表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第5章 聖なる戦闘人形<ヴァルキュリア> 
110/428

Act 7 拒否権のない取引

姿を見せない交渉人。

何の為にやって来たのか?

目的は?鍵の御子に何を迫るのか?


灯りの中に観えるのは、それが物体である謂れ・・・影だけ。


でも、影の上には靴らしき物が薄っすらと垣間見れる。

先の尖った黒い靴。


リィンには靴だけで影の正体が理解出来た。



「カメレオン効果かしら。

 身体を周りの色に変えれる特殊能力を与えられているようね」


姿を消した相手に、動揺もせずに言ってのけた。


「ほぅ?流石はアークナイトの令嬢と言った処か」


来訪者は自らの特技を言い当てたリィンを熟知していた。


「我がファーストから知らされている通り、御子たる者としての素質もあるようだ」


その上で、遣いの者として現れた謂れを話す。


「手短に話そう。

 忍んで来たのは、他でもない。

 翠の指輪は上長であるファーストが握っている。

 取引を呑めば、返してやらなくもない・・・」


「やっぱり、フューリーが奪っていたのね」


初めからそう考えていたが、手下によって確実だと知らされたから。


「取引なんて関係ないわ!

 必ず奪い返してみせるんだから」


死神人形の元まで辿り着き、どんな事をしても取り戻すのだと言い返したのだったが。


「話は最後まで聞け。

 私は伝言者に過ぎん。

 取引を持ち掛けたのは死神人形ファーストだ。

 この記憶装置メモリーに、取引の条件が入っている。

 それを観た上で答えれば良いのだ」


未だにハッキリと姿を現さない伝言者が、どこかから一個のフラッシュメモリーを取り出す。

ぼかしの掛けられた画像の様な手が、リィンへと差し出されて。


「これを観た上で返答しろ。

 返答方法も全て、その中に明記されてあるということだ」


「フューリーからの取引になんて乗る訳がないでしょう?!」


拒絶すると、伝言者はメモリーを強引にリィンへと突き付けて。


「お前には拒否する事は出来ない筈。

 指輪を取り戻せなくなっても良いのか?」


「な・・・なんですって?どうする気なのよ」


伝言者は声に凄味を持たせて答えるのだ。リィンが一番聞きたくない一言を。


「どうするかは・・・分っているだろう?

 指輪を破壊しても、御子には影響ないだろう?

 ・・・唯、それだけの事」


「や?!やめてッ!それだけは赦して・・・壊さないで!」


エイジから貰った命よりも大切な指輪を、壊されてしまったら。


「それを失ったら・・・私の存在意義がなくなるのよ」


エイジへの想いが詰まった指輪。

いつの日にか彼が地上へと戻ってくれた暁に、手に填めていなければならないのに。


「取引には応じれないかもしれない。

 見るだけなら・・・見ても良いから」


突き出されたメモリーを、嫌々ながら手にしなければならなくされる。


「それで良い。

 私の務めの半分は果たされるのだから」


拒否権など、初めからリィンには無いとばかりに。


「渡された上は、返答しなければならない。

 お前に拒否する事など出来はしないだろうがな」


嘲笑い、承諾するように迫るのだ。


大事な指輪を握られているリィンには、確かに承諾する他には道が無いようにも思えたが。


「もしも指輪を壊したのなら。

 あたしに残された道は一つだけになる。

 お前達機械全てを根絶やしにした上で・・・消滅させてやる。

 世界も・・・勿論、死神人形も!」


だが、唯々諾々とはいかないと言い返す。


「取引と言うのなら、壊さずに持っていなさい。

 あたしが応じるかは、逆にあなた達に掛かっていると知りなさい」


伝言者に向けて、指輪がどれほどの意味があるのかを教える。


「ほほぅ?強がりを言える程の余裕があるか。

 ならば、返答を期待しても良いようだな。

 ファーストも、より良い返事を待っているだろう」


だけども、伝言者はリィンの胸の内を見破っていた。

尤も、自分から存在意義を失う程の物だと言っていたのだから。


「う・・・」


どんなに強がっても、顔に表された焦りは隠しようがなかった。


「今夜はこれでおいとまするが・・・返答次第では再び現れる」


放心状態にまで追い詰められたリィンへ、


「その時には連れて行こう。

 我等が塔へ。創造主の前まで・・・な」


徐々に小さくなり消えていく伝言者の声。

気が付いたリィンの前には、既に影は消えていたのだった。

 



偽物の指輪と、手渡されたメモリーを見詰める。

死神人形フューリーは取引を持ち掛けて来たのだという。


一体どんな?

取引と言うが、こちらに分がある条件などではないのは想像に難くない。

でも、不利なのが分かっていても見なければならない。


手元にあった端末のソケットに差し込む。

圧縮されたファイルが自動的に展開していくのを、リィンは固唾を呑んで見守った。


ウインドウが数枚開き、動画ファイルが起動する。


薄暗いどこかの室内。

正面に佇んでいるのは・・・


「フューリー・・・」


漆黒の戦闘人形バトルドール服を纏った少女の姿。

忘れもしない、大切な人を殺めた仇の姿を再び目にした。


裏切り、肉親をも殺した相手を目にしたリィンが、思わず歯を食いしばる。


「あたしから何もかもを奪い去った憎い奴・・・」


鍵の御子としての務めを果たせたのなら、月から帰って来る人に差し出す筈だった指輪さえも奪ったのだから。


「あの日・・・撃っておけば。

 重傷を受けたレィちゃんの仇をその場で討っておけば・・・」


思い出すのは最初の悲劇。

フューリーによってレィが毒を受けて倒れた後。

拳銃を握った自分の前に佇むフューリーの姿。


「あの時・・・殺してしまえば。

 こんな事にはならなかった・・・筈」


怒りに狂い、ガードマンの拳銃を奪ってフューリーに迫ったあの時が思い出される。


「あたしが人殺しになれば・・・多くの人が死なずに済んだのに」


過去の自分を恨み、後悔するリィン。

だが、あの時は。

撃ち殺すなんて出来る筈も無かった。

こんな事になるなんて、分かりようがなかったのだから。


「ロッゾアお爺ちゃんも。

 お父様やユーリィお姉様。

 それに・・・人形に宿ったレィちゃんまで。

 みんな、あなたが手に掛けたのよ!」


奪われた命の多さに、リィンは恨みを抱く瞳で画面を凝視する。


「そして今は。

 あたしの命より大事な指輪を奪い去った!」


画面に映る漆黒の人形には、左の薬指に輝く翠の指輪が填められていた。


「返しなさいよ!アタシの宝を。

 貴女なんかには必要も無い筈よ」


怒りと恨みに打ち震え、画面に向けて吠えたてる。


・・・と。


「「見えるでしょうリィン?

  これを返して欲しいのなら、私の言う通りにしなさい」」


画面の憎い相手から、一方的に命じられてしまった。


左手を突き出して来る死神人形。

人形の表情は、何らの感情さえも見て取れないが。


「「分っているでしょうけど言っておくわ。

  あなたには拒否する事など出来やしない。

  尤も、これが要らないのなら別だけどねぇ」」


薬指を翳し、澱んだ紅い瞳を向けてくる。


「「返して欲しい筈よねぇ?

  だって・・・秘められた想いが籠められてあるもの」」


口元を歪めて、やっと邪なる表情を見せると。


「「憎たらしい奴。

  私のリィンタルトへの愛の容として贈ったのよねぇ?

  それを肌身離さず持っていたなんて・・・大切なんでしょう?」」


緑色の光を放つ指輪を弄び、リィンへ嗾ける死神人形フューリー


「そうよ!あなたなんかには分かる筈も無い。

 それはあたしのにとっての命、何よりも大切な生きる証なのよ!」


通信回線でもないのに、リィンは声を荒げて言い返してしまう。


「エイジとの約束が詰まった宝物。

 世界が変わったとしても、それが無ければ意味がないの」


タナトスの野望を潰えさせられても、自分がどうなるかは分からない。

世界を変えることが出来ても、生きていられる保証はなかった。


「月から彼が戻って来てくれたら、きっと指輪があたしの居場所を示してくれる。

 もしもあたしがどこかに封じられていても、指輪が扉の鍵になってくれるのよ」


翠の指輪さえ持っていられれば、エイジには分かって貰えると想うから。


「死んだとしても、指輪を離さない。

 死んでも貰った指輪を手放さなかったんだって。

 あたしを見つけて貰った時に教えたいの!」


だからこその指輪。

命よりも大切だと言う謂れ。


「返して!指輪を返してよ!

 取り戻せないのなら、あたしは死ぬ事すら出来やしない!」


画面に映る死神人形の指輪に手を伸ばし、必死に叫ぶリィン。


「「返して欲しいだろうリィン?

  だったら、私の求めるように行動するが良い。

  ここからは取引だ。

  私の言う条件を呑めば、指輪を壊さずに持っておいてやる。

  もしも拒むのなら・・・指輪は粉々に砕いてやるぞ?」」


しかし、死神人形は一方的に譲歩を迫った。

人質を獲った凶悪犯のように。


「「覚えておけよリィンタルト。

  私はいつでもお前を見張っているのだと。

  逃げ隠れしても無駄。逆手を執ろうとしたって直ぐにバレるのだとな」」


言い切った死神人形が余裕の顔を向けてくる。

見張られているのは、伝言者がいとも容易く侵入して来た事からしても嘘ではないだろう。


「「これからの行動は伝言者に因って導かれる。

  拒否する事は、即刻指輪を失うのだと覚えておくが良い」」


否応無しに命じられてしまう。

憎い相手に、良い様に動かされる屈辱感がリィンを蝕み始める。


「う・・・分かったわよ」


本当は拒否したい。

だけど指輪を握られた状況では抗う事すら出来なかった。


「「分かったかしらリィン?

  既にあなたは私のとりこに堕ちているの。

  逃げ出すなんて出来っこないと思う事ね」」


「・・・逃げやしないわよ」


指輪を取り戻せるのなら、奴隷にだって堕ちても構わないと?


「指輪さえ取り戻せるのなら・・・ね」


虜と呼ばれたリィンが、考えを巡らせて頷いた。


「取り戻した後、必ずフューリーを殺してやるわよ」


復讐を果すのは自分の方だと。


「タナトス諸共、必ず滅びを与えてやるんだから」


必滅を新たに誓ったのだった。


「「待っているわよリィンタルト・・・いいや、鍵の御子。

  この呪われし塔まで来て、本当の私に会いなさい。

  そうすれば・・・聖なる者なんて無に等しいと分かるから」」


滅びを誓ったリィンの耳に、少しだけ違う声が届く。

今迄の邪な声ではなく、ずっと昔に訊いた事のある人の声が。


「フューリー・・・ちゃん?」


画面に目を向けて、それが如何なる訳なのかが理解出来た。


「フューリーちゃん?!」


死神人形の背後。

そこにはガラスで覆われた棺があった。


挿絵(By みてみん)


嘲る死神人形の背景に、薄暗い中に見て取れたのは。


「金髪の・・・フューリー・・・ちゃん?」


人形なんかではない、人であった頃のままの姿。

フェアリー家で執事として暮らしていた頃のままの姿で横たわるのは?


「もしかして・・・今の声は?」


ガラスの棺に横たわっているフューリーが、生きているのかと錯覚する。


「聖なる者?

 死神人形が邪なる者なら・・・棺のフューリーは?!」


もしも生きているのならば、棺に納められた者こそ?


「もしかしたら。

 あたしに逢いたがっているのは・・・本物のフューリーなの?」


気が付いてしまった。

レィの記憶を人形へと移した後でも、人間の麗美は生きていたことに。


「だったら・・・人間のフューリーちゃんは?

 もしかしたら・・・死神なんかじゃないのかもしれない」


記憶という名の魂を封じられた人形。

それは造り手によって変えることが出来たのかもしれない事に。


記憶を歪められてしまうかもしれないのに、やっと気が付いたのだった・・・

 

帰って行った伝言者。

回答を待つと言っていたが、リィンには拒否など出来る筈もない。


リィンは独りで考え、結論を出した。

それは解放軍から抜け出る事なのか?

もし、マックに事実を告げるのなら・・・


次回 Act 8 ファーストとフューリー

そこに居たのは記憶を改竄されし者。そして穢された者だった・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ