Act11 ハカリゴト
ルシフォルが語ったのは・・・
創造主へと成りあがろうと企てる男の真実。
彼はどうして間違ったのかを・・・
語られたのは、人間タナトスの生き様。
愛する者を奪われ、憎しみのあまり人を捨て。
神に近付こうとした愚かな男。
人の魂を、容と呼ぶ仮初めの身体へと宿して。
そして・・・そして・・・
悪魔に身を貶めてしまったのだと。
ニューヨークに聳え立つバベルの塔に居るのは、悪の象徴でもある魔神。
悪魔と化し、神をも越えんとする創造主タナトス。
だが、悪魔と化すようになる前。
彼の愛した者達に因って・・・いいや、彼自身の善意に因り。
もう一つの魂が残されていた。
悪意に染められていく前の、本物のタナトス教授に因って・・・
それが、ルシフォルを名乗る男の真実。
もう一人のタナトスでもあり、彼こそが人間タナトスとも呼べる存在だったのだ。
しかし、彼はその真実を二人には知らさずにいた。
弟の名を騙り、自らの手で悪意に呑まれたもう一人の自分を始末しようと試みているのだ。
その為に、今ここに来ていたから。
「・・・つまり。
タナトスは何者かによって悪意の塊と化してしまった・・・と?」
「はっきりと誰に・・・とかは言えないですが」
信じ難い顛末に、マックが今一度質し直してから。
「確かに人間離れした研究だとは思ってたが。
人の魂を人形に宿らせる技術が確立されていたなんてなぁ?」
「尤も、それはミハエルを救う為に始められたのです。
人類を消し去る為にでは無かったのです」
人に依り魂が移動させられる・・・つまり、永遠の命を授ける様なものだとも言えた。
不死になる・・・つまりは神にも等しい存在へと。
「奢り高ぶった奴が世界を牛耳るのを目論むのは、三流映画でも良く見たが。
まさか、世界を滅ぼした後で自分の思い描いた通りに変えようとするとはね」
「もしも塔のタナトスがミハエルの復活だけを目論んでいるのなら別でしたが。
今の彼は、完全なる人類の抹殺だけを欲している様にしか見えないのです」
悪意に染められたタナトスが、悪魔となってしまったからだと。
「いいや、それは違うぞルシフォル。
少なくとも死神人形だけは残る筈だ。
奴が人形の中へ宿らせた娘だけは抹殺対象から外れているぞ」
「あ?そう言えば。
彼女も人では無くなっていましたね」
世界から人が存在しなくなっても、人形へ宿った娘は残る筈だと言われたルシフォルが。
「ボクも含めて・・・数人だけですか。
悪魔の光を浴びても死なないのは・・・」
人類の脳を破壊する破滅の光を放たれたとしても・・・と。
機械の身体に宿っている魂だけが、そのまま残れると答えた時。
今迄俯いたまま考え込んでいたリィンが、ポツリと溢したのだ。
「だったら・・・魂を与えた本人はどうなるの?
機械に記憶を渡した張本人は?
タナトスの肉体は?それに死神人形になったフューリーは?」
「死んでいないのなら・・・改めて死を与えられるかと?」
想像の範囲でしかなかったが、人が全て滅ぶのなら当然のことだと考えられた。
「地上に居るのであれば・・・でしょうけどね」
否定しないルシフォルが、
「人を捨てたタナトスであれば、肉体に名残はないでしょう」
完全なる悪魔へとなるだけに過ぎないと答えれば。
「駄目よ!そんな事をさせたりしちゃァッ!」
吠えるリィンが、
「タナトスがどうなろうが知らないけど。
フューリーちゃんは助けてあげないと。
死神人形へ堕とされたのは、悪意に染められたからよ。
あたしは観たもの。ガラスケースに納められたままの彼女を。
哀しそうだった・・・辛そうにも思えた。
きっと本当のフューリーちゃんは別にいる筈だから」
昨晩観てしまった映像を思い起こして。
「だったら、尚の事。
最期の瞬間までに、助け出さないと!」
死神人形なんかではない友達を救うのだと言ってのけた。
「気が付いたのあたし!
あなたに教えられて、やっと現実だと思えて来たわ。
あのガラスケースに納められているのが本物のフューリーだって。
記憶を弄られてしまった人形なんかじゃない。
あそこで助けを待っている人こそが、あたしのフューリーちゃんなんだってね!」
旧友を助けると言うリィン。
それを聞いたルシフォルが、我が意を得たと言わんばかりに。
「悪魔から友を救うのならば、ボクも共に参りましょう。
お力添えが出来るように、力の限り尽くしますから」
バベルの塔に赴き、計画の実行に着手すると。
そうする事で自らの過ちを糺すのが、元からの願いでもあったのだから。
「お待ちくださいお嬢。
赴かれると言っても今直ぐには・・・」
雰囲気から察したマックが、慌てて釘を刺す。
「率いる軍は如何為されるおつもりか?
鍵の御子が居ないと敵に悟られれば、核攻撃を受けるやも知れないのですぞ」
今迄戦術核を撃ち込まれずに済んで来たのはリィンが居たからこそなのを、改めて言い募る。
「うん、良く分かっているわ」
リィンが居ればこその解放軍なのだと言われても。
「だから・・・マックにお願いがあるのよ」
「いいえ。この度ばかりは聴けませんぞ!」
即答で拒否するマックに、気心の知れた者だけが知るリィンの合図が送られて。
「?!内緒話ですかい?」
傍に来るように合図を送られて、何気ない顔で身体をずらした。
「これ・・・読んで。声を出しちゃ駄目だよ」
誰にも分らないようにリィンから渡されたメモに目を通して。
ー ぬぅ?!間者が潜入しているのか!
しかも今も尚どこかから見張られているのだと?
咄嗟に周りに気を配ったが、カメレオン効果を施された人形を見つけることは出来なかった。
ー お嬢の指輪を取り戻す為と、友人の救出の両方を目論むのか。
それには軍と一緒に行動していたのでは遅すぎるか・・・
リィンが先に目指すと言っていたのは嘘では無かった。
ー どうすれば居なくなったのがバレないで済むか。
それで・・・俺に役目を頼んでおられたのか?
メモに記されたマックの役目とは?
「良いですかお嬢。
解放軍にはお嬢が必要不可欠なのです。
因って・・・エージェントには軍と同道すると答えてください。
良いですね、くれぐれも指輪の誘惑には載せられないでくださいよ」
「・・・うん。ケホン」
咳ばらいをここで一つ。
威厳を正すかのようにマックがそれに応えて。
「ごほん!分かりました・・・ね」
それが。
マックとリィンとの中で交されてあった秘密の合図だった。
咳払いをする時、頷いて見せる。
それで互いが了承したのを示し合ったのだ。
これでリィンの作戦はマックの了解を得られた。
それと同時に、マックから付加されるのは。
「いまいち、信用が足りませんな。
こう言う場合においては、それなりの者を傍に置くべきでしょう」
「え?!まさか・・・マック?」
同道すると言うのかと、リィンがびっくりしたが。
「ちょうど、奴等に善い仕事だと思いますからね」
奴等と言う処に力を入れるマック。
それだけでリィンには意味が分かった。
「良いの?戦力が足りなくならない?」
呼び名を口に出来はしないが、奴等と言ったのが魔女殺し達のことだと分っているから。
「御心配なく。
俺が指揮しますんでね、最期にはお迎えに参上しますよ」
サングラス越しに、マックからもウィンクを返してくれた。
それで何もかも通じ合えていたから。
「まぁ、手始めに。
奴等でお嬢を御守りする仕事ってのをさせてみましょうかね」
「?!なによそれ?」
自分の計画にはないのを始めると言われて訊き返すが。
「それは・・・観てのお楽しみって奴ですよ、リィンお嬢」
間者の存在を知ったマックが目指すのは?
「それで・・・完璧になるのですから」
だから・・・何をする気なのですか?
「君達・・・ボクのことを忘れてないかい?」
決死の想いでタナトス等の事実を告げに来たルシフォルでしたが、リィンとマックにかかっては・・・ね。
こうして、翠の指輪の奪回と、人間フューリーの奪還を目指した隠密作戦の幕が切られたのでした。
「ですからぁッ?!ボクのことを忘れてるでしょ!」
うん、ごめんね本物のタナトス君。
気心の知れた二人により、謀られるのは?
マックに打ち明けたリィン。
果たして願い通りに事が運ぶのだろうか?
そして、観測者が再び現れる・・・
次回 Act12 嗤って謀れ!
姿の見えない相手だろうと、現実に存在するのなら足跡くらいは残るさ!




