破壊を呼ぶ者【弐】・・・双子
かつて三蔵一行が退治したはずの金角と銀角の屍より、新たな邪神が生まれたのだ。
それは、かつて金角と銀角が喰らいし天界の子供。
金角と銀角の体内で生きていた天界の子供は邪神となったのだ。
ここは天界。
天界の下級層にある監視塔。
そこでは地上界の監視を任された者達が日夜働いていた。
ここでの仕事と言うのは地上界に現れる妖怪達の監視と報告。
その報告次第で最高官達が判断し、天界に背く畏れのある妖怪達に対して闘神達に指示し討伐に出向かせるのである。
その日は、地上界の監視を任され、私は一人水晶で地上界を覗き見ていた。
正直、退屈に思われたその日は、いつもと違っていたのだ。
私は人間界にある寺院で起きた惨劇を見て、
そこに現れた二体の凶悪妖怪の足取りを水晶にて追っていた。
その者達の姿が水晶に写り出す。
大地を翔ける二匹の獣。
金色の狼と銀色の狼…
二匹の獣はまるで閃光のように大地を翔けていた。
その二人が駆け通った後に凍てつく氷の道が残されていく。
「兄さん?何かお腹空いたよ…」
「確かに、目覚めてから何も食べてないからね?」
二匹の狼は足を止めたのだ。
二匹、いや?
その姿は美しき天使の様な容貌の双子の少年達へと変わっていく。
特徴的なのは片方の少年は金色の髪に、もう片方は銀色の髪の少年で、その額には一本の角があること。
すると二人が立ち止まった視線の先には小さな国が見えていた。
二人はその国に進路を変えたのだ。
「そうだ。僕名前を考えたんだ…」
「えっ?名前?」
「そう!名前!」
「どんな名前にしたの?」
「うん!僕は金角児!」
「じゃあ、僕は銀角児だね?」
名前を決め合った二人は視線の先の国へと入って行ったのだ。
その国は小国であはあるが賑わい栄えていた。
だが、その栄華は私にとって少々疑念があった。
金角児と銀角児は人間の姿に化けて、人々が集まる広場を歩いていた。
当然人間達は皆、二人を見て振り返る?
その美しき天使が舞い降りたような容貌に目が行ってしまうのだ。
どうして異国の子供が二人だけで?
と感じていたに違いない。
そんな二人を見ている怪しい男達がいた。
彼等は人攫いであった。
「へへへ…おい!見ろよ?異国のガキがこんな場所にいるぜ?」
「ありゃ上玉だ!売れば高く売れるに違いねぇ…」
人拐いのボスが手下達に命令を下す。
「お前達!分かってるな?」
すると、一人の男が金角児と銀角児の道を塞ぐように前に現れたのだ。
「お坊ちゃん達、こんな場所で何をしているのかな?」
金角児は突然現れた男に対して淡々と答えた。
「僕達はお腹を空かせているんだ!何か美味いもんはないか?」
少年の偉そうな態度に男は一瞬ムカッとするが、直ぐにニヤつきながら答えた。
「ありますよ!ええ!ありますお坊ちゃん達!肉でもお菓子でも何でも!はい!もし宜しければ私が連れて行って差し上げますよ?」
「本当か?だったら連れていけ!」
「(ボソッ…マジに生意気なガキ達だな…)ところでお父様とお母様はどちらに?」
「親はいないぞ?」
「そうですか!そりゃあ都合が良ぃ…じゃなくて心細いでしょう?では、早速私がお坊ちゃん達を美味しい料理がある場所へと連れて行って差し上げましょう」
人攫いの男は金角児と銀角児を人目のない区域へと案内する。
そこには小さな小屋があった。
金角児と銀角児は男に言われるがまま小屋に入った途端、扉が閉まり閉じ込められたのだ。
「そこで、じっとしてな!坊主!」
そうそう。
知らない人にむやみやたらに付いて行くのはダメですよ?
小屋の中には、金角児・銀角児と同い年くらいの子供達がロープで縛られ、震えながら新しく入って来た二人を見ていた。すると幼い小さな子供が泣きはじめたのだ。
「わあああああああ!」
「黙れ!ガキ!誰か黙らせろ!」
小屋の中にいた手下の男の一人が鞭らしき物を手に取り、泣いている子供に振り上げたのだ。
すると、庇うように少女が子供を抱きしめる。
「ごめんなさい!ごめんなさい!殴らないでください!この子はまだ小さいから!」
少女は鞭を振り上げた男を説得していた。
「ふん!あんまり騒ぐんじゃねぇぞ」
「はっ…はい!」
そこに金角児と銀角児が口を開く。
「ねぇ?食事はまだ?何もないじゃん?」
それを聞いた人攫いの男達は大笑いしながら言ったのだ。
「ガハハハ!この異国のガキは馬鹿じゃねぇの?まだ分かってないのかよ?お前達は俺達に売られるんだよ!直にお前達を引き取りに嶺黄風国からの使者がやって来る。そしたら高値で売ってやるから、お前達は他のガキ達と一緒に黙って座ってやがれぇ!」
「え~?じゃあ食事ないの?」
「当たり前だ!」
「じゃあ良いや!帰ろうよ?金角児?」
「そうだね」
帰ろうとする二人の行く手を塞ぐ人攫いの男達。
「どうやら少しオツムが足りないようだな?まだ状況が分からないようだぜ」
男の一人が縄を持って近づき、金角児の腕を掴み縛り上げようとする。
「へへへ。それにしても綺麗な顔してやがる…お前達なら、良い慰め物になると思うぜ?そしたら美味いもんでも何でも食わせて貰えるんじゃねぇか?」
その時、その異変に気付いた他の男が叫んだのだ!
「お前!腕どうしたんだ?」
ロープを縛っていた男は、「えっ?」「アッ!」
「うぎゃああああ!」
突然、男の腕が凍り付き砕けて落ちたのだ。
「何が起きた!?」
騒ぎ始める人攫いの男達。
「ふぅ~面倒臭いなぁ…でも、人間風情が…僕達を好きにしようなんて…」
「ナメてるよね…」
金角児と銀角児の掌から冷気が立ち込める。
『狼の牙は、少し冷たいよ?』
二人の瞳が冷たく妖しく光ると男達の背筋に寒気が走ったが、その時にはもう男達は氷の柩の中にいた。
「氷結絞り!」
人攫いの男達を閉じ込めた柩が宙に浮き、二人の前で粉々に砕け散ったのだ。
すると柩からモヤのようなモノが出て来ると、
金角児と銀角児はそのモヤを口の中に吸い込んだのである。
「あ~マズッ!」
「品祖な魂だなぁ!」
腰を抜かして震え上がるボスに、二人が答える。
「な…何なんだ…お前達は…?」
「僕達は…狩る者…」
言い終えると同時にボスの身体は凍てついていく。
「嫌だ…死にたくねぇよ…死にたく…なな…」
ボスもまた氷の柩とともに砕け散ったのだ。
「さぁ~て、腹ごしらえに行こうか?」
「そうだね!兄さん!」
二人は何事もなかったかのようにその場を立ち去ろうとした時、小屋の外が騒がしくなる。
その時、広場には妖怪の一団が来ていたのだ。
その一団は先に人拐いのボスが言っていた嶺黄風国と呼ばれる国の使者であった。
使者達の前に、この国の王でさえもヘコヘコしながら愛想笑いを浮かべて出迎えていた。
そして王の指示で兵士達が縄に腕を縛られた子供達を連れて来て、使者に渡す。
代わりに大金を受けとる兵士。
そう。この国は人間の子供を嶺黄風国へと人身売買で成り立っていたのだ。
嶺黄風国の使者の将軍らしき者が満足げに見ていた。
将軍の名前は大爆将軍。
大虎頭の妖怪であった。
確か私の持つ凶悪妖怪リストにあったはず…
過去に天界から討伐に出た武将達を十六名惨殺した後、消息を消すように逃亡。
まさか嶺黄風国に潜んでいたとは…
しかし、この状況は??
大爆将軍達の真横を、例の二人組[金角児・銀角児]が平然と通りすぎようとしていたのだ。
「おぃ?人間の王よ?どういう事だ?そこの二人のガキ達が野放しになっているぞ?」
「えっ?あっ?あれ?どういう事でしょう?今、捕らえますので少々お待ちくださいませ」
王は周りに待機していた兵士達に命じた。
「兵士達よ早々にそかのガキ達を捕らえよ!」
王に命じられて数人の兵士達が金角児と銀角児を囲む。
「お前達!動くな!」
金角児と銀角児は自分達の行く手を塞がれて、不機嫌な顔をしていた。
「何だよ?こいつら?」
「邪魔だなぁ~うん。消しちゃお?」
直後、二人の足元から冷気が噴き出したのだ。
「おわぁ?何だ?突然冬場のように冷えるようだ!?」
王は目を丸くしてその現状を目の当たりにした。
今の一瞬で兵士達の全てが氷の棺の中に閉じ込められていたのだから。
「何だ?何がどうなってしまったと言うのだ?私の兵士達が皆氷付けになってしまったぞ??」
そこに大爆将軍がニヤリと笑いながら答えた。
「人間の王よ?あのガキ達は妖怪だよ。しかも、かなりの力量だ!命が欲しければさがっているが良い」
「よ…妖怪の子供ですと?ヒィー!!」
怯えながら大爆将軍の後ろに隠れる王。
そして大爆将軍が金角児と銀角児の前にゆっくりと近付いて行く。
「お前達?何者だ?かなりの力を感じるが、俺が仕えているお方には今、お前達のような強者を欲している!どうだ?お前達が望むなら俺が取り計らってやるぞ?」
だが、金角児と銀角児は大爆将軍の言葉を無視して去ろうとする。
「アハハ!無視か?無視か?全く聞く耳持たないか?それが無視と言うのだが、無視されるとマジにムカムカするな?何か惨めになるな?一人で喋っている俺が恥ずかしくて、可哀想に見えて…アハハ…アハハ…アハハハハ!!何か怒りと笑いが両方込み上げて…」
大爆将軍は飛び上がると金角児と銀角児の前に着地し道を塞ぐ。
「お前達をぶち殺したくなったぜ!」
そして両手から凄まじい妖気を集中させていた。
その妖気の測定値は間違いなく上級妖怪のソレであった。
「さぁ!今、俺の手でぶち殺してやろう!ムカつくガキ共!」
「煩いなぁ~」
「まだ気付いてないの?」
…えっ?
その時、私もようやく二人の言葉を理解した。
二人は足を止める事なく大爆将軍の真横を通りすぎていく。
しかも、その二人の手には冷気が鋭い刃と化していたのだ。
「えっ?あれ?」
大爆将軍もその時、自分の身体から首が落ちていた事に気付いた。
首だけの大爆将軍の目には凍り付いていく己の身体が木端微塵に砕け、凄まじい寒さを感じたと同時に自分の意識が消えていったのだ。
人間の王も、その状況に恐れを抱き泣きながら慌てて逃げ去って行った。
天界と遠く離れて一部始終を水晶で覗き見ていた私までもが悪寒が走った。
あの凶悪な大爆将軍が何も出来ないまま…いや?あんな簡単に始末されるなんて!
それだけ力量に差があるのか?
そんな凶悪な二人が野に放たれてしまったのか?
私は再び身震いした。
彼等の目的は一体?
そんな立ち去る二人を呼び止める声が?
先程、幼い子供を庇っていた少女が何を思ってか二人に声をかけたのだ。
「あの…」
「ん?」
「何だ?」
「た…助けて下さってありがとうございました!」
少女は二人に深々とお辞儀をしたのだ。
「別に?」
そう言うと、二人は興味なさげにその場から去って行った。
残されていた子供達は直ぐに縛られていた縄を解き、自由になった。
解放と言う自由に…
子供達は人攫いから解放され、自由になった事に涙を流して喜んでいた。
また、お父さんお母さんに会えると…
「あの人達は一体?」
少女は言った。
「きっと…天使様に違いないわ」
「天使様が助けてくれたの?」
「そうに違いないわ」
「惚れちゃう?」
「うん…って、馬鹿!」
子供達は笑顔を見せあい笑いあったのだ。
そして、村から離れた先に二人はいた。
「あっ…忘れてる事があった!」
「ん?どうしたの?あ~あ…そうかぁ!」
瞬間、二人の身体から冷気が立ち込める。
そして、二人は村を後に去って行った。
今まであった『時』が消えて、一瞬にして止まった村を後にして?
村は凍てつく氷河と化していた。
村だけではない…
そこに生きていた全ての時が止まっていたのである。
村にいた人間達も…逃げ出した王も…
そして、先程、人買いから解放されたばかりのあの子供達の『時』も…
国全てが凍てつく氷河と化したのだ!
「ねぇ?次は何処に行く?」
「そうだなぁ…この先に獲物の臭いがする。きっと村があるに違いない!」
その先とは?
私は水晶で恐る恐る二人の動向を監視をする事しか出来なかった。
その先で更なる恐怖を目撃するとも知れずに…
次回予告
監視の神「それにしても私は何故一人で仕事をしているのかですか?」
監視の神「そもそも監視の仕事は五人体制なのですが、この日は皆休みを取ったのですよ。一人は奥さんの出産。一人は風邪で高熱。ここまでは仕方ないと思います。もう一人は遅刻の上、今から向かっても遅刻扱いだから風邪かなんかで有給休暇にしておいてよ?と連絡があったのです。正直、仕事ナメテルノカ!!って感じですよね?そして最後の一人は・・・今日は彼女とデートだから!
と・・・
くそぉおおおおおおおおお!私も彼女が欲しいーーーーいい!」
脱線すみません。




