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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第4章 光と闇を抱く者 
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Act10 ルシフォルの秘所

巨体を揺らして掴みかかろうとしたロボット。


それを停めたのは・・・少年の声だった?!

茶髪の少年が、ミハルに掴みかかろうとしたロボットの手に触れた。


3メートルもの巨体が屈み、手を突き出した状態で・・・



 ギギィ!



少年の手に呼応するかのように停まったのだ。


「がうぅ?」


飛び出す寸でに待ったをかけられたグランも、


「あわあわ?・・・へ?!」


立ち竦んでいたミハルも、何がどうなったか理解出来ず。

唯、少年と大型人型機械ロボットを交互に観るだけだった。



「リック!良く見てよ、ロボットの犬だよ」


グランを指した少年が嬉々として教える。


「僕達と同じ、人と機械ロボットが一緒に居るんだよ」


巨体を揺らして立ち上がるロボットの手に、少年が飛び乗ると。


「だから、僕達を襲いに来た訳じゃなさそうなんだよ、リック」


リックとロボットを呼ぶ少年が、見上げて呆然としているミハルへ笑いかけて来る。


「あはは!驚かしちゃってごめんなさい、お姉さん」


「ひゃ・・・ひゃい」


驚き過ぎてしどろもどろで声が裏返る。


「ありゃりゃ?そこまで驚くかなぁ」


ロボットの手に座る少年が、


「リックは良いロボットだから安心してよね」


ニコリと微笑んで紹介する。


「リックと僕は友達なんだ。

 悪い機械達なんかじゃないんだからね」


「あ・・・しょ~しょ~なのね」


驚いて顔が強張ったままで受け答えするミハルへ。


「僕はトム。お姉さんは?」


名乗って訊いて来る。


「私はミハル。この子はグランっていうの」


名乗られてやっと落ち着きを取り戻せたミハルが紹介し、


「旅の途中で・・・この街にまで辿り着いたの」


未だに警戒したままのグランの背に手を置いた。

旅の途中だと聴いたトムが、珍し気にミハルの姿を眺めてから。


「旅って?何処に行こうとしてるの?」


目的地に興味を示して来た。


「うん。北にある街に・・・ニューヨークまで行こうと思ってるの」


「ニューヨーク?!遠いなぁ!」


ジョージアから遠く離れたニューヨークまでの距離を、徒歩で向かうのかと驚き。


「噂じゃぁ、ニューヨークは悪い機械達の根城だって聴いたよ?

 それに途中の街にも一杯いるって・・・危なくないの?」


辿り着くには、途中で機械達に出くわして通して貰えない筈だと心配してくれた。


「それはそうだけど・・・往かなくてはいけないんだ」


ルシフォルとも約束しているし、そこに行けばタナトスが居ると聞いているから。

もしかすると茶髪の少女にも会えるかもしれないから、行かなくてはならないと強く答える。


「ふぅ~ん・・・訳アリなんだね?」


どうしてなのかとは訊かないトムは、何かを感じ取ったのか、それ以上は追及して来ない。


「じゃぁ、どうしてこの街に?」


代わりに立ち寄った理由を訊ねて来る。


「えっとね、ルシフォルさんが此処の街に用があるからって・・・」


今は一緒に居ない人の名を出して答える。


「なんでも、このアーンヘルに大事な用があるんだって」


「へ~?!この街に用があるって言えば、お墓参り位じゃないかなぁ?」


大事な用と聴いたトムが、訳知り顔で答えて。


「この街から少しばかり北には、ステーツきっての墓地があるからさぁ」


「墓地?お墓参り?聴いてないけど」


ルシフォルからは、とても大事な用があってどうしても独りで行きたいからと断られたミハルだったから。


「それならそうと言ってくれれば良いのに・・・」


トムの話を鵜呑みにして、少し剥れた様な顔を見せる。


「でも、きっと大切な方のお墓参りだったんだろうから。

 独りにしてあげた方が良かったのかしらね」


友か肉親かは分からないが、自分の様な者がヘコヘコ付いていくような場所ではないのだと納得させて。


「もしかしたら・・・私を恋人だって紹介してくださっているのかも」


ちょっとだけ期待して。

照れて頬を紅く染めるミハルに、


「がうがぅ(ナイナイ)」


グランが尻尾を振って、思いっきり突っ込んだ。






丘陵地帯は広大な墓地へと設えられていた。

見渡す限りの十字架・・・それに石碑。


その中にたった独りの影が。


「やっと・・・此処に来れたよ」


モニュメントの前で、紅い瞳に映された名へ呼びかける。


「死んでからもう5年近い日が過ぎたんだね・・・ボクも」


並んで建てられたモニュメントの片方に呟き。


「こうして見たら・・・やっぱり不思議な感覚になるもんだね、ミハエル姉さん」


傍に建てられたもう一つの墓碑に向けては、


「タナトス兄は・・・やり遂げようとしてるよ?」


哀しみと苦渋が混じり合った感情を顕わにして、


「まだ、諦めきれなかったみたいだよ」


世界を生まれ変わらせようと試みているのを教えるのだった。


「ボクとミハエル姉さんが実験で死んだから・・・なんだけどね」


ルシフォルの前に建つ墓碑の名が示すのは。


「クローン技術と形状記憶合金の融合体。

 人が記憶となって魂を宿すのなら、より人に近い状態の身体を手にしなければいけない。

 生きていた本来の姿に近い身体を持たなければならない」


自分の名が刻まれた墓碑の前で、ルシフォルが自分の身体に手を添えて呟いた。


「そうだろミハエル姉さん・・・」


自分はルシフォルの遺伝子を組み込んだ機械の身体に宿った。

そして本来ならば、ミハエルも・・・そうなる筈だったのだが。


「どうして拒んだの?

 なぜ、未だにミハルとして存在しようとしてるの?」


自分はルシフォルとして目覚めたのに、ミハエルは目覚めるのを拒み続けるのかと。


「でも・・・ミハルに接して分かって来たよ。

 生まれ変わる意味が。本当の償いってモノが・・・」


目覚めた身体に宿った記憶たましいの少女が、教えてくれていると。


「戦闘人形<ゼロ>ではなく、なぜミハルだったのか。

 ボクが彼女に巣食う闇に気が付いたから・・・じゃぁ、ないのかい?」


ミハエルの身体を模ったクローン擬態に記憶装置を填め込む前。

ルシフォルは予め記憶の調査を行った・・・節が伺える。


そしてレィが無惨な壊され方を遂げたのも、グランが窮地を救ったのも知っていた。

その上で恨みや無念さを封じ込め、清い部分だけを記憶たましいとしてインプットした・・・


だから、レィの記憶は不完全で欠落したのだ。

本来なら清い部分であるべきリィンとの愛も、エイジ達のことも。

自分が蒼騎あおき麗美れいみである事すらも・・・関連して封じたのだ。

闘う少女人形に宿らせた相手が、タナトスだと知られなくする為に。


「あの子は、きっと赦しはしないだろう今のままだと。

 闇に染まったタナトス兄さんの前に辿り着いたのなら、きっと殺そうとするだろうから」


機械に宿らせた相手を憎み、復讐を遂げようとするの停めれないとも言う。

ミハエルもそれが分かるからこそ、ミハルとしてレィを諫めたいと願っていると感じて。


「レィ君の記憶たましい)が光を取り戻せるまで、

 ミハエル姉さんはミハルとなって導く気なんだろ?」


戦闘人形バトルドールレィではなく、人間レィに戻るまで。

恨みや憎しみに染まった記憶たましいではなく、光を纏う少女の心へ戻ったのなら。


「あの子が目覚める時に頼んだんだろう?

 兄さんを救って貰いたいと、邪悪に染まった記憶たましいだけを滅ぼしてと」


ミハルとなって蘇ったレィに願うのは。


「聖なる戦女神ヴァルキュリアとなって、邪悪を倒してって。

 そう願ったんじゃないのかい、ミハエル姉さんも」


記憶を改ざんし、闇に堕ちかけていたレィをミハルとして蘇らせた自分のようにと。


「本来ならボクだけでタナトス兄を停めなければいけなかったんだけど。

 ボクには完遂出来そうにないから・・・あの子達にも力を借りたいんだよ」


あの子達・・・と、呼んだ処で。



 ジャリ・・・



何かが忍び寄って来ているのに気が付く。

いきなり襲い掛かって来ないところを見れば、機械達では無いと知れるが。


自分とミハエルの名が刻まれた墓碑の前で、ルシフェルは背後から忍び寄る者に。


「遅かったじゃないか・・・」


背中を向けたままで話しかける。


「此処に来たのは分かってたよ。

 だって・・・花を供えてくれたんだろう?」


墓碑の袂に野花が置かれてあるのを指して。


「ボク等の秘密を暴いたんだから・・・待っているだろうと思ったよ」


此処に来ることが分かっていた筈だと・・・


「そうじゃないのかい・・・ヴァルボア教授?」


振り返って、やって来た相手の名を呼んだのだ・・・


リックとトム。

機械と人が繋がっていた。

少年はロボットを友と呼び、機械の警官は守り抜こうとした。

それは二人の絆であり、ミハルにとっての希望でもあった。


独り、ルシフォルは墓地に来ていた。

そこに現れるのは?!


次回 Act11 兄弟の秘密

真実はどこに?!ヴァルボアの前で明かされる兄弟の真実とは?

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