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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第7章 Paradise Lost<楽園喪失>
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ACT 4 理と虚像

魔女が居るのなら女神は?


蒼き輝を纏う者。

人の理を司る者。


その者は今。


ここに現界する・・・

制御室から分厚い鋼の壁で隔たれた部屋。

その中に設えられていたのは二つの冷凍睡眠装置。


ガラス張りの表面。

その管状の機器には何本ものコードが繋がれ、何個ものランプが色とりどりに瞬いている。

まるで闇に囚われた人の魂の輝きのように、儚く・・・心細げに。



薄暗い室内。


この部屋を司る機械の光が妖しく瞬く・・・


二人の少女の身体は機械に因って眠らされていた。

身動き一つ出来ない。

瞬きすら不可能。

凍り付かされた身体は、解き放たれる時を待つしかない。


それは何時果てるとも知れない、肉体の幽閉。


だが、彼女達の意識は眠りに就かされたのだろうか?

身体が凍り付いた今、思う事さえも考えるのでさえも停められているのだろうか?


並んで置かれている二本の冷凍睡眠装置。

左に設えられた機器のランプがずっと瞬きを繰り返している。

その連続する点滅は、まるで囚われた少女が何かを叫んでいるかのようだ。

否、哀し気にすすり泣いているみたいだった。


「「ああ!リィンタルトまでも囚われに。

  私を救う為に・・・本物のタナトス教授も喪ってしまった。

  どうして・・・なぜ・・・私が疫病神だから?」」


物言わぬ少女は、束縛され続ける我が身を呪う。


「「この世界には神様なんて居ないの?

  悪魔が居るのに、なぜ神は現れてはくれないの?」」


冷凍睡眠装置に繋げられたコードを介して、金髪の少女フューリーの意識が泣いているのだ。

装置とリンクした超高速演算処理機能スパコンを以ってして、彼女が眠りに就いていないのを表していた。


「「私はどんな目に晒されたって構わない。

  だけどもリィンだけは、鍵の御子リィンタルトだけは助けてッ!誰かぁッ!」」


光の明滅は救いの手を求める証。

機械に囚われた魂の嘆き。


そして・・・ランプの瞬きは、もう一つの意識をも表していた。


「「無駄だ・・・お前達は永遠に目覚めることはないのだ。

  魔女イシュタルの生贄となり果てたのだからな

  あ~はっはっはっ!」」


明滅するランプ。

少女は助けを求め、捕らえた魔女は嘲笑う。

世界は既に我が手中に帰したかの如く。


「「地下迷宮では危なく滅ぼされる処だったが。

  触手リンクを各部へ貼ってあるとは、聖なる者達にも分らなかっただろう」」


魔女は嗤う。

最深部で闘った魔女殺ストライカーズし達を。


「「半機械人とでも言うべき戦士達だったが、我の存在をなぜ見破れたのか。

  魔女イシュタルとまで呼べた理由が分らぬが。

  お生憎にも、我はこうしてまだ存在しているのだ、あははは」」


滅ばなかった魔女イシュタルは、敵対した者を嘲る。


「「呪え呪え!神をも呪い、己を蔑め!

  人の邪なる心程甘露なモノはない。

  我等は魔女イシュタル

  人を貶め、心を操り、絶望を振り撒く者。

  そして、魔女が求めるのは・・・真の闇」」


魔女たるイシュタルの真の目的。

それは・・・


「「この星を完璧に滅ぼした暁には、我等が<あるじ>が目覚めん。

  星の最期が<無>を呼び、惑星の終焉が澱みを生む。

  そして我等の主、混沌の王が宇宙に君臨するのだ」」


人類を滅ぼすだけに留まらず、地球を滅ぼすとまで言い切る。

惑星を消し去れば、バランスを崩した太陽さえも爆発してしまう虞があった。


恒星の破壊・・・それにより産まれるのは?


「「真の闇・・・我が主は、その闇に全てを取り込む。

  人の言うブラックホールこそが我等が混沌の王、デーモンズゲート」」


光さえも呑み込むというブラックホール。

魔女の目的は宇宙の脅威とも言える。


真なる闇の住人イシュタルは、二人の少女を何故に虜として選んだのか。


「「いくら聖なる者達が攻めかかろうとも、こ奴等が我等の手に堕ちていれば。

  我等の邪魔は出来はしまい・・・フフフ」」


鍵の御子である人形リィンも言っていた。

大切な友を人質にされて手出し出来ずに囚われてしまったと。

フューリーが悔やんでも悔やみきれない想いなのも、魔女の為せる業。


「「人間とは愚かな者よ。

  裏切られているのも知らず他人を信じて馬鹿を見る。

  騙し騙され、堕ちて往くだけの存在なのだ」」


魔女は信じる者は救われないと嘲け。


「「他人との繋がりなど無用。

  個体は己が目的だけに存在すれば良いのだ」」


繋がりを断ち、自己の本能のままに突き進めば良いと嗤った。


それが魔女イシュタルの思想。

邪なる魔女の存在意義であり、混沌の王を目覚めさせる思想へと成る。


聖なる者とは真逆の・・・悪意。


・・・そう。


聖なる輝きを放つ者とは真逆だった。




 蒼き輝が部屋に差し込む


 聖なる光が闇を照らした



「絆を断つのは<無>を意味する。

 愛する者を失うのは<苦痛>でしかない。

 ・・・あなた達には絶対に分かり得ないでしょうね」


蒼き輝を纏う姿が現れる。


窮地に陥った人の元へと<聖なる輝き>が差し込んだ。


「魔女イシュタルに告ぐ。

 この星から手を引きなさい・・・今直ぐに」


神々しき輝の中から少女の声が聴こえた。


「「この光・・・その声は?!」」


悪意の魔女イシュタルが驚愕する。


「「何故だ?!どうしてこの世界に女神級ゴッデスクラスが存在する?」」


魔女の支配する結界の中で、女神の声が鳴り響く。


「あなた達が在るように。

 私達にも転移出来ただけのこと」


魔女へと突き付けるのは神の存在・・・いいや、聖なる者が居る証。


「愚かなのは魔女の方。

 人は絆を失ってまで生きてはいけない。

 他人を信じられる事こそが、人である証」


蒼き輝から人の姿が模られる。


「「おおッ?!お前は・・・何奴」」


魔女イシュタルは神々しい光へ吠えたてる。


「人の理を司る者。人のあいを信奉する者。

 人として生き、光と影を纏う事の出来た者・・・」


「「なに?!輝と闇を・・・手に出来ただと?!」」


魔女は光輝く相手に質した。


「そう・・・私は人に光を授ける神であり、間違いを糺す者。

 真理ことわりを告げ、あいを授ける者・・・」


「「馬鹿な・・・神がこの世界にいる筈が・・・無い」」


魔女は悪意の容である己を差し置いて、神を侮蔑した。


「居るのよねぇ、しっかりと此処に」


蒼き輝が薄れ、人の形が見えて来る。


「この3千年女神のミハルが・・・ね!」


 どど~~ん、と。

理の女神ミハルが現界した。



挿絵(By みてみん)



薄暗かった室内に、燦然と輝きを放つ衣装を纏った女神の姿が・・・



「「さ、三千年だとぉッ?」」


魔女は現れ出た女神の姿に戸惑う。


「「それにしては・・・幼そうだが?」」


・・・そっちだったのか?気になったのは。


「・・・失礼な。

 こう見えても永遠の17歳なんだからね!」


・・・で?理の女神も応じるのですね?


「「それにミハルと名乗ったみたいだが。

  人間の御美みはるは月に追いやった筈だ。

  憑代がこの地に居ないのに、どうやって現界出来たのだ?」」


狼狽えた魔女が、自ら策謀した悪事を口走ってしまった。


「やっぱり・・・あなたの仕業だったようね。

 蒼騎あおき麗美れいみちゃんが私の憑代だと踏んで。

 もしもに備えて暗殺を目論み・・・

 果たせなかったと知るや世界から弾き出そうと目論んだ。

 二度の暗殺を企てなかった・・・その訳は?」


「「く・・・くくく。

  そこまで見抜いていたのなら・・・分っていよう?」」


魔女の意識がもう一人の冷凍睡眠者に向けられる。


「「鍵の御子を作る為。

  人間共に自ら破滅を用意させる為の他あるまいが」」


魔女はフェアリーとオーク家の確執を利用し、リィンタルトを破滅の使者に選んだ。

ロッゾア・オークにケラウノスの発動を握る鍵を造らせ、それをリィンに渡す様に仕向けた。

暗殺を繰り返させて外堀から徐々に埋め、逃れられない運命の輪に嵌め。

人類と機械を共倒れにするように仕向け、御子であるリィン達を追い詰めたのだ。


「「破滅の光を放つ機械・・・

  人に依り造られ、人に因り滅びを齎す。

  そこには善も悪も無い、唯、<無>があるのみだ」」


女神を嘲る魔女が全てを明るみに晒した。

全てが魔女の目論見で行われて来た事を。

悪意の元で不幸を撒き散らして来たのを。


「嘲るのは目論見が達成出来てからにすれば?

 もし、出来たのならね。

 惑星外意志体で侵略者エイリアンのイシュタルよ」


「「なッ?なぜ知っているのだ?!

  我等の存在を、ちんけな星の神如きが?」」


女神ミハルが真実を告げると、魔女は明らかに動揺を浮かべる。


「「まさか・・・銀河連邦の?

  星間保安部の差し金が?」」


「だとしたら・・・どうするの?」


女神は魔女の意志体を睨む。


「私が言ったように、今直ぐに撤収するとでも?」


「「逃げろだと?愚かなッ!」」


女神の忠告を無視して。


「「辺境の女神級ゴッデスクラスに後れを取る我ではないわ!」」


戦闘の覚悟を仄めかせてきた。


「やはり・・・そう来るのね」


一瞬だけ瞼を閉じ、女神が口元を歪めた。


「「この場ではケラウノスに影響を及ぼすので闘わぬ。

  聖なる者達と闘った地下迷宮のようにはいかぬぞ。

  我を滅ぼしたくば、我等が結界の中へ入るが良い。

  暗黒世界でお前など捻り潰してみせるわ!」」


勝負は異世界で行うと魔女は告げた。


「言っておくけど。

 私をそん所そこ等の魔法少女だと思わない事ね。

 言ったように、伊達に3千年女神を名乗っちゃいないんだから」


応じる女神ミハルも。




  シュン・・・・



神秘めいた空気が消えた。

二つの存在が室内から掻き消された。


今迄どうしていたのか。

何が起き、何が収まったのかは分からなかったが。


目に飛び込んで来たのはガラスケースに閉じ込められた二人の姿。


「あ・・・リィン?それに・・・フューリー!」


意識が女神から解放され、目の前に広がる室内に目を配る。


「こんな所に居たんだな・・・二人共」


冷凍睡眠中の二人に話しかけるのは聖戦闘人形ヴァルキュリアのレィだった。



3千年女神。

蒼き髪を靡かせた、真理を奉ずる戦いの女神。


一柱の女神は邪を嫌う。

あいを司る女神は絆を信じる。


そして。

人の絆をこよなく愛した・・・


次回 ACT 5 零の慟哭

審判の刻・・人の世界を終らせる閃光。

彼女達の別れをも意味していたのだ。

嘗ての復讐者は、新たな世界に希望を描けるのか?

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