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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第6章 宿命の絆
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ACT 5 聖なる人形に宿っていたのは・・・

ミハルを名乗る聖戦闘人形(ヴァルキュリアは、塔の最上部へと駆け上がっていく。


一方、阻む死神人形ファーストも決戦を求めていたが・・・

防衛システムは、爆破を以って侵入者を排除せんと目論んだ。


たった独りの戦闘人形を、脅威と看做したから。


「「中空階を以って敵を排除する」」


爆破される予定の階は、元々が何も設置されていない空間だった。

階自体が破壊されても、塔には何ら影響はない。


「「エネミー人形が昇って来た瞬間を捉えて爆破する」」


各所に配置されてある監視カメラで、敵の戦闘人形の位置は把握できていた。

爆破予定の階まで、残り僅かにまで迫っている。


「「敵戦闘人形と犬型ロボットを追い込むのだ」」


配下の機械兵を差し向け、罠へと誘導を試みる。


「「疑われないよう、全機械兵を以って攻撃せよ」」


塔に配備されている機械兵達を、全力投入する防衛システム。

そうまでしても排除しなければならない相手だという裏返しでもあるのだが。


防衛システム・メインコンピューターのモニターへ、靴音も高く誰かが近寄って来る。


「お待ちなさい、爆破する必要はないわ」


歩み寄って来た者が、システムへと命じる。


「アイツを殺ってしまえば、事は足りる筈よ」


モニターの中に居る戦闘人形を睨んで、やって来た者は簡単に言うのだが。


「「されど・・・どうやって?」」


塔に配備された戦闘人形まじょは、既に悉くモニターの戦闘人形に因って斃された。

侵入を阻止するべき防衛機械達も、前を阻んだ者は壊滅に追い込まれている。

それ故に、防衛システムは爆破を選択したのだが。


「フ・・・決まってるじゃない。

 アイツは私が殺ってやるって言ったのよ。

 この世界で一番優れている戦闘人形の01<ファースト>が・・・ね」


モニターを睨んでいた紅い瞳が哂っていた。

血に飢えた魔女の如き機械のルビーアイが、聖戦闘人形ヴァルキュリアを睨んで。


「リィンの言っていた通り。

 此処まで来たようね・・・レィ」


死神人形と揶揄される戦闘人形まじょは、口元を歪めて嗤っていたのだった・・・






 ド ドドドド・・・



追い打ちの機銃弾が傍を切り裂いていく。



 ガンッ ガガガガガッ・・・



着弾し、内装を破壊する。

単なる機銃の弾では無いのは、破壊される壁が爆発を伴っている事でも分かった。


「どうやら・・・本気で向って来てるようね」


蒼い聖なる瞳で銃撃を避け続け、機械兵に装備された徹甲榴弾の威力を計る。


「一発でも当てられたら・・・殺られちゃう」


普通の小銃弾ぐらいなら、致命傷にならない部分なら耐えられる。

だが、今撃ちかけられている弾は別物だ。


「13ミリ焼夷徹甲弾・・・か。

 掠られただけでも相当のダメージを喰らいそうね」


火炎を吹き出しながら飛んでくる弾。

人間ならば、命中しなくても死に至らしめることが可能なほどの威力を持つ。


追って来る機械兵に装備された重機関銃の弾は、それまでとは異なっている。

こちらが手強く、これ以上の侵攻を防ごうとの目論見だろう。

犠牲も厭わずに追い縋って来た状況からしても、塔の中枢部へと近付いたのが分かる。


「こっちが相手にしないのを良いことに、滅茶苦茶撃ちまくりやがって。

 どうするミハル?奴等を連れまわすだけで良いのかよ?」


先を急ぐミハルが機械兵を相手にしないのをグランが気にする。


「なんなら、俺が食い止めてやろうか?」


機械兵如き相手は、自分だけでも十分務まると。


「今は駄目よグラン。きっと頼む時が来る筈だから」


「そうだったな。アイツがまだ現れていないしな」


聖戦闘人形ヴァルキュリアのミハルから言われて思い直した。


「アイツ・・・あの紅い瞳の魔女。

 死神人形って奴が来ていないもんな」


此処まで来たというのに、仇敵の姿は現れていない。

必ず姿を現すだろうと考えているミハルと同意見だった。


「ファーストが立ち塞がるのなら。

 その時こそ、グランに頼むからね」


「了解だぜ、ミハル!」



二人は追い縋る機械兵からの攻撃を避けつつ、次の階への足場を探す。


そうは問屋が卸さないと機械兵が撃ち捲くる。


追いつ追われつの鼬ごっこかに思えた数分後。


「待ってグラン。これって?」


「ああ、俺もそう考えていた処さ」


走りながらも二人が考え付いたのは。


「どうやら・・・」


「奴等は追い込むつもりだぜ。しかもある一定の階段を昇らせる為にな」


機械兵達が銃撃に因り誘導していたのを察知した。

上の階へと続く階段は数か所あるのだが、追われる内に向かっているのは・・・


「どうやら何者かが待っているようだぜミハル?」


グランが推理するのは。


「ヤッコさんのお出ましかもな?」


「そうね・・・多分」


同じ様に考えているのか、ミハルは小さく頷く。


「意外と・・・速かったな。

 最終決戦って奴が・・・ミハル?」


「うん。でも・・・最終決戦じゃぁないよ、まだ」


機械兵からの銃撃を避け、ミハルが階段の壁に隠れると、


「まだ、最期の勝負とは限らないから。

 死神人形を滅ぼせても、罪悪の根源を断つ事にはならないわ」


「ああ。ルシフォル・・・もとい。

 タナトスが言っていたように・・・かい?」


グランへと託そうとする。


「そう。タナトスさんが言っていたわよね。

 諸悪の根源は魔女殺しに託しておけって。

 <天と地>に居る二つの悪意を同時に滅ぼせない限りは解決しないんだって」


「その事だけどなミハル。

 最上階に居る悪魔タナトスを倒すのは分かるが。

 地底深くに居る異種たる者を誰が滅ぼすんだよ?」


グランが機械兵を警戒するミハルに訊く。



 ガガガガッ!



一連射が壁を壊して飛び去った。


「そう・・・魔女イシュタルは彼等と彼女が押さえてくれている。

 アミーという娘に宿った彼女アルミーアが・・・ね」


ポツリと溢すミハルの口元を観たグランだったが。


「誰だよ、そのアルミーアってのは?」


人を超えた聴力を持つグランだから聞き分けられた名前。


「ミハルが信じるに足る娘なのか?」


聖戦闘人形ヴァルキュリアのミハルが信用する程の猛者なのかと訊いたのだが。


「勿論。アルミーアは時空を越えた世界では髄一の射撃の名手だったのよ」


「はは・・・またお伽話を始めたのか」


時折ミハルが話す、異世界での物語に登場する人物なのかと肩を竦めてみせるグランへ。


「お伽話の世界だったら・・・良かったんだけどね」


少しだけモノ哀しそうに瞼を閉じるミハルだが。


「今は3000年もの未来の話をしてる時じゃないわ。

 この躰が保てる間に決着を図らなきゃ」


グランを顧みると、


「そうじゃなきゃ、また一からやり直しになっちゃうからね」


手にした破壊剣を握り直して。


「私はこのままファーストと呼ばれる戦闘人形を倒しに行くわ。

 グランは階段を死守して欲しいの、邪魔をされたくはないからね」


待ち構えているであろう死神人形との決戦を目指し、グランへはこの場を守れと頼んで来た。


「そうこなきゃ。

 了解したぜミハル!任せておけよな」


階上での勝負を目論むミハルへ、了承したと返す。


「俺達の仇を討ってくれよ。

 あの日に受けた屈辱を晴らしてくれ!」


「ええ、悪意に染まった人形を・・・ね」


頭を一撫でするミハルへ、仇を取れと頼んでから。


「倒せたら。

 後はリィン様をお救いしようぜ・・・レィ」


元の友の名を呼んでみた。


「そうよね、グランド」


ゆっくりと頭から手を放し、応えたのは。


「そうするのが、この世界で契ったレィの約束なのだから」


微笑を浮かべるミハルが言った。


「過去の私とリーンにも似通って・・・

 絆を繋げる約束を果たす為にも、必ず逢ってみせるわ」


「うん?!リィン様ではなく、リーン?」


怪訝な目を向けるグランを素知らぬ振りで煙に捲くミハルが。


「それじゃぁ・・・此処はグランに任せるわよ」


すっくと立ちあがって踵を返す。


「え?ああ。任せろ!」


走り出す聖戦闘人形ヴァルキュリアのミハルを見送ったグラン。


「時折、訳の分からない事を言うよなぁミハルって奴は」


階段を駆け上がって行くミハルの姿を一目見て。


「でもまぁ。それが戦闘人形へと宿ったレィって奴なんだろうしな」


友として付き合い始める前は人だったという娘レィ。

人の名を冠した人形は、時としておかしなことをいうモノなのだと人工頭脳を納得させると。


「そのおかしな娘を誰よりも友だと認識した俺も。

 どこかの誰かが宿っているのかもしれないけどな」


類は友を呼ぶとばかりに嘯いて。


「だとすれば。友との約束を果たさない訳にはいかないだろう!」


寄せ来る機械兵の前に立ち塞がるのだった。




搦手をグランに託したミハル。

駆け上がる階段の先には、必ずあの娘の記憶たましいを宿したという戦闘人形が居ると踏んでいた。

登り詰めた階段の先に拡がる空間。

何本もの柱が林立し、まるで旧世界の神殿を匂わせてもいたのだが。


「神殿なんかではない。ここは・・・」


そして。

視界の果てに観えたのは。


「やはり・・・ね」


赤黒い者が揺蕩っている。

薄暗い空間の中、際立って見えるのは・・・


「此処は・・・神殿なんかじゃない。

 ここは・・・神殿闘技場コロシアム。しかも、悪魔崇拝の」


赤黒い者の腰には、神を冒涜する剣が見えた。

神の技をも越えんとする、魔の砲を設えられた剣が。


「魔の力にも思えるよね。

 観る者に魔法を感じさせる程の威力・・・

 その異能ちからこそが、私達の始まりを生んだ」


紅き者を観たミハルが、一瞬立ち止って考えた。

どうして今の自分が此処に居るのかを。


「やっと辿り着けたんだよリーン。

 あなたの望んだ未来への懸け橋へ・・・」


蒼いミハルの瞳に、金髪の女神が映る。


「「そうね、ミハル。やっと・・・ね」」


揺蕩う蒼髪、白い魔法衣・・・重なる姿。


「「あなたの宿りし娘達も。清浄なる世界を求めているわ」」


瞳に映る女神が応えた。


「「この星を元に戻す時が来たのよ、理の女神」」


瞳に映った金髪の女神が、


「「諸悪の根源・・・イシュタルを。

  あなたの手に因って葬り去るの、あいの女神ミハル」」


指し伸ばした手の先に居る赤黒い者を倒せと命じる。



 つぃ・・・



一頻り頷いた聖戦闘人形ヴァルキュリアのミハルが。


「ええ、それが目的だったからね。

 審判ジャステス女神リーン・・・」


体の中に眠る、もう一人の記憶たましいを呼び覚まして。


「蒼騎 麗美に悪しき魂となった友を救わせて。

 愛した人の魂をも、救わせてあげたい。

 そして・・・リーンを生んだ、眠れる美女リィンタルトも・・・ね」


「「ホント、いつもながらミハルってば、欲張りさんなんだから」」


消えゆく女神達の意識。

託されるのは人間レィの記憶たましいを宿した聖戦闘人形ヴァルキュリア


「闘いなさいレィ。

 あなたには闘わねばならない宿命がある。

 死神人形を倒し、本当の友を救いなさい。

 愛する彼女を救う為、人の世界を守る為にも」


入れ違いに消えていく女神の意識に導かれ、今迄手を出して来なかった娘に取って代わる。


「闘うのが宿命だと言うのなら。

 私は・・・私の願いの為に闘う。

 交わした約束を果し、友を救い・・・そして。

 人類に平和を齎してみたいんです!」


身体の感覚が蘇る。

女神ミハルが時折譲ってくれたから、違和感を感じてはいない。

恨みと憎しみに目が眩んでいたのを、人々に接して清浄へと戻して貰えた。


「ルシフォル・・・ううん、ターナー・タナトス教授に蘇らして貰えたのも。

 この躰に宿るようにしてくれたのも、全ては女神ミハルのおかげ。

 尊敬する方の心の内が判ったのも。

 どうすれば平和を手にする事が出来るかも・・・全て。

 この世界を救おうとされる女神のおかげなのですから」


戦闘人形へと宿らされたレィだったが、生まれ変わったと感じてもいた。

今迄は闘う事に躊躇い、いつも闘いを避けてきていた。

いつも誰かを傷付けることを嫌う風を装い、その実逃げてもいたのだと知らされた。


自分は弱い人間だと認識し、改めて闘う意味を知らされた。

意味のある戦いは宿命に抗うこと。

理不尽な世界に抗うのは、生き抜く為に必要なことだと思い知った。


「だから・・・闘える。

 運命に立ち向かえるんだ・・・リィン」


眼に視力が戻る。

それは身体を明け渡された証。


「だからこそ、助けたいんだフューリー」


挿絵(By みてみん)



紅い何かが霞んで見えた・・・


待っているだろうと予測はしていたが。


瞳の中に映りこんだ・・・彼女の姿が。

暗がりに佇む少女型戦闘人形01<ファースト>の姿が再び蘇ったのだ。


「私の希望は・・・叶えてみせるよ」


今、聖なる戦闘人形となったレィには分かっている。

悪魔の化身となった旧友を破らねばならないことが。


手に携えた剣を強く握り締めて。

再び蘇った記憶たましいを宿した戦闘人形プロトタイプ0<ゼロ>が歩み出す。


最期の闘いを目指して・・・

ミハルからレィへと。

聖戦闘人形(ヴァルキュリアはチェンジしたようだが?


いよいよ、最期の戦いの幕が開かれる。

今、二人は宿命さだめに決着を求めて相対するのだった・・・


次回 ACT 6 デジャビュ

モニターに映された光景に、リィンは違和感を覚えてしまう。

それは頭も隅に残された過去と重なって・・・

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