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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
零の慟哭 <少女人形篇> 第1章 不穏な足音
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Act11 夢の中であたしは・・・ね

幸せな時は緩やかに過ぎ・・・


そして妖しい風が吹き始める。


リィンタルト、この時まだ15歳。

マンハッタン大邸宅地域。

財界の著名人達や政治家が居を構える一等地に、財閥家ロナルド・フェアリー氏の居もあった・・・



「いぃ~やぁ~だぁ~!」


ぷんすか怒るのはパーカー姿のリィン。


「お姉ちゃん達が何て言ったって、あたしは辞めないんだから!」


駄々を捏ねるリィンは、テーブルを囲む3人の姉へ、


「お父様だって認めてくれているんだから人形操手ドライバーを務めるのを!」


少女人形ゼロ操手ドライバーを辞めないと言い切る。



広いリビングに設えられたテーブルでお茶を呑んでいた長女エリザが、カップを静かに置くと。


「だから?くだらないゲームにのめり込んで学業を疎かにしても良い訳?」


「う?!」


リィンの成績表を指差す。

長女の左に座る次姉リマダも頷き、


「そうよリィンタルト。いい加減フェアリー家の娘なのだと自覚しなさい」


「うにゅ~ぅ・・・」


年が離れた末妹へ嗜めるのだった。



「でも・・・今回の出場は我が社の依頼をリィンタルトが受けてくれたからで」


落ち込むリィンを3番目の娘であり、アークナイト社顧問のユーリィが庇ってくれた。

上姉二人とは違い、末の妹リィンを観る目も柔らかいが。


「何を言うのユーリィ。

 リィンタルトはまだハイスクールから卒業もしていない未成年者よ?

 全世界に子会社アークナイトは、お子様を代表に選んだ愚かな企業だと教えた様なものよ」


長姉エリザには癇に障ったようだ。


「それに優勝するのならともかく。

 失格してしまうだなんて・・・恥を晒したようなものだわ」


次姉のリマダは顧問を務めるユーリィへも釘を刺した。


「いぃ~じゃん!オーク社の人形ドールが戦闘に特化しているのを知らしめられんだもん」


でも、叱られてばかりいるリィンは反抗的になる。

政府から優先的に機械兵の生産を受注しているオーク社が、次々と各国へ武器として輸出している現状を知っていたから。


「あそこの人形達が可哀想だから。

 人の命を奪う機械兵としてだけ生み出されるなんて・・・あんまりでしょ!」


紛争や戦争の武器として生産され続ける人形を、リィンは我慢できないようだ。


「本当なら人形さん達は、人の為に生み出されるべきでしょ?

 人を殺める道具にされちゃうなんて、赦せないとは思わないの?」


人形ドール友達フレンドとして認めているから怒った。

まだ幼いリィンには、世界貿易の裏側を知りようがなかったからオーク社が赦せないと言ったのだ。


「ふふふ・・・リィンタルトは子供よねぇ。

 オーク社だけではないって事ぐらい分からないのかしら」


溜息とも嘲りともとれる呟きをエリザは溢すと。


「そんなだからいつまで経ってもハイスクールを卒業できないのよ。

 我がフェアリー家の娘ならば、17歳でカレッジを出るぐらいの成績を為しなさい。

 それが出来ないというのであれば、操手ドライバーなんて辞めてしまいなさい」


厳しく末の妹へ言い渡す。


「そうよ、リィンタルト。

 私達フェアリー家の人間だったら、繰り上げ卒業など当たり前の話よ」


自分達が出来たのだからと、リマダからも言われてしまう。

あまりにも高圧的に、リィンの意見など無視して。

話を聞いてもくれない二人の姉に、取り付く島も無くなり・・・


「なによ、お父様と金のおかげで繰り上げ卒業出来ただけじゃん」


ぼそりと嫌味を溢してしまうリィン。


「何か言った?!」


耳にしたエリザが吠えると。


「いいえ~、別にぃ~」


管を巻くのが馬鹿らしくなったリィンが、足早に部屋を出て行こうとする。


「あたしは・・・私らしく生きたいだけなんだから!」


最後に啖呵をきってドアを閉じる。


「待ちなさいリィンタルト!」


エリザの声が後から聞こえたが、リィンは気にも留めずに歩き始めていた。

二人の姉がリィンを怒っている傍で、妹の想いを認めるユーリィだけは微笑んでいた。








「激オコ・・・ぷんぷん丸だよ~」


ベットに横になり、傍で笑っている乙女レィへ愚痴た。


ここは家庭教師役の麗美の部屋。

何か揉め事があると、リィンは勉強を出汁にやって来るようになっていたから。


「ははは、でもなぁリィン。

 姉上の仰られるのにも一理あるんだぞ」


「一理も二里もないよぉ~」


拗ねるパジャマ姿のリィンへ麗美レィが寄り、


「学業を疎かにしてると、正しい人には成れないぞ」


「うにゅ~ぅ、分かってるよぉ~」


ふて腐るリィンの髪へと手を伸ばして、


「リィンはお嬢様だから、しっかりと勉強して世界を知らなきゃいけないよ」


綺麗な茶髪を撫でて諭して来る。


「ぶぅ~!お嬢って言わない約束じゃん」


気持ち良いのか、声ではぶうぶう言っても顔は喜んでいる。


「そうだったよな。

 私がリィンと初めて逢った時から<お嬢様>って呼ばないってな」


「そ~だよ、レィちゃんが初めて私を特別扱いしなかった人なんだから」


ちょっとだけ過去を思い出しているのか、リィンが眼を閉じる。

瞼の裏に映されるのは、御屋敷で初めて邂逅した時の光景・・・





その日は柔らかい日差しが屋敷の中迄降り注いでいた。


日本から来た学者家族との面談に、ロナルドと同席していたリィンはお人形のように口を噤んでいた。

傍には煩い姉達は居らず、僅かに居るのは専任メイドのフューリーだけだった。


「御主人様、蒼騎誠司あおきせいじ一家です」


畏まるフューリーが父母と姉弟を紹介する。

メイドとは云っても少女に過ぎないフューリーだったが、余程の教育を施されていたのか容姿を含めて完璧に執事を熟している。


「私がフェアリーの当主でロナルドです、プロフェッサー蒼騎。

 遠路御足労頂き、恐縮です」


ロナルドは財閥当主として学者家族を招聘したらしい。


「そちらの・・・お嬢さんが東京工大の?」


黒髪をボブに刈った少女に興味を惹かれたのか、訊き質して来ると。


「お初にお目にかかります、私は誠司の娘で准教授の麗美と申しますロナルドさん」


手を差し出す少女が傍らに居る子を観て。


「可愛らしい娘さんですね・・・お名前は?」


自分と同じ歳位の少女を促す。


「失礼ですよミス蒼騎。こちらにおいでなのは・・・」


咄嗟にフューリーが窘めようとしたが。

それまで父の陰に隠れているだけだった、栗毛で大きなピンクのリボンを結わえた少女が。


「あたし・・・リィンタルト・・・」


か細い声で名前を告げた。

父親の陰で隠れるようにしていた少女が、麗美れいみへ初めて声を出した。

怯える様に、それでいて悲しそうな眼を湛えて。


「うん・・・そうか」


ロナルドと握手を交わした麗美が、すっとリィンタルトを名乗る少女へと手を差し出す。


「私は蒼騎麗美あおきれいみだ、リィンタルト。

 宜しくなリィン・・・これからリィンと呼ばせてくれないか?」


驚く茶髪の少女へ向けて、微笑みながら頼んで来る。

握手を交わす相手に、始まりから親交を願い出て来たのだ。


「え?!あの・・・あの、勿論!」


眼を見開いたリィンが思いっきり頷く。


「お友達の証拠だよね?あたしをリィンタルトお嬢様って呼ばなかったのは」


「ああ、そのつもりだリィン」


影に隠れていたリィンが、生まれて初めて自分から相手の手を取りに出た。

産まれて初めて財閥家の娘として扱われずに、友だと認められた。


「おお?!私の可愛いリィ~ンが?」


愛娘が跳び付く様を見て、ロナルドが歓喜の声をあげる。


「誰にも靡かなかったリィンが?

 なんとワンダフルな!素晴らしいですぞ」


麗美の手を取るリィンを、まるで蝶か花かと愛でていた。

そして、何かを思いついたのか手を打つと、


「准教授レイミィ~さん、どうか私の願いをお聞きくださいませんか。

 この子の親として、家庭教師になっても頂きたいのです。

 本来のお仕事以外ではありますが、何卒受けて頂きたいのです」


「ご、御主人様?!それはお屋敷の規則として・・・」


家庭教師を願うロナルドに対して、即座にフューリーが停めにかかるが。


「フューリーも感じておるだろう。

 あの内気なリィ~ンが、心を開いた初めてのお方なのだぞ。

 こんなチャンスは再び来るかも分からんのだ。

 私は当主として依頼するというのだが、文句はあるまい?」


しかしロナルド氏は強引に認めさせる。


「御主人様が、お決めになられたのなら・・・」


渋々メイドであるフューリーは、引き下がらざるを得なくなる。


「私は構いませんが、リィンは?」


麗美は受けると返し、


「うん!お父様ありがとぉ~」


リィンも快諾して、契約が成り立った。

先程まで父の陰に隠れているだけの少女リィンが、顔を綻ばせて笑っている。

本当のリィンは快活な少女であるのがそれを見ても判る。


「じゃぁ~あたしも麗美をレィちゃんって呼ぶね。

 だからリィンタルトのことをリィンって呼んでよね、約束だよ?」


「ああ、タルトが食べたくならないようにもな」


気の利いたジョークのつもりかは分からなかったが、麗美が親しみを覚えたのは間違いないと言えるだろう。

頷き合う少女達には、絆を繋げた一コマに過ぎなかったのだった・・・が。



「ちぃ・・・またしても邪魔が現れたのね」


二人の仲を疎ましく感じていた者が傍に居たとも知らずにいた。

長年リィンの専任メイドを任されて来た彼女が、恨めし気にロナルドの陰から睨んでいた事なんて・・・









「もう半年は過ぎちゃったかな?」


リィンは髪を撫でてくれているレィを見上げると、


「もう一つの約束も覚えてる?」


思い出したように訊いてみる。


「ふぅ・・・あれは。リィンの気の迷いだろ~が」


覚えているみたいだが?


「私と結婚するなんて約束、成立しないだろ~が」


け?結婚・・・ですか?同性で・・・有り得なくはないですけど?


「しっかり、覚えてるぅ~」


ニャハハと笑うリィンが、


「あと2年でレィちゃんも二十歳でしょ?

 そしたら~、あたしも17じゃん?結婚出来るでしょ~問題ない」


何を思うのか、指折り数えて断言した。


「まさか・・・本気だったのかよ」


苦笑いを浮かべるレィだが、髪を撫でるのを止めずに。


「あと二年か・・・あっという間だろうな」


少しだけ屈むと、リィンの蒼い瞳を見詰めて。


「これでも私は女なんだぞ。どっちが夫役なんだ?」


そっと訊き質して来る・・・と。


「あたしはねぇ~、お姫様役が良いなぁ~。

 ナイトに攫われちゃう囚われのお姫様ぁ。

 魔法の騎士に助け出されて想いを遂げるの。

 あたしを自由にしてくれる騎士様に、一生を捧げるの~」


半分眼を閉じたリィンが応える。


「ナイトか。だとすれば女騎士って言う奴か私は?」


「そ~、魔法マギカ騎士ナイトなの~・・・・」


瞼を閉じたリィンに、レィが頬を寄せる。


「そっか・・・マギカナイトね」


呟くレィは、髪を撫でている相手が眠ったのを知り。


「グッナイ、リィン」


軽く流し目を贈って微笑んだ。

ふふふ・・・マギカナイト。

とある時代では<魔鋼騎>の名称で呼ばれていますが。


お知りになりたければ、

https://ncode.syosetu.com/n7611dq

「魔鋼騎戦記フェアリア」

を・・・覗いてみてください。

魔砲少女ミハル・シリーズの原本であり、零の慟哭から続くひとつの未来像でもあるのです。



脱線しましたW


リィンとレィは、知らない内に闇から狙われていました。

彼女達を妬む者・・・それが次第に姿をみせます。

次回は迫りつつある闇を垣間見る事になるかもしれません。


次回 Act12 不穏な足音

忍び寄る悪魔の足音。だが、君達はまだ知ることもなかった・・・

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