三蔵一行の決意!!
衰弱した三蔵を救うべく、万能薬アムリタを求め北の大地にまで遥々辿り着いた三蔵一行だったのだが、そこでまさかの襲撃!それは、この地を支配する妖魔王・鵬魔王であった。
さらに孫悟空達三蔵一行は瀕死の状態の上、三蔵をも連れ去られてしまったのだった。
ううん…俺様は孫悟空だ!
これは過去の記憶?
「ん~あ~!」
あの時は確か三蔵と旅を始めたばかりで、何度目かの野宿をしていた時だった。
当然、小猿の時だな?
俺様は居眠りをしていたらしく、身体を伸びした拍子に目が覚めたのである。
ムニュ…ん?
見ると焚火の傍に三蔵が座っていた。
いつもの光景だ…
「三蔵?起きてたのか?」
「あっ?なんだ、猿か?起きたのか」
見ると三蔵が何か紙切れのような物を見ていた事に気付いた。
「なぁ?三蔵?なんだ?それは?」
「ん?」
俺様は飛び出して油断していた三蔵から紙切れを奪ったのだ。
紙切れには三蔵と…見知らぬ奴達が写っていた。
三蔵を中心に女と、四人の男達。
こいつらは三蔵の仲間か?
「おおっ!紙切れに三蔵がいるぞ??」
「なぁ?貴様ァ!返せ!馬鹿者が!」
三蔵は俺様から紙切れを奪い返したのである。
(その時の三蔵の顔はマジに恐かった…)
「悪かったよぉ~!機嫌なおせよ~?それよりその紙切れは何だ?小さい三蔵が入っていたぞ?」
すると三蔵は興味津々の俺様に説明してくれた。
「フフッ…これは、写真と言う物だ」
「しゃひん?」
「写真だ!リアルな絵みたいなもんだな?」
「すげぇな!それは絵なのか?紙切れにミニミニ三蔵がいたぞ!てか、今にも動き出しそうだったぜ?」
「お前には珍しい品物だよな?いや…この時代じゃ当たり前か…」
たまに三蔵は意味不明な事を口走るが、その時の俺様には興味なかった。
「はっ?それより俺様達はこれからどうするのだ?ただ旅を続けるのか?そんなんはつまらんぞ!俺様を連れ回しているんだから目的を話せ!」
「…………」
三蔵はタバコってのに火をつけると…
「そうだな…これから俺達は仲間を見付けなければならないらしい…」
「仲間?」
「うむ。俺も詳しくはわからん…ただ、腕のたつ仲間が十二人必要なのだ!」
「十二人もかよ?面倒くせぇーぜ!そんなん必要ないだろ?だってよ?俺様がいれば問題ないだろ!何て言ったって俺様は聖天大聖・孫悟空様なのだからな!」
「ますます西遊記だな…」
「なんだ?西遊記って?」
「いや…何でもない。ただの昔話だ…」
「?」
すると、三蔵は少し真面目な顔をして俺様に言った。
「なぁ、猿よ…?もしこの俺がいなくなったらどうする?」
「あん?そんなん決まってるだろ?自由だ!自由になって暴れまくる!」
すると三蔵は笑いながら俺様に言った。
「自由か…まぁ、そう簡単には自由にはさせんぞ?何故なら俺はそう簡単には死なぬからな!」
「あん?」
「なぜなら俺の手相がそう言っているのだ!アハハ!」
…何だそりゃ?
「それに俺が死んだら絶対に地獄に堕ちるだろしな…地獄は嫌だな…」
「お前が地獄に堕ちたら地獄の連中にも迷惑だしな…」
直後、俺様は殴られた。
「いってぇ~!」
俺様は三蔵に殴られ睨みつけると…
「それに、お前にはいつか…」
いつか…
いつか何だよ!?
なぁ…さ…ん…ぞ…う?
突然、目の前の光景が変わっていく!
「アハハハハハ!」
突然現れた鵬魔王が三蔵を吊るし上げ、鵬魔王の爪が三蔵を貫き!
大量の出血が辺りを覆っていったのだ!
目の前が深紅に染まっていく…
「さ…猿…」
三蔵が俺様の名を呼びながら消えていく…
「サンゾオオオ!」
俺様は腕を伸ばした状態で、三蔵の名を呼び飛び起きたのだ。
うっ!身体が痛む…俺様は一体?
「起きたらか?猿?」
声のした方向を見ると目の前で焚火の灯が揺れていた。
辺りは真っ暗で八戒が焚火をおこして座っていた。
俺様の記憶が蘇る。
そうだ!三蔵が鵬魔王に連れ去られたんだ!
「豚!三蔵はどうなったんだ?」
俺様は八戒の胸倉を掴み強引に聞き出すと…
「三蔵はんは奴に連れて行かれたらよ…」
「ナッ!」
やはり夢じゃなかった…
「お前!みすみす何をやっていたんだ!何とか言えよ!」
「ボソッ…オラに何が出来るらよ…」
「あん?」
「それより三蔵の旦那なんか放っておいて、オラ達だけで旅をしないらか?オラはお前達は嫌いじゃないらよ?三人でこれからも楽しくいくらよ!」
…コイツ何を!?
「豚!本気で言ってるのか?」
「アハハ!本気も本気らよ!無理して命を落としたら馬鹿者らからな?」
「!!」
俺様は八戒の顔面を力いっぱい殴ったのだ!
八戒は唇を切り顔を俯かせたまま指差したのだ。
そこには河童が呻きながら眠っていた。
そういえば河童も鵬魔王に胸を貫かれたんだった!
「か…河童!大丈夫なのか!?」
「あぁ…しかし、危ない所だったら…もし治癒処置が遅れたら…本当にやばかったら…心の臓をかすめていたのだからな…」
「!!」
俺様に再び怒りが込みあがっていく。
「がぁ!クソ!クソ!クソォー!」
俺様は地面を何度も叩きつけたのだ。
そして鵬魔王の言葉が脳裏を過ぎる…
「美猴王兄貴!この人間は連れて行くよ!取り戻したければ三日後の夕刻までに私の城まで来るんだよ!ただし昔の兄貴に戻ってだよ?もし間に合わなかったら…解ってるよね?それまで、この人間の命は残しといてあげるよ!アハハハハ!」
俺様は立ち上がり空を見上げた。
「そうだ!急いで三蔵を助けに行かないと!」
俺様が如意棒を杖にして向かおうとすると…
「待つら!」
「何だよ?豚!」
「今のお前に何が出来るら?頭を冷やすら!」
「お前…この豚!また臆病風に吹かれたか!」
すると今度は八戒が逆に俺様の胸倉を掴み…
「今出て行っても返り討ちになるだけらと言ってるらよ!」
「臆病者のてめぇには関係ねぇ!それに今度は絶対に負けねぇ!」
そんな無鉄砲な俺様を今度は八戒が腹を殴った。
「ウグッ!」
俺様は痛みで蹲る。
「お前…内臓がグチャグチャじゃねぇらか!」
鵬魔王の炎は火傷だけでなく俺様の体内までも浸蝕していたのだ。
「だ…だから、そんなの関係ねぇって言ってるだろ!」
俺様は力を振り絞り再び立ち上がろうとする。
力が出ない…視界がボヤける?
「クソッタレ!立つのもやっとかよ!」
それでも戦いに出向こうとする俺様に八戒は呼び止めるわけでなく言った。
「猿の拳…効いたらよ…」
「!?」
「これで気合い入ったら!」
見ると八戒の背中が奮えていたのだ?
それは恐怖からではない。
三蔵が連れ去られ沙悟浄が瀕死になり、頼みの綱の俺様までやられ…
ただ一人、何も出来なかった自分自身への怒り。
「猿!身体を治すら!気合い入れて治すらよ!時間は明日までら!それに間に合うまで死ぬ気で治すらよ!」
「お前?」
そうか…こいつも同じだったんだ。
八戒も三蔵の事を・・・
「明日は暴れるらよ!」
「当然だぜぇ!」
すると背後から声が?
「私も行くです!」
それは沙悟浄だった。
沙悟浄は怪我した胸を押さえながら立ち上がろうとしていた。
「お前はダメだ!おとなしく寝てるんだ!」
これから始まる戦いに沙悟浄の実力では必ず死ぬ…
しかも、あの身体じゃ間違いないだろう…
「わっ…私だって!私だって三蔵一行です!何を言われようと絶対に行きますからね!」
「聞き分けない事言うな!」
「猿!分かってやるらよ!」
「なぁに?」
俺様は再び沙悟浄を見た。
その目は…
覚悟を決めた目だった。
「沙悟浄…」
「私は…仲間ですよ!例え足手まといでも…ほんの少しでも何かが出来るのであれば、兄貴達と一緒に戦いたいです!それに…三蔵様を助けたい気持ちは一緒!」
「お…お前」
沙悟浄?いつからそんな目が出来るようになったんだ?
それは俺様を熱くさせ、止める事なんかできなかった。
「オラ達は…」
「運命共同体ですから!」
「猿が止めてもオラ達が目差す先は同じ道ら!」
「豚…河童…」
キョトンと二人の決意を見る俺様に向かって八戒がニヤニヤしながら言った。
「なんら?オラがカッコ良すぎらか?」
「やはりお前!偽物か!」
すっころぶ八戒。
アハハ…
「この猿ぅ!」
「アハハ!冗談だ!冗談!」
「猿よ!オラが囮をかって出てやるらよ!猿はオラの屍を越えて行くらよ!」
俺様は覚悟を決めた八戒の胸に拳を軽く当てて言った。
「分かってないなぁ~?お前!」
「?」
「俺様達は三蔵を助ける!だがな?俺様達の誰一人欠けてもダメなんだよ!俺様達は皆生きて戻る!それが出来ない奴に戦いに向かう資格はない!」
「そうらな…オラ達は…」
「強欲だからな!」
「三蔵様の性格が移ったみたいですね~私達?」
「そりゃ良いぜ!」
『アハハハハ!』
俺様達は顔を見合せ可笑しくなって笑っていると、沙悟浄が何かに気付く。
「あ~~!」
「今度は何だよ?」
「これを見てください!」
そこには三つの貝殻が落ちていたのだ?
いつから置いてあったのか誰にも分らなかった。
「何だよ?その貝殻がどうしたんだ?」
「これ!宝貝【パオパエ】ですよ!」
宝貝とは?昔…とある神様が造ったと伝えられている神具である。
その宝貝は様々な能力を秘めた武器へと変わるのだが…
どうしてこんなモノが落ちてるんだ?
沙悟浄が宝貝を拾い上げて神気を送ると三つの宝貝はその形を変化させた。
それは…
竜神の札袋・術札が無限に現れる札袋。
豚骨の刀・大型の刀。重量もあり折れにくい刀。
治癒妖花草・煎じると妖気が回復し治癒が早まる。
だったのだ。
「一体誰が?」
俺様達は治癒妖花草を煎じた後に三人で分ける。
竜神の札袋は沙悟浄に渡し、豚骨の刀は八戒に渡したのだった。
まるで俺様達のために用意されたかのようだった。
薬のおかげで俺様達の身体は半日近くで動けるくらいまで良くなった。
そして決戦の日…
俺様達三人は絶壁の岩山の上から空を見上げていた。
視線の先には上空に浮かぶ巨大な天空要塞が見える。
あれが鵬魔王のいる鵬魔城に間違いないだろう。
俺様達は三人腕を挙げて拳をぶつけ合った後、
「ほんじゃあ、行きますか!」
「来い!金斗雲!」
「来るら!黒斗雲!」
俺様と八戒は自分達の雲に乗り上がる。
すると沙悟浄が懐からさっきの宝貝とは別の宝貝を出したのだ?
「水仙鞭杖!」
あれは沙悟浄の新しい武器か何かか?
宝貝は杖の形へと変化したのだ!
「さぁ~没頭雲よ!出て来てくださ~い!」
杖の先から没頭雲[ボットウウン]と呼ばれる雲が現れたのだ。
「何ら?それ?」
「色々役に立つ私の新アイテムですよ!」
沙悟浄の奴も少しずつ逞しくなっているんだな。
俺様達は決意を胸に各々の雲に飛び乗ると、鵬魔城に向かって飛び立った。
俺様達、三蔵一行に喧嘩を売った事、死ぬ程、後悔させてやるからなぁ!
鵬魔王!
そして、俺様達を信じて待ってろよ!
三蔵!!
俺様達が飛び去る姿を離れた場所から見ていた者がいた。
この者こそ意識を失っていた孫悟空達を安全な場所に移し、三つの宝貝を残した者であった。
金色の髪を靡かせ、錫杖を手に白き僧侶衣を纏った青年。
天界のお尋ね者であり反逆者!
謎の美麗神・金禅子であった。
「お前達がこの戦いに出向く事になるのは、本来はもっと先の事だった。時の因果率があるべき歴史を再び捻じ曲げた結果、この未来を呼び寄せたようだな・・・。宝貝はせめてもの餞別だ!後はこの救いようのない逆境をお前達の力で切り開いてみせよ!」
金禅子の言葉の真意は一体?
そして、三蔵一行の命運は?
次回予告
ついに三蔵一行が本気になった!
数万の鵬魔の軍との激戦!
孫悟空!八戒!沙悟浄!
彼等は三蔵を取り戻せられるのであろうか?




