ACT 7 魔女の名は
終末の機械。
人類に終わりを齎す兵器でもある<ケラウノス>。
鍵の御子であるリィンタルトにより動き始める。
その少しだけ前。
魔女を追った女神は?
もはや一刻の猶予も残されてはいなかった。
この世界の人類達に、終焉が訪れようとしていたのだ。
・・・そう。神となる娘の意志により。
「少しの間、別れを惜しんでいなさい」
現れ出た理の女神が呟いた。
「魔女を滅ぼして来るから・・・ね」
宿り主である聖戦闘人形レィの意識に。
理を司る女神は、蒼い瞳で邪悪なる魔女の意識体を睨みつけて。
「邪操界だろうが亜空間だろうが、逃がしちゃおかないんだからね」
消え去る魔女を追いかける様に消えて行った・・・・
残されたのは人形に記憶を宿したレィ。
それと冷凍睡眠中の二人の少女、リィンタルトとフューリー。
人類が最初の滅びを与えられる数分前の事だった。
ビュゥーーーー
赤黒い風が吹き渡る。
邪気に満ちた世界が広がる・・・
ビキ・・・ビキビキビキ
澱んだ空間が罅割れ、暗黒が流れ込んで来る。
悪意に満ちた世界に、更なる邪気が満ちていく・・・
邪操界と呼ばれる異空間。
そこは悪意の塊である魔女のテリトリーでもあった。
闇が満ち、暗黒が支配する空間。
則ち、魔女が有利に闘え得る、邪なる世界だったのだ。
「いつ来ても・・・穢れた空間よね」
魔女を追いかけて来た理の女神が、ため息を吐く。
「尤も・・・それだから邪操界って呼ぶんだよね」
邪なる者が操る世界。
邪気を孕んだ風が女神の髪を靡かせた。
白い魔法衣を纏った理の女神が、靡く髪を掻き揚げる。
その髪色は、邪操界に入る前とは全く違って見える。
青さよりも翠が優って見えていたのに、今は完全な蒼。
「ったく。もう少しまともな空間に出来ないのかしら。
臭いったらありゃしないわ!」
掻き揚げられた前髪。
今迄、半分ほども隠されていた目元が露わになる。
邪操界を睨んでいる瞳も、先程までとは打って変わっていた。
蒼き瞳は光を宿し、闇を睨んで輝きを放っていた。
「そうじゃないの・・・異種たる魔女?」
女神は空間が臭いと言ったのではなく、空間が異臭を孕んでいると言うのだ。
異臭を孕んだ異空間・・・それは?
「この空間に居る奴が・・・臭いってこと」
魔女が・・・臭い?
それはどう言った意味なのか。
「空間を支配する魔女自体が、臭うから・・・だよねイシュタル?」
姿を見せない魔女に、女神が挑発する。
「しかも、この匂い・・・あなたの名が判ったわよ」
口元に手を充てる女神が告げる名は?
「人の邪気を好み、腐った魂を喰らう・・・その名はベルゼバブ」
悪魔とほぼ同じ名を言い当てる女神。
人間界でも魔王級の悪魔として名高いベルゼブブ。
闇の化身であり、大魔王サタンに臣する者。
魔女の名としては、些か誇大にも思えたのだが。
「よくぞ見抜いた・・・女神よ」
空間から甲高い魔女の声が流れ出す。
「我が名を言い当てられたのは褒めるに値するぞ」
悪魔ベルゼブブとは違い、容は女性を表しているのだろうか。
「言い当てるも何も・・・3千年女神に分からない訳がないわ」
「ほほぅ?随分物知りだな」
女神は魔女の正体を知っていたらしい。
言い当てられた魔女は、少々焦りを感じていた。
なぜなら。
シュゥウウウウウウ~
澱んだ空間に、僅かながら歪が。
悪魔たる者は、敵対する者から名を言い当てられれば力が減る。
それはどうやら魔女だとても同じ事のようで。
「知られていたのなら、もはや隠れていても意味がない」
赤黒い空間から、魔女たるイシュタルの姿が現れた。
澱み切った空間に、巨大な円環を模ったイシュタル・ベルゼバブの姿が現れ出た!
黒い霧を纏う、巨大な円環。
毒々しいまでに流れ出る闇。
円環の中に、ベルゼバブを意味する蟲の形が描かれていた。
「やっと・・・本性を現したわね」
理の女神が魔女を見上げ、
「この理の女神が退治してあげるから、覚悟しちゃってよね」
余裕を見せて笑うのだった。
「言わせておけば・・・我に勝てるとでも思ったか!」
名を言い当てられて幾分かは力を弱められたとは言え。
「ここは我の世界なのだぞ!
女神と言えども聖なる者には勝ち目などないわ」
邪気に染まる異空間。
その中では、確かに聖なる者の力は弱められる。
・・・普通の聖なる者であったのならば。
「フ・・・残念でしょうけど。
この理の女神は、只の女神では無いのよね」
只の女神ではない?如何様な女神様なので?
「言わなかったかしら。
私は光と闇を抱けた者。
人として生き、人の全てを授かった。
輝も・・・そして醜い闇も。
そして今、宿命を終わらせる女神として此処に居るのよ」
女神は人として生きて来られた?
それだから人の理を司れるようにも成れた?
それがどうして只の女神では無いと?
「な?なんだと?!貴様はッ?」
魔女には分かってしまったみたいですが。
「そう・・・腐った空間でも。
全力全開は可能なのよ、お馬鹿な魔女さん」
どうして?全力が出せるのですか、女神様は?
「光と闇を抱く・・・つまりは双方の能力を与えられているのか?!」
「気が付くのが遅すぎたようね。
邪操界であろうと、この理の女神ミハルには意味を為さないってのが」
つまり。この女神には勿怪の幸いだったと?
異空間での戦いこそ、望んでいたのだと?
「最期だろうから訊いておくわ。
あなた達はどれ程の規模で侵略して来たの。
貴女単体で、これほどの目論見が達成できるなんて考えていないでしょ?」
負けるなんて考えても居ないのか、女神は尋問を魔女へ向ける。
「くくく・・・それは言わずもがな。
我は先鋒に過ぎん。我等の総意は王の誕生のみ。
目的を達成する為には、集団を以ってしても為さねばならん」
この不用意な一言が、女神が求めていたのだとは思いもしなかった。
「ほぅ?それならば残りは何処に?」
「我を打ち破ったとしても代わりは居る。
地上に留まらず、彼の地にも・・・魔女たる同士は行ったのだからな」
にやり・・・
女神は瞳を閉じて口元を歪める。
「そうだったのね・・・道理で分からなかった筈だ」
ポツリと呟いた女神が、首元の亜空間通信装置へ手を伸ばし、
「聴いた通りよ、御主人様」
どこかに居る審判の女神の元へと話しかけた。
「最後に残った魔女の在処・・・判明したわ」
勝ち誇るように、それでいて真摯な表情で。
「手を出そうにも届かない・・・今は」
魔女の在処・・・それは?
「チャンスはこの世界には無かった。
やはり・・・3千年後の世界で果たさなければならないみたいね」
女神ミハルが来たという、3千年を隔てた未来で?
その未来で、女神達は魔女を駆逐出来なかったから来訪したのでは?
一体、未来では何が起き、どうなろうと言うのでしょう。
「でも・・・少なくともこの世界に居るイシュタルを放置せずに済みそうね」
ギラリと蒼く光る瞳でベルゼバブを睨み。
「邪なる魔女を・・・唯の一体でも見逃す訳にはいかないものね」
全ての魔女を駆逐すると断じていた女神。
悪の総意でもある魔女を見逃す訳も無く・・・
「さぁ!闘うのなら・・・始めるわよ!」
魔女に対峙して戦闘態勢に入るのだった。
異空間で。
悪意の漲る異空間で。
白き魔法衣が躍った・・・
いよいよ、頂上決戦の幕が切って落とされる。
魔女イシュタルVS3千年女神
果たして決着は齎されるのだろうか?
勝敗が着いた時、地上は?
魔砲の女神が闘う時、邪なる者は自らの行為に恐怖すらする?!
次回 ACT 8 魔女の終焉
副題を観ても分かりますけど?どうなって滅ばされるのかが見ものですね!




