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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第6章 宿命の絆
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Act 1 戦線崩壊

二人の目的地は同じ。


人類の存亡を賭けた戦いの地。

悪魔の巣食う塔へと・・・


挿絵(By みてみん)


聖なる戦闘人形は走る・・・約束を胸に。

一時は世界を席巻したかに見えた機械の軍団だったが。

各地で蜂起した人類の反攻により、次第に勢力圏を縮小していた。


今尚、多くの機械兵を有していたが、人類の攻勢は止められず。

戦闘を司る人形であっても、一度喪いかけた勢力を取り返す事は叶いそうになかった。


だが。


機械達の主は焦りも見せなかった。


悪魔の如く、人類の反撃を嘲笑っていたのだ。


残された時間は、もう直ぐ無くなると。


人類に与えた猶予は、間も無く終わるのだ。



バベルの塔とも呼ばれるニューヨークのタワーで。

紫色の珠が光っていた。

頂上付近に設えられた設備は、もはや稼働体制になっていた。


完全に動けるようになれば、瞬時に人類の世界を終わらてしまう。



機械達の主であり、塔に君臨する者は最期の日を待ち侘びていた。


御子がやって来るのを。


最期の鍵を開く為に。





リィンが解放軍を離れてから2か月が過ぎていた・・・







廃墟の街の中。


物陰に潜んでいる影が動く。




暗視装置を頭から被った戦闘員が数十メートル先を監視していた。


「前方60メートル先にエネミー!」


物陰で動いた影を敵と判断した・・・その訳は。


「金属反応と電磁波を感知。敵は機械兵!」


暗視装置に映し出された反応を読み取り、いち早く味方へと報じる。

相手が機械兵であることは全身が金属の塊であり、それに伴う電磁波状況から見て間違いなかった。


しかし、偵察を委ねられた戦闘員は支援攻撃を求めては来ない。


「あれは敵の斥候。あの奥には別の奴等が潜んでいる虞がある」


自分も偵察を任されている斥候なら、敵だって同じかもしれないと。

だから、今少し状況を見守る事にした。



 ギャリギャリ・・・



敵の潜む方角から重い音が聞こえて来た。



 ズズズズ・・・・



段々と音が高く聞こえるようになって来ると、戦闘員の居る辺りに地鳴りのような響きが。


「あれは?」


物陰に潜んでいた機械兵からの音にしては大き過ぎる。


「なんだ?!」


それに潜んでいる意味を失う結果にも繋がっているのだから。



 ガガッ!



それはいきなり現れた。


廃墟をぶち抜いて姿を見せたのは・・・


「出やがった!重機械兵バトロイドだ」


無限軌道を備えた全高3メートルのロボット。

上半身は人型であっても、足回りは戦車に等しい。

両腕には火炎放射器や重機関銃を装備し、戦闘だけに特化した機体。


相手が生身の人間にならば、脅威になる・・・が。


敵状を見守っていた偵察員が素早く出現した重機械兵の数を読み取ると。


「こちらベクター1。

 方位30にキャタピラー型バトロイドが5体出現。

 直ちに殲滅されたし・・・以上」


味方に報じるや、暗視装置に映し出された映像を有線ケーブルを使って送ったのだ。


「「確認した。これより殲滅する」」


味方陣地からの応答なのか。

偵察員へ手短に答えて来るのだが。


「これで・・・奴等は完膚なきまでに破壊されるだろう」


呟いた後、任務を終えた偵察員は破壊から免れる為に身を隠した。



 シュルル!シャッシャッシャッ!



その途端に、自分が潜んでいる上を何かが過って行く・・・と。



 グガンッグワンッ!



重機械兵の居る方角で、猛烈な爆発音が鳴り響いた。


「やったな」


爆発が治まるまで、偵察を控えて物陰に潜む。

尤も、攻撃が終わったのなら戦果確認をするのも偵察者の務めなのだが。


5発の有線ミサイルが頭上を過った。

その結果は観る迄も無いと言える。


緞帳な重機械兵に誘導ミサイルを避けれる筈も無いからもあったが。


「これまでに避けれた奴は居なかったからな」


味方の腕の程を理解しているから。



爆発音が途切れ、蠢いていたキャタピラ音も聞こえなくなった。

ゆっくりと頭を擡げて観測を始める。


暗視装置に映し出されたのは、敵とは言えど無惨な有り様。

燃え上がる機体、燻ぶり続ける上部人型・・・バラバラに砕かれた金属片。


それは機械と言えども無惨なる殲滅だった。

敵を捉えることすら出来ずに破壊されたロボット達。

もし、人であったのならどれ程無念だっただろうか。


だが、相手は人ではない。

感情を持たない機械に過ぎないのだ。

そこに無惨だと言える感慨などあろうか。



「こちらベクター1、敵の殲滅を確認。

 これより更に奥地へと進む・・・オーヴァ!」


暗視装置を被り直した斥候員は、破壊の洗礼を浴びた機械の脇をすり抜けて行った。

唯、己が仕事を成し遂げる為に・・・





十数キロ先の街から黒煙が舞い上がり続けている。


未だに頑強なる抵抗を続ける機械軍団を掃討するには、それなりの時間が必要だと目されていた。


到る場所から煙が噴きあがり、辺り一面が戦場だと言えた。



双眼鏡を降ろしたスキンヘッドな男が呟く。


「昔の・・・テロリストを駆逐した戦場に似て来たな。

 洞窟や地下陣地を虱潰しに掃討した・・・残滅作戦と同じか」


感慨を呟いた男は、少しだけ頭を振ると。


「唯違うのは・・・敵が人ではないと云う事だけ」


相手が人であったのなら、心が痛む兵士が現れただろう。

だが、今目の前で燃え失せて逝くのは単なる機械に過ぎない。

そこには慚愧や後悔などが現れることもない・・・筈だった。


「だが・・・お嬢なら。リィンお嬢だったら悲しまれるだろう」


機械との繋がりを心の中で想う娘だったから。


「機械兵の中にも・・・心がある者だって居たかもしれないと嘆かれるだろう」


心優しき鍵の御子リィンタルトならば・・・と。


スキンヘッドな男が、ほんの僅か想いを巡らせた。

そう、ほんの僅かの間。


「しかし、俺には守らねばならない約束がある。

 どれだけ犠牲を払おうが、やり遂げねばならんのだ」


敵にも、味方であろうとも。目的を果たす為には犠牲も躊躇わないと。


「時間がない・・・俺にも人類にも。

 奴はいつでも鍵を開く事が出来るのだから。

 悪魔には約束など、通用しないのだからな」


既に殲滅機械の灯が入っている。

悪魔に因っていつ破滅の火が放たれるかも分からない状況だと考えられた。


なぜか?


「奴は最初、人類に残された日限は180日と嘯いた。

 その計算でなら、まだ60日ほどは残されている筈だ。

 だが、現状を知った奴は約束を反故にしやがった。

 追い詰められた悪魔は、鍵を開くときを速めやがった。

 俺の御子リィンを壊すのも躊躇わないだろう」


僅か2か月ほどで戦況は一変していた。

世界中からの援軍が到着し、連合軍となって攻め寄せたのだ。


自国が未だに戦禍に見舞われていたとしても、根源を断とうと制圧軍を派遣した各国の判断は正しいとも言えた。

大軍を以って機械軍団を駆逐し始めた人類に対し、創造主を目指す悪魔は手の打ちようがなかったのか。

・・・いいや、そうではない。

手を打たずとも達成できると考えたのだろう。

人類を殲滅できると。


既に賽は投げられてあったのだから。

システムの鍵を握った御子を、傀儡に出来ると判断したのだ。


その結果。

悪魔タナトスは人類に対して再度の警告を発した。


人類に残した期限を速めると。

御子から鍵を奪えば、即座に殲滅すると。


タイムリミットは・・・残り1週間も無い。

警告が発せられて、既に三日は過ぎていたのだから。



「どこまで持ち応えられるか・・・お嬢に全てが委ねられたか」


たった独りで悪魔に抗っているリィンを想う。

自分がどうしてやることも出来ないのに胸糞が悪くなる。

傍に居れるのなら、身を滅ぼしても護ろうと計るのに。


「だから・・・約束を果たさねばならない。

 辺り中の機械共を殲滅して・・・迎えに行かねばならんのだ!」


それ故の攻撃。それ故の破壊。

その約束を守る為には犠牲など微塵も考慮しなかった。


決意を溢す男の後ろから、情報参謀が紙片を突き出す。


「いよいよ、ニューヨークに突入したようですぞ。マクドノー司令官」


突き出された紙片には、連合軍が市街地への突入を開始したとの文字が表されていた。


「・・・急がねば。俺達も一刻も早く辿り着かねばならん」


鍵の御子を奉じた解放軍の、今は指令になったマックが焦る。


「それと。これは未確認の情報ですが・・・」


焦燥感を滲ませる指揮官へ、参謀がもう一枚の紙きれを差し出す。


「彼の人形の件らしいですが。

 どうやら我々を追い越したようですが?」


乱雑に書かれた文字には、一人の少女型人形に纏わる件が寄せられていた。


「あの戦闘人形が?」


記されてあるのは蒼髪の人形が、現れ出る敵を撃ち破って進んで行ったとある。


「ええ。あの・・・聖戦闘人形ヴァルキュリアが、です」


情報参謀がマクドノーへ頷く。


「死神を潰えさせる聖なる人形。

 戦女神ヴァルキュリアがニューヨークへ辿り着いたようです」


参謀が一声添えた時、マクドノー司令は紙片を握り潰した。


「そうか・・・ならば我々も急がねばな」


握り潰いた紙切れを参謀に返し、


「噂によれば、聖戦闘人形ヴァルキュリアは御子をも破滅させようと目論んでいるらしからな」


どこかから聴き齧った噂を持ち出す。


「あの聖なる人形とか嘯く奴は。

 リィンお嬢を殺して破滅を回避しようとしているらしいじゃないか」


「噂では。確かな情報だとは言い難いですが」


噂の発信源が不明な点を、参謀は忠告したのだが。


「噂と言う奴は煙の立たない処からはでやしない。

 仮にデマだとしても、傍観などしていられるものか」


忠告する参謀を押し退け、マクドノーは眼下の街へと目を向ける。


「全軍に進撃を急がせろ!

 あの聖戦闘人形に先を越されるな!」


怒りの眼を機械の身体に魂を宿した娘へと向けて言い放った。


「悪魔だろうが女神だろうが関係ない。

 リィンお嬢に仇名す者は、全て敵だ!何者だろうが滅ぼしてしまえ!」


鍵の御子リィンに心髄する解放軍指令マクドノーは、殲滅を期して叫ぶのだった・・・







地獄の業火に捲かれる都市・・・ニューヨーク。


人類の未来を賭した闘いが繰り広げられ、辺り一面が阿鼻叫喚の中にあった。


機械兵が砲撃を喰らって吹飛ぶ。

応戦する機械兵の銃撃が戦闘員を薙ぎ払う。


人と機械の闘いは、いつ果てるともなく続くようにも思えた。


機械兵を指揮する人形が手にした得物を振り払う。

廃墟と化したビルが、一撃を浴びて崩れる。


だが、その瓦礫の中から紅い光弾が人形を貫いた。

胸の左側。

そこには人形の心臓部が設えられてあるのだが、無惨にも風穴を開けられては・・・



 グシャッ!



顔面から瓦礫の中へと墜ちた人形は身動き一つ執れなかった。


指揮を執るべき人形を斃された機械兵達に動揺が奔る。

いや違う。

指揮する者が居なくなっただけで破壊を停めようとはしなかった。


それは初めから与えられていた命令を遂行するだけのこと。

人類を駆逐せんとする機械にしか過ぎないだけ。


機械兵が応戦するよりも早く、何かが破壊を齎す。


勿論のこと、機械兵の敵に因って。



黒い影が、機械兵の頭上から降って来た。



機械兵のモニターに黒い何かが映されたのを最期に、機械兵本体が動けなくされた。

モニターに自らを破壊した相手が写り込む。


蒼髪・・・蒼い瞳。


黒の衣服・・・手にした大剣。


その姿は・・・戦闘人形。

本来が機械の仲間であるべき戦闘人形バトルドール


だが・・・明らかに違う。

味方ではない・・・機械兵を破壊したのだから。



数機の機械兵を瞬殺した戦闘人形が、機械兵達の本拠を見上げる。


高く聳えるビル・・・その頂上を。



「待っていなさい鍵の御子。

 あなたの因縁を、私が断ってあげるから」


蒼銀髪の戦女神ヴァルキュリアが、一言だけ溢した。

圧倒的だった機械軍団にも翳りが。

人類の反撃により追い詰められた悪魔だったが・・・


鍵を開く時は迫っていた。

それは<パンドーラの箱>の鍵にも似て、一旦開け放てば人類に滅びを放つ。


しかし、<神>は箱の中へ人類に与える<ひかり>を入れておいたのだ。

その<光>とは・・・・


次回 ACT 2 騙っていた男

ルシフォルを名乗る男は、鍵の御子に何を知らせるのか?

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