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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第7章 Paradise Lost<楽園喪失>
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Act 1 ケラウノス起動!

鍵の御子と聖戦闘人形は、再会を果たした。


巨塔の中で、人類最期の時を迎えんとする時。

彼女達は運命に抗い続ける。


人類は再興の光を与えられるのか?

それとも、悪魔の企み通りに破滅の閃光を浴びてしまうのか?


今、最期の瞬間が迫っていた・・・

塔の最上部に設えられた紫の珠に灯が燈り始めた。


その妖しき輝きは、人類に向けて放たれようとしている創造主の雷を表している。


神話に出て来る<神の雷>・・・その名は<ケラウノス>

怒る神が人を懲らしめる為に用いた終末を呼ぶ鉄槌。


もし、塔に君臨する者が本当の神だとすれば?


無慈悲なる雷で、生き残った人々をも殲滅するのだろうか・・・




塔に昇っているのは聖戦闘人形だけでは無かった。

後れを取ったが、解放軍の先鋭達も追いかけていたのだ。

その中には、鍵の御子へ忠誠を誓ったおとこも居た。


「クリス!それは本当なのだろうな?!」


「はい!マクドノー司令。塔を囲んだ味方部隊からの報告です」


創造主にならんとする輩は、遂に殲滅機械に火を点けてしまった。

悪しき光が燈った事に因り、人類の先兵であるマクドノーの心に影が差す。


「お嬢・・・まさか?」


鍵の御子リィンが堕ちてしまった証なのかと、心がざわめく。


「いいや、俺と約束されたお嬢が。

 唯々諾々とタナトスに堕とされる訳がないッ!」


必ずや悪魔から鍵を守り抜き、殲滅機械を停める筈だと思い直して。


「きっと・・・お嬢は闘っておられる筈だ。

 急がなければ・・・御守りする約束をも果たせんぞ!」


別れの折に見せられた微笑む顔を思い出して。


「俺の天使を奪われて堪るものか!

 今の俺にはリィンお嬢が全てなのだ!」


前進を阻む残存機械兵達を睨みつける。


「突撃せよ!被害に顧みず、唯突撃あるのみ!」


挿絵(By みてみん)



如何程の犠牲を払おうとも、塔の最上部への侵攻を停めるなと命じて。


「俺に続け!」


真っ先に駆け出して行くのだった。






塔の最上部に位置した制御室。



殲滅機械<ケラウノス>が動き始めたのが判った。


「あと・・・5分」


キィを叩く指先にも力が籠る。


「残りのワードは・・・<あたし>に託したのよねタナトス教授」


悪魔に因って誑かされたタナトスではない、人の心を持った人形タナトスから託された。


「どうすれば、こんな理不尽な世界を変えられるか・・・を」


サブモニター上で、カーソルが停まる。


「世界を造り変える・・・それなら悪魔の所業にも等しい?

 人類が争いを辞めれるかを計る?

 もう一度文明を起こして、戦争の無い世界を造れる?」


残す処、数分でケラウノスが発射されようとしている中。

御子である少女は躊躇うのだった。


「この指が最期を訪れさせる。

 残された一文を打ち込みさえすれば・・・終わる」


停められたカーソルの前文には、次のように記されてある。


< 以上の条件が満たされない限り、ケラウノスは再度稼働するものとする。

  千年の猶予の後に下される審判に因り、その世界は終焉を迎える。

  審判は<女神>により下され、

  その女神は<転世したリィンタルト>が務めるものとする  >


要約すると、世界を破壊から救う為には審判を受けねばならない。

破滅機械は半永久に動き続け、時間を制限して人類の審判を行う。

審判を司るのは、誰あろうリィンタルト自身。

自らが人類の成否を仕切り、自らが生存か破滅かを選択する。

・・・それも、千年周期に。


「どれくらいの時が流れるんだろう?」


人類の歴史を顧みて、考え付くのは未来永劫の不死。

世界の中で唯の独り、死んでは産まれを繰り返す渡世人。

そして・・・人類が条件を満たさなければ。


「同じ過ちを犯すだけの人類に終止符を打てなければ。

 機械を兵器と化すだけの世界だったら・・・終わりは来ない」


ケラウノスの発動条件。

人類を審理する女神たる者が下すのなら、再び災禍は訪れる。

・・・何度だって。


「次の千年で遂げられ無ければ。

 またその次・・・そこで遂げれなければ、次の千年を迎えてしまう」


人類は根本から変われるのだろうか。


神でもない自分が、人類を造り変えれる筈も無いと思うのに。


「機械達の反逆に因って喪われた命達を復活させるには。

 こうでもしなければ成し得ない・・・過去へ遡るのが出来ない限りは」


時を停めることも、過去へと戻る事も出来ないのなら・・・


「もし、世界に魔法があったのなら。

 魔法を使えれば、きっと叶えてくれる筈・・・希望の子が」


人々に寄与する魔法の存在。

新たな世界を創造するのなら、微かな希望を造ってみたかった。


「パンドラの箱のように。

 人に災いを齎すだけでは無くて。

 微かでも希望の光を・・・与えてあげたい」


どれ程闇に包まれた世界だろうとも、人の子にはきぼうが必要だと思った。


「それは・・・魔法。

 次の千年周期には間に合わなくても。

 その次の世界には・・・魔法が備わっている様に」


世界を造り変える鍵の御子がキィを弾いた。


「タナトス教授。

 あなたから託された世界を終焉から救う方法だけど。

 あたしは<魔法>に賭けてみるわ。

 魔法を与えられた人類から、本当の女神が生み出されますようにって」


打ち込まれた改変の追記事項を確認し、最終列のボタン選択へとカーソルを動かして・・・


「ああ・・・エイジ。

 もう・・・逢う事は叶わなくなっちゃうね」


サブモニターに映る審判ジャッジメントの文字。


「何千年もの時を経てしまえば、あたしの存在なんて覚えていないでしょ?」


人工頭脳に描かれる想い人の姿。

利発な少年の笑顔が・・・過る。


「でもねエイジ。

 <あたし>の指にはね、あなたから貰ったリングが填ってるのよ?

 僅かでも希望が残されているのなら。

 あなたに拠って目覚めさせて欲しいから・・・」


半永久に冷凍状態から抜け出せない。

機械を無理に壊せば、死ぬだけ・・・肉体が。

だけど、タナトス教授が魔法をかけてくれた。


「指輪を造ったエイジにしか解けない呪文。

 冷凍状態を解除出来るのは・・・あなたの言葉スペルが必要なの」


冷凍睡眠を解除するには力ではなく、想い人から聞かされる声が必要になる。


「君が翠の指輪に託したように。

 あたしがずっと同じ気持ちで居られるようにって。

 何度だって聴いていたんだよ・・・あなたの言葉こえを」


機械に宿らされた今は、人工頭脳によって繰り返し聴いていた。

本物の指輪は肉体リィンタルトの指に填められたままだったから。


「あたしも・・・答えたいから。

 あなたの想いと同じだって・・・愛してるって叫びたいから」


ケラウノスを作動させるボタンをクリックすれば、それも叶えられるか分からない。

確立で言えば零にも等しい。

不幸の輪廻に嵌る虞がある。


「でもねエイジ。

 あたしは・・・諦めないよ」


フッと顔を上げて、離れて行った彼女を思い遣る。


「レィちゃんのように・・・不可能を可能に変えた人のように。

 あたしだって諦めたりはしないんだから」


何度も絶望に立たされても、諦めずに戦い続けた聖なる人形に准えて。


「だから・・・ね。

 さよならなんかは言わないからね」


最期の発動ボタンへ併せたカーソルを・・・


「おやすみなさい・・・エイジ」


 カチッ


クリックした。



・・・


・・・・・



・・・・・・・・・・・・・



一瞬、何が起きたのか分からなかった。

どこかに異常が発生したのかと危ぶんだ。


エイジとの想いが途切れ、焦りだけが増幅していく。


「何故?!何が?」


サブモニター上では作動開始を告げるエマージェンシーが表示されている。

それなのにケラウノスは発動しない。


「あッ?!回線が誰かに因って遮断されている?」


メインコンピューターに指令が届けられていないと悟った鍵の御子リィン。


「誰が?!システム上のタナトスは無効化された筈なのに?」


妨害する相手が、未だに居るとは考えてもみなかった。


「タナトス教授が魂と引き換えに封じ込めた筈だったのに?!

 私を作らせる代償に、悪魔は封じられたと思ったのに!」


タナトスの記憶を宿した人形が成し遂げたのは、自身とリィンの肉体を替え玉にして悪魔の記憶タナトスを無力化したこと。

それにより今、こうしてプログラムを改変したと言う。


「メインコンピューターが・・・干渉してる?

 悪魔の意志が残されていたの?!」


サブモニター上では人類を破滅させる機械が作動体制に入った事を示すエマージェンシーが流れている。

機械は動き始め、改変する為のプログラムはケラウノス迄届いていない。

それが意味するのは、悪魔の目論見通りに発動してしまうこと。


鍵の御子リィンの人工頭脳に、悪魔タナトスの嘲る叫びが過る。


「「無駄だ!何を企てようとも無駄なのだ」」


そう・・・初めから仕組まれていたのだ。

塔にやって来た鍵の御子を利用する為の、策略だったのだ。


鍵の御子であるリィンから発動させる為の鍵を肉体から奪うだけでは無く、もしもの時に備えて二重の罠を貼っていたのだ。


「あたしならこうするのが分っていたと言うの?!」


ケラウノスを発動させてまで、世界に平和を取り戻そうと考えると読んだのか。

それとも制限時間を終えたのなら、元のプログラム通りに稼働するように仕組んであったのか。


今となってはどちらにせよ同じ事。

プログラムの改変を受け付けないケラウノスが発射されようものなら、人類には殲滅しか残されない。

地上に人類は居なくなってしまう。いいや、生存を許されないと言っておくべきか。


「これが・・・悪魔であった証・・・なの?」


人の努力をも無に帰し、人の行為を踏み躙る者。


「やっぱり・・・人は神に見放されてしまったの?」



人を捨ててまで邪悪に立ち向かった。

それなのに・・・こんな結末が訪れるなんて。


間に合うのか?

間に合わせられるのか、鍵の御子は?


人類は滅びの光を浴びてしまうのか?


最後の瞬間が近付く時、時空を越えて来た者が語りかける。

その声は鍵の御子に真実を告げる・・・


次回 Act2 審判を告げる女神

終わりを迎えんとする世界に彼女の声が届けられる。

麗しき声は、人の終わりを告げるのか?それとも存続を告げるのか?

そう・・・彼女こそが。

審判を下す者・・・審判ジャステス女神リーン

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