第十一話 ただ有明の月ぞ残れる
多久城下 大内陣内(多久城内) 戌の刻(19時)
ここ大内の陣内には多くの人が集まっていた。
そんな中、台に上る男が声を出した。
「おっし!皆!聞こえているか?今は、陶様や千葉や秋月の豪族衆もいない…さあ今宵は祝いじゃ!皆の衆、飲むぞ~!」
「おぉ~!」
足軽よりも少し豪華な服をまとったその男が合図を出すと周りの者が一斉に酒を飲み始めた。
二日前の夜、肥前の弱小である少弐氏を滅ぼした彼らにとって、ようやく心が休まる時だった。
そんな疲れ切っていた心を癒すためか皆が皆、じゃんじゃんと酒を飲み、城内に残っていたほとんどすべての食料を引きずり出して、口にしていた。当然邪魔な鎧兜は脱いで。
宴には城下にいたであろう若い娘や酒がどんどんと運び込まれていた。
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「いいよなぁ…陣にいる奴らは」
焦げた門の前にいる小柄な男は上を見上げて呟いた。
「…仕方ないだろう、俺らは街道の警備のためにいるんだから」
と大柄な男が言った。
「なあ、ここを離れて、宴に参加してこないか?少し参加するくらいならばれないだろうからさ。ほら月がきれいだからこんな時には酒でも飲みたいじゃん?」
と小柄な男は言う。この男はどうやらどうしても宴に参加したいらしい。
「んー…しかし街道の警備はどうするんだ?まだ交代の時間には程遠いぞ?その間に何かあったらどうするんだよ?」
と小柄な男に反論する。
「いやぁ~やっぱりだめ?すこしだけだからさ~なぁいいだろう~?」と大柄な男にしがみつく。
大柄な男はかなり嫌そうな顔をしている。
宴に参加するしないの話をしていると、
「あのぉ…」
と突然、背後から声がかかった。
二人の男は急に聞こえたこえにびくっとして後ろに振り返った。小柄な男に至っては「うひゃあ!」と声を上げていた。かなり驚いたようである。
そこには、少しだけ幼く見える少女がいた。来ている衣服から見るに城下にいた娘の一人だろう。と二人は思った。
どうやら人を驚かす妖の部類ではないらしい。
二人は少し安堵した表情を浮かべていた。
「と、突然どうしたんだ?」と若干、声が裏返りながらも小柄な男声を出した。
そんな質問に少女はたどたどしく答えた。
「い、いえ、その、お二人はどうしてこんなところにいるんですか?大内兵の皆さんは全員、陣で宴をしていると聞いていたんですが…」
どうやら、警備をしていると思ってはいないようだ。
そんな答えに大柄な男は
「私たちは街道の警備をしているんだ。な、何があるかわからないからね」
とまるで教科書の例題文のような返事をした。
「えぇ~私、お兄さんたちとお酒飲みたいな~」と少女は言って大柄な男に近づいてきた。
「ななんだ?」と大柄な男は少し身構えるが、少し遅かった。
少女はそのまま大柄な男の腕を組んでしまった。
「ほヴぇぁ??!!」
大柄な男は情けない声を出し、そのまま顔を耳まで朱色に染め上げてうつむいてしまった。
「お兄さんどうしたの~?」と少女は言うが一向に反応がない。
大柄な男は顔を上げ「しししし仕方がないなじゃあ俺の飲みっぷりを見せてやろうじゃないか、はっはっは!」
とさっきの話とは真逆のことをいって城内の陣へと向かっていった。
「あぁー!ずりぃぞ」という声を無視して、大柄な男は陣へと向かっていく。
小柄な男も置いて行かれないよう、そのすぐ横について城内の陣の方へと足早に向かっていった。
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三人が城の方へ向かって幾分か時が経ち、門の周りには兵はおろか町人も人っ子一人いなくなった。
その時である。街道の奥から全速力で向かってくる一段がいた。
その先頭にはまだまだ幼い少年くらいの子とガタイのいい大男がいた。
その少年は門の前で止まり、何を思ったのか上を見上げた。
その後ろの者も門を見上げている。門には矢や槍の先、刀傷が残っており、少し焼け焦げている。そしてその横には雲が少しかかった月がある。
少しの間、静寂があたりを支配したような感覚に陥った。
がすぐに顔を元に戻し、後ろを振り返った。
後ろの者の多くは若く見える。すぐ横にいる大男を除けば。
そして、少年は門の先を指さし、声を上げた。
「皆の者、城下への道が開いたぞ!この間にすぐにでも金をとりに行く。ついてこい!」
「おお!」
と声を出すと同時に先頭の少年が門をくぐった。
その後ろの者も続々と門へと入っていく。
少年の上には雲一つない満月が彼らを照らしていた。
まるで歓迎をしているかのように。
今宵、少弐家嫡子が多久城へと舞い戻ったのである。
今月中の十一話投稿できました!!!
多分来月は一話分だけ投稿すると思います!!!




