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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
零の慟哭 <少女人形篇> 第1章 不穏な足音
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Act12 不穏な足音

まだ完全に明かされたわけではなかった。


彼が成そうとしている<人類再生計画>の実像が。

本当の計画が別にあることなんて・・・・


颯爽と肩で風を切るように歩む姿は、黒のスーツ姿と相まって彼女らしいとも言える。


学園内キャンバスの中である事さえなければ・・・だったが。



 カツカツカツ・・・



ハイヒールの靴音も高らかに、金髪の彼女が向かうのは。



「ターナー教授、向こうは既に準備を始めましたわよ」


研究室ラボの中に居る銀髪の教授へ資料を差し出して。


「あなたの実験結果が間違いないのならば・・・」


机に向いたターナーを見下すような顔で観ていた。



「私の研究には間違いなどは無いのだよフューリー君」


振り返りもしないで、ターナーは応える。

研究室は灯りも暗く、陰湿に感じてしまう・・・だが。


「そう?だったら早く計画を実行に移したらどうなの。

 私は貴男の願いを叶えるだけのキューピットでは無くてよ」


フューリーは見下ろす男へと蔑む様に、


「あなたをマッチングしたのは、あなたの願望を叶える為だけじゃないって言ってるの。

 私にも叶えたい欲望があるのは知ってるでしょ?」


自らがなぜターナーと手を結んでいるのかを言い募る。


「あの娘を取り戻し、私だけの人形にしたいの。

 あの子の愛も、あの子の身体も・・・そして命までも手に入れたいからよ」


邪な願いだと知りながら、ターナーと手を結んでいると。

それではフューリーはターナーに何を与えているのか、何を望むのか。


「それだからオーク社にアークナイトの情報を売り、見返りに資金を頂いている。

 貴男の機械へ魂を移す計画が実行できれば、リィンを私だけのモノに出来る。

 喩え人形の身体の中へ閉じ込めようとも、あの子を永遠に私だけが独占できるの」


・・・フューリーは見返りとして人為らざるモノを欲している?!


「早くしないといずれ・・・リィンはレィの元へ奔る。

 私が培ってきた愛などないがしろにして・・・」


一方的な偏愛者フューリーは、リィンを欲するあまり主人であるフェアリー家を売っていた。

恩を仇で返してでも、欲望を満たそうと?


「ふふ・・・ははは。君の欲望に答えられる日も近いな」


背を向けたまま嗤うターナー。


「それでは・・・始めようではないか、実験をね」


資料に目を通したターナーが眼を光らせる。

そこにはオーク社から得た政府の情報が載せられてあった。


「人類再生計画が、漸く日の目を浴びるときを迎えたようだ」


ターナーが嘯く<人類再生計画>とは?

麗美が即答で拒否した・・・あの?


「人類は選ばれた人種により再編されなければならないのだよ・・・レィ君。

 それには・・・邪魔な存在から消さねばならないのだよ」


暗がりの中で細く笑む邪悪な瞳。

まるで悪魔の化身にでも堕ちたかのように嗤う口元。


「始まりの人体実験は・・・誰が良いかな?」


悪魔は人柱を欲してもいた・・・・








 ・・・2097・オクトーバー・・・


 ・・・ユナイテッド・ステーツ・・・


 ・・・ニューヨーク市街地・・・




まだ聖誕祭には早い頃。

初秋の風が街角に吹く前、市街地には見慣れない機械が現れていた。


「あれなぁにぃ~ママ?」


子供が母親に訊くと。


「あれはね、ニューヨーク市警が採用したロボット警察官よ」


総金属の身体を光らせる武装機械警官が、紅い目で街を見ているのだ。

ポリスのワッペンを着けていなければ、銃法に抵触してしまうくらいの武装を誇ってもいるのだが。



「どうして武装機械兵型を警官の代わりにするんだろう?」


「どうせ裏で糸を引いた奴が金でモノを言わせたんでしょうよ」


自動運転の車に乗っているレィが、弟エイジと車窓をみながら応える。


「この辺りの治安は完全だと聞いていたのに?」


「治安がとかの問題じゃないわ」


ブスッと答えるレィが、スッと指で指すのはビルに掲げられた広告。


「あいつらが政府から金を巻き上げる為よ」


そこに描かれてあるのは、全地球上から犯罪を撲滅しようというスローガン。

強力な武装を誇るロボット警官によって成し遂げられるだろうとも。


「オーク社は地上を席巻する勢いで売り上げを伸ばしている。

 だけど、機械達は犯罪者を駆逐するだけ。

 そこには心も魂さえもない、理不尽な暴力だけが存在している」


機械に頼り過ぎる人類の行き着く先を垣間見たような気分にされる。


人型ロボット警官には、機関銃やら短距離迫撃砲が装備されていた。


「もしも・・・アレが暴走でもしたら。

 街は地獄へと貶められかねないわ」


レィは機械への全幅成る信頼は、危険だと言うのだが。


「それはないよ姉さん。

 一個人の機械じゃなくて政府が管轄する公共機械なんだから。

 故障したって中央コンピューターが直ぐに他のロボットで停めるよ」


エイジは機械を扱うエンジニアを目指していたから取り成した。


「良いエイジ。

 まず初めに故障することを前提で配置すること自体が間違いなの。

 人であっても間違うくらいなのに、機械が完全である筈が無いのよ」


ロボットの警官に疑念を溢すレィは、


「そして。

 不完全な物質でしかない機械に、全てを託してしまえば。

 人は自ら墓穴を踏む事になるわ・・・いつの日にかね」


理想と現実の違いを話すのだった。






 ドゴォ!




室内練習場で、何かが壊れる音が鳴り響いた。


「教授ぅ~?」


パイロットスーツを着込んだリィンが眼を廻す。


「むぅ・・・もはや人智の域を越えてしもうたかのぉ」


「ニャ~・・・目が回るよぉ~」


強化された少女人形ゼロを操っていたリィンはふらふら状態。


「フィギアスケートの選手だとしても、あの回転には追い付けんかもしれんのぅ」


でも、ヴァルボア教授は頷くのだ。


「一秒間に30回転は・・・リィンタルト嬢には、チときつかったか」


「殺すつもりぃ~?」


眼を廻すだけで済んだ方が奇跡だぞリィン。


「しかしのぅリィンタルト嬢。

 オーク社の新式ロボ達は、これ位の回転では眼を廻さんのですじゃ」


少女人形シンクロガールを完全機械化兵と同じにしないでよぉ!」


やっとのことで立ち上がったリィンは、あまりの回転力でリボンさえも解けてボサボサ髪。


「こんなの繰り返してたら・・・死んじゃいますッ!」


で。

口を尖らせて訴えているのだが。


「う~む。やはり遠隔操作にも限界があるかのぅ」


「だぁ~たらぁ!人形と同じように廻さなきゃ良いだけでしょうが!」


リアルを追い求めるヴァルボアへと怒りの矛先を向けた。


「いやいやそこは・・・シンクロが外れてしまうからじゃ」


「そ、そうなのぉ~?!」


蔭でこっそり舌を出すヴァルボアに気が付いていないリィン。


「これじゃぁ次の大会では、勝負にすらならないかも・・・」


技術の進歩はあっという間に<ゼロ>を旧型に貶めようとしている。


「これじゃぁ、リアルさは躰だけのモノと化してしまうよ~」


リィンは人形ゼロを観て嘆く。

少女人形は操る者へ何も答えはしないのだが、


ゼロだって、闘うだけじゃ嫌に決まってるもん」


自分の分身でもあり、友でもある少女人形が可哀想に思えて。


「もし大会に出場する新型人形が、オートパイロットを使って来るのなら。

 もう私は闘技大会には出場しないし、ゼロと一緒に引退するから。

 魂の通わない闘うだけの人形なんて、観たくないもん」


初めて操手ドライバーを辞めると口に出した。


「ほほぅ?あのおてんばリィンタルト嬢様とも思えん口ぶり。

 ですがのぅ、あの娘はどう思っておりますかのぅ?」


「・・・あの娘?」


ヴァルボアから言われているのがレィだと分かる、リィンには。


「きっと・・・闘うのが嫌いなレィちゃんなら。

 平和を愛するレィちゃんなら・・・分ってくれる筈だよ」


無理に闘い続けて<零>を壊すくらいなら、潔く辞めてしまう方が良いと?


「力の限り闘った・・・その後でなら」


「良くぞ言われました、我が姫様リィン!」


大会へは出場すると答えるリィンへ、ヴァルボア教授が花を添える。


「儂も全力でサポートいたします故。最後の花道を歩まれよ」


「教授・・・なによ、花道ってのは?」


まだリィンには分からない大人な話だったようだ。






 ピ  ピピ




モニターに光点が燈る。

暗い室内にモニターが光を放っていた。


光点を見詰めているのは、銀髪のタナトス・ターナー。


「間も無くだ・・・人類に最期の時が来るのは」


モニターに映されているのは地球上に散らばった光点。


「核も戦略兵器さえもが不必要になる・・・君の願い通りではないかね麗美君」


嘲笑うかのような目が、既に稼働体制に入った光点を見詰める。


「希望が叶う瞬間には、君は存在してはいないだろうがね」


メインコンピューターに接続したキーボードの横には<人類再編計画>と書かれたUSBフラッシュメモリーが。

ターナーが企てていたのは<人類再生計画>だったのでは?


「残された時間は僅かだよ。

 人は愚かな物質に過ぎない・・・神に逆らうバビロンの王と同じだ。

 よって、万物の王たる私の鉄槌を浴びねばならないのだ」


狂気の瞳がモニターを見詰める。

狂った科学者に因って、これから何が?


「私こそが選ばれし者。

 私こそが神も悪魔でさえも超越した・・・創造者なのだよ!」


嘲笑うターナーの指先がメモリーをソケットへ繋いでしまった・・・・


遂に牙を剥く<マッドサイエンテスト>ターナー。


彼は本当に創造者となる気なのだろうか?

神も悪魔も超越した存在へと?


無心論者タナトス・ターナーの狙いとは?


いよいよ物語は悲劇へと!

次章 <蠢く悪魔>をご期待ください。


次回 Act13 軋む想い

偏った想いは・・・悪魔に付け入られるだけなのか?



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