破壊を呼ぶ者【陸】・・・破壊者【降臨】
単身、金角児と銀角児に戦いを挑んだ八戒だったが、
その命、仲間達のために・・・
その鼓動がゆっくりと止まった。
ここは天界の監視塔
私は地上界に蔓延る凶悪な妖怪の監視を任されている監視神です。
人間界の寺院から始まった惨劇、一国を滅ぼし、近隣の村々を消し去っていく金角児と銀角児と名乗る凶悪な双子の妖怪。
双子は三蔵一行と呼ばれる者達を標的に向かっていました。
しかし、その双子に挑んだのは八戒と呼ばれる豚の妖怪が一匹だったのです。
だが、力の差は歴然。
八戒は金角児と銀角児に捕まり、拷問を受けた後、宝具・浄瓶を飲まされてしまったのでした。
浄瓶の中身である飴を食べた者は、その身を魔法の瓢箪へと変えられてしまう。
それを知った八戒は師であり友である三蔵を守るために、瀕死の身体で浄瓶を奪い、その瓶事全ての飴を飲み込んでしまったのです。
肉体を蝕み、激痛が走る。
その度合いは計り知れない。
そして、その鼓動は…
静かに動く事を停止したのでした。
八戒の身体は黒く…
黒く…
どす黒く変色していく。
流れる血は黒く変色し、その身体は硬直し水分を一切なくした炭の様だった。
次第にボロボロと剥がれ落ちるように身体から形が削られていく。
ついに八戒は命のない瓢箪へと変貌してしまったのでした。
すると瓢箪はコトコトと音を立てて揺れだし、瓢箪の口から黒いモヤが煙りのように噴き出して来ました。魔法の瓢箪の完成でしょうか?
「もうすぐだね?どんな瓢箪が出来るか楽しみだよ!金角児!」
「なんか…おかしいな?前に使った時にこんな黒いモヤモヤ出たっけ?」
「多分、妖怪を使ったからじゃないかな?普通は霊力のある人間で作るからね?」
そこに『八戒』であった面影はなくなっていた。
ただ存在するは人形サイズの大きな瓢箪のみ。
「それにしても、やけに馬鹿でかい瓢箪が出来たなぁ~」
「持ち運び不便だよね~」
確かに背負わなければ持ち運び出来ない大きさだった。
それだけでも異質なのに瓢箪から噴き出す黒いモヤは次第に辺り一面を覆っていく。
「何か…」
「様子が変じゃない?」
気付くと辺り一面が昼間だというのに、真っ暗になっていたのだ。
「ハッ!」
「何がどうなっているの?金角児?」
既に原形すら残らなくなっていた八戒の身体から、再び黒いモヤが勢いよく噴き出したのだ。黒いモヤは渦を巻きながら、八戒だった塊(瓢箪)の周りを覆っていく?
「今度は何だ?」
「あれが原因みたいだな…」
「一体、何が起きてるの?」
見ると硬直して、瓢箪の塊と化した八戒の身体から亀裂が入る。
そして亀裂から噴き出すモヤは、次第にどす黒いオーラへと変わり瓢箪の周りを覆った。
本当に一体何が起きているというのか?
考えられる事は浄瓶の飴玉を妖怪で使用した事くらいしか浮かばなかった。
そして亀裂が入った事で魔法の瓢箪は失敗に終わった。
八戒の命を捧げた行動は金角児と銀角児の計画を妨害出来たと言えるだろう。
「えっ?うわぁあああ!」
「ちょっと!ちょっとちょっと!」
今度は突然黒い突風が瓢箪の塊を中心に吹き荒れる。
「うわあああ!」
二人は吹き飛ばされそうになりながらも、何とか堪えつつ、その様子を窺っていたのだ。
「やはり妖怪に飲ませたからいけないの!?」
銀角児は叫ぶ。
金角児は瓢箪の塊を指差して言った。
「違う!あれを見て!」
突然、黒い突風に包まれていた黒い瓢箪の亀裂が真っ二つに裂けたのだ。
更に、その裂け目から何かが突き出て来たのです。
それは褐色の人間の腕でした。
「何??」
「分からないよ」
飛び出した褐色の腕は瓢箪から抜け出すかのように瓢箪を引き裂き、二人の目の前にゆっくりと腕以外の全ての姿が抜け出て来たのでした。
そこには・・・!!
上半身裸、黒い髪、褐色の肌、瞳は大きく、その瞳の色は血のように赤黒く、人歳で15か16?野生味溢れた少年が現れたのだ!?
褐色の少年は額を抑え辺りを見回していた。
それは寝起きで状況が分からないでいるように見えました。
「なんら?頭がクラクラするら…ここは何処ら?何でオラはこんな場所にいるらか?」
突然現れた褐色の少年に向かって叫ぶ銀角児。
「おい!誰だよ?お前!」
褐色の少年は銀角児を無視していた。
「ああ…何か腹が減ったら」
「無視すんなよ!」
「待って!銀角児!さっきの豚が人間の姿に変化しているだけのようには見えない。一体何者なんだ?それにこの黒いオーラ?重くて濃くて…まるでこれは?」
「関係ないね!頭きたぞ!消えちまえ~!」
警戒して止める金角児を振り払い銀角児が神気を籠めた破壊弾を褐色の少年に向かって放った。
凄まじい威力を持った破壊弾が褐色の少年へと迫る!!
が、その破壊弾は褐色の少年に届く前に、その身に纏う黒いオーラによって打ち消された。
「ばっ…馬鹿な…!?僕の神気を籠めた破壊弾を打ち消すなんて!?」
「あの黒いオーラ…まさか!あの気は!?」
再び説明します。
神や妖怪、人間が使う『気』には種類が存在するのです。
霊気、仙気、妖気、神気がそれです。
人間は霊気、仙人は仙気、神は神気
妖怪は妖気が基本だが、元々神だった者が妖怪になると〔神降ろし〕、神気と妖気を両方使える者も現れる。この金角児と銀角児は元は神の子供でありながら、長らく妖怪の体内にいたため妖気が混ざり合い、神妖気と言う奇妙な気を使うのだ。
また、この神気は修業にて身につく事も可能なのです。
例えば鉄扇と呼ばれる女妖怪がそうなのだが、鉄扇はそれに五行の力の一つ、風の気を混ぜた融合術を身につけていた。
恐ろしい事に金角児と銀角児も神気と妖気、更に氷の属性を融合させた力を持っている。
そもそも全ての気は魂の力を具現化させたもの。
霊気を凝縮したものが神気であり、神気が濁ったものが妖気なのです。
また仙人は霊気を力にして五行の術を使い、神仙は神気を力に術を発動させる。
それが仙気なのです。
つまり力を使う上で頂点の域に達した気が神気と呼ばれているのです。
だが、今目の前で褐色の少年が纏っている気は何なのだろうか?
神気でも妖気でも、まして霊気や仙気のどれでもない?
いや、この黒いオーラは紛れもなく神気なです。
しかも、我々が使う神気とは異なった力を源に発動させる異種の神気。
しかし、有り得ない!
その黒い神気とは、あっちの世界の住人[神]が使う忌まわしい力のはずだから。
あ、すみません!
説明が長すぎでしたね?
「ん?さっきから、ピィピイうるさいらな?なんら?お前達?誰ら?ああ…頭痛いらな」
謎の力を持つ褐色の少年の言葉は金角児と銀角児に向けられて発せられたのだった。
突然現れた褐色の少年に対して、全く意味の分からない金角児は、
「一体、お前は何者だと聞いてるんだ!?お前の纏うソレはまさかアッチの世界の気か?そうなるとお前はアッチの世界の住人なのか?」
「ごちゃごちゃと煩いらな?オラらか?」
褐色の少年は面倒臭そうに答える。
(オラの名前?そう…確かオラの名は)
少年は静かに呟く。
「オラはこの世界を滅ぼすためにやって来た破壊する者」
(オラのオラの名は…オラは誰ら?)
褐色の少年は記憶が曖昧になっていた?
名前すらハッキリと思い出せない状態で顔を両手で覆う。
その時、何者かの声が自分の名を呼ぶ声が少年の脳裏に響く。
《貴方の名は…》
「オラの名は?」
そう…
「オラは破壊神シヴァの子」
「この地での名を」
「八代目天鋒元帥・遮那らぁーーー!」
「!!」
褐色の少年の言葉に、私は勿論その場にいた金角児・銀角児すらも凍りつく。
彼が今、発した名は・・・
次回予告
破壊神?
八代目天鋒元帥・遮那?
彼は本当に破壊者なのか?
それは失われた八戒の過去と何か関係が?




