新世界へ ACT 4 バベルの光(きぼう)
二度目の破滅の後。
新たに生み出された人類だったが・・・
人間の本性は変えられないというのか?
二度目の替えられた世界でも・・・人類は過ちを犯し続けた。
繰り返される人同士の戦。
未熟な人類においても、戦争の惨禍は同じ事。
名も無き兵や民が斃れ、村や町が灰燼に帰した。
そして・・・国家でさえもが失われていった。
大陸北方の地に、野望を描く領主が現れる。
その者は野心のままに領地の拡大を図った。
野心家は弱小領主を傀儡とするか飲み込んだ。
謀を巡らせ、敵対する者を亡き者として、国家を樹立させる。
武力で支配地を拡大し、小国から強国へと成る。
強国の王となった野心家は、近隣の諸国家を討ち從える。
それにより、更に強大国となって周り中の国を攻め落とすと。
支配する王は慢心し、やがて諸侯を束ねる皇帝と名乗る。
皇帝が支配する強大国家は<帝国>を名乗り、敵対する国家と干戈を交える。
それがどれ程弱小国家だろうと、どんなに抵抗しようと今迄の通りに。
大陸北部を手中に収めた<ロッソア>は、やがて魔手を西へと向けた。
恐怖政治を執り行うロッソアの王は、西に在る小国<フェアリア>へ臣下に下るように命じた。
戦えば一捻りで攻め滅ぼせると踏んでの勧告だったのだが、退けられてしまう。
勧告を無碍にされた皇帝は、戦端を開いてしまった。
小国だと舐め切っていた皇帝だったが、小国に思いのほか手強く応戦し続けられてしまった。
万の軍勢に対し、小国が繰り出せるのは千にも満たない寡兵。
数倍以上の戦力差を跳ね除けられ続けるのには訳があったのだ。
黄金で設えられた剣が一閃する。
帝国将兵へ向けて、白刃が煌めいた。
ギュゴォッ!
突如巻き起こった旋風が兵達を吹き飛ばす。
剣を振り抜いた者の傍らで、薙刀槍を振り回す者が呪文を解き放つ。
ゴワァッ!
爆焔が捲きかえり、兵達が炙られて逃げ惑う。
群がる帝国将兵は、その者達に怯え竦みあがる。
そして、二人の敵に畏怖を込めて。
「魔女だ!双璧の魔女が現れたぞ!」
恐怖と怯えの混じる叫びが戦場に流れる。
万の兵は、たった二人の敵に怯え上がる。
恐怖は伝播し、優勢な帝国軍を壊走させた。
黄金の剣を持つ者。
薙刀槍を操る者。
二人をして、<双璧の魔女>と呼ばせたのは・・・
「我等の魔法に臆する者達に告ぐ。
この地は<フェアリア>の領土。
如何なる国も侵犯してはならぬ聖なる地」
「心して王に伝えるが良い。
フェアリアには双璧たる魔女が居るのを」
魔法の存在。魔法使いの存在・・・そして。
「フェアリア王女<リィン>と、剣薙<ミコト>が居る限り。
ロッソアが勝利する事は出来ないと、王に伝えるが良い」
魔法を使える王女の存在。
そして魔法を操る二人が起ち阻むのだと。
逃げるロッソアの将兵。
怯えて恐慌状態と化した軍勢を立て直す事もままならずに。
たった二人の魔法使いに、強国ロッソアは敗退してしまったのだ。
万の軍勢だろうとも、人知を超えた存在<魔法>には勝てなかった。
それは、人類に与えられた新たなる力。
無限の可能性を秘めた、神の贈り物。
強大国家ロッソアを壊走せしめた二人の魔法使い。
それはやがて、フェアリアの伝説となった。
伝説の王女と、救国の乙女達の言い伝えとして。
人類に魔法が認められるようになるまでの間。
古の昔に起きた逸話は、千年もの永き年月を越え。
<双璧の魔女>は再来する。
女神が齎した約束の地で。
女神を秘めた、神託の国で。
虎視眈々と仇敵を落とそうと試み続けた帝国ロッソアと、未だに小国のフェアリアが。
干戈を交えたのは、伝説から千年も後の話。
帝国主義を謳う世界で、北方の軍事大国となっていたロッソア帝国が攻め寄せた。
故事と同じく、倍する勢力で。
只、違ったのは。
嘗ての侵略とは破壊力が格段になっていたこと。
機械の開発に拠り、悲惨さが数倍にも膨れ上がっていた。
兵達が手にするのは、槍や剣では無くなり。
小銃や機関銃、それに手榴弾。
乗り込んでいたのも軍馬ではなく、機械の足を持つ物。
自動車やバイク・・・そして。
キュラキュラキュラ・・・・
無限軌道を装備する、鋼鉄の戦車。
それまで人馬が白刃を煌めかせて闘った戦争を一変させた、陸の破壊車。
大砲を装備し、機銃を掃射する。
敵の陣地を踏み躙り、人をも踏み潰す。
敵する者へ、容赦なく死を贈る。
抗う者を屍へと変える・・・
陸の悪魔。
陸の王者。
その姿を観た敵は、恐怖に慄く。
無限軌道の跡を残して走る、鋼鉄の悪魔。
その名は・・・<戦車>。
そして、両国の間で開発された戦車の中で。
一際異名をとる戦車があった。
魔女の乗る戦車。
魔法を以って敵を討つ。
魔の砲で、仇を撃つ者が居るのだ。
人は畏怖を込めて魔女の乗る戦車を、
<<魔鋼騎>>
・・・そう、呼んだのだ。
味方からも、仇敵からも畏怖を込めて。
数多の伝説を生み、数知れぬ悲劇を呼び。
両国の干戈は、魔法を以ってしても終わる事は無く。
魔法を使う者達の命をも奪い続けて。
フェアリアとロッソアは1年もの間闘い続ける。
双方が勝利を手中に収められず、双方が灰燼に帰す事も防げず。
魔法使い達の命を犠牲にしても、数多の将兵の犠牲でも平和は勝ち得なかった。
理不尽な不幸は蔓延し、暗黒の時代の幕開けかと思われた。
だが。
戦争の悲惨さが、彼女を呼び覚ます事になる。
彼の地に眠っていた<彼女>を。
約束の地で千年紀を待ち続けていた彼女を。
「「新たなる世界でも・・・同じだった。
魔法を与えてあげても、戦争に利用するだけだった・・・」」
自分の分身として生み出した金髪の少女を通して観て来た。
「「千年前からの宿命だったのかな」」
最初に王女として現れた時から。
魔法を戦争に用いてしまった。
それから後、幾つもの悲劇が魔法に拠り起きた。
幾つもの奇跡を生み、数えきれないだけの絆も生まれた。
でも・・・と、彼女は想う。
「「もしかすると。
審判を下すには早いのかもしれない」」
魔法を以って戦争を起こす人類に、微かではあるけど光が見えた。
「「あの子が。目覚めてくれるかも知れないから」」
彼女の記憶が呼び覚まされる。
「「前の千年紀の折に、異界から墜ちて来た者が居た筈。
月の民にも思えたんだけど?
月からの使者だった気がするのだけど・・・」」
空に電磁階層を造ったセカンド・ブレィクの時。
隕石に交じって何かが地上へと降りて来た。
蒼い光を纏う者が、どこかへと舞い降りて来た筈だった。
どんな使命を帯びて来たのか。
如何なる者が、如何なる目的で?
「「もしかしたら。
月の使者は・・・エイジじゃなかったの?」」
蒼い光を纏う使者に、彼女は出逢って見たかった。
もしかすると、使者に拠りこの世界が変わるかもしれないと考えたから。
「「もし、本当にエイジだとしたら。
あたしには逢う資格が残されているのかな?」」
二度も世界を変え、二度も人類に終焉を与えてしまったのだから。
「「そう・・・リィンタルトには逢う資格なんて無いの。
審判の女神は、愛しい人に逢ってはいけないのよ」」
あまりにも重い罪を背負ってしまった鍵の御子リィン。
審判を繰り返し、人の命を弄んでしまった女神リィン。
「「魔女・・・悪魔。
いいえ、それ以上に罪は深いの。
こんな断罪の女神には、許しなんて与えられる筈も無いのだから」」
もう、記憶にも失われそうになっている2千年前。
始まりの時を思い起こして、
「「未来から来た女神は、今度も来てくれなかった。
もう、願いは絶たれてしまったのかしら。
もう、あたしには未来永劫の闇しかないの?」」
光が欲しかった。
希望を手に掴みたかった。
微かな希望でも良いから、誰かに与えて貰いたかった。
その光は・・・
「「目覚めて。
お願いだからあたしに光を見せて。
せめて、パンドラの箱から出て来て・・・」」
未だにどこで眠っているのか分からないまま。
審判の女神と成り果てたリィンの希望は、目覚めてくれるのだろうか?
誰かが見つけて連れて来てくれるのだろうか?
バベルの塔と呼ばれた禁忌の地の奥深くで。
審判を司る少女は待つ。
誰かに拠って来訪者が見つけ出されるのを。
微かな希望の光を、与えられる時を。
「「無駄。無駄だよリィン。
そいつはエイジではない。そいつは使者でもない。
私の使命を邪魔する目的で送り込まれて来た。
月の民が再び地上を支配する為だけに送り込んで来たんだ。
だから・・・海の魔物に飲み込ませておいたよ」」
漆黒に染まるガーディアンが薄く笑う。
「「奴等の目的は分かり切った事。
ユピテル・システムに干渉し、宙の結界を解き放つ。
然る後に、地上を殲滅する気なんだろう」」
嘗て、聖戦闘人形と呼ばれたレィが言い放つ。
「「私は命じられた務めを果たさねばならない。
鍵の御子、審判を司る女神を守る。
その為ならば、地上を阿鼻叫喚に晒しても構うものか。
全人類を駆逐しても、女神を守護するだけだ」」
闇に染まる瞳で、映し出されるモニターを睨む。
闇色に堕ちた髪を振り乱して嗤う。
「「間も無く、三回目の終末を迎える人類などに情けなどは必要ない」」
全人類を監視、管理する全能神機能が、次なる終わりを予告していた。
人類を終わりへと導くだけに堕ちてしまったシステムが、レィの命令を待っていた。
「「再び殲滅の時が来た。
愚かなる人類へ、神の鉄槌を下すのだ!」」
永久冬眠状態のリィンに代わり、守護する者が命令をインプットする。
人類の殲滅を。
地上へと災禍を贈る為に・・・機械の指がコンソールを弾いた。
<<殲滅機械発動を確認。これよりサード・ブレィクを執り行います>>
バベルの塔に再び赤紫色の光が燈り始める。
機械達が目覚め、新たな人類の脅威が動き始めた。
「「女神リィンよ。
あなたは永遠に目覚められない。
あなたは永久に私によって守り続けられるのよ」」
漆黒の闇が、嘗ての戦闘人形を推し包んだ。
闇がいつの間にか迷宮の中で蔓延っていた。
まるで、2千年前の魔女が滅び去る前に、呪いをかけておいたかのように。
否。
隠れ忍んでいた魔女の方割れが笑っているかのように・・・
全能の神を名乗るユピテル・システムが稼働を始める。
神の軍は、人類に対して殲滅戦を仕掛けて来た。
あらゆる国に対して、一切の情けも無く。
人の子一人として赦しなど無いとばかりに。
情け容赦無く、無慈悲な戦争を引き起こしたのだ。
それは、戦争を辞めない人類へ向けての最終戦争。
神を以って、人を懲らしめる・・・終焉への序曲。
繰り返される悲劇は、審判の女神を苛んだ。
悲劇を停める事が出来ない自らの情けなさに涙する。
そして・・・最期の賭けに出た。
審判を下すタイミングを早める・・・それは則ち。
「「今在る世界を。
次の千年紀にコピーしよう。
魔法をもう一度与えて、闇に打ち勝てるように。
せめて蒼き使者を見つけられるように・・・」」
破滅機械ケラウノスの光で、今の世界を終わらせて。
造り出すのは似た世界で、同じ宿命を辿るように。
・・・そして。
「「もし、次の使者が舞い降りて来るのなら。
その方に未来を託したい。
再び来訪する者が居るのなら、壊れたユピテルを斃して貰いたい。
そして願わくば、あたし達の元へと来て欲しい」」
前千年紀の終わりに来訪した者が居るのなら、今度もやって来てくれるかもしれない。
微かな希望への賭けだが、審判の女神は望みを託すことにした。
「「新たな人類には終焉が来た事なんて分からないでしょう。
変えられたことに気が付けるとすれば、あの人達位なものだから」」
月に意識を移して思った。
地上ではない処から観たのなら、時が悪戯に流れていくと映るだろうと。
「「そう・・・思うでしょ麗美ちゃん。
ねぇ、そうだとは思わない、エイジ?」」
月で永き時を待っている二人へと訊ねて。
「「でも・・・バベルの光は。
あたし達に終わりを齎してくれるんだよ?」」
ユピテル・システムが殲滅する前に起動させた。
自分が思い描いた通りの世界へと。
もう一度だけ、同じ宿命を背負わせて。
唯一つだけ変えておいたのは・・・
「「リィン?!おまえは何を?」」
悪魔に豹変したレィが質した。
「「どうして人の中へ?運命を共にすると言うんだ?!」」
審判の女神としてではなく、運命を担う少女の身体へと宿る事にしたリィンの行為を。
「「あたしは・・・レィを停めたいんだよ。
闇に囚われたレィを、邪悪に染まるレィを助けたいの」」
身動きできない冬眠状態の身体では出来なくとも、宿る身体ならば可能に思えた。
なんとかして苛ませる悪魔から解放してあげたいと想うからこそ。
だが、闇に染まるレィは答えた。
「「ふん・・・私を解放する?
良いでしょう、やってごらんなさいリィン。
でも、宿り主が潰えれば。
またその体に戻って来るだけの事でしょ?
あなたのお遊びに付き合ってあげるわ・・・不幸を撒き散らしてね」」
記憶として宿る者なら、宿り主が死に絶えれば帰らざるを得ないと。
「「私の記憶が正しいのなら、あなたもそれくらいの事は覚えている筈よね」」
ルシフォルがそうであったように、フューリーがそうなったように。
「「だから・・・あなたのお遊びに付き合ってあげる。
最期の瞬間まで・・・不幸を撒き散らすが良いわ」」
闇に染まるレィからは、どう足掻いても殲滅からは逃れられないと言われてしまった。
それと、リィンの運命を掛け合わせて。
「「あたしは・・・女神である前に。
人であり続ける者よ、レィ。
人であるのなら、運命に抗うのは当然では無くて?」」
「「リィンが愚かな人などである筈が無いじゃないか。
永久を手にした神以外の何者でもないだろう?」」
抗うリィンと否定し続けるレィ。
そして二人は・・・
「「良いさリィンのお遊びに付き合うと言ったんだ。
気が済むまで、何度だって不幸を振り撒いてやるよ。
死んでしまいたいくらいの・・・不幸の渦中へと・・・ね」」
「「レィが悪魔になるのなら。
あたしは女神のままで抗い続けるから。
人を信じて、愛を紡ぐ者として存在してみるから!」」
敵対する者となり、相まみえるのだと。
赤紫に染まる悪しき殲滅の光の前に。
青紫の光がケラウノスから放たれた。
戦争に染まる人類の頭上へと。
審判の女神リィンに拠り、バベルの光が降って来た。
それは古の閃光にして、神が望む希望への幕開け。
人類の最期を食い止めたリィンタルトの光でもあったのだ。
青紫の閃光が地上を覆った時。
「弟の元へ・・・マモルを探しに」
月からの使者が、もう一人。
「地上へ。
私が宿るべき人の元へと・・・」
蒼き珠が流星の如く流れていく。
運命の巫女の元へと。
最期のシ者が舞い降りて来た・・・
審判の女神リィンは願いを籠めてケラウノスを発動させる。
次の千年紀こそは・・・と。
その願いが生み出したのは。
人与えられた異能。
<<魔法>>と呼ぶ、人を変える筈の力だった・・・
新しき世界に生まれしは<魔法>
魔法により産まれるのは<絆>
そして・・・伝説を生むのだ!
次回 新世界へ ACT 5 伝説の魔法使い
その昔、北欧の小国<フェアリア>に生まれた伝説。
強国に屈せず、誇り高い独立を維持できたのは、<双璧の魔女>の存在があったから・・・
姫騎士リインと神官巫女ミコトの絆が産んだ、救国の物語が蘇る?!




