後悔!無念?真実を知った紅孩児!
妖怪皇帝と牛角魔王との因縁、過去。
それは捻じ曲がった思いが最悪の結末を生んだ。
俺様は紅孩児!
俺様の掌から炎が燈ると、それは次第に炎の槍の形へと変化していく。
『神具・火尖槍!』
俺様は火尖槍を片手に、天井に石化して張り付けられている牛角魔王に向かって飛び上がった。
「うおおおお!」
このまま貫き、息の根を止める。
しかし火尖槍の尖端が牛角魔王に直撃する直後、突如俺様の身体に異変が起きたのだ?
飛び上がった俺様の身体が薄白い光によって包み込まれていき、
その光は俺様から牛角魔王への一撃を止めた。
「い…一体…何が起きたのだ?」
白い光に包み込まれた俺様は、身動きが取れないでいた。
そして、再び俺様の耳に見知らぬ声が聞こえて来た。
その声は俺様が孫悟空を仕留める寸前で、同じく攻撃を止めた謎の声?
「止めなさい、紅孩児!」
「何なんだよ?一体何なんだって言うんだよ!お前は一体、誰なんだ?」
すると光の中から女性の姿が現れたのである。
「!!」
あれは霊体か?
褐色の肌に紅い髪、それに紅い瞳?
「あっああ…まさか?」
その光は更に強く輝き、俺様の視界を完全に消し去っていく。
これは?
目の前には、先程現れた褐色の肌の女が立っていたのだ。
見た事はない女?
だけど俺様にはその者が何者なのか直感的に理解したのだ。
「は…母上なのか?」
恐る恐る問う俺様にその女は軽く頷いた。
「紅、紅孩児」
「母上…母上!本当に母上なんだな?母上ー!!」
目の前に現れた女こそ俺様の母上の羅刹女の姿だったのだ。
「アハハ…そうだ!俺様は父上の命令で、母上の仇を取る所だったんだぜぇ!」
自慢気に語る俺様に対し母上は悲しい顔を見せ、首を横に振った。
「どうしてそんな悲しい顔をするのだ?母上?」
見ると母上の姿は消え、光がより一層光を増していき再び俺様の視界を奪っていく。
「うわぁ~!」
吸い込まれるかのように光に包まれた俺様は上だか下だか分からない空間の中にいた。
「うっ…ん?ここは何処だ?ん?あれは!」
空間から見える光景に、俺様は目を奪われた。
そこには今現れた母上の隣に、頭上に二本の角を持った男が立っていた。
二人は幸せそうに顔を見合せて笑っていたのだ。
あれは父上か?
いや?何処か違うぞ?
母上の隣にいる男の頭上にある角は俺様の頭上にある角と同じく黒く、その髪は黒髪だった?
父上の髪も角も白いはずだぞ?どうして?
ハッ!
その時俺様に過ったのは、石化はしていたが、先ほど見た牛角魔王の姿だった。
いや!間違いはない!あの男は牛角魔王だ!
でも、どうして?
どうして母上と牛角魔王が一緒にいるのだ?
しかも、何故にあの二人は幸せそうな顔をしているのだ?
母上にとって、牛角魔王は憎い仇のはずなのに?
すると母上と牛角魔王の会話が聞こえて来たのだ。
「牛角…私は怖いのです…この幸せがいつまで続くのか…」
「馬鹿者!いつまでも続くに決まっておるだろう?例えどんな逆境や邪魔物が入ろうと、お前一人くらい必ずこの俺が守ってやる!」
「大変よ?」
「俺を誰だと思っている?」
「だって、これからもう一人増えるのだから…」
「ん?」
すると母上はお腹を摩って見せたのだ。
「まっ?まっ?まっさっかぁ~?」
仰天する牛角魔王は母上を凝視し、視線を下ろしていく。
「ふふふ…」
その時、母上のお腹には赤子がいたのだ。
その赤子とは間違いない。
俺様の事だ!
牛角魔王は母上を抱き寄せると、
「羅刹女!一人も二人も同じだぁ!お前も!お前の中にいる俺とお前の子供も、まとめて俺が守ってやるからなぁ!がはははははは!」
「頼りにしてるわよ?貴方?」
「任せろ!任せろ!俺は世界一幸せな男だからな~!」
次第に二人の声が聞こえなくなる。
えっ?
なっ?えっ?あれ?
おかしいだろ?
これってどういう意味なんだ?
状況を理解出来ずに困惑する俺様に、更に光が包み隠し新たな光景を見せる。
「お前は誰?」
「ふふふ…羅刹女よ。お前の命を奪いに来た…」
「牛角に似ている?まさかお前は!?」
その姿は、間違いなく俺様の知る父上[妖怪皇帝]の姿だった。
父上[妖怪皇帝]は何を血迷ったのか?
母上に向けて火炎放射を放ったのだ。
「そうは、させないわ!」
母上は鉄の扇を手に取り一扇ぎすると、火炎放射は消え失せる。
これは母上の持つ芭蕉扇と呼ばれる神具らしい。
そして芭蕉扇から放たれた真空の刃が、父上[妖怪皇帝]の身体を切り裂いていく!
父上?母上?
一体、何が起きているのだ?
どうして二人が争っているのだ?
が、父上[妖怪皇帝]は見る見るうちに傷口が再生していったのだ。
「馬鹿なっ!芭蕉扇の刃が効かない?」
すると、父上[妖怪皇帝]の姿が白い牛頭の化け物へと変化する。
その頭上には白い角をはやし、六本の腕に背中から触手を持った醜い化け物であった。
化け物と化した父上[妖怪皇帝]は言った。
「俺は特種体の人間の小僧を喰らい、この再生能力を手に入れた。俺は不死身になったのだ!」
母上[羅刹女]は芭蕉扇を構えるが、その時陣痛で膝をついてしまう。
「ふふふ…その身体では本調子ではあるまい?ガキを身籠り弱る今のお前は、女妖怪を仕切っていた女帝とは思えんな?」
すると、父上[妖怪皇帝]は母上の身体を持っていた槍で貫いたのだった。
「あああ…」
そして父上[妖怪皇帝]は倒れた母上にトドメを刺そうと手を伸ばした時、母上の腹部から光り輝く炎が噴き出してその手を焦がしたのだ。
「ぐおっ!」
光の炎の中には、産まれたばかりの赤子が現れたのだった。
その赤子の髪は紅色で、頭上には牛角魔王と同じ黒い角が見えた。
あ…あれは?まさか…俺?俺様なのか?
父上[妖怪皇帝]は赤子もろとも母上を始末しようとしたが、燃え盛る炎は父上[妖怪皇帝]ですら触れさせようとしなかった。赤子の無意識の防衛本能であろう。
そこで妖怪皇帝は赤子を炎の気で覆った後、
牛角魔王の部屋にあった神具・火尖槍で引っ掛けたのだ。
「羅刹女ぉー!」
そこに牛角魔王の声が近付いて来た事に気付くと、妖怪皇帝は瀕死の母上を見下ろした後、早々とその赤子を連れその場から消えたのだ。
一歩遅れて牛角魔王が現れた時、そこには母上の変わり果てた姿があった。
そして、その最期を看取った牛角魔王の悲痛の叫びが城中に響き渡ったのだ。
俺様は…
頭が真っ白になっていた。
意味が分からない?
これではまるで、牛角魔王が俺様の父上みたいじゃないか?
今まで父親と信じていた者が仇で、仇だと思って憎み生きて者が実の父親だった?
母親をその手にかけた張本人の命令で、実の父親を殺そうとした自分自身…
しかも、あの妖怪皇帝が変化した白い角の化け物って?
あれは愛音が話していた仇の白い角の化け物じゃないのか?
愛音の息子は確か特種体だと言われ襲われたって…
それに今言っていたよな?
特種体の人間の子供を喰らい、この再生能力を手に入れたのだって?
白い光が消えた時、妖怪皇帝もまた俺様が事の真相を知った事に気付いていた。
「ち…父上?貴方は俺様の父上じゃないのか?」
俺様は恐る恐る父上に問う。
嘘だと言ってくれ…
だが、返答は無情だった。
「どうやら全てを知ったようだな?知らずにいれば、利用価値がある間は生かしておいてやるつもりだったのだが、知られたからには仕方あるまい!しかし滑稽だったぞ?お前は仇である俺のためによくよく働いてくれた。感謝するぞ!アハハハハ!あの日、生かしておいてやった分は十二分に働いた!その礼として紅孩児?お前も俺が喰らってやるぞ!フハハハハ!」
「あゎわ…」
俺様は怒りを忘れて、今知った真実にパニックを起こして完全に戦意を喪失していた。
「さぁ!死ぬが良い!」
妖怪皇帝の身体から無数の触手が伸びてきて俺様に襲い掛かる。
俺様はまだ頭が混乱していた…
もう、何が何だか分からないよ…
何が真実で…
何が……嘘なのか?
いや…既に理解している。
しかし、それを認めたら今までの生きてきた自分の全てを否定しなきゃいけない…
怖い…認めるのが…
お願いだから誰か嘘だと言ってくれ!
が、妖怪皇帝の触手は躊躇なく俺様の身体を貫こうと向かって来ていた。
「うぐわあああ!」
その刹那、迫る触手が飛び込んで来た何者かによって斬り落とされたのだ。
俺様はしりもちをついた状態で、その者の姿を見上げる。
その者は俺様を庇うように妖怪皇帝に刀を向けて構えると、背中越しに俺様に向かって叫んだのである。
「何をしている!立ち上がれ紅孩児!」
「ぎ…魏王?」
俺様の目の前には魏王が立っていたのだ。
そして、魏王は言った。
「お逃げなさい!紅孩児様!」
「な…何故?」
「早く!私はそう長くはもたないでしょう。その間に逃げるのです!」
見ると魏王の身体は傷だらけになっていた。
足下に垂れる出血から、かなりの血を流しているのだ。
恐らく妖怪皇帝に襲われたに違いない。
「もたもたするな!早く立ち上がり、この場から去れと言っているのだ!」
「魏王!お前も逃げるのだ!」
すると魏王は首を振り俺様に出口を指差したのだ。
自分を見捨て逃げていれば、魏王は助かったに違いない?
なのに…何故?
自分なんかのために戻って来たのだ?
自分は…妖怪皇帝の息子でなければ、魏王の宿敵の牛角魔王の息子なのだぞ?
「紅孩児様…いや、紅孩児!私はお前のために戻ったのではないぞ?」
「?」
「私は呉王と蜀王の仇を取りに来ただけだからな!」
呉王と蜀王はもう妖怪皇帝に殺されたのか?
「だから、さっさと消えろ!邪魔だぁー!」
俺様は魏王の叱咤に慌てふためき、足早にその場から駆け出した。
「逃がさん!」
妖怪皇帝の触手が逃げる俺様の背中に向けて伸びて来る。
「させん!」
魏王が飛び出し俺様に向かって来た触手を刀で一刀両断にする。
(振り向かず行きなさい…)
「おのれ!死に損ないの魏王!」
魏王は逃げて行く俺様の気配を確認した後、
(これで良い)
妖怪皇帝を相手に笑みを見せたのだ。
妖「気でも狂ったようだな?良かろう!先ずはお前から喰らってやろう!」
(フッ…まるで恐れを感じんな…恐らく私はこの場で散るであろう。だが、この高揚感は何だ?いや、この高揚感は私が昔持っていた思いと同じだ。かつて天界を武神として守っていた頃の誇り高き高揚感。これが牛角魔王の言っていた何かを守るための力なのだな?私は再び武神としての誇りを取り戻せたわけか…)
「私が守るべき者は…」
(紅孩児様!私は…貴方を実の息子のように思っておりました)
「そのために私は命懸けで貴方を生かす!」
(この命で貴方を逃がすための時間を作ってみせる!)」
魏王は捨て身で妖怪皇帝に向かって行ったのだった。
魏王のその思いに俺様は気付いていた。
分かるさ…
魏王は嘘が下手だからな?
俺様は涙を流しながら城の通路を逃げ走っていた。
その後ろで…
魏王将軍は、妖怪皇帝の触手にて身体を引き裂かれていた。
魏王は死ぬ瞬間でさえ、叫び声の一つあげなかったのだ。
少しでも俺様に動揺させないように…
俺様は走る。
だが、次第にその速度がゆっくりとなり、とうとうその足が歩みを止めたのだ。
逃げてはダメだ…
俺様は立ち止まり振り返った。
俺様は馬鹿だ!
馬鹿馬鹿だぁー!
俺様は拳を握りしめ気持ちを奮い起たせる。
そして引き返したのだ!
妖怪皇帝のいる部屋に向かって!
俺様が扉を開けると、そこには妖怪皇帝が分かっていたかのように待ち構えていた。
「俺様は逃げない!耳をかっぽじいてよく聞け!妖怪皇帝!お前は俺様がぶっ殺してやる!覚悟するんだなぁ!」
俺様の身体から炎がほとばしり、妖怪皇帝に向かって行く!
「!!」
閃光と業火が妖怪皇帝を覆った後、
激しい衝突が響き渡り、突然静まり返った。
音が聞こえる?
これは足音か?
誰かが階段を駆けて来るのが分かる。
通路を真っ直ぐにこちらに向かって来るのが分かる。
短い間だったけど、アイツと一緒にいた時間は楽しく、爽快だった。
あんなに笑った事なんて俺様の人生であったかな?
いや!なかったかもな?
アイツの事が気になって、一緒にいたくて、かまってもらいたくて、たまには悪戯なんかして自分に気を向けさせたりしたな?
だからかな?
この足音が誰だか直ぐに分かったよ。
ほら?
アイツが来る。
すると桁ましく扉が開き、そこに金髪の少年が立っていた。
そ…孫悟空…
俺様は妖怪皇帝の触手に身体を貫かれ、宙吊りの状態になっていた。
身体中からこぼれ落ちる大量の血が真っ赤に床を染めていた。
同時に孫悟空の叫び声が、妖怪皇帝の広間に響き渡ったのだった。
次回予告
ごめんよ・・・
魏王・・・
俺様は、本当に・・・
馬鹿だった。
それに・・・ご・・・悟空、
俺様を・・・ゆ・・ゆる・・・し・・・てくれるか?




