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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第5章 聖なる戦闘人形<ヴァルキュリア> 
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Act 2 闘う姿

ロボット警官リックは斃れた。


今、ミハルは敢然と立ち上がった。

機械兵達の前へ。絆を繋ぎとめるためにも・・・

機械兵達は混乱した。

人工頭脳で計測しても、飛び出して来た相手が機械なのか人なのかが判別できなかった。


向かって来るスピードは、遥かに人を凌駕している。

だが、姿形は人のモノと判断出来た。


人であって人では無い者・・・つまり。


「「人形ドールだと判別する」」


機械兵達が結論付けたのは、半ばまでは間違いではない。


蒼髪を靡かせ、蒼い瞳を光らせる娘。

それは自分達の上に位置する高度な機械人形に相違ないと考えたのだ。


逡巡した機械兵達が、僅かな隙を見せた。

その一瞬が娘にチャンスを与えることとなる。



軽快に走って来た娘が、倒れているロボット警官の元へと辿り着き、


「リック君・・・後は私に任せて」


放り出されていたリックの装備銃を手に掴むと。


「あなたの銃を借りるわね」


普通の少女には重すぎる大型の拳銃を、右手で軽々と持ちあげる。



 チャキッ!



弾倉をスライドさせて、残弾数を確認する。


「弾倉の残りは4発、薬室内に1発。併せて5発・・・か」


目の前に居る機械兵は都合7体。

一発で1体を撃破しても、2体が残る計算だ。


敵から銃火器を奪おうにも、機械兵の武装は内蔵型。

埋め込まれてある機関銃を奪う手立ては考えにくい・・・ならば?


「同士討ちを誘うしかなさそうね」


敵が群れている現状を、瞬時に攻撃手段へと変換する。


「奴等に接近戦を挑むしかない・・・か」


戦術を謀り、蒼い瞳で7体の機械兵を見比べる。

その中の1体が必ずこの場を指揮していると睨んで。


塗装に変化は見られない。

機種も装備も同じ・・・外観では判断できない。


「それなら・・・自白させてみるしかないわね」



呟き乍ら立ち上がる。

顏に掛かっていた蒼髪を左手で掻き揚げ、機械兵達へ向けて自らを晒す。


「あなた達は犯してはならない罪を背負った。

 仲間であるべき機械を破壊し、友を守らんとした気高き想いを踏み躙った。

 私は・・・赦しはしないから!」


取り囲む機械兵へ向け、手にした銃を挙げる。


「「人形ドールに異常を検知。危険危険!」」


7体の内真ん中の兵から警告音が流れ出る。


「こいつは・・・違う」


警報を流す機械兵にではなく、そのまた横の兵にポイントして。


「一番最初に罪を償いたいのは・・・誰?」


機械兵の弱点である紅いカメラへ狙いを定める。


・・・それが敵機械兵達へ向けての布告となった。


「「この人形ドールは敵だと認定する。攻撃せよ!」」


仕向けられたと考えなかったのか。

敵の中の1体、右端に居た兵が命令を下した。


「右端に居るのが・・・ボスね」


敵兵達が動き出すよりも早くに・・・



 シュパッ!


銃を右端の機械兵へと向け直して。



 ドンッ!


人間の想像を越えた速さで初弾を放ったのだ。



 ゴンッ!



頭部に設えられたカメラが粉々に吹き飛ぶ。

防弾ガラスで囲われていた内蔵カメラが破壊され、その周囲に在った映像端子をも使えなくした。



 ガゴンッ!



動きを停められた機械兵が、衝撃で横に居た仲間と縺れ合って倒れ込む。


「「指揮兵のモニターが破壊された。各個に敵を撃つべし」」


指揮統率するべき機械の視界が壊され、的確な指示を与えられなくされた6体は。



 ガキュン!



機銃を蒼髪の娘へと向けようとしたのだが。



 タタタッ!


その時には既に、


 ドンッ!


目の前にまで接近を許してしまっていたのだ。



 ドンッ! ドンッ! バムッ!



銃に残されていた弾を全て使い切り、



 ガシャンッ! ガクッ!グシャッ!ドシャンッ!


4体の機械兵が次々に無力化されて行った。


「「撃て!撃て!」」


残りの2体が、仲間達を無視して攻撃の火ぶたを切り出した。

それは、仲間をも犠牲にする愚かな行為にしかならないのに。



 ドドドドッ!



重機関銃が連射を加える・・・仲間達の傍に居る人形へと。



 ガ・・・ガガガッ!


至近距離で放たれた弾が、仲間達の装甲を突き破ってしまい・・・



 ボムッ! ブシュッ! ドンッ!


カメラを壊されて身動き取れずにいた機械兵を悉く破壊してしまう。

銃弾を手玉に取る人形が、次に向かったのは残った2体の内の片方。


鈍重な機械兵の機銃を回避して、内懐へと迫った瞬間。

双方の銃口が重なり合ってしまう。



 ガキンガンガンガン!



娘を追って連射を停めずにいた2体が、双方に弾を送り合って・・・



 バガンッ!ドンッ!



相打ちになって果ててしまったのだ。



機械兵7体と蒼髪の娘が交戦したのは、僅かに1分と経たなかった。

圧倒的優位だと思われた機械兵だったが。

たった一人の娘に、いとも容易く壊滅の憂き目に遭わされた。


「がう~う?!(すげぇ~マジかよ?!)」


グランは戦闘と呼ぶのには、あまりにも早い結末に舌を巻く。


「がうがう~う(これが戦闘人形の威力なのか)」


感嘆の呻き声をあげ、蘇ったレィだと思われる娘の巧みさを褒めるのだが。


「がうがうがぅ?(それにしてもレイミとか名乗ったけどなぁ?)」


闘う前に自分をレィとは違うと話していたのを思い出した。

戦闘人形レィではなくて、人間だった麗美れいみだと言っていたのだが。


「ががう~ぅ?(でもこの戦いぶりは戦闘人形のそれだぜ?)」


人間ならば鮮やか過ぎる戦闘。

戦闘人形ならばこその闘い方だと思うのだが。


7体の撲滅を完遂した娘が戻って来る。

独りで機械兵7体を瞬殺し終えて、黙ったまま歩いて来る。


「ミハルお姉さん?」


仇を取ってくれた蒼髪の娘に呼びかけるトム。

傍まで歩んで来た娘が、その声に立ち止まる。

そして、手に携えて来たリックの銃を差し出して・・・


「ごめんなさいトム君。

 これしか・・・あなたに返せなくて」


形見として最後に手にしていた物を手渡した。


「こんな・・・武器しか返せなくて。

 彼を救う事が出来なくて・・・ごめんなさい」


全弾を撃ち尽くした自動拳銃は、スライド部を開け放ったままになっていた。

それは、この銃が役目を終えたのを意味してもいた。


「リック・・・ありがとう」


銃を手に取ったトムが一言呟き。


「僕はきっと諦めないよ。

 生きることだって、全力で立ち向かうから。

 だって・・・リックが守り通してくれたんだから」


推し抱いた銃に誓った。


「君の誓いは絆を繋いだの。

 トム君とリック君の約束は、永遠に奪われはしないわ。

 喩え機械達の世界に貶められても・・・」


リックの銃を抱くトムの肩を優しく掴んで。


「だから・・・ね。

 君は人の居る処に行くべきなの。

 生きていく為には、人の傍に居るべきなのよ」


少年一人だけで居るのは辞めるべきだと諭す。


「私達が誰か信頼のおける人の所まで送ってあげるから」


「うん・・・リックもそう言うと思う」


トムを案じて果てたロボットの警官リックの願い。

それはトムが生き続けられるように、執り図られるべきだと思っているだろう。


「この街は・・・もう危険になってしまったからね」


襲って来た機械兵を打ち倒した結果、次に来るのは何倍もの兵。

アーンヘルの街は、既に機械達が取り仕切るようにまで成り果ててしまったのだと。


「トム君・・・辛いでしょうけど。

 私達と今直ぐに、街から出ましょう」


トムを抱き起し、出発すると教えて。


「リック君にお別れを・・・」


斃れたままの警官に向けて、決別を告げてと頼んだ。


「うん・・・」


穴だらけにされたリックの姿を見たトムが、


「もう・・・心の中で言ったから」


近寄らずに答えた。


友の無残な姿を焼きつけたくはないのか、伏し目がちな顔を明後日へと向けて。


「さよならは・・・言わない事にしたんだ」


心に宿るリックの姿へと。


「またね・・・って。言ったんだ」


「そう・・・強いのねトム君は」


頷いた蒼髪の娘が代わりに、亡きロボット警官を観て。


「あなたの代役は務まらないけど。

 あなたに代わってトム君を守ります。

 いいえ・・・この世界に居る子達全てを。

 理不尽な悪魔から護ります」


眦に薄っすらと涙を湛えて誓っていた。



「がうがうが~?(おいおい待てよ、レィは人形の筈だろ?)」


傍に居たグランは、レィだかミハルだか正体の掴めなくなった娘を見上げて傾げる。


「がうが~う?(機械の癖に涙を流せるのかよ?)」


超高度化した人形でも、感情の起伏による涙を流せはしない。

それなのに、今、蒼髪の娘は涙を湛えているのだが?


「がう~~?(まさか本当に人間になったのかよ?)」


グランでも分かりようがない。

でも、確かなのは元のミハルではなくなっている事。


この変化が意味するのは?

戦闘人形ばりの戦い方。

やはりミハルは戦闘人形レィの記憶を持っているのか?


だが、トムが目にしたのはミハルの優しさ。

決して闘うだけに造られた人形ではないのだと・・・


次回 Act 3 聖なる者

君は天使か女神か?幼き彼が教えてくれたのは?

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