復讐を誓う女!【伍】・・・芭蕉扇!
鉄扇の過去!
玉面公主の過去!
今は亡き羅刹女と二人の因縁と憎悪が絡み合う中、遂に復讐劇が始まろうとしていた。
は~い!沙悟浄ですぅ~!
ドッカァ~ン!
私達はゴキブリのお姉さんに追われながら、女帝・玉面公主のいる広間へと突入したのです。
「侵入者か?無作法な輩よのう?」
「申し訳ございません!女帝様!そやつらの始末は私め…が…」
「ウゲッ!」
私達を追って入って来たゴキ姉さんの姿を見て、不機嫌な顔をした玉面公主は…
「えい!」
手下のゴキ姉さんに向かって掌から水滴弾を放ったのでした。
って……何故?
「だって気持ち悪かったからじゃ…」
「ぎゃあああ!酷すぎぃ~」
ゴキ姉さんは部屋から飛ばされ、城から落下してしまったのでした。
なんて憐れなゴキ姉さん・・・
すると鉄扇ちゃんは突入するなり、玉面公主に向かって鉄の扇を振り上げ襲い掛かったのです。
「ぎょくめーん!」
同時に玉面公主を守るべく、待機していた昆虫妖怪達が行く手を塞ぐように鉄扇ちゃんの扇を受け止めたのです。
「邪魔をするなぁー!」
強引に振り回す扇を躱す昆虫妖怪達。
強い…
「ふふふ…その者達は、遺跡の力にて特別な強化処置をした強化昆虫兵達じゃ!お前達ではどうする事も出来まい?」
遺跡の力?
特別な強化処置って何の事でしょうか?
「こんな奴達直ぐに消して!お前を斬り裂いてやるわ!姉さんの仇…玉面公主!」
「ん?お~良く見たらお前は羅刹女の妹かえ?あ~恐い恐い!本当にしつこい奴じゃ!」
余裕な素振りで椅子に座ったまま見下す玉面公主の態度にキレる鉄扇ちゃん。
ついに復讐の時が来たのです。
「ウッワアアアア!」
怒り震えるその肩に手を置く者が?
「頭を冷やしな!あんな雑魚は私が始末してあげる。あんたは自分の敵討ちだけに専念しな?」
「蝎子精…」
蝎子精さんに宥められ冷静になる鉄扇ちゃん。
「言ったでしょ?あんたに仇を取らせてあげるって?」
すると蝎子精さんが強化昆虫兵達の前に出たのです。
「あんた達さ?これから念願の敵討ちが始まるってのに野暮な真似するんじゃないよ?そうねぇ~邪魔するあんた達に一つ罪を挙げると…」
強化昆虫兵達が警戒しながら間合いを取り、一斉に蝎子精さんに襲い掛かったのです。
『殺虫罪よ!』
すると襲い掛かったはずの強化昆虫兵達が、バタバタと倒れていくのです?
瞬殺ですかぁ~??
一体何が?
ん?蝎子精さんの身体から何か良い匂いが?
香水?
「特製の毒ガスよ…」
「えええ?私達まで死んじゃうじゃないですか~?息止めなきゃですよ~ウップ!」
「フフッ!心配ないわ?虫妖怪にしか効果ないから!さぁ~!後はあんたの役目よ!鉄扇?」
「ありがと!」
二人は手をあげると、お互いの手を叩き合わせる。
それは交代を意味していたのでした。
「邪魔物達は消えたわ!今度こそ逃げずに相手しなさい?このオ・バ・サ・ン!」
「だっ!誰がオバサンですってぇ~!」
あっ…恐い顔…
すると、鉄扇ちゃんが扇を開きながら舞始めたのです。
宙に紅色の鉄の板が無数出現していく。
次第に鉄扇ちゃんを囲む様に、浮かびながら移動していく鉄の板!
これこそ鉄扇ちゃんの攻撃防御の兼ね備えた必殺奥義!
『鉄扇攻守!』
鉄扇ちゃんを囲み浮かんでいた鉄の板が一斉に玉面公主に向かって飛んで行く。
「ツマラナイ技じゃ!」
今度は玉面公主の周りに水飛沫が噴き出して、水の壁が出現したのです。
水の壁は自分に飛んで来た鉄の板を全く寄せつけない。
そして、
「ふるえ~ゆらゆらと~」
玉面公主の周りに噴き出した水が凝縮して、小さな玉が幾つも浮かび始めたのです。
「ふふふ…」
玉面公主は指を軽く振り、鉄扇ちゃんに向けたその瞬間…
凝縮された水の玉が、鉄扇ちゃんに向かって飛んで来たのです!
「クッ!防御陣!」
いち早く鉄の板が囲むように鉄扇ちゃんを防御する。
「きゃあああ!」
えええ?
玉面公主の放った小さな水滴の玉は鉄の板をも貫通して、鉄扇ちゃんを襲ったのです。
「ば…馬鹿な!」
鉄扇ちゃんは身体中に傷を負いながらも立ち上がる。
どうやら致命傷だけは避けたみたいです。
「どうして?」
私も理解出来ないでいました。
「あの水滴みたいな玉はね、神気と水気を極限にまで凝縮しているのよ!水気は硬化の特質。破壊力は半端じゃないはず!仮にもかつて最強の五行魔王と呼ばれていたのは伊達じゃないみたいね?」
「じゃあ、どうすれば?」
「玉面は妖気量や経験値も、鉄扇より器が上…」
「そんな…」
「だけどあの娘にも奥の手はある…」
「奥の手ですか?」
「あの娘だって玉面との力の差は分かっているわ!力量を埋めるためには逆転させる大技が必要!そのためにあの娘は血の滲むような修行をしたのよ?そうね!相手が神気と水気の融合なら?」
「あっ!」
そうだ…
鉄扇ちゃんには孫悟空兄貴さえ苦しめたあの技があるんだった!
鉄扇ちゃんは玉面公主の放つ水滴弾の中を、真っ向玉面公主に向かって突進して行きました。
「うおおおお!」
「玉砕覚悟?そんなんでは私は倒せぬわ!」
『ふるえ~ゆらゆらと…』
玉面公主の水滴の弾丸が鉄扇ちゃんの身体を傷付ける。
が、致命傷を紙一重で躱しながらも突っ込んでいき鉄扇ちゃんは次の攻撃に全てをかけていたのです。
一撃必殺のあの技…
鉄扇ちゃんの扇に神気が集まっていく。
鉄扇ちゃんの風術必殺奥義。
『抜傷扇!』
※バッショウセン
力の差のある妖怪に逆転致命傷を与える手段は一つだけ!
それは神気を帯びた攻撃のみ!
玉面公主が水の神気なら鉄扇ちゃんの場合は、風気と神気の融合技で勝負を仕掛けたのです。
神気の融合技は並大抵な努力で身につくものではありません。
生まれついて神気を持っている者ならまだしも、
鉄扇ちゃんはこの日のために、それこそ血の滲むような鍛練で身につけたに違いありません!
それこそ死に物狂いになって…
復讐を叶えるために…
この日、この瞬間のためだけに!
そして、ついに神気を帯びた真空の刃が玉面公主に放たれたのです!
「!!」
真空の刃は玉面公主の水玉を切り裂き玉面公主に直撃したのです!
「やったぁ!」
「ダメ!浅い!」
玉面公主は顔を抑えながら鉄扇ちゃんを睨んでいました。
「あっ…ああ…!」
「驚いたぞえ…だが、まだまだだったようじゃの?」
鉄扇ちゃんの真空の刃は直撃寸前に、玉面公主の神気を帯びた水の玉にその威力を半減させられていたのです。
「この水滴の玉は防御にも優れているのじゃ!そして…」
鉄扇ちゃんの身体に放たれた水滴の玉が埋め込むように貫いていく!
「うわぁあああ!」
そのまま鉄扇ちゃんは壁に吹き飛ばされて衝突したのです。
「ぐはぁ!」
口から血を吐く鉄扇ちゃん。
しかしその口元が笑みを見せていました。
「どうやら痛み分けのようね?」
えっ?あっ!
見ると玉面公主の頬の皮膚が切れ、血が流れ出していたのです。
「ノオオオオ!」
玉面公主は頬から流れる血を押さえつつ、まるで悪鬼のごとき形相で鉄扇ちゃんを睨みつける。
「ふふふ…少しは化粧のノリがマシになったんじゃなくて?」
鉄扇ちゃんは立つ事も出来ない状態で皮肉ったのでした。
「わ…妾の美しい顔に…美しい顔に…傷を!許せぬ…許せぬぞぇ!」
玉面公主の周りから数え切れない程の水滴が頭上へと浮かび上っていく。
「このままじゃ…」
「さっきの一撃で殺れなかったのは痛いわね…もう奥の手はないわ…」
「そんな…」
私は鉄扇ちゃんを助けに出ようとした時、蝎子精さんが私を制止させたのです。
「あの娘はまだ戦える…いえ!戦わなきゃいけないのよ!あの娘の復讐はこれからなのだから!」
「?」
しかし、このままじゃ…
鉄扇ちゃんが殺されてしまいます!
水滴が幾つも重なりあい、玉面公主の頭上に巨大な水玉が出来上がると、
「死にな!虫けらがぁーーー!!」
『水術奥義・玉之固死!』
※タマノコシ
鉄扇ちゃんは傷付いた身体で立ち上がり、
「こんな所で死んでたまるかぁ!抜傷扇!」
向かって来た巨大な玉に向けて抜傷扇を叩き付ける!
が、鉄扇ちゃんの鉄の扇が粉々に粉砕したのです。
そして、その勢いに負けて玉面の攻撃をまともに受けてしまったのです。
「鉄扇ちゃーん!」
鉄扇ちゃんは全身から血を噴き出させ、その場に崩れ落ちたのでした。
「フフッ…他愛もないの~?」
「ゥ…」
「ほ~う?まだしぶとく生きていたか?ならば直接妾が潰してあげようかの?虫を潰すように…グシャグシャと!ホホホ!」
玉面公主は椅子から立ち上がると、傷付き倒れた鉄扇ちゃんに近付いていく。
「なんじゃ?お前は?」
そこに、我慢出来ずに飛び出したのは…
「ここから先は通しませんよ~!」
私だったのでした!
「あの馬鹿な子!」
馬鹿?
しかし…ここで立ち上がらなきゃ河童じゃないです!
いや?男の子じゃないですよ!
大丈夫。
それに私にだって戦う切り札があるのです!
私は懐に閉まっていた貝殻を取り出すと神気を籠める。
すると貝殻は形を変えて錫杖の形になったのです。
そう。
これは隠れ逃げてる間に武器庫にて拝借させて貰った宝貝。
宝貝は神気を籠めると神具の武器になるのです
そしてこれは…
『水仙鞭杖』
※スイセンベンジョウ
「お前!それは妾の神具じゃぞ!」
「ふははは!もう私の物ですよ~貰った物は私の物なんですよ~!」
私は水仙鞭杖を構えると玉面公主に向けて…
向けて…ん?
あれ?これはどうやって使うのでしょうか?
玉面公主の手の平から触手のように水の鞭が伸びてきて私の手に絡まり、水仙鞭杖を簡単に奪われてしまったのです。
「ふん!愚かな童よのう?まぁ…この神具は何故だか生理的に受け付けずに閉まいこんでおったが…」
玉面公主は水仙鞭錫を振り上げると、その先端から水が噴き出して鞭のように床を削っては凄まじい破壊力で壁を粉々にしたのでした。
「あわわ~」
もしかしたら…
私はとんでもない事をしちゃいましたでしょうか?
「馬鹿を通り過ぎて涙が出て来たわ…私」
そして、鉄扇ちゃんは?
「うっ…う…ぅ…ね…姉さん…」
鉄扇ちゃんは意識を失いながら過去の夢を見ていたのです。
幼少時代力を求めていた鉄扇ちゃんは羅刹女さんに追い付こうと、身体に鞭を打ち一人修行をしていた。
(ハァ…ハァ…ダメ…こんなんじゃ…全然ダメ…)
鉄扇ちゃんは険しい岩山の頂きにて一人、剣の素振りをしていたのです。
手のマメは潰れ、掌は血まみれになっていました。
「どうしたら…姉さんみたいに強くなれるの?」
鉄扇ちゃんが剣を構え直し素振りを再開させると、その剣は乱入した何者かによって弾き飛ばされてしまったのです。
「羅刹女姉さん!」
その相手は羅刹女さんでした。
「まだまだ剣に魂が入ってないわね?魂のない力はただのお飾り…本物じゃないわ!」
「魂?」
「そうよ!その力の本質を知り、魂で対話するのよ!それが出来れば…」
羅刹女さんは剣を手に取ると剣に微笑みキスをする。
そして一降り一閃!
直後、螺旋女さんの斬撃が大地を真っ二つに斬り裂いた。
「す…凄い…」
力の本質?
魂を同調させる?
「良い?よく聞きなさい!この世界にある至る全てには魂が宿っているの」
「魂?全て?」
「そうさ!生き物は勿論、お前の足下に転がる小石にもね?そうさ!」
羅刹女さんは両手を広げて吹き荒れる風を感じて言った。
「この世界は魂に包まれ、満ち溢れているのさ!」
すると、羅刹女さんは険しい顔付きになって突然叫んだのです。
「いい加減隠れてないで出て来たらどうだい?さっきから殺気が駄々漏れだよ?」
「姉さん?」
すると、何時から?何処から現れたのか?
今まで透明化して隠れていた者達が次々と姿を現したのです!
「何?コイツら?一体何者なの?」
「幻影族の残党みたいだね?」
「幻影族!?」
幻影族とは魔神族にて勢力を持つ魔術を得意とする一族であったのだが、羅刹女さんの軍との交戦の最中滅ぼされた。その生き残りが、恨みを持って仕返しに来たのである。しかも!その数は数千以上!?一人一人がかなりの実力者であり、その者達が羅刹女さんと鉄扇ちゃんを逃がさんと囲んでいたのです。
「クソ!」
(どうしよう…疲労で本調子じゃないわ…しかも、この数!)
鉄扇ちゃんも加勢しようとするけれど、
「ふふふ…お前は下がってなさい?」
「えっ?」
その後、鉄扇ちゃんが目撃したのは……
『!!』
倒れている鉄扇ちゃんの身に異変が起きていた事を、私達はまだ気付いていませんでした。
そして私の目の前には玉面公主が椅子に座った状態で睨み付けていたのです。
「あわわ」
「忘れてはおらんぞ?お前が仕出かした騒ぎを?お前のような雑魚妖怪が妾をコケにした責任は死を持って償うが良い!」
あれ?
その時、私は気付いたのです!
玉面公主の顔にあったはずの、鉄扇ちゃんが決死の覚悟で付けたはずの傷が消えている事に!?
「これか?妾には無駄じゃ!」
玉面公主は水術を得意とする妖怪。
いや?エキスパートと言えるほどの大妖怪なのです。
玉面公主は体内の新陳代謝を高め、傷口の治癒を早めたのです。
「全くお馬鹿よのう?わざわざ自らを殺すための道具を持って来ようとは!さぁ?お遊びは終いじゃ!消えるのじゃ!」
そして水仙鞭杖の尖端を私に向けてたのです。
私は鉄扇ちゃんを庇うように両手を広げながら覚悟しました。
マジに絶対絶命!?
その時です。
「!!」
私も含め玉面公主も動きを止め、その姿に目をやったのです。
そこには!
「鉄扇ちゃん!」
鉄扇ちゃんがいつの間にか立ち上がり、ゆっくりと私の前に出て再び玉面公主の前に立ちはだかる。
しかし、その目は虚ろで無意識下にあったのです。
「まだ意識が戻ってないんじゃ?」
「死に損ないがまた起き上がりどうするつもりじゃ?」
玉面公主が水仙鞭杖の矛先を鉄扇ちゃんに変えると妖気を籠め始める。
私は慌てて鉄扇ちゃんに駆け寄ろうとすると、その肩を蝎子精に掴まれたのです。
「慌てないで!見て!」
えっ?あっ!
同時に水仙鞭杖の先端から水流弾が放たれたのです!
その破壊力は床や壁を貫通させ、今まさに鉄扇ちゃんに迫る!
鉄扇ちゃんは!
飛んで来た水流弾を躱す…躱す…躱す!
鉄扇ちゃんはそれこそ紙一重の動きで、流れるが如く水流弾を躱していたのです。
何て無駄のない動きなのでしょう?
まるで舞を見ているようでした。
一体、鉄扇ちゃんの身に何が起きたと言うのでしょうか?
「馬鹿な!!妾の水流弾を躱すなんて?有り得んのじゃ!許さんぞえ!」
更に無数の攻撃が鉄扇ちゃんに放たれるが、鉄扇ちゃんには全く当たらなかったのです。
その最中も鉄扇ちゃんはまだ意識の奥深くにいました。
そして、対話していたのです。
(感じる…分かる…伝わってくる。風の声が!風の魂が!)
鉄扇ちゃんの手足から静かに気流が流れ身体全体を風のオーラが包み込んでいく。
(優しく抱きしめられているような感覚…優しく…強く…私を包む力…これが風の気?
風が攻撃の軌道を私に教えてくれる!そうか…私はまだアナタを使いこなせていなかったんだ…
違う…使うんじゃない?)
「お願い…アナタの力を私に貸して!」
その時!
突如、鉄扇ちゃんの目の前に風の渦が集まっていく。
それは次第に一つの『固体』として形を成し、その『存在』を現したのです。
神気を纏った扇の形へと!
それは、かつて金角と銀角が天界より盗み出した宝具。
その後、羅刹女の手に渡り愛用された神具。
「ま…まさか?それは?馬鹿な…あるはずがない…それは羅刹女の!」
その宝具は持ち主を選ぶために金角・銀角も持て余した。
何故なら宝具自身が意思を持ち、持ち主を選ぶから。
唯一の所持者であった羅刹女亡き後、忽然と消えたと思われていた。
その宝具の名は芭蕉扇。
目の前に現れた芭蕉扇を見る鉄扇ちゃんは…
「私に力を貸してくれる?」
すると、芭蕉扇は鉄扇ちゃんの手に納まったのです。
その瞬間!
鉄扇ちゃんの身体から凄まじい神気の柱がほとばしりながら城の天井を貫いたのでした。
激しい乱気流が辺りを吹き飛ばしていく…
私達は吹き飛ばされないように壁にしがみつき、その戦いの行方を見ていたのでした。
「お前の事は覚えてるわ!姉さんの愛具…そう。あの日も…」
(姉さんは数千の凶悪な幻影族を、お前の一扇ぎだけで蹴散らしたのだったよね?)
鉄扇ちゃんは芭蕉扇にキスをすると、
「羅刹女姉さんの仇・玉面公主!アンタの顔はもう見飽きたわ!」
鉄扇ちゃんが全ての力を芭蕉扇に注ぎ込みながら、ゆっくりと振り上げていく。
その姿を見ていた玉面公主は、肩を震わせながら椅子から立ち上がったのです。
「お…お前は…お前は死んでもなお!妾の前に立ち塞がると言うのかぁー!!」
えっ?
何を言っているのでしょうか?
すると、私と一緒に二人の戦いを見ていた蝎子精さんが言葉を漏らしたのです。
「ま…まさか?羅刹女姉さん?」
えっ?
「あれは!?」
私達の視線の先にいる鉄扇ちゃんの背後に別の人影の姿が?
褐色の肌の凛々しい女性が立っていたのです!
いや?あれは幽体?
まさか、あれが羅刹女さんなのでしょうか?
いや!今はそれどころではないですね!
「妾は女帝じゃ!妾から全てを奪いし羅刹女の魂事、お前を消滅させてやろう!」
玉面公主の周りに水しぶきが噴き出し、妖気の上昇が限り無く高まり水仙鞭錫へと集中する。
しかし、芭蕉扇を手にした鉄扇ちゃんもまた、玉面公主に負けない程の妖気が高まっていたのです!
「この一撃で決着が付くわ!」
「て…鉄扇ちゃん!負けないでください!」
私と蝎子精さんが勝負の行方を見守る中、
二人の妖気が極限に高まった時、同時に攻撃を放ったのです!
『水術奥義・玉之固死!』
『竜巻け!芭蕉扇!』
お互いの奥義がぶつかり合い、凄まじい余波が城の壁や天井を崩壊させていく!
私は柱にしがみつきながら、その戦いの行方を見ていました。
「まだよ!」
鉄扇ちゃんは降り下ろした芭蕉扇を再び振り上げると、交差させるように降り下ろしたのでした。それは新たな乱雲を呼び、疾風の斬撃が玉面公主の放った水玉弾の全てを切り裂いていく!
「ば…馬鹿な!ウググ…負けるものかぁー!」
攻防の中で鉄扇ちゃんは更に芭蕉扇の力を引き出したのです。
(凄い力…芭蕉扇の扇ぐ度に、妖気を…神気を根こそぎ持っていかれるみたいだわ!だけど、私は負けない!絶対に負けてたまるかぁー!)
「これが…私の全力だぁー!!」
鉄扇ちゃんは更に芭蕉扇を振り上げると、三度芭蕉扇を扇いだのです。
それは光り舞う爆風の嵐!
風の神気を帯びたこの神具は自在に風を操り、一扇ぎで台風を呼び起こし、
二扇ぎで乱雲を呼び、三扇ぎで暴風を起こす!
「ば…馬鹿な~うぎゃあああああ…あぎゃああああ!」
芭蕉扇から放たれた爆風は玉面公主の放つ水流ごと、爆風の渦の中へと飲み込んでいき、玉面公主の身体を真空の刃が切り刻んでいく。
「どうやら勝負あったようね…」
「はっ!はい!鉄扇ちゃん凄いです!」
私達は勝利した鉄扇ちゃんに駆け寄りました。
「鉄扇ちゃん大丈夫ですか!」
全ての力を使い果たし、今にも倒れそうな鉄扇ちゃんを私は支えました。
「ふふふ…やったわ…鉄扇ちゃん凄い?」
「凄いです!本当凄いです!」
「惚れ直した?」
…へっ?
私をマジマジ見つめる鉄扇ちゃんに私は、どう答えるべきなのでしょうか?
そんな中、物音が?
(死にとうない…)
「妾はまだ死にとうない」
「あっ!」
傷付いた身体を引きずりながら、玉面公主が逃げようとしているじゃないですか!
「あいつ…まだ!」
そこに…
「アンタはもう用済みよ?」
「ナッ?貴様…裏切りおるか!貴様とて羅刹女を殺した同罪のくせに!」
そこには蝎子精さんが立っていたのです。
「最初から本気出していれば鉄扇に勝てたのにね?傲りがお前の敗因だよ!」
そう言うと、その手にした毒針を玉面の額に突き刺したのです。
毒針から広がる毒は玉面公主の治癒力を消し去り、浸食していく。
「この毒は神の力を消し去る毒…諦めな?お前は終わりだよ?」
「いや…いや…いやじゃあああああ!」
玉面公主は絶叫とともに生き絶えたのでした。
ちょっ?えっ?
私達の前で妖しい笑みを見せている蝎子精さん?
一体何がどういう事?
さっき玉面公主が死に際に言い残した
「貴様とて羅刹女を殺した同罪のくせに」とは?
意味が分からずに茫然としている鉄扇ちゃんに、蝎子精さんは言ったのです。
「茶番劇はおしまいよ?鉄扇!復讐劇は楽しかった?ふふふ…余興は終わった事だし、今から本当の復讐を果たして貰おうかしら?貴女の目の前にいる本当の仇相手にね!」
「…蝎子精?」
いや、マジにこの展開はどういう事なのでしょうかぁ~~??
次回予告
沙悟浄「一件落着じゃなかったのですか?
・・・蝎子精さんは一体?
もう私は展開に取り残された目立たない河童です」




