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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第7章 Paradise Lost<楽園喪失>
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ACT 9 楽園喪失

終る世界


世界を見守る女神とる少女。

人類の業を見守り、裁きを下す女神。


千年周期の審判を司る者・・・その名は。

地上の人類に初めての終わりが齎される僅か前。


異世界で魔女と女神が闘い終えた後。


鍵の御子としてケラウノスを発動させたリィンは・・・



「「本当に・・・戻れているのよね」」


冷凍睡眠中の肉体へと還っていた。


「「審判の女神リーンが言ってた通りなんだ」」


機械の身体から肉体へと戻れたと言う事は。


「「人形の身体が壊れたってことかな?」」


転移させられた記憶たましいが、元の在処へと戻る。

それが意味していたのは、仮初めの存在が滅びたのを意味していた。


「「そうすると・・・リーンは?

  機械の身体へ宿った女神は?」」


呼びかけても返事はない。

宿っていた女神リーンは答えてはくれない。


「「もう・・・居なくなっちゃったのよね」」


神託とも言える運命を知らされ、これから先に何を為さねばならないかを悟った。


「「何度、この目で滅びの日を観ようとも。

  もう一度エイジに逢える日までは・・・堪えなきゃいけないんだ」」


終わる世界。

人々の想いを断ち切り、人々の運命にも終止符を打つ。

神にも等しき業を、自らに課せる。


それはリィンタルトを神と呼べるかの問題。

人でしかないリィンが、神にも等しい存在に変える。


地上の楽園は、一旦失われる。

人間が招いた禍の為に。

文明という利器が齎した禍の所為で。


しかし彼女に因って、もう一度やり直す世界が造られる。

人に因り不幸を撒き散らす戦争の無い世界を目指して。

新たなる審判を受けた後、復活出来るかは新たな人々に懸っている。


「「何年懸ろうと・・・絆は潰えたりしないんだから」」


プログラムは組み替えられた。

千年周期で訪れる審判は同じでも。

そこには無い筈のモノが組み込まれたから。


「「審判の女神は私が担う。

  魔女に因って貶められそうになっても守れるように。

  邪なる者の魔の手が及ぶにしろ、守り通せるように」」


悪意の正体を知った今、本当の目的が分かったから。


「「審判の女神リーンが産まれたように。

  理の女神も生み出される。

  人へ真理を教え、愛を告げる者を造ったから」」


地上を滅ぼそうと企む絶対悪を知り、それに対抗させるモノを造った。


「「どんなに闇が世界を覆うとも、きぼうは奪われない。

  どれほど小さな存在だとしたって、光の絆は潰えたりしないもの」」


光の神子・・・その存在が意味するのは。


「「ねぇ、そうでしょ。レィちゃん?」」


守護者として同道を選んでくれた魂へと訊ねた。

人形の中に宿ったままの想い人へと。




 ケラウノスから青紫色の光が溢れ出す。

 人類を滅ぼすとされた殲滅の光が・・・放たれる。



 紫の光を浴びた人間の魂が抜け落ち、肉体は誰の物かは判別し難くなる。

 

 それがケラウノスの雷。

 神を名乗る者が為し果せた終わりの光。


 今の歴史に終止符を打ち、次なる世界を求める。


 そこには邪悪なる意思はなく、新たな世界で復活を遂げる希望が残された。


 希望・・・光に満ちた御子。

 

 審判を下した神に拠り生み出される人の子。

 その者は闇を照らす希望にして、邪悪から人を護る者となる。


 喪失した楽園を取り戻せる、唯一人の希望として。

 御子に与えられるのは・・・




 審判の女神と、自らを位置付けたリィン。

 地上の人類全てを改変させ、喪われた人々をも甦らさんとする。


 全てを失い。

 全てを生む。


 人ならざる行為に、本物の神はどう思ったのだろうか・・・





青紫の光が世界に満ちて行った。

身体に浴びた者は、一瞬にして動きを停めた。

まるで動力を途絶えさせられた機械のように。


人々が動くことの無くなったと同時に。

それまで殺戮を続けていた機械達も動かなくなる。

本当に動力が停められて。


発電所も、動力炉さえもが・・・命が絶えたかのように停まった。

未だに動いていた核融合炉では、電力を奪われた後の暴走が起きる。


メルトダウン・・・水蒸気爆発・・・そして。


世界中の核施設が一斉に灰燼に帰す。


それは神が後に残される禍から人々を守らんとするかのように。

新たなる世界には不必要だと言わんばかりに。


人類が造った災禍は、神の意志に拠り滅び去った。

それは独りの御子の思い描いた通り。

戦争から最も理不尽な武具を消し去ったのだ。


核の無い世界・・・漸くにして人類が成し遂げた。

全人類を一旦終わりにしてまで。

こうでもしなければ無くならなかったのだろうか。

全人類を身代わりにしなければ無くならなかったのだろうか・・・


青紫の光は、汚染する核の脅威をも消していく。

放射能を出す施設を地上から消し、地底深くへと封印した。

その地に何があったのかさえも分からないようにと。

先進国も途上国でも、各施設の痕跡は残されなかった。

付随する研究施設も含めて、核に関する全てを封印された。

再び悪魔達を呼び覚まさないように。


世界に蔓延っていた悪魔の連鎖はこれで潰えた。

新たなる世界では開発には、相当の知識と労力が必要になる。

千年紀の間で、核開発を再開するのは容易な話ではない。

だが、理論が見つかるのならば。

人が戦争を辞めない限りは・・・やがては復活を遂げるだろう。


その時、審判の女神はどう裁断するだろう。


いみじくも3千年女神達が告げたように、再び破滅の日が来てしまうのか。


歴史は失われ、もう一度やり直しを遂げる。

人類は、神を畏れるか?

悪しき魂は悪魔を呼び覚ますのか?


全ては、ここから始まった。


魔砲の女神達が再び現れるかは・・・まだ分かりもしなかった。




時に西暦2097年。

始まりの日、女神と成ったリィンタルトは空を仰ぎ見ていた。


世界が静まり返った中、唯独りで。




「後少しだったんだねマック」


駆ける姿のまま動かなくなった男。

真摯な顔で何かを求める様に手を差し出している姿を見て。


「ごめんねマック。

 もう少しだけ待ったら善かったかな?」


戦場と化していただろう塔の上層部で、リィンの意志体がマクドノーへと手を指し伸ばす。

振れようとした手が、マクドノーを通り抜けてしまった。


「ああ、そうだったね。

 あたしは・・・神様扱いになったんだ」


最早人でもなくなり、本当の神でもない。

人々を見守るだけの存在。

現実世界では目にする事すら叶わない。


ケラウノスを操り、人を監視し続けるだけの者。

直接手で触るのも叶わない・・・意識だけの存在になってしまった。


「心残りだったでしょうねマック」


魂を奪われる瞬間。青紫の光が身体を貫く時。

リィンタルトを想うマックの心は幾何いくばくだったか。

無念・・・では済みそうにない。

本物の霊魂があるのなら悪魔を呪っただろう。

あと僅かで約束を叶える事ができただろうに・・・と。


「ごめんねマック。

 新しい世界で・・・あたしに逢いに来て」


殲滅の光を浴びる瞬間のままの姿。

マックはリィンを求めて叫んだのだろうか。

大きく見開いた瞳、そして吠える様な口元。


透けてしまう自分に、リィンは涙を堪えて。


「好きよマック。ミカエルお母様と同じ様に」


突き抜けてしまうのさえも構わず、マックへと唇を重ねるのだった。



神となったリィンタルトの意志体は、共に過ごした人々の間を繋げていく。

その姿は誰にも知らされず、誰の為とも分からず。

でも、確かなことは。

女神と成ったリィンは、絆を終わらせようとは思っていない。

友の絆、愛の絆・・・そして。


「人の子達には絆が不可欠。

 親も子も、友も愛する者にも。

 絆と呼ぶ繋がりがあれば、無になんてならないのだから」


絆を断てば<無>にも等しい。

しかし、人であれば繋がりは必ずある。

死せる者との繋がりを含めても、<無>になんて為れないと分っているから。


「無を求める魔女よ。

 あたしは諦めたりはしないから。

 いつの日にかは必ず絆を取り戻す。

 喩え何千年懸ろうとも、復活させてみせるんだから」


絶たれそうになっている絆。

月に行ったレィやエイジとの絆を繋ぎ止め。


「もう一度あの笑顔を取り戻すの。

 それがあたしの約束だから・・・」


宿命に翻弄されようと、最期には果たすと誓って。


「それがあたしの絆の行方ゆくえ

 それこそが女神と成るリィンタルトの運命さだめなのだから」


女神と成ったリィンは廃墟の上に佇んで見上げる。


真白き姿で。


神々しき光を纏い。


伸ばした手で求める・・・



挿絵(By みてみん)


絆の行方を。

愛の行方を。

新たなる世界の幕が開く。

新しい人類はパンドラの箱を開くのか?

神が贈った希望を見つけられるのか?


新世界で、人類達は再び審判を受ける。

果たして新たなる世界には希望があるのだろうか・・・


次回 第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 

    最終第8章 新世界へ<Hajimari no Babelu> 

    ACT 1 タナトスの慟哭


全てが明らかになる!悪魔と化したタナトスの真意も、その悲劇も。

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