ACT 3 宿命の絆
悪魔の創造主、タナトス
同じ名を名乗る男から知らされるのは・・・
鍵の御子リィンは、彼から諭される。
「「悪魔じゃないタナトスから・・・
御子の宿命ってものをね、知らされたんだ」」
それは?
自らをタナトスだと明言した男に因って知らされたのは。
<希望は諦めるものではない>
そう。
あたしは絶たれたとばかリ思い込んでいた。
あの劫火の中、想い人は命脈を断たれたと。
だけど、悪魔と化した筈のタナトスから知らされたのは。
<諦めれば全てはお終い>・・・その通りだと分かった。
それと、彼女は今もどこかに居るってこと。
戦闘人形レィは、きっと約束を果そうとしているんだって。
最期の声が頭を過る。
「「必ず・・・逢いに行くから」」
きっと・・・そう、きっと!
あたしのレィちゃんなら、守ってくれる。
あたしが何処に居ようと。
どんなに遠くても、どれほど過酷な道だとしたって。
「再会を期して・・・力の限り」
だったら・・・あたしが為すべき事は?
鍵の御子リィンタルトのやり遂げなければならないのは。
ロッゾアお爺ちゃん・・・ミカエルお母様。
みんな・・・みんながあたしを支えてくれている。
途絶えてしまいそうになる望みを、繋げる為に。
レィちゃんが来てくれるのを唯待つだけではなく。
人類が滅びの時を回避出来るようにする為だけじゃなく。
「あたしは・・・エイジを迎えれるようにしたい。
この世界で再び愛を叶えれるように・・・レィちゃんが求めた平和を手にしたい」
だから・・・闘う。
愛が真理だと言うのなら、あたしは理を求めて抗うの。
喩えこの身が悪魔と刺違えることになっても。
世界に残された人に依って、再び輝が照らせるように。
月の世界に行った人々も戻って来れるように。
だから・・・レィちゃん。
あたしに逢いに来て。
取り戻したあたしの宝を託せるのは、レィちゃんの他には居ないんだから。
エイジが戻って来てくれた時に、手渡して貰いたいんだよ。
最期の瞬間まで・・・填めていたからって。
・・・そう。
彼が教えてくれたの。
悪魔じゃないタナトスが。
御子の宿命ってものをね、知らされたんだ。
ロッゾアお爺ちゃんも最後の瞬間に言ってたもの。
あたしに対して、悪魔になるのか神となるのかって・・・ね?
それってつまり、神も悪魔も偶像だってことだよね?
それになるってことは・・・身体を失うってことだよね?
彼が教えてくれた・・・タナトスが。
鍵の御子の宿命って奴を。
あたしは・・・リィンタルトは。
創造主の思い通りに鍵を開いてしまえば、人類を消し去る悪魔になる。
でも・・・でもね。
それを回避する方法が無い訳じゃないの。
その方法ってのは・・・あたし自身が兵器に宿るの。
悪魔タナトスの行って来た逆を突いて。
悪魔の兵器に宿って、破滅から人を護る。
・・・どう?驚いた?
これであたしも人形へと宿らされたレィちゃんと同じ。
レィちゃんを人形へと宿らせた罪を、これで拭えるかな?
・・・そうするより他はないって。今は納得できているんだよ。
だから・・・ね、レィちゃん。
あたしが破滅兵器と同化してしまう前に。
逢いたい。
逢って謝っておきたいんだ。
今迄ずっと言えていなかったから。
ずっと感謝とお礼を言えずにいたから。
・・・ありがとうって。ごめんなさいって。
自らをタナトスとあたしに告げた男へ、双発拳銃を突きつける前に。
魔女殺し隊のパスクッチ隊長が話に割り込んで来た。
「お前は何を求める?
悪魔と化した自分へと、何を起こそうと目論むのか?」
気付いた時には、あたしとタナトスの周りを4人が囲んでいた。
「ああ、自分の始末を着けようと・・・ね」
あたしに向かっているタナトスが応える。
「この子だけに背負わせるのは気の毒じゃないか?」
今の今、鍵の御子が背負う宿命を離したタナトスが答える。
「そうだろパスクッチ隊長。
あなたも自分達の宿命に抗う為に此処まで来たんじゃないのかい?」
魔女を滅ぼすのが4人の目的の筈。その為の魔女殺し。
でも、それだけではこの決死行に来る謂れは無い筈でもあった。
「僕も耳にした事はあるよ。
この世界に蔓延る真の闇って相手が居るのを」
今はタナトスと呼ぶべき男が続けて言うには。
「何でも、人の世界を滅ぼす為だけに存在しているとか。
まるで僕を闇に墜とし、世界を無に帰そうとするかのように。
混沌と惨禍を喰らう悪魔。確か、その名は・・・」
何処で聴き齧って来たのか、悪意の本家とも呼べる存在を口にした。
「確かにお前の言う通りの存在だ。
俺達の前を過り、多くの仲間を死に追いやった。
それに・・・俺達をこんな姿へ変えた張本人でもある」
身体の過半を機械へと変え、それでも尚闘い続けて来た4人。
魔女殺しへと貶めた相手とは?
「確か・・・異種。
イシュタルとか言ってたのではないかい?」
タナトスが上目遣いにパスクッチを観て。
「古来から文献に出て来る・・・悪魔王。
その姿は魔女とか、人ならざる姿だとか?」
自分の知るイシュタルを言った。
「・・・魔女・・・魔女だ」
応じるパスクッチ。
「だから俺達は<魔女殺し>を名乗る。
奴を斃さねば、何度だって人は苦しめられるのだから」
此処に来て、彼等の真の目的が分かった。
「創造主とか己惚れた奴には興味はない。
そいつの相手はお前達がすれば良いだろう。
俺達は人類を滅ぼす真の敵が目的なのだ」
「それは・・・塔に居るのかい?」
タナトスの質問に4人は黙って顎を引く。
「どうして・・・言い切れるんだい?」
再度の質問に、パスクッチが告げるのは。
「イシュタルは無を欲する。
そこに残る者が居るのなら、そいつをも根絶やしにするだろうさ」
完全なる<無>を完結するには、創造主であろうと邪魔な存在。
つまり・・・
「お前達はタナトスとかいう悪魔かぶれが主敵だろうが。
俺達ストライカーズは虚無自体を敵だと認識した。
だからそいつを斃す為にはお前達と同道するのが得策だと考えただけだ」
全ての元凶は魔女だと看破していた。
「魔女を放置しておけば、同じような惨禍が再び起きる。
腐った根は、元から絶やさねばならんというだけだ」
そんな巨悪が存在しているなど、タナトスにもリィンにも初耳だった。
「それじゃぁ、あたし達が果たそうとしているのは無駄だと言うの?」
「無駄だと思うのなら、辞めておけば良い」
鍵の御子としての義務を放擲しても良いのか?
その答えは自分で導き出せと?
「言っておくぞ。
もしも俺達が負ければどうなる?
人類は悪魔に身を堕とした創造主とかいう奴に滅ばされるだけか?
イシュタルの思い描いた様に・・・星ごと無になってしまうんだぞ」
パスクッチが言っていた。
創造主だろうと、最期には消える運命だと。
「魔女は人々を貶める。
それは塔に居る者と云えど、変わらない。
全てを滅ぼした後、奴が欲するのは<無>だ」
パスクッチは巨悪に立ち向かえと言っている。
それを回避出来る術を持つのなら、尚更だとも。
「やっぱり・・・抗うしかないのね」
「お前さんがそう考えるのなら・・・な」
頭の中が真っ新になる。
新たに想いを募らせ、新たなる願いが産まれた。
「地上だけにとどまらないと言うのなら。
月に居るエイジ達にも影響するのなら。
あたしは・・・鍵の御子は。
宿命の絆を信じて闘うわ!」
そう・・・あたしの運命に抗って。
巨悪に立ち向かえと、彼女なら励ましてくれる筈だから。
「逢いたいな・・・レィちゃんと。
最期の瞬間までに、どうしても!」
鍵の御子リィンタルトとしてではなく。
「タナトス教授が闇から解放されるのなら。
蒼騎麗美として、逢わせてあげたいから・・・」
女神となった自分の力で。
「この世界を破滅から救えるのなら。
あたしは女神になっても良い。
人の姿では無くなろうとも構いはしない!」
悪魔から救える存在になってでも守りたい。
「希望を信じ続けるのを諦めないから」
そう・・・
それが全て。
願いを諦めずに努力し続ければ、きっと・・・
ズズズ・・・グラッ
微睡んでいた。
遠い過去のようでもあり、少し前だとも思えた。
ズズズ・・・・
思い出が脳裏を過って行った・・・
でも、何かが揺り起こした。
身体が微動する塔に反応したのだ。
何かが起きている・・・この近くで。
誰かが辿り着いた・・・どこかへと。
ズズズ・・・・
脚から伝わる微動。
決して塔の外部からの振動ではない。
ならば?何処から?
答えは・・・闇の底から。
塔の地下、数キロまで掘り下げられていた地下の迷宮部分。
そこには電力を自己で賄う為に造られた地熱発電装置が動いていた。
振動はそこよりも尚、遥かな深部から。
それ程の地下に辿り着く必要がある者達とは?
そう・・・彼等が地下で闘っているのだ。
魔女を見つけた魔女殺しは、己が目的を果たさんと・・・
郊外から黒煙が立ち上る。
遠方遥かに巨塔が聳えている。
ニューヨーク市街地に連合軍が突入した頃。
蒼髪の戦闘人形の姿も・・・そこに居た。




