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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第4章 光と闇を抱く者 
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Act11 兄弟の秘密

墓碑の前で語り合う二人。


ルシフォルはヴァルボアへ何を話すのか?

ヴァルボアは何を聞かされようとしているのか?


真実は彼の口から紡がれた・・・

アーンヘルの街に独り残っていた少年トム。

ロボットのリックだけがこの街で残った友だと教えるのだが・・・


「トム君はどうしてこの街に留まっているの?」


他の住民は一人も残っていないというのに・・・と、ミハルが訊けば。


「待っているんだよ、パパとママを」


トム少年から返された言葉の意味で、ミハルは何と愚かなことを訊いてしまったのかと忸怩たる思いに囚われた。


ー トム君は帰らぬ御両親を待ち続けている・・・亡くなったとは考えもせずに


愛する我が子を置き去りにして逃げた・・・何て思いたくも無い。

それならば迎えに来れない理由は唯一つ。


「御両親は・・・遠い所に行ってるのね?」


少しでも言葉を和らげたかった。


「トム君と別れられたのは何時だったの?」


微かな希望を載せて、確かな事実を求めようとして。


「そう・・・あれは。南の空が真っ赤に燃えた後だったかな」


「そ・・・そっか。一か月ほど前だったんだね?」


世界が核に冒された日・・・世界が機械達の反逆にあった日。

その日を境に人は地獄へ堕とされた、トム少年の御両親も。


「普段通りに、二人の乗った車がフロリダへ向けて出発したんだ。

 晩には帰って来る予定だったのに・・・まだ帰らないんだ」


ひと月も・・・音信不通になって。


「叔父さんや叔母さんも。

 半月前に起きた機械達の暴動で・・・消えちゃったんだ」


トム少年には死と呼ぶものが分っていないのだろう。

人々が斃れ、命の灯が絶たれたのを<消えた>と思わせている。

それはおかしな話ではない。

年端のいかない少年には、虐殺などが判る筈も無いのだから。


「・・・それからずっと?独りで待っているの?」


ひと月もの間、トムだけで生き抜いて来たのかと訊くと。


「ううん、リックが居てくれるんだ」


3メートルもの巨体を仰ぎ見て、友が傍に居てくれるからと笑う。


「そっか・・・リック君とはいつからお友達に?」


巨体を誇るロボットの身体には、銃弾が掠って削れた跡や、何かをぶつけられた痕跡が残っている。

それがなぜ着けられたのか?


「リックはね、僕を守ってくれたんだ。

 悪い機械達から・・・酷い目に遭わされても」


「街を襲った機械達から?それじゃぁリック君は元からトム君と?」


傷を着けた相手は、リックの仲間である機械達だと分かった。

そうだとすれば、リックは怪電波を受けていなかった?

本来仲間である筈の機械達に襲われた理由は?


「ううん、リックはね。

 元々が保安官事務所に勤務していた警官だったの。

 それが突然、他の機械達と暴動を起こしたんだけど・・・」


「そう、リック君も・・・で?」


言葉を詰まらせたトムに、話の先を促すと。


「パパとママを待っていた僕の家に入って来たら・・・」


「押し入って・・・いいえ、入って来たら?」


その時の光景を想像して、思わずごくりと生唾を飲み込む。


「急に動かなくなって。

 僕がお巡りさんって声をかけると・・・」


トムが警察官の愛称を声に出した時。



 ガシャンッ!



リックが腕を伸ばしたかと思えば・・・


「「悪イコトヲスル者ハ、りっく巡査ガ赦サナイ」」


手の平に付けられた警察官バッジを指し示して来たのだ。


「ほら!リックはお巡りさんなんだよ」


少し自慢気に、トムが警官バッジを見せるリックが未だに警官なのだと教えた。


「ホントだね!リック君は街のお巡りさんなんだよね」


どうしてなのかなんて、考える程野暮じゃない。

きっとこれはトムの亡くなられた御両親が守ってくれた奇跡なのだと思う事にした。


実際は暴動の最中に、銃弾を受けて内部の機能が壊れた結果で、偶々トムの前で操られた状態から解放されたのだと判断出来た。

それが奇跡だと言えば、そうだともいえるのだが。


「そう!リックは僕を守ってくれているんだよ」


たった独り残された生存者であるトムを守る為に、リックは警官としての務めを果たそうとしているのだ。


「本当は・・・こうでなければならないのに・・・ね」


機械は人に寄り添い、助ける存在でなければならない。

それが機械本来の姿であり、人は感謝を以って接するべきなのだとミハルは思うのだった。


二人が生き延び、伴にあるようになってから一月が過ぎた。

だったら・・・


「暴れ回る機械達が、この街から居なくなったのは?」


「う~んと・・・リックと僕が出逢った日かな」


すると街に居た人々は、僅か数日で?


「物が壊れる音が聞こえなくなったから・・・間違いないと思うんだ」


機械に因る破壊の終焉、それが意味したのは虐殺の幕引き。

人々を駆逐し終えた機械達は、電波に導かれて他所へと移動したのだろう。


「それからずっとリック君と?」


ひと月あまりも少年とロボットだけで生きて来られた?

こんな幼い子供が、どうやって食い凌いでこれたのだろう・・・と。


トムの身体は別段やせ細ってはいないし、健康状態も悪いようには見えない。


「お食事は?何を食べているの?どこで手に入れているの?」


ひと月もの間、トムが健康を保てている訳を質すと。


「スーパーで買い物してるから。

 あそこにはお菓子やピザが山ほど置いてあるもん」


「えッ?!お買い物・・・出来るの?」


俄かには信じ難いが、トムは普段通りに買い、食事を賄っていると答えた。


「うん、ママから無駄遣いはいけませんって言われてたんだけど。

 カードでちゃんと支払っているんだ」


「え?ええ?!カードって・・・使えるの?」


トムの答えはミハルの予想を覆していた。

この街には電気が来ていて、スーパーのレジも使える状態なのかと驚いたのだ。


「あ?うん。スーパーは太陽光発電で動いているから」


電力供給は、自己発電によって。

だが、カード決算はどうやって支払われているのだろうかと。

通信は機械達が押さえているし、そもそもカードの会社が営業していられる筈も無いのだから。


「ママのカードだから、本当は僕が使ったらいけないんだけどね」


幼いトムは知らずに教えてくれた、カードは死んでいるのだと。

セキュリティが崩壊した決算会社や通信システムにより、カードの意味を成していないのが判ったのだ。つまりは架空の決算であり、店側としたら盗まれたにも等しい状況だと。

尤も、店を仕切る者が居ればの話だが。


「あはは・・・その辺のことは不問に付すんですねリック君も」


少年が生き抜く為には、罪ではないと。


「お巡りさんだからこそ、人の命を一番に考えるんですね」


機械であるのなら、人が困っているのを見過ごせない?

人だからこそ生きていくためには機械に頼らざるを得ない?


「それが・・・本来の姿。

 困っているのを助け合える、人も機械も。

 決して憎み合う敵同士なんかじゃないのね」


自分が機械と人のハーフ的存在だから、尚更に強く想える。

人と機械は共存するべきなのだと。


教えて貰った少年とロボットに感謝を込めて。


「ありがとうトム君。

 感謝します、お巡りさんのリック君」


ぺこりと二人に向けてお辞儀するミハル。


「え?なにをなの?」


訳が分からずトムが訊き返す。


「だって。二人は固い絆を築いたのでしょう?

 機械と人の間に友情を芽生えさせたのでしょう?

 私の中にあった蟠りを、少しだけど消してもくれたから」


微笑むミハルから返された言葉の意味を、幼い少年は計りかねて。


「意味・・・分かんないや」


苦笑いを返して来るだけだった。


少年とロボット、それにミハルを仰ぎ見ていたグランは、


「がうがうぅ~~(なんだかレィも大人しくなったのかな)」


荒ぶる気配が薄れ、なぜだか少し落ち着きを取り戻したかのように感じられて。


「がぅう~(ま、いつまでそうしていられるのか分かんないけど)」


一時だけの落ち着きなのか、計りかねると惚けるのだった。



・・・と、その時のことだ。



 びくん!



猟犬の耳に遠くの方から響いて来る音響が飛び込んで来た。

咄嗟に我へと還ったグランが、探索電探パッシブレーダーを作動させて、音の正体を読み取ろうとする。


「ん?どうかしたのグラン」


耳を起たせて彼方を見詰める仕草に、ミハルが訊いてみれば。


「がう(シィ)!」


黙れとばかりに唸られた。


「もぅ・・・なによ!」


まだ音を聴きとれていないミハルが拗ねるのも無視して。



 ガシン・・・ガシン・・・


微かな音響は次第に近付いて来ていると判断し、


「がうがうがううぅーッ(敵だ、敵が押し寄せて来るぞーッ)!」


ミハルの中に潜む戦闘人形レィへと警告を鳴らしたのだ。






ミハル達が居ると思われるアーンヘルの街が数キロ先に観えていた。


男へと振り向いた先に。



「一つ訊きたいんじゃが。

 お主は何者じゃ?どうして此処に居るのじゃ?」


髭だるまのヴァルボアが質して来た。


「儂の知る限り、此処には居てはならぬ筈じゃがのぅ?」


手に持った銃を突きつけながら。


「それとも何か。

 お主は創造主になるのを辞めたとでも・・・言いたいのかのぅ?」


目の前に立つルシフォルを名乗る相手に対して、


「そうじゃないのか・・・タナトスよ?」


ルシフォルの兄の名を突きつけて来るのだ。

人類全てが憎むべき敵の名を呼んだのだ。


「フフフ・・・ヴァルボア教授ともあろう人が。

 ボクを人だと誤解しましたか?」


「む?!言われてみれば・・・その瞳は人造のようじゃ」


怪訝な顔に浮かぶのは、目の前に居るのが機械だと分かったからか。


「タナトスのコピーか?」


「そう思われるのなら。でもボクは兄タナトスではありませんよ。

 姿形は兄に設えられていても、中身はルシフォルなのですからね」


ルシフォルと名乗られたヴァルボアが、益々怪訝な表情となり。


「馬鹿な。ルシフォル君は・・・そこに眠っておる筈じゃぞ」


墓碑を示して質し直して来た。

そのことからみて、ヴァルボアが花を手向けてくれた相手だと知れた。


「詳しくは知らんが、横の女性と共に眠りに就いた筈じゃろうが」


だから、此処に居る自分を兄だと誤解しているようなのだ。

それは自分の身体がタナトスのクローンを基礎にしているからもあったのだが。


「ミハエル姉は、兄タナトスの妻なのですよ。

 あなた方が属していたアークナイトやオークの輩に毒を盛られて亡くなった」


「何じゃと?そんな話は聞いちゃおらんぞ」


やはりヴァルボア個人には知らされてはいなかったのを確認して。


「ボクの肉体も。

 それが理由で滅びてしまったんですよ」


ミハエルを助けようと試みたタナトスの実験が不発に終わった時に・・・とは答えず。


「だから・・・今此処に居るのはルシフォルだった記憶たましい

 あなたを呼びつけたのは、タナトス兄を助ける為に呼んだのです」


拳銃を突きつけていたヴァルボアだったが、死んだと言われたルシフォルが眼前に居るのだと知らされて。


「馬鹿な・・・まさかお主は?

 レィ君と同じ様に、機械へと宿ったとでも言うのか?」


自分の知る娘を引き合いに出して質したのだ。


「はい。ルシフォルとして目覚めたのはひと月半前でしたが」


「なんという事じゃ・・・」


ヴァルボアが呻くのを聞き流し、


「ですから・・・来て頂くのが遅かったと言ったのですよ」


半月の間待ち侘び、その間に悲劇が起きてしまったのだと。

恨みにも似た感情を抱いて銃を突きつける相手を睨んだ。


「しかし・・・じゃ。

 なぜルシフォルのクローンを基礎にしなかった?

 なぜにタナトスの姿を模しておるのじゃ?」


オリジナルではなく、兄の身体を模っているのかと問われれば。


「元々がミハエル姉さんと一緒に生きていくつもりだった。

 機械の身体に姉さんだけを移すのではなくて、兄も共に罪を背負う気だった。

 人が犯してはならない魂の転移を、二人で背負うつもりだったから。

 ・・・タナトス兄と言う人は」


悪魔に身を堕とす前は、タナトスこそが聖人だったのだと弟は示した。


「もしこの世に神が居られたのなら。

 光と闇を抱く人間タナトスを罰せれたでしょうか。

 兄は愛故に実験し、愛故に悪魔へと身を貶めた。

 それは人間だからこその過ちだとは思えませんか?」


人間だからこそ、聖なる者へも邪悪なる者にも成り得る。

罪多き人だからこそ、光も闇も纏えるのだと。


「ヴァルボア教授、あなたならタナトス兄を滅ぼせますか?

 滅ぼすのなら、邪悪を纏う業だけを祓ってしまいたいとは思いませんか?」


「罪だけを憎めと云うのじゃな?」


ヴァルボアは創造主になろうとしているタナトスを助けたいのだと認識して、そう返したのだが。


「いいえ、それだけでは足らないのです。

 兄を救うだけでは無くて、この世界をも救わねばならないのですよ」


頭を振ったルシフォルが説くのは。


「謝った歴史も。

 終わりのない闇の世界も全て・・・変えてしまうのです」


それはタナトスが説いている新たなる世界の創造にも近い。


「お主は・・・兄と同じ様に?」


ヴァルボアが警戒するのも頷けたが、ルシフォルはさらに頭を振って。


「いいえ違います。

 兄はミハエル姉との再会を目指しているだけ。

 ボクが望むのは・・・真の平和な世界。

 間違いの根本である戦争という災禍を消してしまうのです」


理想の世界を造るのだと嘯いたのだ。


「そんな事が・・・不可能じゃ!」


戦争の無い世界などあり得ないと、ヴァルボアは人類史上在り得べからぬと答えるのだが。


「不可能かどうかは・・・新たな世界が示してくれるでしょう」


「お主は・・・神になる気か?!」


此処に措いて、ルシフォルの求めた野望が明らかにされた。

悪魔の様な望みを描き、神の如き審判を落とすと。


「そなたはタナトスよりも高みを望むのか?

 世界を根本から造り替えると云う事は、今を生きる者達を消去するのじゃぞ!」


「消去ですか・・・そう取られても仕方がありませんね。

 作り直すとでも言って頂ければ良かったのですがね」


ルシフォルは神となり世界を創り直すと嘯く。


「そのようなことを・・・赦すとでも思うたか?!」


再び銃を突きつけるヴァルボアへ。


「ボクを殺した処で意味は有りませんけど。

 既にボクの意志を汲む者が野に放たれていますから。

 その子によって世界は・・・造り替えられるでしょうからね」


既に賽は投げられてあるのだと教えるのだった。


「そう・・・あの砂嵐のように。

 誰にも阻む事なんて出来ないのだから・・・」


そして、ヴァルボアの背後から迫る機械兵が巻き起こす砂煙を喩えに出したのだ。

ミハル達が居るであろうアーンヘルに向かう嵐を指して・・・

タナトスの真実。

彼は望んで堕ちた訳ではなかった。

彼もまた人であった証。

光と闇を抱くのは、心ある人なればこそ。


アーンヘルの街を襲った機械兵。

トムを護って果てたリックに、ミハルの怒りが燃え立つ。

今迄ミハルの中で隠れていたレィの記憶が遂に?

でも、ミハルは気絶していないが??


次回 Act12 怒りの炎

燃え立つのは蒼き瞳。揺らぐのは蒼髪!その姿は戦闘人形レィにも似ていたが・・・

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