第四話 決戦後・大転落
親父こと、少弐資元と兵1000人が出陣して三刻......
先程、伝令役の者が帰ってきた。その内容は....
「御味方が大敗北を喫しました」であった。
大内側にも多大な打撃を加えたが、最終的に数の暴力で屠られてしまい、生き残ったのはたったの7名のみだという。
ただ、不幸中の幸いなのか、当主である少弐資元と家兼さんは家臣達の必死の防戦もあって何とか撤退に成功したらしい。
程なくして、多久城へ兵が戻ってきた。
皆がボロボロで家兼さんも、着ている甲冑のほとんどが外れていたり、分解してしまっていたりした。
親父の方も、かなり傷が深いようだ。
かなりの量の血が出てきている。
「.......」
「.......」
ようやく、お互いの顔を真正面から見れた。
俺はやはり、この人が本当のオヤジではないかと思ってしまうほどこの人と親父が似ている。と改めて思った。
「松法師丸」
不意にそう呼ばれた。
「....何?」
俺は突然自分の名前を呼ばれて、少しビクッとした。
「もう、少弐家は助からぬ。ならばせめて、お主が生きのびて、その血脈....誉ある少弐家の血脈だけは守って欲しい」
俺は頭が混乱した。この親父はその言葉の通りだと.....城で討死するつもりだということがすぐにわかったからだ。
「でも」
と俺が言おうとしたら、また親父が話し始めた。
「わしはお主に何も父らしいことをしてあげることが出来なかった!.......ならばせめて、わしやわしらの祖先が残したこの少弐の血脈を残すことをわしへの、最初で最後の親孝行としてくれぬか?」
......そんなとこ言われたら......
何も言えなくなってしまうじゃないか.......
俺はよく考えたら、この戦国時代に転生してしまって、本当の親父に対して何も親孝行らしいことをして上げられなかった。
それに元の俺のうちは、母が早くに亡くなってしまい、親父が男でひとつで俺を育ててくれた。
でも、この世界に来てしまって、親孝行をすることが出来なくなってしまった.....
そうか、これは神様がここで元の世界でできなかった親孝行をしろと、させようとしているんだな......
俺は違う親父だったとしても本物の親父だったとしても、「親父を助けたい」というを思いを押し殺して、
「.......分かった」といった。
親父は「そうか........ありがとう」
とだけ、素っ気なく言ってきた。
そしてまた親父が話し出した。
「......松法師丸。お主はこの城を出て、東にある蓮池城の小田資光殿を頼れ。彼なら匿ってくれるだろう。.....それと、この紙を持っておけ」
「...........分かった」
俺はまた、はやる気持ちをぐっと堪えて、頷き、紙を貰った。
親父と一緒にほぼ最初で最後の話をし終えた一刻後、俺はボロボロで一応の応急処置をした龍造寺家兼とその一族と、親父の息子で俺の弟達、を含めた総勢100名弱で城を出た。
ただひたすらに暗い真夜中の山道を大内軍に見つからないようにしかし素早く、歩いていった。
半刻程歩いて後ろを振り返ると、そこには延々と燃え上がる、多久城が見えていた。
大内軍がどこまでも響きわたるような、大きな、大きな勝鬨を挙げながら.......
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天文5年(1536年)
中国地方の覇者である、大内義隆に命じられた、陶隆房率いる総勢1万の少弐征伐軍が発足。
この大軍勢によって居城である多久城を攻められ、当主である少弐資元が自害。
ーここに九州屈指の名門、少弐家は滅亡する。
投稿期間が空いてしまい申し訳ありません...
次話は来週の土日に投稿出来たらな......と思っております!
ここでまさかの、史実通りのルートを通りました。
恐らく、次話あたりから、IF戦記感が増してくる.....と思います!
果たして主人公はこの大転落をいかにして這い上がっていくのでしょうか......
〜用語解説〜
【一刻】.....現代の時間だと、2時間。三刻だと6時間くらいになる。