第三十一話 対馬国到着。
五、五か月ぶり、だと…?
<対馬国 厳原港近海ノ洋上>
対馬が見えた。俺たち少弐家の復興の地兼潜伏地になる土地である。
「いよいよ着きましたな!」
右横に侍っていた陽気な口調の男、資誠が言う。
ああ。そうだな。船はどんどん港のほうへと近づいている。港は入り江の最奥にあるようで、左右には小高い山が対をなしてそびえている。まさに港になるべくしてなっている地であることがわかる。港とはそもそも海に何かがあったとき(例えば、嵐や高波、台風などが来た際)に波や風からある程度守られなければならない。そうでなければ、雨風を防ぐためにわざわざ港に停泊している意味はない。そしてそこで商いをしている人たちからすればかなり困ったことになりかねないからである。だからこそ今でも有名な多くの港というのは入り江の奥にあることが多いのである。…とどこかの本で見たことがある。
船がゴスンと音を立てて、停止した。港に到着したのである。(ただし港と言っても浜に数個の桟橋がかかっているだけだが)それと同時に何人もの男が船べりから身を乗り出し桟橋の上へと降り、船の上に残っている者から荷を受け取りそのまま桟橋のすぐ奥にある家が数十件程並んだ所へと運んで行っている。
「松法師丸様。少しよろしいでしょうか。」
「ああなんだ、貞清殿でしたか。どうかしましたか?」俺は後ろを振り返る。貞清殿が左横から訊ねてきていた。
「そのー、松法師丸様方を無事に対馬まで届けるという約束を果たせたので…こちらのほうをどうぞよろしくお願いいたします」そう恭しく言い、右手親指と人差し指で輪を作りこちらに示してきていた。
•••なるほど約束のブツをくださいってことか。
「ああ、そうであったな、すぐにでもご用意しよう。資誠、貞清殿に渡してやってくれ」
「ははっ。直ちに」そういうとさっと表情を変えて、ブツを取りに行った。
少しした後、資誠と何人かで数箱の木箱を抱えて戻ってきた。
「松法師丸様。」資誠が俺の近くへ来た。
「うむ、ありがとう資誠。貞清殿、ではこちらが約束の金五百貫でございます。船に乗る前にも申した通りこの金は…」
「わかっておりますとも。商人は信頼が命。生命線でございます。この金を使っていくらかの偽情報の流布を行っておきます」貞清はどこか作ったような笑顔でこちらに再確認をしてきた。
資誠達がブツの入った箱を貞清殿のほうへ運び、ドスンドスン、と置くたびにその中の物の重さをしっかりと伝えてくれている。
「松法師丸様、此度は誠にありがとうございました」
んお?突然どうしたんだ、頭を下げて。
「もしよろしければ、どうぞ今後ともご贔屓によろしくお願い申し上げます。松法師丸様。」
そう言ってきた貞清殿には何か一徹して見れるところがあった。なるほどねこれが商人魂か。商魂がたくましいことで
。俺はこんな感じにはできなさそうだな。
「う、うむ。ここまで送ってっくれたこと感謝する貞清殿」
貞清殿との別れを済ませ、俺は桟橋へと降りた。
うん。久しぶりに大地を踏んだ気がする。確か…三日ぶりだっけ?まあいいや、取り合えず対馬につけた。それだけで良しとしよう。
「松法師丸様、ほとんどの者は降ろしました。」
先に降りていたであろう家兼が俺の降りた桟橋の先に立って言った。
「うむ」
俺を含む、少弐家臣団およそ百名。それだけの人数の者が泊まれるところを確保するだけでもかなり苦労する ことだろう。ここは比較的大きな港(?)のようだが、言っても対馬だしなぁ…どっかにでっかい旅館的なところはないものかな?俺は桟橋の先の方へと向かって歩く。
「松法師丸様」
横で声がしたので振り返ると、かなり可愛い感じの女が立っていた。地味めな茶色い和服を着ている。ところどころに使い古しているのか修繕された様な痕があった。
誰だ?俺にこんな可愛い知り合いは元いた現代を含めてもいないぞ…?いやでも、どっかで見たような感じがしなくもないが…。
俺が誰だこいつと思っているのがわかったのか小さくため息をつく。
「…椿です、松法師丸様。変装をしてこの船に忍び込んでおりました」
「…ああ、椿であったか。こんなに可愛い知り合い、俺にいたかなと思ったよ」
「…え?」と椿は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。変なこと言ったかな、俺。
「…そんなことより、松法師丸様。対馬についての情報をいくらか集めておりましたのでご報告を」
おお、あの宴会の日から数日しか経ってないのに、もう情報を集めていたのか。さっすが忍者。諜報活動が十八番なだけはあるな。
俺がうんと頷くと、椿は話し始めた。
「対馬国は数百年前少弐家の守護代、地頭代であった宗氏が現在、支配を体制を敷いております。」
これは俺も知っているぞ。某信長ゲーでプレイしている動画を何回か見たことがある。この後も代々対馬は宗氏によって治められて、秀吉政権下で秀吉の無茶振りと朝鮮の板挟みにあって色々苦労する羽目になるんだったよな。あれはまじで可哀想だったなぁ…。
「ですが現当主の将盛はどうにもかなり嫌われているのか、何度も傘下国衆や同族から謀反を起こされているようで…かなり基盤は脆いようです」
あれ、そうなのか?あんまり、対馬ってそんなイメージないんだけど…てっきり、ある程度の宗家支配体制が整っているのかと思っていたんだが。
「松法師丸様」
「ん?どうした家兼?」家兼は小声で俺に耳打ちをしてきた。
「いささか周りが騒がしくなってきました、場所を移動いたしましょう」
そう言っている家兼の後ろの方には何か不安そうな顔をしている島民たちの姿が見えた。
確かにこれ以上騒がれたりしたらまずいな。
「わかった。皆を連れてとりあえず移動しよう。話は移動しながらでも…」
「おい貴様ら、何者だ!」
俺が振り返るのと同時に他の家兼、椿、清房等々全員が振り返る。それと同時に警戒体制に入ったのであろう椿、清房、清久が俺の盾になるような位置へと素早く移動してきた。
男がいた。だいたい二十代から三十代くらいの歳だろうその男は、腰に帯刀しており、服装も普通の島民などのような者ではなさそうな出立ちだ。役人、といったところだろう。横にいた家兼が庇うように俺より一歩前に出て、話しだした。
「怪しいものではありません。ただ…」
「ただ、なんだ?このような大人数の者が来るとの報告を私は受けていないし、そしてこのような大人数自体初めてだ、だからこそ私は怪しいと申している!」
男は刀に手をかけ、いつでも抜刀できるような構えになっている。
まずいな。完全に警戒心を抱かせてしまっている。どうにかして解かないと島で生き残ることはおろか、ここから逃げることもできない。
冷や汗が頬を伝っていくのがわかる。ここで、選択を間違えれば一貫の終わりだ。
「まずは落ち着いてくだされ。刀から手を放してくださらねば、話すこともできますまい」
家兼は男に諭すように言うが、刀から手を放すよなそぶりはない。
ああ、もう考えても無駄だ。なら、真正面から行ってやる。
ええいままよ!どうにでもなれ!
「宗氏当主、宗将盛殿にお眼通り願いたい!」俺は叫ぶように男に向け言った。もうこうなったらヤケクソだ。直に宗将盛に話をつけて滞在の許可をもらおう。そうすれば後顧の憂いなくここで過ごすことも可能になる。
「松法師丸様、何を」家兼が驚き、振り返りながら言う。
「だから先程から申しているだろう。お前たちは何者なのだ、まずはそれを名乗るのが筋であろうが」
「私は、肥前国のより参った、少弐家当主松法師丸様である!もう一度言う、宗家当主将盛殿に御目通り願いたい!」
胸を打つ鼓動のはどんどんと早くなっていっている。どうしてだろうか。こんなにも緊張した空間なのに気持ちが高ぶっているのは。
「…」
男と目が合った。刀は相変わらず、握られたままだ。
そして数秒が経っただろう。男は刀から手を離した。
「…あいわかった、こちらでしばし待たれよ。幼き当主殿」
そういうと男は近くにいた数人の部下のような者たちに何かを命じた後すぐに奥のほうへと走っていった。
「松法師丸様、よくぞ判断されました。いい判断だと私は思いますぞはまあかなりひやりとはしましたが」
と、緊張を解いた家兼が言う。
「ああ…まあ、その…なんだ、どうにかするにはこれしかないと思ったからな」
依然鼓動は高まったままだ。
「はぁ…騒ぎにならなくてよかったぁ…」
と、椿は地面にしゃがみこんだ。ほんとにそうだよまじで。これで切り合い殺し合いの大乱闘になっていたらどんなに大変だったことか。あー怖かった。
「お客人」
横を向くと、先ほどの役人男の部下が数名いた。
「どうぞこちらへ。案内いたします」
と、どうやら案内をしてくれるらしい。
「…あいわかった。みんな、付いていこう」
付いていく選択肢以外ないので案内に従おう。
「はっ」
俺たちはその役人男の部下についていった。
<対馬国到着。それは、俺がこの世に来てから十一日目のことであった。>
皆さま、誠に申し訳ありませええええん!!!
五か月も投稿が開いてしまいました…面目ない…
この未投稿期間に対馬や戦国時代の知識をぼちぼち勉強してきたので更新ペースはさすがに月一くらいにはなると思います(予定
再来月頃、次話が出せると思います!!
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