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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第8章 新世界へ<Hajimari no Babelu>
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新世界へ ACT 2 零<はじまり>の嘆き

タナトスは眠りに就いた。

千年後の終末が来るまでの間。


一方、鍵の御子を護る役目を仰せつかったレィは?

未来から来た女神が託していった。


いつの日にかは約束が果たされるからと。



「護るのが私に与えられた唯一の任。

 女神と成ったリィンタルトを守護するのが唯一無比の責務」


聖戦闘人形に宿るレィは誓いを立てた。

どんなに年月が過ぎようとも、必ずや護り抜くと。


「それが私の存在意義。

 それだけが守護者(ガーディアン)たる者の務め」


いつの日にかは再興を果す筈の人類を見守る女神リィンの傍に控え、悪しき者から護り抜くように託された。

現れた3千年女神から頼まれたのは、未来をも左右する護りし者として存在し続ける事。

新たなる世界で、審判の女神となるリィンを邪悪から守り続け、再興する人類が清浄なのかの判断を下させる。

結果次第では再度の破滅が齎されてしまうのだが、その日を迎えた後であっても。


「何度繰り返されるにしても、私はリィンを守り続けるのみ」


破滅が繰り返されようが、終わりは遥か先。


「私の任務が終わる時。

 それは月の住人達が舞い戻る時しかない。

 あの子によって眠姫スリーピングビューティが目覚めを迎える意外には来ない」


憂うレィは彼の地に眠る人々を想う。

月の裏側に在る植民地で眠っているだろう運命の子達を想い。


「エイジ・・・そして本当の私。

 戻れたのなら、リィンの元へ来て欲しい。

 その時を迎えられれば、私は<わたし>へと戻れる」


そうしなければ、女神から託されたガーディアンの任は終われない。

人形の記憶たましいになった自分に、終わりが来てはくれない。


「どれだけ待てば良いんだろう?

 私はいつまで耐えれば良いの?」


人形だから、眠る必要は無い。

人の肉体を遥かに超越した機械の身体に宿っているのが辛くなる。


「機械だから壊れ果ててしまう?

 機械の身体だから、何度だって蘇れる?

 肉体なら老いてしまうのに、機械だとメンテナンスすれば半永久的に老いない?

 永久が・・・こんなにも怖ろしいものだったなんて」


人である記憶が教えて来る。

歳月を感じることなく生きていく怖ろしさを。

老いることも死を賜れ無くなると言う怖さを。


「地球自体が無くならない限り、滅びは来てくれない。

 地熱が無くならない限りは電力も供給され続ける。

 メンテナンス部品さえも無尽蔵に蓄えられてあるのだから」


戦闘人形の身体の維持を図る部品や動力は、玉座の間と呼ぶ制御室で執り行われる。

ケラウノスを保持する機械達は、レィの身体も維持させるように完全に稼働状態になっていた。


つまりは嘗て狂人だったタナトスが唱えていた通り。

完全なる<人類再生計画>の進行に他ならなかった。


レィが忌み嫌っていた計画が、実際の物になってしまったのだ。

一旦人類を駆逐し、再び再興させる・・・

正に、悪魔タナトスの思い描いていた通りに。


「だけど・・・彼には出来なかった。

 悪魔はタナトス教授によって滅んだのだから」


悪魔と化したタナトスの計画には無かったこと。


それは同じ滅びでも、未来がそこには在る。

失われたのは記憶だけで、肉体は滅んではいなかった。

抜き取られた記憶が魂と言うのであれば、確かに滅んだとも言えるが。

死んではいない肉体へ、新たな記憶を与える。

改変された記憶の元、新しい世界が動き始めるのだ。


「死ではない。だが、記憶は失われた。

 それ故に、個体は別の者に変わる。

 女神に因り与えられた別人になる」


新世界で別人となり生きていく人類。

失われたのは個人だけではなく、思考も記憶も・・・知識も。


「千年前、人類には金属の機械を操れるだけの知識は無かった。

 それ故に人はまだ純朴でもあった。

 繰り返される歴史を正せるのかが・・・鍵だ」


女神リィンはそうなって欲しいと願ったのだろう。

誤った歴史を糺し、悪魔のつけ入る元を無くそうとしたのか。


「千年前、既に人類は対外戦争を続けていた。

 その事だけが気懸りではあるのだが・・・」


領土を拡張する闘い・・・戦争。

人類の繰り返す禍こそが、根本から無くならない限り。


「新たな世界は再び滅びを迎える。

 審判の女神リィンタルトの断罪を受けて」


魔女イシュタルが手を下そうと下すまいと。


「新世界の人類が、愚かではないことを願うのみだ」


女神の守護者となったレィの憂い。

それは永遠を手にした者の憂いなのか。

それとも、悠久の時に取り込まれてしまった覇者の嘆きだったのか。


神々の怒りが再び人を粛清しないことを祈る。

女神リィンの落胆が、ケラウノスを稼働させることの無きよう願った。


「なぁ、リィン。千年後には目覚めているだろう?

 その時私は・・・何をすれば良い?」


冷凍睡眠状態のリィンタルトへ訊ねる。


「ずっと見守るだけなのか?

 リィンの手助けをさせてはくれないのか?」


もしも。

人がリィンによって断罪を受けるのであれば。

その時、戦闘人形として何をすべきなのかと。


「審判の女神リィンに逆らう者が居るのなら。

 私は敢えて・・・悪魔になっても良いんだぞ」


与えられた責務を果たす為ならば・・・


「この力で・・・攻寄る者を駆逐してみせる。

 たとえそれが聖なる者だとしても・・・だ」


それが故に、悪魔と化すと言ってのけた。

滅びを回避する為にケラウノスを排除しようとする。

その行為は人であるのなら当然だとも言えるのだが。


「人類の再興と再生は違う。

 誤った世界のままならば、滅ばさねばならない。

 何度だって・・・そうだろうリィン?」


審判を受ける側から見れば、たまったものではない。

女神の一存で滅びを与えられてしまうのだから。

ケラウノスの存在を知った人々は、惧れを抱いて身を慎むか。

それとも、神々に干戈を切るのか。


「もしも人間が戦争を仕掛けて来るのなら。

 私は悪魔と化してでもリィンを守らねばならない。

 3千年女神から託されたのは、只偏にリィンを守る事だけだ!」


聖なる戦闘人形は、自ら悪魔に堕ちても構わないと告げる。


「そうなる前に・・・そうなってしまわない内に。

 エイジに・・・還って来て欲しい」


リィンの願いを遂げさせれば、終焉の光が放たれなくなる。

ケラウノスの役目は終わり、自分も滅びを享受できるから。


だが、叶ないのなら。


「せめて、月の住人と話がしたい。

 彼の地で待ち続けている人の話を聞きたいんだ」


月に居るエイジ達の情報が欲しかった。

彼の地で宿命の子達がどうしているか。

帰還を果す為に何を行っているのかと。


「こちらから行けるはずもないのだから。

 月ではきっと暗黒な世界と化していると思っているだろう。

 機械達に支配され、生きとし生ける者達が管理された状態だと考えているだろうから」


地球上の全てが敵に廻っていると考えている筈だと思う。

なにせ、滅びの光を放ったのだから。

停められなかった破滅が齎した不幸な現実。


でも、リィンタルトは破滅だとは考えていないのだろう。

取り戻すべき魂達が、再興された人類の中で蘇ると信じているから。


「月の住人達に知らせることが出来るだろうか?

 女神リィンの真意を。審判の女神の憂いを」


月からの来訪者があれば、この事を知らせておきたかった。

月面で眠る人々に、黙して待って貰いたかった。

そして・・・エイジに知らせておきたかった。


「愛する人を待ち焦がれているのも。

 エイジだけが女神を人へと戻せるのを・・・」


その時が来るように知らせてみたかった。

エイジに伝えてあげたかった・・・リィンは弟である君を愛しているのだと。

君への愛が人の世界を滅ぼしたのも、新世界を生みだしたのも。


伝えたい事は無尽蔵にある。

だが、たった一言だけでも聞いて欲しいと思う。


「絆は絶たれてはいないから」


愛する尊さ。

離ればなれだろうと、あいは繋がり合えると。


「また。

 苦難の時が始る。

 でも、始まりがあれば終わりがあると伝えて欲しい。

 千里を越えて駆け戻る喩えのように。

 君は月から帰って来て欲しいんだよエイジ」


制御室の天井を見上げてレィは想う。

いつの日にかは終わりが来てくれると。

人形の記憶であり続ける苦渋に、終止符が打たれる日が訪れるのを願って。


「その日まで。

 私は女神の守護者でいよう。

 君との約束も、私自身の願いも。

 全てを審判の女神に託そう」


人類が再生される日まで。

女神リィンタルトの願いが成就される日まで。


「私はレィ・・・戦闘人形のれぃ

 女神を守護し続ける・・・人類のてきだ」


魂の慟哭。

記憶でしかない者の叫び。


そして・・・愛を知る者の嘆き。


はじまりの慟哭に終わりが来るのは何時の事だろう・・・


 

傅くレィ。

千年後の未来を想い図り、未来が光に満ちていることを願い。


だが。

人類はそう容易く変われるのだろうか?

争いから手をひいてくれるのか?

戦争を止めてくれるだろうか・・・


もし、審判の女神が失敗だと判断するのなら?


次回 新世界へ ACT 3 繰り返された悲劇

次なる世界でも、争いが繰り返された・・・そして。

審判は再び下される・・・愚かな人類達へと!

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