絆の行方 Kizuna Destination 序<Introduction>
あなたは
誰と
手を繋ぎますか?
それは
とても
大切な人でしょうか?
破壊された街
黒煙と炎が渦巻く都市
阿鼻叫喚の地獄絵の如き光景
命途切れる者達の怨唆が渦巻いて・・・
蠢くのは闇の化身か。
それとも死を逃れようと藻掻く人なのか。
崩壊するのは世界なのか・・・己だろうか。
この世に神が居られるのなれば、救いの手を。
この世界が滅びゆくのなら、せめて御許に。
人間は神に縋る者。
人間は神には成れないのだから・・・
神に成れるとすれば・・・神になれる方法があるのなら。
与えられた命を代価に、成し遂げれるのだろうか。
儚く消える魂の輝きを以って神と成れるのだろうか。
否。
人間は神には成れぬ。
神の技を人が操れる筈は無い。
どれ程の能力を誇ろうが。
星を手中に収めようとも。
命の束縛がある限り、人は神には成れない生き物。
無限の寿命など、手にしてはならないのだから。
そう・・・命には限りがある。
この世界に産まれた者であるのなら。
限りある命故に、必死に追い求める・・・幸せを。
今居る場所が、どんなに忌み嫌われる土地だとしても。
命の輝きを放ち終える瞬間まで、求め続けるだろう・・・人であるのなら。
力の限り生きた者には神々の加護が賜れ、魂は御許へと召されることともなろう。
だが。
限りある命だからと、快楽に身を委ねることは神の蔑視を受ける。
同胞を蹴り落とし、己が栄華を極めんとする者には神罰が下る。
ギリシャ神話に描かれた<パンドーラ>の古事のように。
神の怒りに触れ、開けてはならない櫃を開けてしまうのだ。
それまでの世界を壊し、今迄の栄華を潰えさせる。
繰り返そう。
人間は神には成れぬ者。
神の名を騙る者は、やがて身を破滅へと齎す。
開けてはならない<パンドラの箱>を開け放ってしまえば、そこに待っているのは災禍だけ。
奢り高ぶる者へ、神が贈るのは破滅・・・
箱から飛び出た災禍により、人間は苦難の道を歩む。
だがしかし。
ヘーシオドスのパンドラの古事に残されたのは、破滅を迎える業だけではない。
箱から飛び出した禍が人間を苦難へと導くのに対して、中に残されたものがあるから。
それは・・・<エルピス>
箱に留まったエルピスとは?
神が人間へ与えた<予兆>・・・そして<期待>
災禍に苦しめられ様とも、神が人間を見放さずにいる証。
神を畏れ敬う人間には<希望>となった。
どれ程の災禍に見舞われようと、人間には縋れる希望が存在しているのだと諭してもいるのだ。
崩壊する世界。
崩れ行く街並み。
斃れる人々。
嘗て栄華を極めた人の世界に終焉が訪れようとしていた。
地獄の業火で焼き尽くされる都市で・・・
滅びゆく世界を見下ろし佇む・・・<独り>
崩れ行く街を虚ろな瞳で見詰める・・・<彼女>
真白き髪。
透き通る姿。
儚く消える命達を見定めるかのように神々しき姿。
女神の如き彼女は、世界の終末を受け止めるのか。
審判を下す女神の瞳は、人類の終焉を映し出すというのか。
まるで白き影のような姿で彼女は佇む。
存在しない者である彼女は<独り>佇んでいる。
僅かに差し込んだ陽の光を浴びた<彼女>は、透き通る手を虚空へと掲げる。
陽を浴びる白き髪を靡かせた<彼女>は、何かを求めて手を挿し伸ばす。
審判を下す神に赦しを乞うのか?
滅びる地上を再び楽園へと成そうとするのか?
儚く消えそうな姿の<彼女>が求めるのは?
神が与えたパンドラの箱を開け放った人への想い。
潰え去る者へではなく、<希望>たる者への願い。
<彼女>の手が追い求めるのは、微かな<希望>・・・
箱の中から出てくるようにと。
災禍を終わらせ得る<希望>の子を求めて手を伸ばす・・・陽の光を浴び。
白き髪の乙女が希求するのは・・・<希望の子>
真白き乙女は願った。
希望の子が現れる世界を夢みて。
終わる世界から始まりの鐘を鳴らし・・・
新たに始まる世界が<希望>に託されると信じて・・・
序<Introduction>
今より始まるのは現世の噺とは違います。
遠い未来なのか、古の寓話なのかもはっきりとはしません。
私達が生きている星の物語なのか、他の惑星での歴史であるのかさえも分かりません。
唯、間違いなく言えるのは。
儚く消える命の輝き達があったということだけ。
肉親や友・・・そして愛しき人達との絆の物語が紡がれていく・・・
喩えそれがどれ程、引き剥がされようと。
儚く悲しい別離だとしても。
命尽きるまで、絆を信じて運命に抗うのです。
紡がれるのは<絆の行方>・・・
優しい日々を踏み躙られて、闘いを繰り返す運命に翻弄されて。
愛しき日々は別離を告げられ、絶望に打ちのめされる数多の命達。
やがて試練の後にやって来るのは<希望>の光か、それとも・・・
一つの世界を闇より救った女神が居ました。
唯独り、運命を背負わされて闘い続けた女神・・・
彼女は理を司り、世界を混沌へと貶めようとした絶望に打ち勝ちました。
しかし、彼女自身も闘いの果てに自らを失ってしまいます。
世界から弾き出され、どこ果ても無い時空へと追いやられ。
留めた世界に愛しい人を残したまま。
生き残った人々に全てを託して。
・・・きっと幸せな世界を造ってくれるものと信じて。
人間は欲に弱き存在なのです。
富を求め他の者を傷付けてしまう、愚かな生き物なのです。
如何程の人間が賢者なりや?
如何程の聖者が存在するや?
でも、それでも。
彼女の願いは誰かに因って成就できるかも知れません。
人類が<パンドーラの箱>を開いてしまっても、きっと残されている筈です。
女神となって人類に希望の光を残せたのだから・・・
新たなる命が育まれるのなら、必ず光が現れる筈なのですから。
<希望の輝>
女神の残したモノは、いつの日にか輝く事でしょう。
災禍に見舞われようとも、悪魔の如き存在が復活しようとも・・・必ず。
嘗て女神となった彼女のように。
闘う魔砲少女だった頃の<彼女>と同じように。
蒼き髪、蒼き瞳。
うら若き乙女の名は<ミハル>
物語が紡ぐのは<ミハル>達の絆。
運命に抗った魔砲少女達の絆・・・
今始まるのは、彼女達が生きる証。
絆の行方 Kizuna Destination
魔砲少女ミハル最終譚・・・始まります
魔砲少女ミハル・シリーズの最新作にして完全完結を目指す本作。
始まりの時とは?
なぜミハル達の世界が生み出されることになったのか・・・
全ての伏線を回収してまいります。
次話から本編<第1部 零の慟哭>が始まります。
どうか、最期の物語をお楽しみくださいませ。