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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
零の慟哭 <少女人形篇> 第1章 不穏な足音
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Act10 歪んだ研究

リィンはロナルドに確保された?!


無理やり晩餐につき合わされるのだが?

ヴァルボア教授の調整が終わった後、父ロナルドとディナーを摂るように命じられたリィンだったのだが。


「全く以ってけしからん」


ニューヨーク市郊外にある、森閑たるレストランでロナルドの引き攣った声が聞こえた。


「折角リィンを連れて来たと言うのに・・・だ!」


財閥家のロナルド氏は、給仕をする女性の姿を目で追いながら憤怒していた。


「仕方ないよお父様。今ではメイドなんて殆どがドールだもん」


ロナルドが怒っているのが、一流レストランだというのにロボットが料理を運んでくるからだと分っていたリィン。


「それに~、あれはアークナイト社製のメイド型ドールだよ」


ロナルドが経営する会社が造った人形機械だと教えるのだった。

遠目で観れば女性となんら変わる処が無い程リアルなドールだが、間近で見れば造形物だと分ってしまうのは致し方が無い。


「そんなことは分かっておるんだよリィン。

 唯、5つ星のレストクラブなら人間を雇うべきではないのかと思ってね」


リィンの事なら金に糸目をつけないロナルド氏には、我慢が出来ないようだ。


「折角リィンを招いたというのに・・・だ。

 ドール関係の仕事など忘れさせて貰いたいものなのになぁ」


愛娘であるリィンに甘い父ならではだろう。

自分もそうだが、ドールに夢中になっているリィンから少しの間だけでも忘れさせようとディナーに招いたのかも知れない。


「気にしなくても良いよお父様。あたしは慣れちゃってるから」


「そ、そうかいリィン。やはりお前が一番心根が優しい。

 私の娘達の中で最も麗しい娘だよ、パパは可愛いリィンが大好きなんだ」


リィンは別にロナルドへ気を遣った訳で言ったのではない。

周り中にロボットが溢れ、居ない方が珍しい位だっただけなのだ。

それほど世の中に機械が溢れていて、当り前になっていたから。


「はいは~い。私はお父様の癒しなんでしょ~。

 癒されたかったらベタベタしないようにぃ~。

 人形とは違うんだからね、ドールとは別ものなんだからね~」


ロナルド氏がリィンを観て目尻を垂らすと、そっぽを向いてしまう。

面倒臭がったリィンは、父親であるロナルド氏に愛想を尽かしているようだ。

まぁ、良くある娘偏愛ドータコンって奴なのだろう。


「そうは言ってもなリィン。私は可愛くて仕方が無いのだよ」


「う~ざぁ~い」


大財閥家のロナルド氏も、リィンにかかっては形無しなようで・・・


「はぁ・・・面倒臭いなぁ。レィちゃんは今頃どうしてるだろ~?」


一方のリィンときたら、溺愛する父より麗美のことが気になって仕方がないみたいだ。

ロナルドが話しかけても上の空で返事をするだけになるリィン。

心はとっくの昔に大好きな人の元へ飛んでしまっていた。


「レィちゃん・・・頑張ってるのかな?」




挿絵(By みてみん)




レストランの窓から見える夜景には、離れた市街地の灯が煌々と観えていた。








 ざわわ・・・



夜ともなると、風が冷たく感じる。




深夜となっても、とある研究室ラボの灯りは落ちなかった。



ここは麗美が助教授を務める大学の中。

ユナイテッド・ステーツでも屈指の規模を誇る研究機関が資本を提供しているだけあって、備品も揃えられていた。

巨大なコンピューターや、何台ものモニター・・・それに実験装置。

取分け巨大なのは、宇宙から観た地球。つまり地球儀だ。



「私はこのような案には賛同しかねます」


タブレット端末を机に置いて、蒼騎助教授が首を振る。

置かれたタブレットの画面に映っていたのは。


「人類再生計画とは、このようなものだったのですかターナー教授?」


人類の未来をかけた計画だと聞いていた蒼騎助教授が問いかけるのは、白髪に近い銀髪の教授。


「気に入らんのかね麗美君」


「気に入るも何も。これではノアの箱舟ではありませんか!」


声を荒げる麗美レィが、タブレットを示す。

画面には<人類再生計画>とあるのだが?


「選ばれた人間だけを月面へ移住させる・・・何が気に喰わないのかね」


「その後の事です。月に移住させた後、地球をどうしようと仰られたのですか」


一方的に声を荒げるのは、普段温厚なレィには珍しいのだが。


「君は言ったではないか、ノアの箱舟だと。

 然る後に、地上は神々の怒りに触れてしまうのだとも・・・ね」


正反対にターナー教授は冷たい声で返す。

しかも、レィが言わずにいたのを、事も無げにで言うのだ。


「馬鹿な・・・そのような話がある訳が」


「無い・・・と、言い切れるのかね麗美君」



21世紀末、地球は汚染により自然が破壊されてしまっていた。

温暖化が顕著になり、あらゆる土地で異常気象が頻発するようになっていた。

北極から南極まで、元の自然は残されてはいなかった。

海面上昇により島国は水没し、洪水は砂漠までも押し寄せた。


未だ嘗て無い規模の気候変動により、国際間でのいがみ合いが頻発していた。

各々の国が利益を欲し、大企業が営利を要求した。


そして・・・いがみ合いは紛争となって人々を苦しめる。



「いいかね蒼騎助教授。

 我々人類に残された時間は僅かなのだよ。

 今の内に手を打たなければ、地球自体が崩壊してしまう。

 それだからこその<人類再生計画>なのだよ」


ターナー教授の言わんとしているのは、放置しては於けないという事。

地球が人類によって破滅してしまうのを防ぐのだとも採れた・・・だが。


「でも!

 教授の仰られた再生計画には、残される人が抜け落ちているではありませんか」


月面移住は分かるにしても、残される多くの人々はどうなるのか。


「それと気になる事があります。

 教授からは神々の怒りに触れた人類が如何になるのかを伺っておりません」


少数の人間だけが生き残る・・・ノアの箱舟だとターナーは嘯いたではないか。


「そして・・・私が本来研究しているのは<再生>ではなく。

 <共存>の模索なのですけど、お忘れではありませんか?」


レィはすっくと立ちあがると、白銀髪の教授に訊ねた。


「私は人類が平和に暮らせる世界を求めて来ました。

 戦争を繰り返して来た歴史に終止符を打つのが目的なのですよ?

 今現在でも紛争が絶えず、苦しむ人々が居るというのに。

 救える命を絶やすのが目的だとでも仰られるのですか」


ターナー教授の計画の顛末には、平和など見えては来なかった。

彼は一部の人間が神となるように仕向けている気がしたのだ。


「君は理想論者だったね。

 だが、理想だけでは人類の先駆者にはなれんのだよ。

 増えすぎたモノは、レミングの論理が適応されると考えたことは無いかね」


ターナーが持論に拍車をかける。

レミングの論理とは・・・増えすぎた種族の粛清を意味する。


「人類は増えすぎた。

 増えすぎたモノは、自らで数を調整しなければならないのだよ」


その声は悪魔のように聴こえる。

一握りの者に因り、種は撲滅しなければならないと言われたからだ。

そう・・・それがターナーの言う<人類再生計画>の実像だった。


「認めることは出来ません。

 あなたの仰られる種の粛清など、あってはならない悪夢なのですから」


麗美レィは会談を打ち切るようにターナー教授に背を向ける。


「この件は私の中だけに仕舞っておきます。

 どうか再考を・・・ターナー、いいえタナトス教授」


足早に研究室ラボから立ち去るレィが、ドアを開ける間際に一言付け加えた。


「まるで闇の神の如き計画ですわね・・・その名にふさわしい位に」


蔑視するような顔でレィが溢した。

ギリシャ神話に出てくる闇を支配する神の名だと、タナトス・ターナー教授を揶揄したのだ。


「そうかね・・・オリンポスには居てはならないと言うのだね」


「ええ・・・それこそ神の怒りに触れますもの」


答えるレィの姿がドアの向こうへと消える。






「ふふ・・・だがな麗美君。

 君が何と拒絶しようとも、既に賽は投げられているのだよ」


置き去られたタブレット端末を見ながら、ターナー教授は哂う。


「私の計画を後押しする者が、既に実行に移し始めておるのだ」


彼は言う。

ノアの箱舟は、既に造り始められているのだと。

そして・・・


「もう一つの計画も・・・半ばまで出来上がったのだよ」


もう一つ?


「人類には消えて貰わねばならない・・・全ての魂と共に」


それが<人類再生>なのだと?



悪魔のような計画は実行に移されてしまうのか。

それとも事前に誰かが停めれるのだろうか?


今、リィン達の運命は軋み乍ら回り始めてしまった。

それは地球全体をも巻き込んだ凄絶なる戦いへの序幕となる・・・




何かを秘めた計画に、レィは即答で拒否するのだが?

これが後々の禍根となるとは・・・


2人の身に迫る闇・・・

今だはっきりと姿を見せては居なかったのだが?


次回 Act11 夢の中であたしは・・・ね

君は夢の中で何を期待する?その夢は夢だけに終るのだろうか?

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