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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第6章 宿命の絆
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Act 9 決着

振り上げられた剣。

死神人形は勝利を確信した・・・


・・・だが?!

死神人形の破壊剣が煌めいた。

頭上に高く振り被り、トドメの一撃を聖戦闘人形ヴァルキュリアへ撃ち込もうと・・・



「さよならを言うのは・・・ファーストの方だ」


身動きしなかった聖戦闘人形ヴァルキュリアレィの声が死神人形ファーストの耳に届く。


「?!」


と、同時に蒼い髪が靡いた。


腰を屈めて剣先を避けるかのように姿勢を低く執るレィに驚く。


「なッ?」


今の今迄、動きを停めていたレィだったのに。


「ん・・・だとぉッ?!」


突然の動きに対処が遅れた。

振り上げていた腕を降ろすのさえ間に合わなかった。


・・・油断していた死神人形ファーストの眼に、紅い光が写り込む。




意識が回復したレィの眼に、ファーストの剣が映った。


 ガキン!


手にした剣を射ち落とされる。


 ガラランッ


堕とされた剣の音で状況がはっきりした。

今、自分の前に居る死神人形は、余裕を見せて油断しているのだと。

動かない自分へ剣を突き立てる前に、得物を奪い去るだけに留めてしまったようだ。


それが余裕なのか、それとも慎重に過ぎた行為なのかは不問にして。


ー あなたは覚えていなかったの?

  戦闘人形<ゼロ>である私には、まだ闘う武器があることを・・・


奪い去られた剣は床に転がっている。

それを拾い上げるなら、死神人形の剣が刺し貫くだろう。


ー だけど・・・私の右腕には・・・


右腕の中で準備が為されたモノ。

人形ミハエルには有り得ない装備が、機械博士ヴァルボアに因って秘められていた。

戦闘人形ゼロには装備されていた、近接戦闘用の得物。


・・・それは。


「さよならを言うのは・・・ファーストの方だ」


最期の瞬間、剣を翳す死神人形ファーストへ告げた。



 ブゥンッ!



右腕の中から一振りの剣が手の平を突き破って伸び出る。

短剣ダガーとも呼べる刃の柄を握り、セーフティロックを解除させる。


既にエネルギーの充填を終えていた高熱を放つやいばが、


 ヒュウウゥンッ!


鋼をも貫ける紅い光の剣と化す。


そして。


眼前で破壊剣を振り翳す死神人形ファーストの左胸へと飛び込んだ。






 ド




レィとファーストの身体がぶつかる。

破壊剣を振りかざしたままのファースト。

紅い輝を手にしたレィ。


紅と蒼の髪が交わる。


挿絵(By みてみん)



二人の間に数秒の時が過ぎた。



 シュンッ



紅い輝が消えた。

使用制限時間が過ぎたから。


衣服が焦げる。焦げた匂いが漂う。

丸い穴の周りから。


高熱で溶かされた鋼の骨格。

高温に曝されて焼け爛れた左の胸。


中に秘められていた人形である証も、覗き見れてしまう。

胸の内部装甲を焼き切られ、穴の内部が観透けれる。



 シュゥウウゥ~



張り巡らされたコードが途切れ、何か所かがスパークを放っている様も。

しかし、それも一瞬で途切れ、穴の中が真っ暗に変わった。

断線したコードからスパークが放たれなくなる・・・それはつまり。


「この・・・私が。死ぬ?」


身体に行き渡っていた動力が途絶え、身体が動けなくなった。

仇敵に最期の一撃を振り下ろさんとしていた剣が、手の中から零れ落ちる。



 カラランッ



フロアに、遂に振り下ろされることの無かった破壊剣の転がる音が響く。


「レィを斃さずに・・・私が斃れる?」


記憶として宿った戦闘人形の身体は、最早動かすことすら出来なかった。


「動力源を絶たれた・・・間も無くメイン集積回路メモリにも届かなくなる?」


待っているのは・・・人形の死。

機械の身体であろうと、不死身では無いのは承知している。

今迄は、相手がその運命を辿って来たのも。


「死神と揶揄される私が・・・斃れるのか?」


認められなかった。認めるなんて出来なかった。

消え去るなんて・・・


「そう・・・あなたは死を賜るの。

 多くの人を殺めた罪を一身に背負って」


胸元から仇敵が話して来た。


「死神人形ファーストは、戦女神ヴァルキュリアの贖罪を受けるの」


「誰が・・・聖戦闘人形ヴァルキュリアレィの粛罪を受けるものか」


闇の心は未だに抗う。

途絶えようとする記憶たましいは、戦いに敗れたことも認めようとはしなかった。

だが。


「言った筈だ、死神人形ファースト。

 あなたは死ぬ。悪しき記憶の存在として」


「死ぬ、だと?機械の身体に死など存在しないッ!」


動力源を絶たれた今、目前に控えるのは<死にも等しき消去>だと分っていても。


「そう言うお前はどうなのだレィ!

 何度も死に直面しても蘇り続けたではないか」


胸元から離れたレィを睨み、蘇り続けた戦闘人形を蔑む。


「私が死神なら、お前こそが悪魔だろうに!」


死んだと思われていても、復活を果たす。

斃した筈なのに蘇り、自分の前に立ち塞がる。

何度も、何度だって・・・憑りついた悪魔のように。


「分かってくれないのねファースト。

 本当の悪魔は別に存在していると言う事に」


悪魔と呼んだレィから教えられる。


「私達を人形へと閉じ込めた奴が居る。

 そいつこそが本当の悪魔。ファーストを復讐鬼と化した悪魔」


「タナトスのことか?

 あいつは私の復讐を手助けしたに過ぎない」


理不尽な世界から解放してくれた存在・・・タナトス。

自分から望んで人形へと宿った・・・刑務所で一生を終える位なら。

復讐を願う自分へ、希望を与える存在だった。

創造主になろうと目論む男に因って生まれ変わり、復讐は半ばまで成し遂げれた。


「父や母を奪った奴等に復讐を果せたのは、奴が人形へ宿らせてくれたからよ!

 タナトスが悪魔だと言うのなら、機械兵を造った奴等こそが真の悪魔よ!」


これだけは言わねば気が済まなかった。

自分がどうして人形に宿る気になったかを。


しかし、聖戦闘人形ヴァルキュリアレィは首を振った。


「いいえ。

 そう思えるのはファーストという存在を造った奴の所為。

 あなたという記憶たましいを捏造した奴の仕業・・・」


「私が・・・捏造された存在だと?」


耳を疑った。

聖戦闘人形ヴァルキュリアレィが何を言わんとしているのかが分からず。


「分からないのなら教えてあげる。

 私だってそうだったのだから・・・」


「な・・・んだと?」


捏造された存在。

それを認めるレィに、混乱するファースト。


「宿らされた記憶たましいは、本当の蒼騎あおき麗美れいみを封じ込めていたの。

 本当の記憶を歪められ、悪魔の言いなりになるように仕込まれていた。

 憎しみを与えられれば、それを増幅して相手に向ける。

 まるで人間が戦争を欲するかのように・・・」


「憎しみの連鎖・・・だとでも?」


そこまで一切肯定して来なかったレィが頷く。


「そう。負の連鎖とでも言った方が良い。

 機械へと宿らせる時、悪魔は記憶を捏造した。

 終わることの無い闘いへと導くように。

 終えられない復讐の連鎖へ、貶める為に」


自身が身を以て知った事実を、未だに闇に身を染めるファーストへと知らせる。


「それが捏造された宿命だなんて考えも及ばなかった。

 私だって新しい身体に宿るまで知らなかった。

 本当の自分がもう一人居ただなんて・・・」


「もう一人の自分?」


聞かされた現実。

思い当たる事実。


「もう一人・・・フューリーなのか?」


レィを襲う時、必ず記憶の底辺から現れるもう一人の存在。

彼女が自分の中に居るのは知っていた。

復讐を果さんとするファーストが忌み嫌うだけの存在だとばかり考えていたのだが。


「忘れていたようね。

 あなたは<フューリー>であるべき存在なのを」


「私は・・・フューリーではなくなっていたのか?」


フューリーとして宿った筈だった。

だが、気が付けば死神人形ファーストでしか無かったのだ。

自分がフューリーであるのを忘れ去り、悪魔に魅入られた死神に為り切っていたと。


「あなたを責める気にはなれない。

 だって、私も同じだったから。

 殺そうとしたあなたを恨み、呪おうとしていたのだから」


「同じ・・・か」


恨みや憎しみが持つ、負の感情が消え去ったのかと。


「どうやって記憶を取り戻せた?

 新しい身体に宿れたから?」


「それも・・・ある。

 でも本当は、もう一人の自分に気付かせて貰えたから」


フッと微笑むレィが教える。


「教えなかったけど、今の私の名は<ミハル>と呼ぶんだ。

 3千年女神から教えて貰った本当の名前らしいんだけどね」


「ミ・・・ミハルだって?」


女神と同じ名前。

異世界から来た3千年女神がそう言っていた。


「その女神が言ったんだ。

 フューリーを救えって。

 闇に堕ちた友を助けるのが、私<ミハル>の宿命だって・・・な」


「ファーストではなく・・・フューリーを?」


レィの言葉を考えて、死神人形の記憶たましいが訊いた。


「そうか・・・本当の<フューリー>を?」


ファーストの人工頭脳のうりにガラスで覆われた缶が過る。

死神人形ファーストではない、冷凍睡眠中のフューリーの姿が思い描かれた。


「そう。

 戦闘人形ではない、本物のフューリーを救わねばいけない」


目の前に居る聖戦闘人形ヴァルキュリアレィの顔から微笑みが消える。


「だから・・・私を消すのか?

 いいや、それだからこそ消えねばならないのか?」


「造られた者はオリジナルが目覚める妨げとなる。

 魂はあるべき処へ還らねばならない」


微笑が消えた聖戦闘人形ヴァルキュリアに哀しみが表れた。


「いつの日にか、私も。

 ファーストと同じ様に・・・還らねばならない」


天を振り仰ぐ聖戦闘人形ヴァルキュリア

その視線の先にある場所は・・・


「エイジに因って連れて来て貰えたのなら。

 私はその時にこそ消えなければならない。

 帰還を果した暁には、オリジナルこそが蒼騎麗美なのだから」


「そうか・・・その時こそ<ミハル>ではなくなると言うのだな」


死神人形ファーストが笑った。

それに応える聖戦闘人形ヴァルキュリア<ミハル>も。


「ああ。

 だから・・・あなたと同じだと言ったんだ」


今、消えようとしているファーストに。


「私と言う者も、いつの日にか。

 この記憶と共に・・・消える宿命さだめなんだよ。

 だから・・・敗者なんて存在しないんだ」


共に消え去る運命なのだと教え、闘い抜いた二人には勝者も敗者も無いのだと告げて。


「もし。

 この世界にも神様がいるのなら、二人揃って召されよう。

 不幸な運命を拭い去ってくださる神の御許へと」


「ああ・・・そこに救いがあるのならば」


闘い抜いた者同士。

最早そこには恨みなど存在しないと。

悪魔に造られた記憶たましいを拭い去れる場所へと旅立つ為に。


「教えてくれて感謝するぞ・・・神の名を持つ友よ。

 だが、私の行き着く先は地獄だろう。

 死した後に再会できるとは思えないがな」


幾十もの命を手に掛けた自分が、赦される筈も無いと答えた時。

目の前に居る聖戦闘人形ヴァルキュリアの眼が蒼く染まった。


「「いいえ。

  あなたは今こそ赦される。

  自らの行いを悔いたのなら、あなたには粛罪を遂げれる筈だから。

  この女神ミハルが・・・許します」」


レィとは違う声が。

聖戦闘人形ヴァルキュリアではない、本物の女神の声が。


「「死神人形ではなくなったフューリーちゃんの記憶たましいを。

  復讐者フューリーではなく、マリアベルとして迎えます。

  3千年先の未来に。蘇った平和な世界へと」」


「私は・・・赦されるのか?

 人殺しの罪を拭えるというのか?」


本来ならば地獄こそが行き場だと思ったのだが。


「「地獄に堕ちる者は、罪を償う気の無い輩。

  あなたはこうして罪を償おうとしたではありませんか。

  罪を償うのならば、生きて行わねばなりません。

  その世界でどれだけ真摯に生き抜くかで償えるのですから」」


「それが・・・贖罪だと?」


死ぬ事で罪が消え、蘇った世界で生き抜く。

女神の教える、転生こそが贖罪なのだと。


「死んだとしても魂は消えないということか。

 転生した先で生き抜くこと事こそが・・・罪滅ぼしになるのか」


「「だとしたら・・・往きなさい。

  穢された魂を浄化する為にも、共に生きる人々の中へ」」


蒼き髪を靡かせ、清浄なる蒼い瞳で諭す女神。


「ああ。レィの言葉は真実だった。

 <ミハル>と呼ばれし女神は実在したか」


不浄なる世界から抜け出し、新たなる世界へと導く存在。


「それが・・・真理ことわり

 それこそが理の女神が為せる業なのか・・・」


聖戦闘人形ヴァルキュリアだったレィの姿が、神の如く光に溢れた。

その光に導かれ、穢された記憶たましいは消えて逝く。


「ありがとう・・・ミハル。

 救ってくれてありがとう・・・レィ」


人智を超えた神の力に導かれ、時の回廊へと・・・




「ありがとう・・・ミハル。

 感謝します理の女神ミハル」


「先に行って待っててくれ。必ず後から往く」


戦闘人形01ファーストは目を閉じた。

その顔には意外なほどに安らかな表情が浮かんでいる。


「・・・ああ」


微かな声だったが、確かに聴こえた。

一言を残して逝ってしまった友。

そこにはもう、仇敵であったファーストは存在しない。


 スゥ・・・


最期の瞬間まで瞬いていたメインコンピューターの光が消えた。

死神人形ファーストの電源が落ちたのだ。


「見送らせてくれて・・・ありがとう」


フッ・・・と、微笑んだ。

乗っ取っていた女神の意識から解き放たれ、レィが感謝を告げる。


「ファーストを導いてやってください」


挿絵(By みてみん)


死神人形の罪を赦してくれ、転生を導いて欲しいと願う。


「これで・・・宿命の半ばまでは成し遂げられたのかな?」


女神が教えてくれた絆の尊さ。

女神により示された宿命の重さ。

死神人形ファーストは自ら罪を悟り、贖罪を果たすだろう。


そう・・・レィだった頃には想いもしなかった光と陰の関係を知って。

光があれば陰も生まれる・・・それが理なのだから・・・


「そして・・・次は本物のフューリーを救い出す番だ」


邪悪に染められた人形は立ったままの姿で動作を停めた。

勝負を決めたヒート剣を右腕に仕舞い込み、最期を迎えた死神と決別する。


「私の約束を果し、友を救ってみせる!」


自らの宿命を果す為、願いを遂げる為に。


「そして・・・偽のタナトスを破ってみせる!」


死神人形の呪いを解いたように。

自らの呪いをも解く為にも。


聖戦闘人形ヴァルキュリアは最期の決戦へと駆ける!

悪しき記憶は女神により贖罪を受け入れた。

自らがフューリーとは別の存在だと認め、生まれ変わる事を望んだ。


理を司る女神は、彼女を導くだろう。

憎悪の無い正常なる時の彼方へ・・・

さらば、あれ。

さらば・・・死神人形よ。


聖戦闘人形レィは中空階から脱出を図る。

再会を約束した人の元へ辿り着くために。

しかし、塔の防衛システムは決断する。

敵を殲滅せんと・・・すなわちソレは?


次回 ACT10 宿命の絆

暴虐が吹き荒れる!一切を灰燼に帰す一撃は彼女達の絆を途切れさせるのか?!

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