・伝説を生むのだ!


次回 新世界へ ACT 5 伝説の魔法使い

その昔、北欧の小国<フェアリア>に生まれた伝説。

強国に屈せず、誇り高い独立を維持できたのは、<双璧の魔女>の存在があったから・・・

姫騎士リインと神官巫女ミコトの絆が産んだ、救国の物語が蘇る?!

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