無念!紅孩児死す?孫悟空怒りの獣神変化!!
羅刹女の死と己の出生!真実を知った紅孩児は妖怪皇帝を前に戦意を喪失していた。
そんな紅孩児を逃がすために魏王が妖怪皇帝に挑む。
一度は逃げる紅孩児だったのだが、孫悟空が到着した時見たのは紅孩児が妖怪皇帝に貫かれた姿だった。
俺様は孫悟空だ!
俺様は最上階にある妖怪皇帝のいる広間にたどり着いた。
俺様は警戒しながら辺りを見回す。
ついさっきまで、この場所で妖気の衝突を感じたからだ。
「そんな馬鹿な・・・!?」
俺様は見たのだ。
天井に石化して生きているのかどうかも分からない牛角魔王の姿を!
まさか・・・
あの牛角魔王がやられたと言うのか?
妖怪皇帝とは、そんなにも?
すると部屋の奥から気配がしたのだ。
俺様はその『気』から嫌な予感が拭えなかった。
恐る恐る俺様はその気配のする方向をみた。
そこで俺様が目にしたのは、
妖怪皇帝から出た触手が紅孩児の身体を貫いた惨劇だった。
口から血を吐く紅孩児が、力なくぶら下がっている?
「あっあああああ!」
俺様の身体から血の気が引き、一気に身の毛がよだつのを感じた。
「こ…こう…がい…じ?」
俺様の中で何かがぶちギレたのを感じた!
「ウッ、ガァアアア!」
瞬間、俺様は目にも留まらぬ早さで妖怪皇帝の懐に入り込むと、紅孩児を貫いている妖怪皇帝の触手を引き千切り、振り払った手刀で妖怪皇帝の胸元を斬り裂いたのだ。
大量の出血が胸元から噴き出した妖怪皇帝にトドメを刺す事なく、そのまま俺様は紅孩児を抱えてその場所から消えた。
突然の出来事に妖怪皇帝は傷口を押さえていたが、傷口は見る見るうちに再生していく。
「うぐぉおお…おのれ!孫悟空!」
俺様は瀕死の紅孩児を抱き抱えながら部屋を出て、
外へと繋がる廊下を駆け抜けながら屋上に出たのだった。
そこで俺様は紅孩児を降ろした。
「紅孩児!しっかりするんだぁー!」
紅孩児の身体から体温が失っていくのを感じる。
すると青ざめた顔で紅孩児が俺様に言った。
「へへぇ…下手こいたな…俺様…馬鹿だ…大馬鹿だぜ!
騙されているとは思わずに仇に育てられ、実の父親を今の今まで憎み…殺そうとしてた…
復讐だけを考えて…それだけを生き甲斐に生きて来たんだ…
仇を敬い…仇に力を与えるために…関係ない妖怪を始末して来た。
その魂を奪って来た…ア…ハハ…何も疑いさえしなかった…
本当…馬鹿だよな?
魏王が俺様を庇い逃がしてくれたのに…
俺様…引き返して…このザマだ…
これじゃあ…魏王…無駄死にじゃないか?
それに…愛音にも…謝りたいな…
愛音の子供の仇を取ってあげれなかった…
約束したの…に…く…くそ…クソォ!グハァ!」
紅孩児は目に涙を浮かべながら、突然血を吐き出した。
貫かれた胸から血が止まらない?
辺り一面が血だらけになっていく。
クソォ!俺様は治癒術を行ってはいるが、この分野は不得意だ…
こんな時に沙悟浄がいてくれたら…
何てザマだ?俺様は?
目の前で仲間が死にかけているのに何も出来ないのか?
「あぅうう!何も出来なかった…俺様…まだ何もしてない…何も出来ていない…このまま意味なく…死にたくないよ…」
「喋るな!お前は死なない!俺様が死なせない!だから絶対に諦めるなぁー!」
俺様の叫びに今頃気付いたかのように紅孩児が答えた。
「だ…誰だ?誰かいるのか?」
えっ?
お前…目が見えてなかったのか?
「紅孩児!俺様だ!孫悟空だ!しっかりしろ!」
「ご…ごくう?」
「そうだ!悟空だ!孫悟空だ!」
「悟空?…そこにいるのか?何故?」
「何故って?バカヤロー!俺様は紅孩児を取り戻しに来たんだよぉー!」
「取り戻しって…だって?」
「だってなんかない!当たり前だろ?俺様達は友達だ!ダチを助けに来て何がおかしい?だろ?」
「友達?…だって、だって…俺様、お前に何をした?酷い事した…
謝っても…謝っても…償いいきれない事を…したんだぜ?」
涙ぐむ紅孩児の手を握りながら、俺様は訴える。
「そんな事は関係ない!友達は許し合う所から始まるって教えたろ?」
「俺様…取り返しのつかない事しちまった…友達って言ってくれた…お前を信じなかったばかりか、聞く耳を持たずに…殺そうとしたんだぞ?あああ…ああああ!」
紅孩児の目から一気に涙が溢れ出す。
俺様も目に涙を浮かべながら、何度も頷いた。
「アハハ…あんなの、ただのじゃれあいだぜ?お前好きだろ?じゃれあうの?アハハ…だから…だから…お願いだから…」
「ゆ…許してくれるのか?こんな…馬鹿な俺様を?」
「バーカ!許すって言ってるだろ?だから、気にするなって言って…」
すると紅孩児はニコリと微笑み…
「へへへ…良いな…とも…だち…って…」
紅孩児の手から力が抜けていった。
・・・お・・・おい?
嘘だろ?
なぁ…紅孩児?
目を開けてくれよ?
また、ふざけてるのか?
なぁ…?悪い冗談だぜ?
「死ぬなぁー!紅孩児ぃー!」
俺様の目から涙が溢れ出し、こぼれ落ちていく。
紅孩児が死んじまった?
俺様のダチの…紅孩児が??
俺様は涙を流して泣き叫び、床を幾度と殴りつける。
「最後まで諦めるな!」
ハッ!
俺様はその時、三蔵の声を思い出したのである。
そうだ…諦めるのは早い!
考えろ!考えろ!考えろ!考えろぉ!
すると俺様の脳裏に浮かぶ一筋の希望!
それは…
『ソーマ神酒アムリタ!』
ナタクの台詞を思い出す。
「俺の持つ、どんな怪我や病、呪いまでも消し去る万病の薬『ソーマ神酒アムリタ』を持ってすれば他愛もないだろう!」
俺様は胸元に入れていた袋を取り出した。
ソーマ神酒アムリタ!
これがあれば紅孩児が助かるのか?
しかし、俺様の脳裏に再び過ぎる。
これがあれば三蔵が、三蔵が助かるかもしれない?
ここでこれを使ったら、三蔵が?
俺様の手が震える。
そして俺様は決断したのだ。
俺様はアムリタを自らの口の中に含み、口移しで紅孩児の口の中に流し込んだ。
死ぬな…
紅孩児!生き返れ!
もし…
今、俺様が紅孩児を見殺しにして、
それで三蔵が助かったとしたら…
きっと三蔵は俺様を許さないだろう…
いや、俺様が…
二度と三蔵と顔を合わせる事が出来なくなるような気がする。
それに…俺様は…
「紅孩児を失いたくないんだぁーーー!」
俺様の口から全てのアムリタが無くなっていく。
しかし…紅孩児はぴくりとも動かなかった。
「あ…はは…そうだよな…?都合…良すぎるよな?何でも治る薬なんて…」
あるわけないよな…
ナタクの奴偽物をつかませたのか?
それともアムリタなんて薬、本当は最初から存在しなかったのか?
ナタクの野郎!
俺様を謀りやがった!
あの野郎、許せねぇ!!
だが、今俺様の怒りの矛先は妖怪皇帝に向けられていた。
俺様は紅孩児をその場に残して、妖怪皇帝のいる広間に再び戻って行く。
俺様の身体から怒りの気が立ち込めていた。
血が沸騰しそうだ…
八つ裂きにしてやる!
殺してやるぞ!
妖怪皇帝!
違うな、あいつの本当の名は・・・
俺様は奴を知っていた。
確かに遥か昔、俺様が美猴王と名乗っていた時に出会っていた。
そもそも奴が最初に俺様と顔を合わした時に言った台詞が引っ掛かっていたのだ。
若き…何だ?若いって?
確かに奴は言った!
初めて会うはずの俺様に対して「若き孫悟空」と!
考えられる事は…
奴が転生前の俺様の事を知っていると言う事だ!
転生前の記憶がほんの少しだが蘇ってくる。
俺様が転生前の美猴王だった頃、
戦場の地で勝利の盃として、俺様は他の魔王達と酒を酌み交わしていた。
「地上はあらかた制覇したな?これで俺様達に逆らう輩はもういないだろう?」
すると他の魔王が言う。
「案外、身内にいるんじゃねぇか?」
獅子の顔をした魔王が、ニヤケながら後方からの視線に気付き俺様をからかうように言った。
俺様もその殺気に似た視線には気付いていた。
しかし、
「放っておくが良いんじゃねぇか?もし逆らうつもりなら、いつでも相手になってやるからよ!」
その視線の相手こそ…
牛角魔王の副将軍を務めていた妖怪であり、牛角魔王の弟であった。
どうして今まで忘れていたのか?
ソイツは印象的だった。
黒い牛角魔王の傍にいつも付き纏っていた牛角にそっくりな白い妖怪。
俺様は、妖怪皇帝のいる広間の扉を蹴り破ると扉は木っ端みじんに粉砕し、その先に奴はいた。
妖怪皇帝は俺様がここに来る事を当然かのように待っていた。
「待っていたぞ!俺はお前にも恨みがあるのだからな!」
恨みだと?
ふざけるな!
お前に怨みと怒りを感じ、今にもぶち殺したいのは俺様の方だ!
俺様はゆっくりと中指を立ててから、一気に突き下ろしたのだ!
「俺様の前にひざまずけ!妖怪皇帝!
いや…妖怪皇帝…蚩尤!」
場所は変わり、火炎山の遥か上空。
そこに二人の神が結解に阻まれた西の地を見下ろし浮いていた。
その者とは、この西の地に俺様を落とした巨霊神とあのムカつくナタクの奴だった。
「ナタク様?孫悟空の奴は本当に上手くやるでしょうか?」
「・・・・・・」
ナタクは無言で黙っているだけだった。
俺様は孫悟空
妖怪皇帝である蚩尤…
奴が過去転生前に俺様に対して反乱意思があった事を思い出した。
だが今の俺様にはそんな事は関係なかったのだ。
俺様は怒りは限界を超えていた。
俺様の友達!
紅孩児を殺したコイツを絶対に許せやしない!
俺様は拳に妖気を集中させ、
「ウダダアーー!」
無数の妖気弾を蚩尤に向けて放ったのだ。
「ふふふ…そんな攻撃が俺に効くと思うか?」
俺様の放った妖気弾は四方八方から蚩尤に全て直撃したかに思えたが、奴を覆う濃縮な妖気の壁により全て消し去られる。
「効かぬと言ったはずだ!」
「ん?」
蚩尤の目の前から俺様の姿が消える…
「ここだぁー!」
俺様は瞬時に蚩尤の背後に現れ、抜き出した如意棒を奴の首目掛けて振り払ったのだ。
「うりゃああ!」
俺様の手加減無しの一撃が蚩尤の首に命中すると、蚩尤の首がもげて足元に転がった。
「!!」
が、蚩尤の胴体から伸びて来た触手が転がった首を拾い上げると、再び自分自身の胴体に繋げたのだ。
次第に再生していく蚩尤の身体。
頭を落としても再生出来るのか?
こいつは不死か?
しかもわざと俺様の攻撃を受けたと言うのか?
一体、こんな奴をどうやって倒せば?
「気が済んだか?ならば、そろそろお前に本当の絶望を与えてやろう?」
「絶望だと?お前に絶望を与えるのは俺様の方だぜ!」
が、俺様は知る事になる。蚩尤の言う絶望って奴を…
『獣王無神変化唯我独尊!』
なっ!
獣王無神変化だと?
何だよ?
そりゃあ?
すると蚩尤の顔が牛頭になり、身体が膨れ上がり纏っていた衣が破けていく。
あれは獣王変化…じゃないのか?
更に肩や背中から新たに四本の腕が伸び出て来て、合計六本の腕が現れる。
更に額から別の目が二つ開き、四つの目が!?
獣王変化じゃない!
それよりも遥かに力が膨れ上がっている?
これは獣神変化並みの力だぞ!?
ここで今一度説明しよう。
獣王変化とは獣妖怪が使う切り札みたいな変化で、己の身体に妖気を流し込み獣としての潜在能力を引き出す変化なのだ。
これだけでも強力な変化なのだが、更にその上の変化が存在するのだ。
それが獣神変化と神獣変化なのである。
人の姿を重視するか獣としての姿を重視するかで、その姿が人型か獣かに違いがあるが、その力は潜在能力を跳ね上げ通常の数倍にも膨れ上がるのだ。
だが、良い事だけじゃない。
その全ての変化には時間制限が存在するのだ。
獣王変化は三十分から一時間位と個人差はあるが、獣神変化と神獣変化はその能力の強さから三分から長くて五分程度が限度なのである。しかも使った後は体力の殆どを失う諸刃の剣なのだ。
もし時間内に確実に相手を倒せなければ自滅する。
「俺の獣王無神変化は獣神変化の力の膨大値に加え、獣王変化と同じく時間制限に縛られる事はないのだ!まさに最強の変化なのだ!がはははは!」
「化け物が!」
しかも首を落としても死なないなんて…マジにやべぇぞ?
いや?
手段が全くない訳じゃなかった。
俺様にだって出来ない訳じゃないんだよ?
獣神変化がよ!
昔の記憶が甦った時に、過去の俺様が使っていたみたいなのを思い出したのだ。
猿の姿の俺様には無理だったが、転生変化した今の俺様になら出来ないはずない!
…と、思う。
「孫悟空!お前は俺には勝てない!今のお前はかつての魔王時代の半分以下だろう?無駄な事だ!俺は既にお前よりも!いや、昔の美猴王よりも遥かに強くなったのだからな!」
「ナメるなよ!レベル差なんか、気合いと美貌で埋めてやるぜ!」
ツッコミを入れられる前に、俺様は新たな技を発動させる。
俺様は蚩尤に向かって駆け出すと、その身体がボヤけながら分かれていき、四方八方に分かれて百体の分身を出現させたのだ。
さらに、俺様の手刀が炎で赤く染まる。
「百人一手・火流手!」
※ヒャクニンイッシュ・カルタ
百体に分身した俺様達の燃え盛る手刀が、四方八方から蚩尤に向かって襲い掛かる。
「無駄だと言うのが分らんのか?俺は不死身だ!絶対に死なん!俺は不死身の妖怪皇帝・蚩尤様だぁー!」
『神具召喚!』
すると蚩尤の六本の手に矛・盾・弓矢・斧・剣・鎌と神具が現れたのである。
「ふふふ…小賢しいわ!本体もろとも全て消し去ってやろう!」
蚩尤の目にも止まらぬ神具での猛襲が、俺様の分身達を一体一体と消し去っていった。
だが、それで良い!
その分身は陽動なのだからな!
本体の俺様は分身達に隠れて変化の集中をしていたのだ。
そして百体全ての分身が消え去った時…
「全て分身だと?奴は何処だ?ん?…何だ!この凄まじい妖気の上昇は?あそこかぁー!!」
蚩尤が振り向いた先には全ての準備を終えた俺様がゆっくりと近付きながら唱えていたのだ。
『獣神変化唯我独尊!』
その瞬間、凄まじい妖気が俺様の身体から噴き出し、その妖気が巨大な大猿のオーラとなって俺様を覆うように包んでいく。
「これからが本番だぜぇ!これが俺様の獣神変化だぁー!」
俺様の姿は金色の猿の形を型どったような鎧を纏っていた。
その妖気の上昇は桁違いだった。
だが、制限時間は今の俺様では三十秒が限度だった。
だが、この力で一気に方をつけてやる!
俺様は蚩尤に向かって飛び出す。
蚩尤もまた俺様の攻撃に対して仕掛けて来た。
「そんな付け焼き刃で俺に勝てると思うなぁー!」
俺様と蚩尤の拳が衝突した。
その凄まじい衝撃が城の柱にヒビを作り、壁が崩壊していく。
だが、攻撃力は互角?
くっ!
すると蚩尤は神具を持った残りの五本の腕を使って攻撃して来たのだ!
俺様は全ての攻撃を辛うじて躱しながら、印を結んでいた。
残り二十秒!
直後、俺様の身体から八体の分身が出現し飛び出したかと思うと、蚩尤に突っ込み六本の腕と足を掴んだのだ。更に無防備になった蚩尤の懐に本体の俺様が入り込むと、
「跡形もなく消し去ってやるぜ!」
俺様の全身全霊の妖気を拳に集め……
「なぁ?馬鹿な!グッ!離せ!」
だが、分身達は蚩尤の腕を完全に拘束して離れなかった。
残り十秒!
「これで終わりだぁー!紅孩児の仇だ!消滅せよ!蚩尤ぅーーー!!」
凄まじいエネルギー弾が蚩尤に突き付け・・・
「うわぁあああああ!?て、ん?」
「ん?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・あれ?
トドメを刺す瞬間、俺様の獣神変化が突然解けたのだ??
同時にエネルギー弾も消えてしまった。
「う…嘘?」
「あ・・・あはは・・・馬鹿な奴めぇー!」
蚩尤の身体を拘束していた分身達も消え、自由になった拳を振り払い俺様は蚩尤の裏拳で弾き飛ばされ中央の柱に直撃した。
「ぐっはぁ!」
俺様は血を吐き、床に落下した。
馬鹿な??
獣神変化の制限時間にはまだ十秒あったはずだろ?
何故だ!?
それは分身を使った事で変化の力を分散させてしまい、変化の制限時間までも短くしてしまったためであった。そんな馬鹿な…
もう万策尽きちまった・・・。
次回予告
孫悟空「嘘?嘘?嘘おおおおお???せっかくの獣神変化が水の泡じゃないか~?
てか・・・どうする?どうする?俺様どうする?」
「ぴぃよ~ん」
孫悟空「・・・へっ?」




