第二十八話 不死鳥の咆哮
よしっ!!!!
鑑房の意外な一面を知ってから少し時が経ったころ、外での賑わいが気になった俺は少しだけ外を覗いてみることにした。やはり、昔の市場がどうなっているのか見てみたい好奇心が出てきてしまったのである。
貞清殿が案内してくれた家は一番賑わっているメインの通りから横に一本外れた路地にある家である。
家に入る前に見たがこの家はどうやら長屋のようで表が商店、裏が居住スペースという構造になっているようである。俺たちはもちろんこの居住スペースのほうへと通されたのである。
表通りを覗いてみると、数刻前に家兼らと見た時と同じ賑わいを見せていた。
俺は身を乗り出して道に出ようとした。
「松法師丸様、あまり外にはでないほうがよろしいかと。家兼様がくるまで待ちましょう」
と外に出ようとした俺を鑑房が止めようとしてくる。
「そ、そうか…少しだけ見たかったのだが…まぁそうだな仕方ない」
と俺は鑑房が言う通りに家の中に戻った。
その後家の中に戻った俺は、鑑房と談笑をして家兼が返ってくるまでの時を過ごした。
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鑑房と談笑をして数刻。くつろがせてもらっていた家の戸が開いた。
開けたのは、家兼であった。
「松法師丸様、船への積み込み作業が大方終わりました」
家兼は戸を閉めながらそう言った。
「ですが…その、少々問題が発生いたしまして…」
問題…?一体何のことだ?
!まさか大内家の手の者が来たとか…?俺がそんなことを考えていると、
バン!
と大きな音を立てて扉が大きく開いた。その瞬間、その場にいる全員が驚いて家兼、鑑房の二人ともが腰に差した刀に手を伸ばした。
戸を開けたのは貞清殿であった。
な、なんだぁ…
「さ、貞清殿であったか…」
と鑑房は安堵した。
「松法師丸様…聞きたいことが…ございます…港にある、大量の金塊は何なのですか?!」
はあはあ、と息を切らせ顔が真っ赤になった貞清殿が食い気味に言ってくる。
「あ~…それはだな…」
ううむ。なんて貞清殿に伝えたらいいのだろうか…
素直に「父から受け継ぎました」と言うか………いやいやいや、そんなこと言っても誰が信じるんだろうかあんな大金。そうじゃなくてもあんな大金持ってたら怪しまれるのに。というかこんな見た目の七歳児が言っても。商人は情報が命だって言うし、そんな嘘のことを言ってもこちらには損はあっても得はないし、嘘であることを見抜かれてしまうかもしれない。
「…すまぬ。さすがにそこまで言うことはできないよ、貞清殿。私自身、まだ貞清殿のことをほとんど知らないし、もう少し親交を深めたうえでお教えしましょう」
俺はやんわりと断る選択をした。
「そ、そうか…すまぬ。無粋な質問だったな。にしても童に諭されてしまうとは…わしもまだまだよのう…」
とどうやらすんなりと諦めてくれたようだ。
「松法師丸様、金に関してなのですが…貞清殿に、金の一部を貸出という形で預けたほうが良いかと存じます」
と家兼が言ってくる。
えぇ…?今断ったばっかりなんですが…
「金をすべて船に積み込んでしまうと万一の時、我らはそれこそ無一文になってしまいます。故に一部でも預けておき、もしもの時に備えるのが吉と存じます」
あぁ…確かに家兼の言う通りだな。そっちのほうが安心か。何かがあったら大変だしな。
「貞清殿はわしが保証いたしますぞ。ここらでもかなりの豪商でありますから、預けても損はないと思いますぞ。貞清殿もまとまった金が入ってきます故、誰も損はしますまい」
「おお確かに。そうでございまする」
と鑑房が言う。
「…そうか、そうだな。では金の一部を貞清殿に預けることにしよう。それでもいいかな?貞清殿」
「!!え、ええ。こちらとしては願ったりかなったりでございます松法師丸様。…具体的にいかほどの金でございましょうか?」
と、とんとん拍子で話がすすんでいった。
ううむ。どれくらいがいいんだろうか…
「家兼。いかほどの金を預けるのが良いだろうか」
困ったときは年寄りに聞く。これはどこでも通用するなぁ…。
「そうですね…大体、五百貫ほどでよろしいでしょう」
と家兼が言うと、
「ご、五百貫????!!!!」
と貞清殿が驚いていている。
「家兼様…それはあまりにも大金ではございませんか?!」
と貞清殿と同じように鑑房も驚いている。
「貞清殿。これだけの金をほぼ無償であげているのですから、大内家に偽の情報を与えるくらいはできるでしょう?大内家と懇意にしている貞清殿であれば容易にできるはず。それを見越しての五百貫でございます」
…まあ確かに、そうだよな。俺はあんまり実感できないけど、結構驚いているということは、貞清殿にとってもかなりの大金であることは疑いようはないだろう。てか遺産の十分の一だしな。石見銀山を手中に入れている貞清殿だからできる芸当だ。
「う、うむ。それについてはこちらのほうで何とかしてみましょう…」
「これで問題は解決ですな。松法師丸様。では船へ向かいましょう」
家兼がそう言ってくる。
「うむ」
俺はそういう再び港へと向かった。
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俺たちが再び港へ戻っていると家臣団の皆が乗り込んでいる最中であった。
その中で指揮をしていたのは、清久である。奥には清房もいる。どうやらこちらに気づいたようで寄ってくる。
「松法師丸様。順調に船への積み込みが進んでおりまする。もうしばらくで終わりまする故、今しばらくお待ちくだされ」
「うむ。清久ありがとう」
そういって俺らは船の中へ入っていった。
俺が乗り込んだ船は大体五十mくらいの大きさで、ガレオン船などのよく想像するような船などではなく、いかにも和の日本の船とわかるような船だった。
「この船はもともと軍船でしてな。安宅船?というらしいのですがね。ほかにも数隻が今回ついてきますぞ。この船よりかは小さいですがね」
と船についての補足を貞清殿が言ってくる。
安宅船…たしかこの時代だったらかなり大きい部類の船のはず…道理でかなり大きいと思ったんだよな。
そうしてしばらくすると船にかけられていた板が外された。どうやら出航するようだ。船員もかなりあわただしく船に乗り込んでいる。すると貞清殿がこちらへ寄ってきた。
「松法師丸様。出航いたしますゆえ、お気を付けくださいませ」
とわざわざ出航することを伝えに来てくれた。
「お、おう。ありがとうございまする貞清殿」
地面に付けてあった縄が船へ回収され、船が少しづつ港の中をゆっくりと進んでいく。
取り付けてある帆がバサッと広がり、船員がより帆に風をつかませるため、縄を機敏に動かしている。
「いよいよですな松法師丸様」
そういって家兼が俺のそばに寄ってきた。
後ろには鑑房、清久・清房親子、資誠など主だった家臣が顔をずらりと並べている。
「ああ。いよいよだ」
六人は少しづつ離れていく港を眺めている。
「これでしばらくは肥前へ帰れないのか…」
と清房が言う。
「なんとも言えない気持ちになりますな…」
それに続けて清久も言う。
「次に肥前へ帰るときは、大内家を滅ぼすときでしょうな」
と資誠が言う。
そうだ。次に肥前の地に帰るときは大内家を滅ぼす時だ。その時まではこの地に帰ることはないだろう。皆もそう思っているのであろう。
「皆の者」
俺は皆のほうを振り返る。全員が俺に注目する。
「大内家を滅ぼすまで我らは何度でも、何度でも、不死鳥のようによみがえる!!対馬でも気張っていくぞ!!!!」
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
五人の魂からの雄たけびが海中にこの日ノ本中に伝わった、俺はそんな気がしたように思えた。
俺たちの思いを連れて今、安宅の船の船団は有明の海を優雅に、そしてまっすぐと進んでいくのであった…。
はい。
皆さま、ついにとりあえずの一区切りがつきました!これまで約二年…遅すぎるっちゅーの!ほんとに更新ペースは速くしていかないとなぁ…
今後彼らはどのような物語を紡ぐのか…楽しみに待っていて下さい!!
次話は登場人物をまとめたいと思っていますので、次々話からまた物語が続いていく予定です。
※作者自身がたまーに混乱したりするため。っていう意味もありますが…ハハハ…
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